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『弩級戦隊ドレンジャー! 』
ガイ・フィールグッドaa4056hero001)&ルーシャ・ウォースパイトaa0163hero001)&カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001)&淡島時雨aa0477hero001)&浅葱 吏子aa2431)&リヴァイアサンaa3292hero001)&狒村 緋十郎aa3678)&レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001)&御法川 武将aa4722

●第××話「不幸届けるサンタクロース!? クリスマスの危機を救え!」
「君、サンタって知っとるかな?」
「あはは、変なおじいさん。とうぜんだよ!」
 少年が答えると、負けじと彼の妹も胸を張る。
「私も知ってるよ。サンタはクリスマスにプレゼントをくれるの。でもね、いい子だけなの。悪い子はもらえないんだよ」
 恰幅の良い老人はさも可笑しそうに大笑いした後、急に囁き声で言った。
「違う」
 妹は兄の背に隠れる。兄は勇敢に言い返す。
「何がちがうの!?」
「サンタはのぅ……いい子も悪い子もまとめて攫っちゃうんじゃよ!」
 老人は着ていたコートを空高く投げ捨てる。彼が着ていたのは、かの有名なサンタクロースの衣装。ただしその色は真っ黒だった。
「うわあああ!」
「こわいよぉ、お兄ちゃああん!」
「メリークリスマース! その悲鳴が最っ高のプレゼントじゃー!」
 老人は兄妹を捕まえ、顔だけ出した状態で袋に詰める。大きなまっ黒い色袋を黒いそりに乗せ、彼は街を滑走して行った。

●オープニングテーマ「弩級戦隊ドレンジャー」

町の平和が乱される 誰かが呼ぶ声SOS
獣の咆哮聞こえるか 彼らの名前はドレンジャー

「コング! オルカ!」 いつも命懸けだぜ
「メラー! レイブン!」 疾走だ、仲間とともに
「ポーラー! バニー!」 この身燃え尽きるまで
「ファイヤー! ナイトメア!」 ぶつかり続けるのさ

気合を入れて合言葉! 攻撃こそが最大の防御!
正義は勝つと証明しよう
ゴリ押しダメ押し力推し! 一人一人が無敵艦隊!
弩級のパワーが地球を救う

今こそ呼ぼう、僕らのドレンジャー!!

●クリスマスパーティはもうすぐ
 やぁ! 私は御法川 武将(aa4722)。スナック『どれの』のマスターだ。ここは表向きは普通の喫茶店なんだが、実はもう一つの顔がある。秘密基地ドレッドベースへの入口、という顔がね。
「マスター、これは隅に移動していいの?」
「うん。ありがとう、助かるよ」
 淡島時雨(aa0477hero001)君が、身の丈を越える観葉植物の鉢を軽々と持ち上げた。ルーシャ・ウォースパイト(aa0163hero001)君とともに、店内の飾りつけをしてくれているんだ。
「今年は雪が積もりましたわね! ホワイトクリスマス……! ロマンティックですわ!」
 ふふ、ルーシャ君らしいね。
「マスター、ただいま! はー、寒かった! オレは冬将軍との勝負、完全に制したぜ!」
 元気よく扉を開けたのは、戦士の一員であり『どれの』の従業員でもあるガイ・フィールグッド (aa4056hero001)君。
「寒かったって認めてる時点でちょっと負けてねぇか?」
 ツッコむのはカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)君。全身を黒でコーディネートした私服がクールだね。
「たとえ敵でも健闘は称えないとな」
「っておい。コートの下、半そでかよ!」
「燃えるぜ! ファイヤー!」
 ガイ君とは少しベクトルが違うが、彼に負けず劣らず情熱的なのが狒村 緋十郎(aa3678)君だ。
「マスター。ビールと……カレーを頼む」
 おやおや、どうしたことだろう。どこか上の空な様子で席に座っている。
「レミア、どうしたの?」
「悪いわね、リヴァ。少し一人にしてくれるかしら」
「構わないけど……。もしレミアだけで解決できないと思ったら、私に言ってよね!」
「ええ……ありがとう」
 リヴァイアサン(aa3292hero001)君が話しかけたのは、彼女の親友のレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)君。緋十郎君の奥さんだ。いつもはとても仲良しな夫婦なんだけれど、今日は様子がおかしい。喧嘩でもしたのかな?
「あんな小娘より、絶対わたしの方が可愛いのに……!」
 緋十郎くんはテレビを見ながらカレーをかきこむ。テレビの中で踊るのはロシア出身でのアイドル、スネグーラチカ。10歳。緋十郎君は最近すっかりあの子に夢中で……。なるほど、夫婦喧嘩の原因はそれかもね。
「マスター、赤ワインのお代わりを頂戴」
 ふむ……ひとまず目の前の仕事をこなすとしよう。
 さて、ドレンジャー最後の一人は浅葱 吏子 (aa2431)君。今は電柱工事のお仕事中。終わり次第パーティに合流するんだ。
「ッくしゅん! ええい、コンチキショウ!」
 彼女は仲間の中でも、特にすごい怪力の持ち主だ。電柱を片手で差し込んでいく、なんて芸当もお手の物。
「くっそ、風邪でも引いたのか? いや、オレが風邪なんて引くかよ。誰かが噂してやがるぜ」
 突如、サイレンが鳴り響く。監視システム『ホーク・アイ』の合成音声が報告する。
『町内にてエネミーを発見。子供を攫って袋詰めにしている模様。その他、詳細は不明。現在監視続行中』
 私は店内を見渡す。
「皆、聞いたね?」
 クリスマスくらい、ひょうきんな喫茶店のマスターで居たかったんだが。
「折角のクリスマスに無粋な真似するんじゃないわよ!」
 にこやかに準備を手伝っていたリヴァイアサン君も、すっかり不機嫌な表情に。 緋十郎君とガイ君は顔を見合わせる。
「子供を狙うなど……卑劣な!」
「ああ、許せないな! 行くぜ、緋十郎!」
 駆けて行く戦士たち。レミア君と私だけが残される。
「相変わらず熱血馬鹿……」
 愛情の裏返しのようなその言葉。仲直りの時は近いかもね。
(わたしを大事に思ってくれているのは間違いないし、アイドル一人に入れ揚げる位、多めに見てあげても良かったかしら……)

●サイレント・クリスマス
 私たちは『ホーク・アイ』の映像をテレビのモニターに映す。
 静まり返った町。悲鳴たちがこだますることはなく、しかし広い通りは人、人、人でごったがえしている。さらに不気味なことに、町に降り積もるのは――黒い雪。
 表情を失くした子供を枝分かれした角が持ち上げ、大きな布袋に放り込む。黒い毛並みに、青い鼻をテカテカと光られたトナカイだ。大人たちもまた遠巻きにそれを見ているだけで、抵抗どころか表情すらも動かさない。
「そこまでだ!」
 叫んだのは緋十郎君、否。
「不屈の猿王、ドレッドコング!」
「深海の守護者、ドレッドオルカ!」
「若葉纏う緑の戦士、ドレッドメラー!」
「真の闇属性 ドレッドレイブン!」
「えぇっと……不動の大地! ドレッド……熊ってなんだっけ? ベア? ベアでいいや! ドレッドベア!!」
 ポーラーだよ、吏子君!
「……あ、そうだ! ドレッドポーラー!!」
 気を取り直して。
「人呼んで『愛の伝道師』! ドレッドバニー!!」
「轟轟と燃える魂! ドレッドファイヤー!」
 最後はみんなで声を合わせて。
――気合爆発! 我ら、弩級戦隊ドレンジャー!
 サンタを名乗る卑劣漢はここにはいない。代わりに。
――オォー!
 大勢のトナカイが立ちはだかる。レイブンに変身したカイくんは対のターキーハンマーをしゅるんと回して挑発する。
「パーティの邪魔しやがって! お前ら、まとめてシカ鍋にしてやる!」
 カチン、と音が聞こえた気がした。彼らは片言の日本語で凄む。
「ハ? オ前、今何つった?」
「オマエらこそ、ボルシチにすんゾ?」
 沸点の低いモンスターたちのようだね。
「いつも通り、正面突破でいいんじゃないかな? こいつらを倒せば子供たちを助ける方法もわかるかも」
 さわやかな微笑みを浮かべ、メラーこと時雨君が突撃する。ちなみに小脇に抱えた銃を発射した回数は数えるほどしかない。アーミーグリーン色のスーツの少女戦士は、素早く身をかがめたかと思うとトナカイを持ち上げて放り上げる。と思えば、次の瞬間には別のトナカイの角を叩き折った。
「それ賛成! 手伝うわよ!」
 リヴァイアサン君の変身するドレッドオルカは、青いバイザーに青い服、青いミニスカートとスパッツという出で立ちだ。
「タイダルウェイブアタック!」
 大剣から繰り出される連撃は、まさに津波のごとし。
「お兄ちゃんたち、どうせ勝てないから帰ったら?」
 ファイヤーは地べたに座り込んだ子供たちを両わきに抱える。
「何言ってるんだ! 俺たちが来たからには、もう大丈夫だぜ!」
「ガイ、俺も手伝うぜ! おっと、濡れたままだと風邪ひくからタオルやるよ」
「おお、気づかなかったぜ。少しだけ、寒いの我慢してくれな!」
 子供にタオルをかぶせるポーラーを見て、ファイヤーも子供たちにコートのフードをかぶせてあげた。
「燃えるぜ! ファイヤー!」
「うわぁ……! はやーい!」
 先ほどの子供を肩車し、さらに両手で2人ずつ抱えたポーラーも後に続く。
「ポーラーもはやくはやく!」
「こら、足ばたばたするな! 安全第一だっての!」
 子供たちの顔が笑顔へと変わっていく。
「うおおおおお!」
 ドレッドコングの持つ『スヴァローグ』は我が身すら焦がす炎剣。彼の為に作られた、彼にしか扱えない武器だ。
「ギャアアッ!」
 火だるまになって吹き飛ばされる仲間たちを見て、トナカイたちが息を呑む。彼らにも個体差があるらしい。例えば小柄な女性を狙う狡猾な者とかね。
「あらあら。なんだかわたくし、人気者かしら?」
 にこりと微笑んで首を傾げるドレッドバニー。いつものルーシャ君と変わらぬおしとやかな立ち振る舞いだ。
「その愛、応えて差し上げなくてはね……熱烈に!」
 バニーのヒーロースーツが翻る。フリルたっぷりのそれはもはやドレス、って言うのは無粋なツッコミかな? 敵に向かってまっすぐ駆け出しながら、肩越しに背中に手を回す。現れたのは武骨な大剣だ。
「ナ、何ィ!?」
「えいっ!」
 彼女もまたドレンジャーの一員。あまり舐めない方が良いよ。って、もう聞こえてないね。卑怯なトナカイは倒れ伏して目を回している。
「うふふ、いかがかしら? 何度でも来てくださっていいんですのよ?」
 甘く可愛らしい声に柔らかな笑顔。
「ただし、真正面からいらしてね? 小細工は好きじゃないの」
 波が引くようにトナカイたちは後退る。そして別のトナカイの背にぶつかる。コングに追い詰められた仲間だ。
「ブラックサンタとやらを出してもらおう。貴様らに用はないぞ!」
「イヤダネ」
 コングはトナカイの角を力任せに掴む。トナカイは卑屈に笑いながらも、足を踏ん張りコングを押し返す。
「燃えるぜ! ファイヤー!」
 戻ってきたファイヤーが蹴り飛ばしたトナカイが、コングと押し合っていたトナカイに直撃する。
「避難は完了したぜ! 皆が引き留めてくれたおかげだ」
 ファイヤーはコングに受かって親指を立てる。
「待てよ、おかしくねぇか?」
 ハンマーでトナカイの頭を殴りつけざま、レイブンが振り向く。
「こいつら強くはねぇが、数は馬鹿みたいに多い。追手くらい、いくらでも出せたんじゃねぇのか?」
「つまり……どういうことだ?」
 ファイヤーとレイブンは3秒ばかり見つめ合うが。
「……俺にもわからん」
 もしかして……足止めされていたのは、ドレンジャーの方? だとしたら、ブラックサンタは次の手を打ってくるはずだ。
「はっはっは! 噂通りの脳筋集団じゃ! おかげで準備が整った!」
 噂をすれば、か。建物の陰からブラックサンタが姿を現した。
「観念した、って顔じゃないわね。このまま子供たちを諦めれば、痛い思いしなくて済むわよ!」
「ふん、諦めてなどやるものか! 子供たちはうちの組織へ連れ帰り、悪の戦闘員へと育成するのだ!」
 オルカの言葉にサンタは嫌な笑みを返す。ファイヤーが叫んだ。
「そんなことは許さないぜ! 子供たちには夢と希望に満ちた未来が待っているんだ!」
「無駄じゃ。全部、絶望に塗り替えられる」
「冗談じゃありませんわ。子供たちには、いいえ、全ての人間には愛し愛される権利があります!」
 バニーが大剣を構えなおす。
「おうおう、嫌じゃのう。愛? 温もり? 思いやり? これだから人間は」
「お前、サンタ向いてないんじゃないのか? 何ならすぐに引退させてやるぜ」
 レイブンもハンマーを突きつけて、言い放つ。
「早まるな若造。だからこそ、わしはクリスマスが大好きなんじゃ! 町中にあふれた愛や希望を根こそぎ奪えるんじゃからの!」
 黒い吹雪が急に勢いを増す。風の音に紛れて硬い音が響いた。それは突撃銃がコンクリートの地面にぶつかる音だった。
「ボクって筋力しかとりえがないなぁ。へこむなぁ……」
 メラー!? なぜかしゃがみ込んで、地面に「の」の字を書いている――。
「……ヒーローなんて疲れたわ。もう隠居する……ああ、海の藻屑になりたい」
「うん、ボクも。戦うのはもううんざりだよ」
 オルカ、そんなところで体育座りしたら危ないよ! 顔を上げてくれ!
「そういや、コンナ日にまで仕事トカ、ヒーローも大変ダヨナァ」
「コイツラ、きっと一緒に過ゴス相手が居ないんダゼ」
 トナカイたちが煽る。
「うるせぇ! ホントだったら……もう少し上手く誘えてさえいれば、俺だってリア充できたんだよ! ……できたよな、多分?」
 ああ、例の片思いの相手か……。レイブン、話はあとでゆっくり聞く! 今は戦いに集中するんだ!
 ――皆の心はそんなに弱くはないはずだよ! 一体全体どうなっているんだ?

●ただいまクリスマス商戦中
 クリスマスだよ! ドレンジャー、『どれの』へ急行せよ!
――了解!
 生クリームのケーキには、バニー、オルカ、ファイヤー! チョコケーキには、レイブン、メラー、ポーラー! ブッシュドノエルにはコングとナイトメアが載っているぞ!
――皆で食べよう! メリークリスマス!
 ドレンジャーのクリスマスケーキ! おかしの怒涛堂より発売。

「真の闇属性 ドレッドレイブン!」
 君もドレッドレイブンに変身だ! 両手に持てばカラスの力が体にみなぎる! 
「とりゃあっ!」
 ※骨付きターキーは付属されておりません
「その悪、骨ごと砕いてやるぜ!」
 ターキーハンマー、発売中! ヘヴィ☆アタック・カンパニー。

●一気呵成
「こんな素晴らしき日に、愛を語る相手がいないなんて! 悲しすぎるわ!」
 バニーがハンカチで顔を覆う。
「誰が見た目火力値1万女だよ! どうせ女子力なんてねぇよ!」
「ホラホラー、女子らしく喋って見ろヨ!」
「う、うるせー! ……うるせー、だわよ? だまりやがれ、ですのよ?」
 ポーラー、そんな言葉を気にしてはダメだ!
「うがぁ! やっぱオレには無理だぁ!」
 膝をつき、拳を叩きつけた地面にひびが入る。パワーダウンはしていないようだが、この様子じゃ戦えない。
「みんなどうしたんだ?! よくわからないけどオレも落ち込んできたぞー?! うおおおおお!!」
 ファイヤー! ……あれ、ファイヤーはいつもとあまり変わらないなぁ? ネガティヴにはなっているみたいだが。
「どうして? 到着したときは普通だったのに」
 隣でモニターを見ているレミア君が言う。
「敵の言葉によれば、時間稼ぎをしたかったらしいが……」
 肩を落とすヒーローたち。優勢だった敵にひき倒され、笑い交じりになぶられる。スーツが、黒っぽいまだらに染まっていくのが不吉だ。
「司令? ……何か思いついたって顔ね?」
「行ってくれるかい、レミア君?」
「当たり前でしょ、私も戦士の一員なんだから」
 画面に視線を戻すと、バニーがトナカイに囲まれている。頭の上に両手で耳を作る決めポーズ。名乗り口上をやらされているらしいが――。
「ギャハハ! なにそのポーズ? ダッセー!」
「嗚呼……こんな私を愛してくださる方なんて、どこにもいないわ!」
「ハッ、世界には愛なんて必要ナイ!」
「……必要、ない? ……それは……それは違います!」
 自然と溢れた力強い声。バニーは呟く。
「わたくし、何かを忘れているような……」
 罵詈雑言を浴びせられ、身をかき抱いて苦悩するレイブン。トナカイの角が弄ぶように彼をつつく。
「クリスマス前の失恋とか一番悲惨ダヨネー」
「ぐぐ……って、俺まだ失恋してねぇよ!」
 ばっと勢いよく手を広げると、鋭い手刀が風を切る。トナカイは慌てて身を引く。
「はっ! 今の感覚は?」
 地面に落ちたハンマーを見つめるレイブン。しかし逆上したトナカイが助走をつけ、彼に突進する。
「危ない!」
 トナカイの横っ腹にタックルしたのはメラーだった。トナカイは矛先を彼女に変える。
「ボクの、仲間をッ! 傷つけないで!」
 鋭い角による突きを右に左に避け、敵の後ろに回り込む。
「ナニッ!?」
 トナカイの後ろ足を掴んで、くるくると回るメラー。ハンマー投げの要領で彼方へと放り投げる。
「腕疲れた……。けど、どうしてだろう? ボク……ワクワクしてる?」
「うおおお! 燃えられないぜ、ファイヤー! ……ん、燃える? 俺は燃えたいのか?」
 戦士たちは、今の自分に違和感を抱き始めたらしい。
『私の声が聞こえるかい、ドレンジャー!?』
 オルカが苦し気な声を上げる
「御法川指令! 私たち、どうしちゃったの? 立っているのも辛い……。少しでも気を抜いたら、絶望に溺れてしまいそうよ!」
 私はスイッチを押す。変身装置『幻想パピヨン』が光り、ヒーロースーツの上に二重廻しのコートが装備された。まるで某組織の制式コートのような真っ白いコートだ。
「……暖かい。なんだか『希望』に包まれているみたい」
『皆、フードをかぶるんだ! 原因はおそらく、黒い雪の中に溶けている何かだ。だからこれ以上雪を浴びなければ大丈夫だよ。そうなんだろう、ブラックサンタ?』
「ふん、バレては仕方ないのう! 化学班の新兵器・キボウナクナール、まだまだ改良が必要か」
 敵がネガティヴ状態にならない理由は、元々絶望に染まってるから、といった所かな?
「お前ら、良くも好き放題言ってくれやがったな!」
 ポーラーが低めた声で言う。
「俺たちは本当のコト……」
「うっせえ! 女子力(物理)喰らいやがれ、コノヤロー!」
「痛ェ! ハゲるー!」
 ポーラーはトナカイの胸ぐらを掴み、がくがく揺さぶる。正確には首周りに生えたふさふさの毛を。ポーラーは女子力あると思うけど。まぁ、その話は後でね。
「確かに海は好きだけど、藻屑になりたくはないわよ! 隠居とか早すぎるし!」
 立ち上がったオルカは自分の発言に呆れている。
「私を怒らせたら怖いわよ? 覚悟しなさい!」
 ブンッ、と頭上で大剣を振り回す。そしてサメのように鋭い視線でトナカイたちを睨み回した。
「よく考えたら俺、特に悩みがなかったぜ!」
 ファイヤーはどん、と胸を叩いた。ある意味頼もしい、かな?
「今年の聖夜は皆様と『仲間愛』について語り明かしますわ! 決めポーズだって、自分が満足していれば問題ありません!」
 後頭部と腰に手を当て、くねっとしたセクシーポーズをとるバニー。ウインクも忘れない。
「さぁ、かかってきなよ! それとも怖気づいたかな!?」
 メラーとレイブンは背中合わせに立つ。
「つーか俺のスーツ黒いから、あんまり染められてる感ないんだけど!」
「ふふっ、たしかにね」
 サンタは顔を顰めるが、未だ地にうずくまる何かを見つけて口角を上げた。
「ふぉっほっほ、腐っても我らが宿敵・ドレンジャーと言う訳か! しかし『こいつ』はもうダメなようじゃの!」
 皆の視線が一斉に、膝をついたコングへ向けられる。サンタは皆の隙を突いて、コングのすぐ側へと移動していた。つま先で赤いスーツを小突くが、コングは無抵抗だ。
「すまない、レミア……! お前は俺の最愛の妻。何より一番大切なのは間違い無いし、心からそう思っている。だが……! “スネグーラチカ”への思いも捨てられないんだ……俺は最低だ」
 サンタの手に握られた大斧が振り下ろされる。――が。
「あなたがロリコンで変態の浮気亭主なんてこと、とっくに知っているわよ。」
 一閃。そして一瞬の無音ののち、斧の刃が粉々に砕けた。
「その上で命令するわ。私のそばに居なさい!」
 対して、彼女が持つ血色の魔剣は美しい色を湛えたまま。
「待たせたわね。――屍山血河、ドレッドナイトメア! これ以上、好きにはさせないわよ」
「小癪な……」
 サンタが歯噛みする。オルカが敵を挟んで立つ親友へと叫ぶ。
「行くわよレミア! 協力して!」
「任せなさい!」
 オルカは大上段に構えると、そのまま全力で振り下ろし衝撃波を巻き起こす。
「アクアマリンブレイカー!」
 後方へと吹き飛んだ敵は、背に迫る闇の女王の餌食になる他ない。
「さぁ、この子に血を吸わせて頂戴!」
「えーい、邪魔! 纏めて吹っ飛べ―!」
 刀身の血色は、敵を斬る度ますます冴えていく。オルカとナイトメアは目線を交差させ、勝気に微笑み合った。
「クロスファイヤークラッシュ!」
 ファイヤーの二刀流がトナカイの胸に十字傷を刻む。攻撃後の隙を狙い他のトナカイが迫るが、ファイヤーはその気配を捉え、振り返りながら蹴りを食らわせた。トナカイはふらつきながらも着地する。そこへ。
「はぁっ!」
 助走をつけ、ポーラーを足場に跳ねたバニーが、大剣を振り下ろしながら落ちてきた。跳ねた拍子にドレスは派手に裂けてしまったが本人はお構いなしだ。きっと裁縫上手のポーラーが繕ってくれるよ。
「バニー!」
「ええ、ポーラー。思いきり振ってくださいませ!」
 バニーの身体が再び舞い上がる。その様は棒高跳びのようにも見えた。地上スレスレを滑り、敵を薙ぎ払っていく電柱。ポーラーの専用武器だ。
「何だあいつは! バケモノか!」
 ギリギリ電柱の攻撃範囲外に出たサンタの顔も青ざめる。最後のトナカイがブラックサンタを背に庇う。
「どうしマス、サンタさん?」
「クソ、脳筋男と怪力女どもめ……!」
「お褒めにあずかり光栄だね」
 死角から近づきサンタに手を伸ばしたメラーだが、トナカイに突き飛ばされる。
「戦闘は僕の生きがいで、筋力は長所だよ!」
 トナカイと共に地面を転がりつつも、背を取って首を締め上げた。スリーパーホールドのような形だ。
「そして君たちを倒せば、次はもっと強敵が現れるはず!」
 サンタは迷うことなく部下を見捨て、走り去る。
「レイブン、思いっきり決めてやれぇ!」
 ポーラーが思い切り投げたのは味方。即席の砲台によりレイブンを飛翔させた。猛禽のように鋭く、まっすぐ敵へと飛んでいく。
「うおおお……ってちょっと投げすぎじゃ」
「何じゃとぉ!」
「ぐあっ!」
 見事な空中ヘッドスライディング。サンタの腰を直撃だ。ナイスファイト、レイブン。
「メラー! レイブン! ラストアタックですわ!」
 サンタの黒い背中に向け口を開いていたのは、ドレンジャーの最終兵器。他のメンバーは既にそれの側に立っており、メラーとレイブンも素早く位置に着いた。
「ま、待て!」
 地面に尻を付けたまま、後退るサンタ。バズーカの口にまばゆい光が灯る。
――ダイダンエンドバズーカ!
 8人の声がひとつになる。カラフルな光の軌跡はまっすぐにサンタへと届き、大爆発が起こる。混ざり合い、明度を増し、真っ白へと変わった光が、悪しきサンタとその部下たちをまとめて吹き飛ばした。

●本日も大団円!
「これで平和なクリスマスを過ごせるわね! 皆お疲れ様!」
 リヴァイアサンくんがぐっと伸びをしながら言う。鬱憤を晴らせてスッキリしたようだね。彼女の視線は、親友とその夫に向けられる。
「レミアのおかげで命を落とさずに済んだ。ありがとう」
「あなたは私のモノなのよ、私の許可なく死ぬことなんて許さないわ」
 緋十郎君ははっと息を呑む。
「ああ……! 俺の命はレミアのものだ!」
 そして、さっそく鞭を取り出すレミア君。
「なぜあの台詞でトゥンクしてしまうのか」
「愛ですわ!」
 カイ君は呆れているが、ルーシャ君はキラキラと瞳を輝かせている。
「よかったわね、レミア」
 優しく声をかけたリヴァイアサン君は、表情を引き締め直して緋十郎君を見つめた。
「けど、またレミアにあんな顔させたらただじゃ置かないから」
「む!? そ、それはそれで……」
「もう! 喜んでどうするのよー!」
 そんな中、フライパンを慣れた手つきで扱いつつ、吏子君が声を上げる。
「メシ、もうすぐできるぜ! 手ぇ空いてる奴で飲みモンの用意たのむわ!」
 事件のせいで遅れていた調理は、合流した吏子くんの協力の甲斐あって間もなく完了だ。
「この続きはパーティの後よ。吸血もね?」
 レミア君に囁かれ、緋十郎くんは喜色満面。
「ターキー、美味しそうに焼けてるね! カイさんがハンマーで解体してくれるの?」
「正気か時雨? さっきまで敵しばいてたやつだぞ、これ」
「え、だめかな?」
 時雨君が首をかしげる。お店用のを出してこようか。
「じゃーん、ケーキ登場! マスター、蝋燭どこだっけ?」
 それはもうテーブルの上。力持ちのカイ君ですら慎重な足取りになる巨大ケーキに歓声が上がる。恐らく前は見えていない。我らが戦士たちは胃袋も強靭なものでね。
「わっ、すっごいなぁ! テーブルはそこから2時の方向。ボク、誘導するね!」
 時雨くんが申し出てくれた。『ファイヤー』のプライドなのか、点火はガイくんの担当。
「ふふ、とっても綺麗ですわ!」
 乾杯の音頭は、ルーシャ君に。
「まぁ光栄ですこと。では……。愛に満ちたクリスマスに、乾杯!」
 ――乾杯!
 壁を突き破ってしまいそうなくらいの大声が、バー『どれの』を揺るがした。

●エンディングテーマ「ド・ド・ドン! ドレンジャー音頭!」

はびこる悪は許さない
悲しい声を聞き逃さずに
電光石火で急行だ
みんなのヒーロー ドレンジャー

ときには喧嘩もするけれど(でも!)
クロスカウンターで両成敗(おあいこ!)
落ち込むときにはいつもの店で(ハッ!)
皆でカレーを食べよじゃないか(ハー、ヨイヨイ!)

ド、ド、どんなに強い敵でも
倒してやるぜ 怒涛乱舞
ド、ド、ドキドキ心臓鳴らし
未来へ走れ 疾風怒濤

ド・ド・ドン! ドレンジャー音頭!(ドドドのドン!)

●次回予告
 初詣に来たドレンジャーの仲間たち。照れて遠慮するリヴァイアサンの手を引き、ルーシャは縁結びのおみくじへとダッシュする。食欲の赴くまま屋台へと突進した仲間たちは、すっかり彼女らの姿を見失ってしまう。
 ふたりの女性戦士が発見したのは、夢を壊すために生まれた灰色の馬。その名も『ダークネス絵馬』。絵馬に書かれた皆の願いを阻止しようと暴れ回る! ドレンジャー、新年もはりきって行くぞ!
 次回、弩級戦隊ドレンジャー『愛VS悪!? ダークネス絵馬を蹴っ飛ばせ!』、お楽しみに!

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ガイ・フィールグッド (aa4056hero001)/男性/20歳/斜め上の熱血】
【ルーシャ・ウォースパイト(aa0163hero001)/女性/20歳/ブラッドラヴティメイタム】
【カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)/男性/35歳/ひび割れた街に鉄槌を】
【淡島時雨(aa0477hero001)女性/18歳/エージェント】
【浅葱 吏子 (aa2431)/女性/21歳/エージェント】
【リヴァイアサン(aa3292hero001)/女性/17歳/荒波少女】
【狒村 緋十郎(aa3678)/男性/32歳/全てご褒美】
【レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)/女性/13歳/鞭という名の愛情】
【御法川 武将(aa4722)/男性/47歳/エージェント】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
大変お待たせいたしました。高庭ぺん銀です。この度は楽しい企画をお任せいただきありがとうございました。
ヒーローたちの名乗りは、赤→青→緑→黒→黄→桃/(追加戦士)赤→闇と、色を基準に決めてみました。赤色担当の方が最初というのはすぐ決まったのですが、その後は少し悩みました(笑)

今回のお話にはかなり多くのアドリブが入っています。違和感のある点などありましたら、ご遠慮なくリテイクをお申し付けください。それではまた皆様にお会いできる時を楽しみにしております。
八福パーティノベル -
高庭ぺん銀 クリエイターズルームへ
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2017年03月30日

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