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『第二英雄ズ、アイドルライブへ行くの巻 』
ユエリャン・李aa0076hero002)&凛道aa0068hero002

「あ、ん……? 君、今どこへ行くと言った?」

 居間のソファに寝そべって漫然とテレビを見ていたユエリャン・李(aa0076hero002)(スッピン)は、寝ぼけた声と共に顔を上げた。
「行きますよ我が親友ユエさん、天使が歌う楽園(エリュシオン)へ……!」
 そこにはアイドルモノの痛Tと痛ハッピと痛鞄とで全身武装した凛道(aa0068hero002)が、早くも興奮した様子で浮き足立っていた。
「へーー……」
 ぼーっとした声を返すユエリャン。つけっ放しのテレビでは「わんにゃん動物王国」なる番組が流れていて、子猫とか子犬とか、とかく視聴率間違いなしの万人受けする内容が映っていた。
「……分かった、行く……」
 ややあってから、ユエリャンが大あくびと共に返事をした。「本当ですか!」と嬉しそうな凛道の声に手をヒラヒラしながら、赤髪の第二英雄は気怠げに身を起こして伸びをする。
「身支度をするから、しばし待て……」
「確かに、今のユエさんはスッピンですからね。睫毛とかも短いですし、眉毛もうっすいですし」
「化粧をしている人間に化粧のことを指摘するなと何度言えば分かるのだね、君は」
「目が大きく見えたり、唇がふっくらして見えたり、化粧って凄いですね!」
「……そのデリカシーのなさを題材に立派な論文が書けそうであるな」
 全く、と眉根を寄せるユエリャンは先程よりは目が覚めたらしい。そんなユエリャンに凛道が「化粧崩れは、保湿をすれば防げるって雑誌にありましたよ」と完全なる善意で言うが、返事は「そんなもの、とうの昔に知ってるわ!」とにべもなかった。悪意がないだけにタチが悪い。







「それで……ええと? 神とか天使がどうとか言ってたが」

 支度完了。出発してまもなく。なにせまどろみの中で聞いたうろ覚えの話題だ、確認も兼ねてユエリャンは凛道へ改めて尋ねた。
「はい! 僕の推しの子は本当に! 神であって天使ですよ! 尊いんです!」
 物凄いイキイキとしながらの凛道の返事であった。こんなにイキイキとした凛道を見るのは初めてのような気がする。「いやそうじゃなくて」とユエリャンは真反対に平静そのものである。若干「何言ってんだコイツ」な目である。
「出かけ先はどこなのだと聞いておるのだ」
「週に一度のLKB48定期ライブと握手会ですよ!」
「ん、ああ、そういうことだったのか。……まあ、一緒に行ってもいいぞ、君となら」
「本当ですか!」
「嘘ではない。こうして身支度もしたことだし」
「ええっ。でも、そんな装備で大丈夫ですか?」
 凛道は目を丸くして、ユエリャンの爪先から頭の天辺までをまじまじと見た。ユエリャンのいでたちは、オシャレな男装にピンヒール、という麗しい姿であるが。本人も不思議そうに瞬きをしている。
「? 大丈夫だ、問題などないが?」
「問題だらけです、そんな格好じゃ死んでしまいますよ!」
 今ならまだ間に合います! と凛道は缶バッジやアクセサリーがジャラジャラ付いた痛鞄を開けて、代えの痛Tを取り出した。
「さあ、これを! サイズなら問題なく合うはずです!」
「竜胆、竜胆」
「なんですかユエさん」
「いいか、一度しか言わんが……」
「はい?」
「No thank you」
 心からの丁重なお断りだった。


 で。


「――それでですね、僕の推しの子は小柄な体に幼いボイスが魅力的でっ……! ファンへの対応も神なんです、SNSでもひとつひとつに丁寧にレスしてくれるんですよ!」
 ライブ開演前。凛道は早速物販で購入したグッズにまみれ、それはそれは嬉しそうにパンフレットを開いて隣のユエリャンに萌え語りをしていた。
「あ、ああ……」
 ユエリャンにとって、ライブというものは初めてであった。が。凛道の気迫(?)に終始押されっぱなしで微妙な表情を浮かべている。凛道だけでなく、このライブ会場にいる者たちひとりひとりが凛道クラスの熱量を放っていた。なんだこの空間は。
「僕はファンクラブ内ではまだまだ新参ですけど……想いは立派な親衛隊ですから!」
「そ、それは良かったであるな……」
 一先ず会釈的な笑みでお茶を濁すユエリャン。「ユエさんの分も買ってきましたから!」とユエリャンにサイリウムを渡す凛道。半ば諦念と共にそれを受け取った赤髪の英雄は、やはり諦めたような眼差しでサイリウムを灯すのであった。
「――それでですね!」
「待て竜胆、まだ語りが続くのか」
 かつてこんなに凛道が饒舌だったことがあるだろうか。ユエリャンがギョッとしている間にも、凛道の口は止まらない。サイリウム芸なるものやら振り付けやら掛け声やらを熱心に――そして心から楽しそうに――身振り手振りでユエリャンに教えている。
「……というのがこの曲のサイリウム芸なんですけど……ユエさんは、ほら、踊る踊るレボリューションで足が複雑骨折しかねないほどの残念なアレですので……サイリウムを振るだけでも大丈夫ですからね! ライブは気持ちが大事ですから!」
「待って、我輩さりげなくディスられてない?」
「それでですね!」
「えっ嘘、まだ続くのか?」

 結局、凛道は萌え語りを語りに語りに語り続け、結局開演まで語り続けていた。
 やがてライブハウスが暗くなり、早くもワーーーッと歓声が上がる。それまで各々の客席に座っていたファンたちが総立ちである。

「!? !!? 座って観るものじゃないのか!?」
 うら若き乙女達が歌って踊る――つまりはミュージカルとかオペラとかそういうものを想像していたユエリャンはいきなり度肝を抜かれた。
「ちょっと竜胆――」
 呼びかけた隣の彼は。

「L・O・V・Eーーー!! うわあああーーーー!!!」

 目をキラキラ輝かせてサイリウムを一心不乱に振っていた。
「……」
 ユエリャンがポカーンとしている間に、音楽が始まる。ライブ会場いっぱいに、体全部が震えるほどの大きな音。そして、色鮮やかな照明が会場中を駆け抜ける。煌びやかな衣装をまとった少女アイドルたちが次々と舞台に現れる。
 来てくれてありがとー! そんな喜びを伝えるように、アイドルたちは笑顔をいっぱいに浮かべて客席へと手を振った。一際、わあああああっと会場が盛り上がる。もちろん凛道もそんなファンたちの中の一人だった。
「へーい! はーい! いえーーい!! はいはいはーーーい!!」
 合いの手も完璧である。凛道はこの上なく幸せそうである。
「……」
 ユエリャンはまだポカーンとしていた。その間にもライブは続く。少女たちが舞台の上でなにかしらアクションするたび、割れんばかりの歓声が起こった。
 そうして、ユエリャンは座っているのは自分だけであることに気付いては、ただならぬアウェー感にスッと立ち上がった。そういえばライブは数時間単位で行われるんだっけ……。え? ピンヒールなんですけどずっと立ちっぱなしデスカ……?
(ああ……)
 凛道の言葉を思い出す。「そんな格好じゃ死んでしまいますよ」――マジだった。ガチのマジだった。誇張表現なんかじゃなかった……。
「帰りたい」
 虚無の顔で呟くユエリャン。その視界には、サイリウムを華麗に振り回し至福の笑みを浮かべる友人、凛道が。
「ッはい! ッはい! ッはいはーーーい!!!」
 それはオタ芸というやつである。物凄いキレッキレの動きである。舞い散る汗すらキラキラしている。戦闘でもあんなにキレのある動き見たことないぞ。ユエリャンは死んだ目で見る他にない。
「……」
 うん、見なかったことにして、ユエリャンは舞台へと視線を注ぐことに専念し始めた。友人はアレだが、ユエリャン本人としてはなんだかんだで音楽は好きなのである。少女たちの歌や踊り、演出は相応のクオリティがあり、楽しめるものだった。
 でも、友人のオタ芸は見なかったことにする。

 繰り返すが、友人のオタ芸は見なかったことにする。







「ああああああ……最高だった……無理……尊い……最高……感謝……世界に感謝……尊い……尊い……ありがとうございます……ありがとうございます……あああ……ああああああああ……」

 ライブ後。すっかり空が暗くなった帰り道。物販のグッズに包まれた凛道は、ただただ世界に感謝を捧げ続けるだけの眼鏡置きと化していた。憧れの推しから握手をしてもらったその手はさっきからずっと合掌しているし、尊さがオーバードライブして涙ぐんですらいる。その声はライブ中ずっと合いの手と歓声に捧げ続けられていたために、ガラッガラに枯れていた。
「うん、まあ……楽しかったなら、よかったのではないか……?」
 ピンヒールで時間単位で立ちっぱなしだったユエリャンは足の疲労が限界だった。早く帰りたい。お風呂に入ってパンパンのふくらはぎを労いたい。足をマッサージしたい。ヒール脱ぎたい。爪先痛い。無理。
「ぐす……ユエさん……今日は一緒にライブに来てくれてありがとうございました……とても嬉しかったです……」
「あ〜、まあ、ぶっちゃけるとちょくちょく引いたが、まあ……うん、どうしたしまして?」
 凛道の熱量にはやばみは感じたものの、見離しはしないユエリャンであった。「ありがとうございます」と、今一度凛道が声を潤ませる。そしてパッと顔を上げると、
「それでですね今から二次会があって」
「帰る」



『了』


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ユエリャン・李(aa0076hero002)/?/28歳/シャドウルーカー
凛道(aa0068hero002)/男/23歳/カオティックブレイド
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2017年03月31日

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