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『『世界に春が訪れて』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879)&ディラ・ビラジス(NPC5500)

 寒さが和らいで、桜の花が咲き始めた頃。
 アレスディア・ヴォルフリートは、ディラ・ビラジスと共に、広い公園を訪れていた。
 日当たりが悪く、人の姿のあまりない隅のベンチに2人は腰かけて。
 しばらく花壇の花や、遠くに見える人々の姿を眺めていた。

「私の故郷は争いが絶えない国にあったが、辺境に位置した故、貧しくも静かに暮らしていた」
 クリスマスイブに、ディラはアレスディアが自分自身の幸せを求めない理由を突き止めたいと言っていた。
 今、その理由が、アレスディアの口から語られようとしていた。
 ディラは静かに、彼女の話を聴く。
「だが、私が十を少し過ぎた頃、中央の命で男手は皆戦場へ駆り出されることになった」
 彼女の父は、彼女の故郷のまとめ役のような立場にあった。
「男手がなくなればどうなるかわかりきっている。だから父は、残された者達の庇護の約束と引き換えに応じた」
 その時、アレスディアは父の代わりとして故郷に残った。彼女の母はその数年前に死去していた。
「……庇護といっても実態は隷従だったが、残された人々と共にいつか皆が帰る日を思い、日々を耐えた」
 何の感情も表すことなく、事実を淡々とアレスディアは話していく。
「そうして数年。厳しい冬の日、戦場へ行った一人が傷だらけの姿で帰ってきた。その口から伝えられた戦場でのこと。どのような扱いを受け、最期を迎えたか」
 ディラは相槌も打たず、何も言わずに黙って聞いていた。
 ……言わなかったのではなくて、何も、言えなかった。
「それを聞いた私は、自分を抑えられなかった。政府の軍人に詰め寄るも、敵うはずもない。その私を、皆が助けてくれた。子どもも女性も老人も、関係なく」
 それで、皆はどうなったのか。アレスディアを助けた子ども、女性、老人……全ての故郷の人々は。
 聞かずとも、ディラには想像できた。
 むしろ、ディラにはアレスディアや、彼女の父、男性たち、故郷の人々の気持ちより、政府側の動きの方がよく理解できた。
 時代が、生まれた場所が違っていたら、自分は政府側の――彼女の故郷の人々を利用し、不要となったら斬り捨てていた立場にいたかもしれない。
「護るべきに護られ、生き長らえて私はここにいる。その私が、『そういう幸せ』を望むべくもない」
 アレスディアがディラに顔を向けた。
 その瞳には、何の感情も宿っていない。
 憎しみも悲しみも。
「理由というなら、それが理由だ」
「……」
 聞くべきではなかったのかもしれない。
 言葉が何も出てこなかった。
 真剣な表情でアレスディアを見ながら、ディラは暫くの間沈黙を続けていた。
 先に、アレスディアがふっと表情を緩ませる。
「言っただろう、私は今、十分幸せだ」
「……理由は分かった」
 ディラは足の上で手を組み、組んだ手に視線を落とした。
「けど、なんか理解するのは難しい」
 そのまままたしばらく考えた後、ぽつぽつと話し始める。
「アンタの父や、故郷の男達は――自分の護りたい者を護る為に、戦場に人を殺しに行くことに同意したってことだよな」
 戦場で戦う相手は、自分達と同じ境遇にある者であるかもしれない。
 後方支援としての徴兵だと偽られていたとしても、それは自国と自分達の為に誰かを殺すための支援に他ならない。
「アンタに詰め寄られた政府の軍人も、政府の命令で動いていて……政府は、国の役に立たないアンタらを切り捨てた。それは、国を護るため、繁栄させるために邪魔にしかならなくなったから」
 口には出さなかったが、ディラからすれば、それは政府として当然で自然な判断だと思える。
「力を、武器を持ち続けるアレスは、その殺しの連鎖の中から抜け出すことが出来ないんじゃないか?」
 ディラの言葉が、アレスディアの心に重くのしかかる。
 そう、彼女自身、護るために討つ矛盾に思い悩むことがある。
「ここの……東京の奴らを見てるとさ、家族や恋人を護るために男に必要な力って、戦闘能力じゃないんだよな。護るために相手を殺すようなことはない」
 皆無ではないけれど、殺しの連鎖が少ない街だ。
「この街に、俺らはもっと溶け込んでみるべきなのかもしれない。そのために……」
 ディラはアレスディアの顔を見て、直ぐにまた視線を自分の手に戻した。
 この街の恋人同士のように、付き合ってみないか……とは、言えるわけもなかった。
 “『そういう幸せ』を望むべくもない”のは、むしろ自分の方なのだから。
 大きく息をついて、ディラは立ち上がる。
「悪かった。今日はもう帰ろう」
 彼が何を謝罪しているのか、よく分からなかったが。
「ああ」
 苦笑しながら、アレスディアも立ち上がる。

 公園の出口に向かって歩いていくと、徐々に人の姿が多くなる。
 ここに訪れる理由は様々だろうけれど……誰も、周りに警戒などしていなくて。
 武具を携帯している者もいなくて。
 無防備だけれど、きっと彼らは、この街で生きる力を自分達よりも持っている。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年04月04日

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