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『いま、あなたと 』
スノー ヴェイツaa1482hero001)&御代 つくしaa0657

「なぁ、ちょっと付き合ってほしいんだ」
「へ?」

 ちょっぴり顔を赤らめて、モジモジしながらそんなことを言い放ったスノー ヴェイツ(aa1482hero001)に、御代 つくし(aa0657)は摘んでいたクッキーを取り落としそうになりながら目を瞬かせた。



「ああもう、びっくりしたぁ!」
「悪ぃ悪ぃ、緊張しててさ」

 ガタタン、ゴトトンと電車に揺られながら、つくしは隣に座るスノーをぷんすかと見遣る。

「だからって言い方があると思います! ふつーに、一緒にお買い物に行こ、って言ってくれればいいのに」

 いかにも「怒ってます!」とでも言うように、腕を組んでむうっと唇を尖らせるつくし。だが瞳は楽しそうに笑んでおり、怒気も全く見られないため、その格好は単なるポーズである様子。
 それがわかっているので、スノーはわざとらしくシュンと耳を垂れ下げる。

「だって、ほら、恥ずかしいだろ。洋服着てみたいけどよくわからないから見立ててくれ、とか」

 そう言うスノーの格好は、いつも通りの民族衣装風の着物。季節によってデザイン等は変わるが、確かに「洋服」とはかけ離れた衣装だ。
 これはこれで好きだけど、折角だから違う服も着てみたい、というのが行動理由らしい。

「そんなことないよ!! 頼ってくれて嬉しかったんだから! 今日はスノーさんに似合う服探すために、リサーチもバッチリなんだからね!」
「ほんとか? つくしはお洒落さんだから、心強いな!」

 どんとこい、と胸を張るつくしに、心底嬉しそうなスノー。
 表裏のないその言動に、つくしは照れくさそうに「えへへ」と笑うのだった。



 そんなこんなで2人がやってきたのは、「ショッピングストリート」とでも表現すべきオシャレな商店街。
 途切れない人の流れと、立ち並ぶ洗練された店舗は、ただ道を歩くだけでも楽しそうだ。

「すげー……」
「でしょう?」

 出掛けに「ショッピングモールとか行きたい」と言っていたスノーは、圧巻の町並みに若干放心状態。小さくまとまった量販店を予想していて、連れてこられたのが広い商店街だったらそりゃあ、こうなる。連れてきたつくしはその反応にご満悦だ。

「いっぱいお店があるから、見るのも一苦労だよ。さ、さ、どうぞどうぞ」

 立ち止まって動かないスノーの背を押して、つくしはるんたったと足取りも軽く、商店街へと踏み出した。

 目についた良さそうな店は片っ端から入って、あーでもないこーでもないとある種くだらない話をするのもショッピングの醍醐味だろう。それなりに早い時間帯にも関わらず、商店街は楽しそうに店を覗く人で溢れている。

「つくし、つくし! オレこれがいい!!」
「却下!」

 そんな中、つくしはスノーがどこからともなく見つけてくる「文字T」を却下するのに尽力していた。「ケモ耳魂」と力強く描かれたTシャツなど、どこから見つけてくるのか。そしてなぜそれを選んでくるのか。ちなみに、さっき持ってきたのは「愚神上等かかってこいや!」と描かれたTシャツだった。ちょっと欲しいと思ってしまった。

 たまに普通の服を持ってきたかと思えば、「これ、うちの相棒どもに着せてみないか?!」である。手に持っているのはフリルたっぷりのワンピース。
 スノーの相棒は二人共に男である。つくしは思わず、気のいい野郎二人がノリノリでフリルたっぷりのワンピースを着ている姿を想像する。想像して、とてもとても後悔した。
 奴らなら、着る。つくしは己の心の平穏を保つため、努めて冷静に「却下」を言い渡した。
 スノーは「ちぇー」ととても残念そうな表情で、フリルワンピを元の場所へ戻した。
 人知れず、野郎約二名の名誉は守られたのである。

「な、な! これとかどうだ?!」
「わぁ、かわいい! スノーさんこういうの好きなんだ?」

 かくして何店舗か冷やかした後、つくしが事前に目をつけていた店にて。
 スノーが自信満面に提示したるは、袖口にレース生地をあしらった生成りのチュニック。ふんわりと広がる袖口は、締めつけ感もなく動きやすいだろう。今まで持ってきていた文字Tやらネタに走った服はなんだったのか、と思ってしまうような、無難なレディース服だった。

 ただ、スノーが着るには、ちょっぴり、可愛らしすぎるような?
 脳内でスノーにチュニックをあてがってみて、小首を傾げるつくし。悪くはないし、むしろ似合うと思うのだが、今までのスノーが着ていた服の傾向からして、ちょっと装飾過多なような気もする。
 つくしが友人の意外な一面を認識しようとしてると、スノーが得意満面な笑みを浮かべて胸を張った。

「おう! つくしに似合うと思ってな!」
「……」

 つくしは思った。
 スノーさん、もしかして、今日の目的忘れてるのかな、と。

「スノーさん? 今日はスノーさんの服を買いに来たんだよ?」
「そうだな」
「なんで私の服持ってきたの?」
「ん?」

 スノーの「なんでそんなあたりまえのこと訊くんだ?」とでも言うような表情に、つくしは若干の嫌な予感を覚えた。

「つくしに似合うと思ったからな!」
「……ソウ、デスカ」

 満面の笑みだった。
 つくしはそれ以上の追求を諦めた。



 気になる店をいくつか巡ったところで、広場にクレープを売るワゴン車を発見し、小腹も空いていたため、おやつがてら休憩を取ることに。

「もう、スノーさんってば私の服ばっかり!」

 生クリームとフルーツたっぷりのハニークレープにかぶりつきながら、つくしはぷんすこ怒っていた。小洒落たベンチに腰掛けているつくしの横には、つややかな紙袋がひとつふたつ。

 ひとしきりはしゃぎまわって落ち着いたらしく、あのあとスノーが見つけてくる服は無難なものに落ち着いた。
 が。
 持ってくる服持ってくる服、全てにおいて枕詞が「これ、つくしに似合うと思うんだ!」である。

「かわいかったぞ? 菜の花色のカーディガンとか、つくしによく似合ってた」

 ツナサラダクレープ片手にご満悦のスノーの手には、硬派な印象の小さめ紙袋がひとつ。

「ちゃんと自分の服も買えたし」
「そういうことじゃないの!」

 自分の右隣をべしべし叩いてスノーに着席を促すつくし。どうにもこうにもご機嫌斜めの様子に、スノーは苦笑を浮かべつつ素直に従った。

「今日はスノーさんの服を買いに来たんだよ? なんで私のほうがいっぱい買っちゃってるの!? スノーさんの商売上手め!!」
「なんだそりゃ」
「このスカートだって、今日のお礼だーとか言って私にくれちゃうし……」

 ぺしぺしと叩いている紙袋の中には、スノーがつくしに贈ったフレアスカートが入っている。スノーがいつの間にか買っていて、ものすごく自然な動作で渡されて、思わず受け取ってしまって返すに返せないのである。
 しかも、しかもである。これがまた、普段つくしが着ている服よりちょっぴり大人っぽくて、かといって背伸びしすぎないちょうどいいデザインを選んできているのだ。ネタTばっかり選んでいたし、「洋服の見立てができない」とか言ってたのに、と、つくしはそこもちょっぴり腹立たしい。

「……せっかく、役に立てると思ったのになぁ」

 ぽろ、と溢れた言葉は、まだ自覚していなかったもので。
 役に立つとか、立たないとか、そんな間柄ではないことも、ちゃんとわかってるし、そう思っているのに。

 なんでか、今日はいろいろとうまくいかない。
 はぷ、とハニークレープにかじりついて、つくしは漏れそうになるため息を飲み込んだ。

「まぁまぁ、ほら、これもウマイぞ? 食ってみるか?」

 甘いものを食べているのに苦い顔をするつくしに、スノーは朗らかに笑いかける。
 なんとなくむしゃくしゃしたものを抱えていたつくしは、差し出されたクレープにためらいなくかじりついた。もっちもっちと咀嚼すれば、生地の甘さと具のしょっぱさが口いっぱいに広がる。甘かった口の中がリセットされるようで、とてもおいしい。

「……おかえし」
「お? いいのか? サンキューな!」

 拗ねていた自覚はあるのでなんとなく気恥ずかしくて、つくしはおずおずと自分のクレープを差し出した。さきほどの「ひとくち」が思うより大きかったこともあり、若干スノーに押し付ける気持ちで。

 けれど、スノーはつくしのかじった半分の量も食べてくれない。もっと食べて、と差し出すのに、それに気付いた上で「ありがとな」とつくしの頭をわしわし撫で回して受け取ってくれない。

「ん、こっちもうまい!」

 ならもっと食べて、という言葉は、優しく乱された髪を直すのに気を取られて口にするタイミングを逃してしまった。

「あのな。オレさ、今日すっげぇたのしいんだ」

 甘やかされるばっかりだ、と気落ちしていたつくしの耳に、心底、しあわせそうな声が届く。
 見れば、幸福にとろけた瞳がつくしを見つめていた。
 軽く足を組み、頬杖をついたスノーの瞳は、つくしの知らない色をしている。

「つくしと一緒に買い物、ってだけでうれしいのに、つくしはオレの服を真剣な顔で選んでくれるしさ。これでも、ちゃんと自分の服も見てるんだぞ?」

 うそばっかり。そう思ったのが顔に出たのか、スノーは悪びれない表情で笑った。

「ほんとだってば。でもなぁ、どうしても、服を選んでるとつくしの顔を思い浮かべちゃうんだよなぁ」

 やわらかく笑む顔が、とても、やさしい。

「オレがやりたくてやってるから、気にしなくていいんだ。これがたのしいんだからな!」

 にかっ、と笑ったその表情が、とても、まぶしくて。
 すとん、と、つくしのこころの真ん中に、言葉にならない安堵が据わった。

「……スノーさんってば、なんだか、私のおかあさんみたい」

 声に、出した言葉が、ストンと気持ちの中におちてくる。不安なような、それでいてとても安心できるような、不思議な感覚だった。

 つくしの発言に、スノーはつかの間、目をぱちぱちと瞬かせて。

「なるほど、でっかい子供だなぁ!」

 心底嬉しそうに笑って、つくしの頭をかき回した。

「わっ、わ!?」
「にしし! そうかそうか! オレはつくしのおかあさんみたいか!」

 何がそんなにたのしいのか、しきりに「うんうん」と頷いてご満悦なスノー。
 せっかくきれいに整えていた髪の毛を鳥の巣にされたつくしは、突然の暴挙に思考が追いつかずキョトンとしたまま。

「よし! クレープ食べたら、オカアサンと買い物の続きと行こうじゃねーか、娘よ!」
「えっ?! あっ、ちがうよ!? これは、言葉の綾だからね!?」
「こまけぇことは気にすんな」
「気にするよ?!」

 残念ながら、ここで言って聞き入れてもらえるような人ではないのを、つくしは短くない付き合いの中でよぅく知っている。鼻歌なぞ歌い始めたご機嫌なスノーに、これ以上何を言っても無駄なのだ。

「……はぁ」

 なんだか、悩んでいたことがどうでもよくなってしまった。
 ものすごい勢いでクレープを消化し始めたスノーに負けじと、残り半分近くになっていた自分のクレープにかじりつく。

「こんどは、ちゃんとスノーさんの服買うんだよ!」
「オカアサンって呼んでもいいんだぞ」
「もう!!」

 木漏れ日の下、元気な笑い声が空へと吸い込まれていく。
 まだほんの少し遠慮を含んだ二人の関係は、まだまだ始まったばかりだ。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0657 / 御代 つくし / 女性 / 16歳 / 防御適性】
【aa1482hero001/スノー ヴェイツ/女性/20歳/英雄/ドレッドノート】
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2017年04月10日

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