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『それもまたある意味で戦場。 』
ダシュク バッツバウンドaa0044)&ニトゥラリア・ミラaa0044hero002

 ビル風にそよぐやや癖のある短い銀髪に、赤色のロングコート。そう形容するとそれなりに格好がついているようにも聞こえるが――その割に何処か野暮ったい印象しか与えない長身の青年がそこに居た。どう見てもそこはかとなく、ださい。年の頃は二十歳半ばをやや過ぎた程度。これから戦いに赴くかの如き鋭い視線をただ真っ直ぐに――己の目的であるその場所へと向けている。
 彼の傍らには品の良いドレスを纏った、十代中頃と思しき高貴な印象の少女の姿がある。人ならざる者の証とばかりに大きく尖った耳を持ち、癖のない淑やかな桃色の長い髪を背に靡かせたその少女。彼女は年頃の割に何処か年輪を重ねた余裕と貫禄めいたものまで併せ持っていて――そんな、随分と印象の異なる二人が、連れ立ってその場に――都市の雑踏に佇んでいた。

 …とは言え、今時、然程珍しい事ではない。

 世界蝕――<<ワールド・エクリプス>>が起きてこの方、異世界の干渉を受け身体の一部が後天的に変異――獣化してしまったような存在はそれなりに居る。更に言うなら干渉での変異どころかそもそもこの世の人ならざる者――異世界より来たる英雄<<リライヴァー>>と言う存在が、街中を普通に歩いている事は、まぁ、ある。
 そしてその英雄と共に在るのは、能力者<<ライヴスリンカー/リンカー>>と呼ばれる異世界の力を具現化できる存在で――然程数が多い訳ではないが、何にしろ、尖り耳程度で大騒ぎされるような時期は疾うに過ぎた。

 取り敢えず、能力犯罪者<<ヴィラン>>や愚神<<グライヴァー>>、従魔<<セルウス>>でもない限りは――そういった連中が出没しているのでもなければ、現地の人間らしからぬ姿を持つ者であろうと、特に問題はない。
 だが、青年の厳しい眼差しを見る限りは――今のこの状況、どう判断すべきであるのだろうか。

 …それは、彼らの戦いを知らぬ余人には計り難い事柄なのかもしれない。





 今、そんな彼らが人知れず足を踏み入れようとしている場所がある。
 赤いロングコートの青年――ダシュク バッツバウンドの鋭い視線の先。都会の雑踏の中、一際威容を誇るその建物へと、今。

 覚悟を決めたのか、ダシュクは高貴な印象を持つ尖り耳の少女――ニトゥラリア・ミラより先に、重い一歩を踏み出している。
 が、ニトゥラリア――ニトの方はそんなダシュクの様子を余所に、何を躊躇っておる、とばかりに軽やかに前に出、建物の入口へと先んじる。
 その様を見、ダシュクもまた――やや慌てて後を追う。





 ――――――自動ドアが開き、いらっしゃいませー、と明るく朗らかな店員さんの迎える声がした。





 即ち。

 威容を誇るその建物とは――ダシュクがずーーーーーっと心密かに目を付けていた、スイーツビュッフェを提供している、今売り出し中の店舗である。



 並べられているスイーツは期待通りと言うべきか期待以上と言うべきか、鼻腔をくすぐる素晴らしい芳香と共に、小さく可愛らしい、取り易さだけではなく選ぶ者を飽きさせない事をも入念に考え作り込まれた『宝石』たちばかりがずらりと揃えられていた。それらはいっそ暴力的な程、これでもかとばかりに甘いもの好きの胃袋に訴えてくる代物ばかり。
 ダシュクとしては、嬉しい反面、かなり困る。…選べる選択肢が多過ぎて決まらない。どれを選んでも恐らくは極上の美味、だが幾ら一つ一つは小さめだと言えど、全種類制覇は難しいだろう数の種類…これが嬉しい悲鳴と言う奴か。いや違うか。

 まぁ、そんな事はどうでもいい。
 今は何を選ぶかが問題だ。…ケーキやマフィンの類だけでもかなりの種類がある。プレーンなシフォンケーキがあるかと思えば、チーズケーキ系やチョコケーキ系、カスタードやホイップにナッツ系が入るような定番のものもある。更にはイチゴやらキウイやらバナナやらとフルーツ系だけでも数えきれない。かと思えばレモンチーズやらショコラオランジェやらとそれらが組み合わさったものもまた別にあるし、少し変わったところでキャロットやらトマトやらと言った野菜系まで用意されている。スポンジケーキ系だけではなくミルフィーユ系やパンケーキ系、タルト系やパイ系やらそれ以外、と形の方もまた様々で、正直、挙げ切れない。
 更には勿論、ケーキやマフィンだけじゃない。プリンやゼリーにムース、ヨーグルトと言った類もあるし、パフェやクレープの類もある。もっと小粒に飴細工やらチョコレート、クッキーやらドーナツに菓子パン、マカロンやらシュークリーム、マドレーヌやフィナンシェ等々手軽な焼き菓子の類も多種多様に並んでいる。甘いものばかりではと言う店の配慮か、サンドイッチやパスタと言ったちょっとした軽食もまた充実しており、ドリンクもまた種類が多めだ。

 …。

 どうしたものかとダシュクは暫し考え込む。…そして考え込んでいる彼のその鋭い眼光は数多並べられているスイーツ群に向けられている…いや鋭い眼光と言うか要するに三白眼な為に必要以上に鋭く見えているのかもしれないと言うか…ただ単に、今この選択をするに当たり、戦いに臨むレベルで本気になっている、と言うだけの事なのかもしれない。…結果としてスイーツビュッフェに来ていた周囲のお嬢さんたちがちょっとビビっていたのは御愛嬌である。と言うか多分ダシュク当人はその事に気が付いていない。…多分恐らくきっと、選ぶのに夢中で気が付く余裕がない。

 そんなこんなで暫しの後、ダシュクはようやっと覚悟を決める。
 持っていたトングを改めてちゃきりと構え、考えに考えた末に決めた――初戦で挑むべきメニューを今度こそ己の皿に確保する。



 初戦にしては少々持って来過ぎたか、と己の皿を見つつダシュクはふと思う。…一つ一つが小さめだから、逆に欲張り過ぎてしまう事はあるかもしれない。ビュッフェ形式と言う事はまずは少なめに取っておいて、足りなければ後で追加をと行くのがセオリーと言うかマナーだろうが…多種多様である弊害か、品数限定、後に回しては消えてしまいそうなものも多々あるのがネックである。その代わり、また新たに別の品数限定スイーツが並べられてもいるのだが、新たにとなると当然またそちらも気になる訳で――ああ、悩ましい。ともあれ、初戦のメニューを取り分けたダシュクは二人分空いている対面席に着いた。…勿論、ニトの席も確保しておく為である――と。

 確保と言うより、ダシュクと前後してニトもまた当たり前のようにダシュクの対面になる席に着いていた。
 が。
 座ると同時にごくごく自然にテーブルに置かれていたニトの皿の上を見て、ダシュクは軽く仰け反った。
 …びっくりした。

「おいおい、食べきれるぶんだけだぞ」
「何を言うておる。これしき一食にもならぬわ」

 ふふん、と自信満々で鼻を鳴らすニトの皿には、ダシュク以上の量が皿一杯に並べられていた。山盛りとまでは言わないが、皿の中が非常に狭苦しい状態。ケーキ等の型崩れしそうなものはさすがにしていないが、パンやドーナツ等は並べるどころか重ねて置いてすらある。

「…本当に大丈夫か?」
「くどい。当たり前じゃろう」

 それよりも。お主の方が心配じゃのう、と挑戦的ににやりと笑うニト。
 言われた時点で、ダシュクは少々かちんときた。…が、あくまで少々、である。表には出さない。と言うか敢えて言い出す程の事でもない。女王様――もとい少女(?)のニトには逆らえない。だが当然、ここは売られた喧嘩と見做していい気は、する。

 …絶対に負けられない戦いが、ここにはある。



 そして時は経ち。
 紙ナフキンで楚々と口元を拭いているニトの姿があった。当然のように己の皿の上はぺろりと綺麗に平らげられた後である――ダシュクの方もまた、皿の上は空になっていた。こちらもまた、確りきっぱり平らげられている。…実際に食べてみれば欲張り過ぎと言う程の量ではなかった。いや、たくさん食べて貰おうと提供側も工夫していると言う事なのかもしれない…確かにこれなら、幾らでも入る気がする。
 つまり、ニトは実際に食する前からここまで読んでいた訳か。

「やるな」
「ふふんお主も」

 交わされる二人の視線。それはまるで互いに戦場に在るかのような――いや、ような、ではない。ここもまたある意味では戦場と言えた。
 そう。認め合い、背を任せ合う男同士のような友情の絆が、今、確かにあった。スイーツビュッフェと言う日常極まりない筈の、言わば甘いもの好き同盟の聖地でありながら――…。

 …いや。

 聖地でありながら、じゃない。聖地であるからこそ、ここもまた戦場なのだ。
 だからこそ、戦い(喫食)の中で尊い戦友(…?)を得、次の戦いに備えなければならない。
 …次は何処から、制覇すべきか。

「次は何にするかな…プリンとか水菓子系幾つか見繕ってくるか」
「何を言っておる。選ぶまでもなかろう。片端から持ってこようぞ」
「…。…ああ、それもそうか」

 新しい味に出会うならまたそれもいいし、うっかり前持って来たのと重なったって――それもまた、悪くない。品数限定で消えるものもあるこの形式では全種類制覇は難しかろうが、それならそれでまた違った挑戦をする価値はある。…折角来たのだ。初戦の戦果から考えても、どれも見目に楽しく、食味の外れもないのだ。ならば小賢しく予め戦略を練る事もない。ただ、目の前にあるスイーツを、心の赴くまま己の皿に取り分ければいい。
 納得し、ダシュクは――ニトも、席を立つ。
 …次の一戦へと赴く為に。

 そう、皿の上に追加のスイーツを。



 そして、戦いはまだまだ続く。
 …二人共に次に挑むべきメニューを確保し席に戻ると、それぞれ一つ一つをじっくりと味わう。さっくりが売りのケーキの後は、水菓子で口直し。その次にはまた別のしっとりとしたケーキを口に運んでみる。…至福である。感動がそのまま、思わず口にも出る。

「これうまい」

 と。
 ダシュクが言ったかと思うと――答えるようにして、あー、とばかりにニトが大きく口を開ける。
 言葉での返事はない。

 …えーと。
 コレはよこせと言う意味か。

 そう判断し、ダシュクは手許の――今自分が美味いと言った当のケーキをひと口大に切り分ける。切り分けたそれをフォークで刺して、ほれ、とばかりにニトの口元へと運ぶ。
 ニトはと言うと、当然のようにそれを口で直接受け、もぐもぐ。嚥下の後、うむ、なかなか…と満足そうに頷き、今ダシュクがしたように今度はニトが手許で何やら切り分けている。
 そして。

「これも美味だぞ」

 ずい、とばかりにダシュクの口元へとひと口分の菓子を突き付ける。当たり前とばかりのその行動。そして勿論、顔の前に差し出された「それ」からも、抗い難い魅惑的な芳香がし…。
 …殆ど自動的にその誘惑に負け、ダシュクの方でも「それ」を口で直接ぱくり。もぐもぐ。…うん、確かにうまい。





 と。





 実際にそこまでの行為をしてしまった後、何だか唐突に顔が熱くなる――多分、真っ赤になっているとダシュクは一気に自覚した。慌てて俯きつつ顔を覆い、反射的にそれを隠す…が、隠し切れたかどうか自信はない。
 ニトと交わした今の一連のやりとり。要するに、「あーん」、である。…あーんをしたりされたりするイイ年した成人男性と女子高生くらい…に見える女子――これは色々駄目だろう!? と今更ながら猛烈な恥ずかしさと罪悪感に駆られて色々と精神的に大ダメージを食らってしまった。…決して嫌だと言う訳でもない。だからと言って勿論、決して良くもないのだ。…何と言うか…犯罪的と言うか背徳のかほりがすると言うか。少なくともダシュクとしてはそんな気分になってしまった。





 …。





 ………………しかもこれ、間接チッスじゃないですか!?

 新たにそう気付いた時点で、また追加の大ダメージ。あああああ、とばかりにその場でダシュクは頭を抱えて悶えてしまう――が、ニトの方はそんなダシュクの様子を気にも留めない。己の皿の上に確保してある数多のスイーツを、何事もなかったかのようにもくもくと片付けている。…最早、今の挙動不審なダシュクについてはペットの珍獣くらいにしか思っていないのかもしれない。…つまり先程の「あーん」を全然気にしていない。…さすが何事にも動じない鋼の心臓の持ち主である。

「うあああああ…。…いやえっと…あのな…ニト…?」
「なんじゃ。今度こそ食い切れんと言うなら相談に乗るのも吝かではないぞ?」
「いや、そうじゃなく」
「ならなんじゃ。折角の麗しい至福の時間の邪魔をするでない」
「…今の」
「だからなんじゃ。どうせ口を動かすのなら無意味な喋りは止して折角のスイーツを食さぬか。お主の皿の上にはまだまだ美味なる宝石が多々残っておるように見えるのだがのう」

 何ならまたよこしてくれても構わんぞ、と、ニトはまたあーんと大口を開ける。
 そうされた時点で――いやちょっと待ってくれ、とダシュクは俄かに涙声。

 もう勘弁して下さい。自覚してしまったらさすがにもうできません。



 そして更に時は経ち。

 色々と予期せぬダメージを食らう場面もあったが、ダシュクは何とか持ち直し戦闘(喫食)再開、適当なところで締めのパスタと行く事にする。ニトも同様、名残惜しいが今日はこれで店じまいとするか、とこちらもパスタを持って来た。
 …可愛らしく盛り付けられた、店オリジナルのパスタソースに和えられている一品である。
 最後の最後、偶然ながら、選んだものが同じだった。ダシュクもニトも席に戻ってからその事に気付き、おや、とばかりに視線を合わせる。

「これでは味見にひと口よこせとは行かんな」
「いやだからもうそれは勘弁な」
「ふふ。まぁ、意図せずこのあたしと同じものを選んでしまうとは良い趣味をしておる」

 さすが我が下僕、とばかりのニトの言いっぷりに、ダシュクは曖昧に笑う事で応える。まぁ普段から一応そんな感じだし。同じものを持ってくるとは気が利かない、とか難癖付けられなかっただけマシと思おう。
 ともあれ、食す。

「…甘いものじゃなくてもイケるな」
「ふむ、確かにな。…しかと味わっておこう」
 後々の為にな。
「…。…なあ」
「なんじゃ」
「…後で作ってみようとか思ってねえよな?」
 このパスタ。
「よくわかったな。さすがダシュク」
「…いや、それもできたら勘弁してくれ」
「?」

 ニトに作られたら見た目はさて置き、とんでもない味の危険物ができあがる気しかしない。
 …そして同時に「それ」の味見は今一緒にこのパスタを食べている俺に白羽の矢が立つ気しかしない。



 そして、何だかんだで最後のパスタも食べ終わり。
 前線(スイーツビュッフェ)での厳しい戦い(甘味喫食)は、ひとまず優勢での勝利を得、漸く終結した。
 だが完全勝利(全種類制覇)は難しい。…即ち、次、ともまた頭には浮かんでいる。ああ、何と罪深い事か。

 …とか何とか芝居がかった益体もない思考をつらつらと巡らせつつ、ダシュクはコーヒー、ニトは紅茶で食後の一服。
 確り腹が満たされたところで、ダシュクは、ふー、とばかりに一息吐いている。

「いやー助かったわ」
「?」
「や、男一人でスイーツビュッフェは敷居が高いだろ? 一緒に来てくれてありがとな」
「何、食事代はお主持ちじゃ。馳走になったの」
「え? は? ……えー!?」

 聞いてない。
 まさか戦い終えたその後に、こんな爆弾がいきなり戦友から投げ付けられようとは。…予期せぬ(?)その仕打ちに慌ててダシュクは己の財布と相談を開始。そして当の戦友(ニト)はと言えば、我関せずで優雅に紅茶を啜っている。…ひどい。
 こうなれば、この戦い(?)の真の勝者が誰であったのかは、最早誰の目にも明らかであろう。ダシュクの中では口(幸)福な勝利の余韻すら、最早、早々に薄れゆく。

 そう。戦場とは本当に、無慈悲なものである。

 …合掌。


【ごちそうさまでした】



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/種族/適性orクラス

 ■aa0044/ダシュク バッツバウンド
 男/27歳/人間/攻撃適性

 ■aa0044hero002/ニトゥラリア・ミラ
 女/16歳/ソフィスビショップ
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2017年04月11日

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