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『花咲く、或る日 』
ソアレ・M・グリーヴka2984)&エルマka6297

「…… お嬢様…… ソアレお嬢様」

 花の蕾の中に包まれているような、柔らかなまどろみの只中だった。
 優しい声――誰だろう? ソアレ・M・グリーヴ(ka2984)は名前を呼ばれたような気がして、緩やかに目蓋を開ける。視界に映ったのは、大聖堂の天井のように華やかなベッドの天蓋と――こちらを控えめに覗き込んでいるメイド、エルマ(ka6297)の姿が。
「ソアレお嬢様、おはようございます。朝でございますよ」
 ニコリと微笑んで一礼をするエルマ。既に開け放たれた窓からは眩い朝日が射し込んでいた。
「おはよ……」
 寝起きの眩しい目を何度も瞬かせながら、ソアレはアクビと共に上体を起こした。
「アーリー・モーニング・ティーをご用意しております。どうぞ」
 主人が眠たい目をこすっている間に、エルマはアンティークなティーワゴンから早速の一杯を用意する。上品な紅茶の香り。「ありがと」と眠気の抜けない顔でふんにゃり微笑んだソアレは、温かい香りに誘われるようにカップを手に取った。しっかり濃厚なミルクティー。体に染み込む深い香りが、眠気をすぐに解かしていった。
「おいしい……!」
「さようでございますか」 
 ごゆっくりどうぞ、とエルマはニコヤカだ。そんなメイドの笑顔を、ミルクティーを飲みながらソアレは見やり。
(そっか、今日は……)
 専属執事の定休日だ。いつもソアレを起こしに来るのは彼だから。「本日は休日でございます」とエルマも主の予定を読み上げている。なんだかその光景が、ソアレには新鮮なようで、懐かしいようで。
 というのも元々、エルマは奥方――ソアレの母親専属のメイドであったからだ。奥方が病でこの世を去ってからは、エルマは長い暇を頂戴していた。復職はつい最近で。戻ってきてくれたことは嬉しいが、心配も混じるソアレである。
「おやすみかぁ……今日は何をしようかしら」
「お嬢様のお気の向くままに。ただ、その前に支度はしないといけませんが」
 エルマの手にはブラシがある。寝起きのソアレの髪はもしゃもしゃになっていた。
「あ。そうだ」
 ぱち、と両手を合わせたソアレが真ん丸な瞳をメイドに向ける。
「ねえ、エルマ。せっかくですから、髪を結って欲しいですわ」
「仰せのままに。どのようにいたしましょう?」
「エルマに任せるわ。素敵にして頂戴ね?」
「ふふ、仰せのままに。このエルマにお任せ下さいな」







 春先。連日の温かさに、庭の花々も一斉に花開き。
 朝食の後、ソアレは屋敷の庭園を緩やかに散歩していた。その数歩後ろを、エルマが供をする。
 春の麗らかな日差しの中。ソアレの髪は大人っぽく編み込まれ、結われていた。鏡を見た途端に「素敵!」とソアレが感嘆したほどの出来映え。その後ろ姿に、エルマは目を細める――あの髪型は、奥方がたいそう気に入っていた髪型だ。「いつものあれにして頂戴」と、いつもいつも頼まれたものだ。だから指先が覚えていて、ソアレに頼まれた時もパッと閃いたのがこの髪型だったのだ。今流行の髪型でこそない、古典的なものではあるけれど。
(やはり、奥方様のお嬢様……)
 よく似合っている。本当に……よく似合っている。あの日の主人を映し見ているかのようだ。重なる面影に、懐かしさが、かつての主人と過ごしたあの美しい日々が、ぐっと心に込み上げて来る――
(嫌だわ、歳でしょうか)
 つい目元が熱くなりかけてしまった。小さな深呼吸で落ち着けて、ソアレに声をかける。
「思ったよりも日差しが温かいですね。日傘をお持ちしましょうか?」
「いいえ、平気ですわ。それに、このまま春のお日様を浴びていたい気持ち」
 振り返るソアレが、そのままクルリと上機嫌に回ってみせる。優雅なスカートが春風の中で優しく揺れる。大人っぽい髪型に合わせて、今日のソアレのドレスもまた、シックで上品なものだった。
 ソアレは今日の格好をたいそう気に入っていた。いつもは可愛らしいものが多いから、なんだか新鮮である。庭の池に姿が映っては、ついつい自らの姿を眺めてしまうほど。
「エルマはどんな服がお好きなんですの?」
 花びらが落ち、小さな波紋が広がる水面。そこに映っているメイドの姿を見、ソアレは尋ねてみた。ソアレの記憶の中のエルマは、いつもこのキッチリとした清楚なメイド服姿。外見年齢も変わっていない。なのでふと、エルマの日常が気になったのだ。
「服装ですか? 普段とそう変わりはありませんわ」
 エルマはそう答える。普段……と言われても、ソアレにとって普段のエルマとはこのメイド姿のお姉さんで。
(普段もメイド服なのかしら……?)
 首を傾げてみても、エルマはニコニコと微笑んでいるのみで。ならばとソアレは質問を変える。
「髪の結い方はどなたに教わったのです?」
「どなた……というわけでもないですね。基本の結い方さえ知っていれば、あとは自由に派生させることができますので。自分の髪でも実験できますからね」
「まあ! てっきりどなたかに師事していたのかと」
 こんなに素敵な出来映えですもの、とソアレは目を丸くする。「恐縮です」とエルマは一礼を返す。
「エルマ。また、この髪型にしてもらってもよろしくて?」
「もちろんでございますよ、お嬢様」
「……あ! でしたら、この髪型に合うお洋服を揃えたいですわ」
「かしこまりました。それでは仕立て屋を呼びましょうか」
「どんなデザインにして頂こうかしら……まだ頼んですらいないのに、もう完成が楽しみだわ!」
 ころころと無邪気に笑うソアレ。どんな生地にしようか、どんな色合いにしようか。楽しげな様子にエルマもつられるように表情が綻ぶ。庭園を散策しつつ、二人の会話は明るく弾む――。







 麗らかなる昼下がり。アフタヌーンティーにピッタリの日和。
 屋敷の敷地内にある東屋は春の花々に囲まれていた。グリーヴ家のお抱え庭師が芸術作品のように手がけたそれらは、まるで絵画のように美しい。
「もうすっかり春ですね……」
 寒い冬は終わり、温かな季節。雪化粧をした庭もそれはそれは美しいけれど、花が歌うこの景色も素晴らしい。ソアレは目を細め、春の日差しにキラキラ輝く花々を眺めていた。
「良いお日柄でございますね」
 答えるエルマが、主人に紅茶を淹れる。ポットからティーカップに注がれる黄金色。花の香りのフレーバーティー。「いい香り」と普段とは違う香りにソアレの視線は卓上に誘われた。まずは淹れたての紅茶を一口。ふわり、舌から体に吹き抜けるのは上品な花の香り。至福のひとときにソアレは目を細めた。
「本日はスコーンをご用意いたしました。ジャムとクリームをつけてお召し上がり下さい」
 控えたエルマがそう告げる。花模様の皿の上には、昔なつかしのレシピで焼き上げられたスコーンが鎮座している。それを、甘酸っぱいベリーのジャムと濃厚な生クリームをつけて頬張れば……口の中でホロホロとしたスコーン生地と、まろやかなジャムとクリームが混ざり合い、絶妙な舌触りに。控えめの甘さが、素材の風味を活かしている。素朴ながらも上品な味は、どこかノスタルジックな心地すらした。
 おいしい、と微笑むソアレ。エルマはニコリと一つ頷く。と、そんな時である。
「いつか、素敵な殿方と、こうしてアフタヌーンティーをしてみたいものですわ」
 ほう、と遠くを見やりながら夢見心地に息を吐くソアレ。
「それで……お庭を、馬に二人乗りして散歩いたしますの。白い馬で……。散歩の終わりには、摘んだお花を頂いて、髪飾りにして……」
(おや、まぁ)
 ソアレのそれは、恋の話と言うよりは、恋に恋する乙女の夢と理想、という内容だった。初心というか、なんというか。エルマは心の中で苦笑する。
 ソアレの箱入り具合はエルマも知っていた。それだけ大切に大切に愛されて育ったからこそ、こんなにも優しいレディに成長したことをエルマは嬉しく思っている。が。色恋沙汰にとんと縁がない辺り、ソアレの父親と専属執事の執念を感じるのであった。
「エルマの恋の話も聞きたいわ!」
 最中にソアレにそう頼まれては、エルマは眉をわずかにもたげて。
「私の……ですか? 面白みなどありませんが……」
「いいの。話して頂戴?」
 ワクワクと眼差しを向けられれば、NOとは言えない。仕方ないですね、と冗句っぽく肩を竦めてから、エルマは語り始めた。
「夫は元々奥方様の屋敷の庭師で、俗にいう職場恋愛でした。お互いなかなか逢えませんでしたが、そのぶん一緒に過ごす時は一分一秒がとても輝いていて……ふふ、恥ずかしいですね」
「とっても素敵だわ!」
「ふふ、そうでしょうか。お嬢様もいつか、互いに大事だと思う……ことも大切ですが、肩肘張らずとも共にいれる御方を見つけられるといいですわ」
「見つかるかしら?」
「見つかりますとも」
 こんなにも素敵なレディでございますもの。エルマは目を細める。今も昔も変わらず大事なお嬢様。――そんな彼女へ向ける、執事の想いをこの熟練メイドは知っている。それを否定こそしないけれど、お嬢様の隣に立つならば相応の覚悟を持って精進して頂かねば。
 そんなことを思うエルマが見守る先、ソアレは昼下がりの空を眺めていた。
(この空の下に、運命の人はいるのかしら?)
 きっと見つかる、とメイドが言ってくれた。すると不思議だ、本当に見つかりそうな心地がする。姉のようで母のようで、そんな彼女の優しい言葉は、いつだってソアレにとって信じられるもので。

「お嬢様、紅茶のおかわりはいかがですか?」
「もちろん、いただくわ」

 いつも通りで少し違う、そんな休日。
 時間は優しく過ぎてゆく……。



『了』


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ソアレ・M・グリーヴ(ka2984)/女/21歳/聖導士
エルマ(ka6297)/女/25歳/格闘士
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2017年04月11日

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