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『その点アハト・アハトってすごいよな、最後までロマンたっぷりだもん 』
星杜 焔ja5378

 アハト・アハト。正式名称「88mm魔導ライフル」。

 全長2200mm。スコープやバランサーを搭載した88mm口径の超大型ライフル。高射砲のコンセプトをもとに開発が行われ、持ち運びができる大きさへと調整が行われた。アウルの力を流し込むことにより、大口径の銃弾を形成して攻撃することができる。高射程、高威力、高命中の三拍子だが、超重量であるため所有者はその動きに大きな制限を受け、移動力が大きく減少する。

 火力は正義……というわけで。久遠ヶ原学園生の中でも一定の人気を誇る、有名なV兵器。
 星杜 焔(ja5378)もまた、それを所持する生徒の一人であった。

「……」

 自宅。彼はパソコンのディスプレイを前に頭を捻っていた。表示されているのは、白紙の文書編集ソフト。己のV兵器についてのレポートを書くことが課題、というわけでこのアハト・アハトについて書こうと思ったのだが。さて、何を書こう……最初の一文字というのはなかなか出てこない。最初の一文字目こそが最も難題なのだ。
(うーん……)
 まずはこのアハト・アハトを手にした経緯からだろうか。そう思っては、焔は座り直してキーボードを打ち込み始めた――。


 ――久遠ヶ原学園に入学してから、長く付き合いのあった友人が、学園を去ることになりました。俺が「銃が好き」だということを知っていたからでしょう……その時に彼女から託されたのが、このアハト・アハトLv7です。
 このアハト・アハトは彼女専用にカスタマイズや強化が施されていました。ですが、俺は「友人がいた証」として、カスタマイズを変更することなく、そのまま使っていくことに決めました。


「……」
 使っていくことに決めました、決めました…… 次は何を書こう。椅子にもたれて、数百文字だけ埋まったレポートを眺める。使っていくことに決めて……次はその、使ったことについて書けばいいのかな。とりあえず思いついただけ書こう。文字数を埋めなくてはならない。


 ――俺はこのアハト・アハトをカスタマイズせずに使っていくことに決めました。
 決めました、が。


「……」
 ここで焔はうなだれるように両手で顔を覆う。ここから先の展開がどうにもこうにもワケアリだからだ。とりあえず脳内を整理するために、それらを文字に起こすためにも、学園内の射撃訓練所で実際にアハト・アハトを使用した時のことをゆっくり思い出すことにした。


 ――あれは今日のように、よく晴れた日の出来事でした。
 アハト・アハトを使っていくことを決めた俺は、それを一日でも早く使いこなせるようにと、久遠ヶ原学園の射撃訓練所へと早速おもむきました。ヒヒイロカネからアハト・アハトを取り出した時、通りすがりの学園生に「すごい、アハト・アハトだ!」と声をかけられたことを覚えています。
 友人から譲り受けたアハト・アハトは、外見に関するカスタマイズは特に施されていませんでした。見た目は普通の、アハト・アハトです。
 俺はそれを構えました。周りの生徒たちも、「アハト・アハトの実射訓練だ」と興味津々な様子で俺とアハト・アハトを眺めていました。注目されてけっこう緊張する最中、俺は深呼吸をして、的をよく狙って、それから……引き金を引きました。
 すると……ああ、なんということでしょう。

「ホモクレェ!」

 銃口から放たれたのは銃声ではなく、いや正しくは銃声なのでしょうけれども、謎の奇声がほとばしったのです。
 88mmの大口径から放たれたのは、弾丸ではなく、いや正しくは弾丸なのでしょうけれども、なんというか白銀に煌いている……、これはなんと表現したらよいのでしょうか。四足歩行でぬるりつるりとしていて、顔は簡略化されたアスキーアートのようで……。そう、記号を用いて表すのなら┌(┌ ^o^)┐が。┌(┌ ^o^)┐が放たれたのです。アハト・アハトから。
 信じて欲しいのですが、俺はその時、寝不足でもなかったですし、ヤバイ薬をしているとかでもないですし、幻惑状態などといった状態異常でもありませんでした。本当の本当に正気でした。ですからこれは真実なのです。信じてください。


「……」
 エンターキーを押してから、なんでこんな弁明みたいなことを書いているんだろう、と焔は自らに問いかけた。うん、でも、これが正直な思いなんだから、しょうがないよね。しょうがないので、このまま続きを書くことにする。焔は再び、意識を過去に馳せながらキーボードをタイプし始めた。


 ――アハト・アハトから放たれた┌(┌ ^o^)┐は、俺の狙い通りに的に命中しました。アハト・アハトの名に恥じぬ凄まじい火力でした。
「……ははっ」
 俺はその時、死んだ目をして乾いた笑いをこぼしたことを覚えています。
 そうです。そういえば、俺は思い出していたのです。このアハト・アハトを譲ってくれた友人は――腐っていたのです。物理的な意味ではありません。なんというか、そういう意味のアレです。詳しくはぐぐって下さい。
 いや、友人は、はじめこそは普通の……史実や、そういった硬い感じの本を読む、昔ながら? のオタク少女ではあったのです。ですがある時、友人は┌(┌ ^o^)┐型天魔を討伐する依頼に出かけていって……、そのために┌(┌ ^o^)┐の生態を、腐った依頼仲間から学んだために……お腐りあそばれてしまったのです。
 そんな友人が用いたアハト・アハトは、溢れるお腐れパワーがなんやかんやアウルに変換されてなんやかんやあって、弾丸が┌(┌ ^o^)┐となって敵に襲いかかる仕様? になってしまったようでして。「ホモクレェ!」なる奇声が放たれる仕様だそうでして。
 ……訓練所がシーンと静まり返ったことを昨日の出来事のように思い返せます。「腐ってるんだ……」「あの男子、腐ってるんだ……」そんな眼差しと呟き声に、俺はいたたまれなくなって訓練所から走って出ました。そのまま家に走って帰りました……。違うんだ、俺は腐ってはいないんだ、信じてくれ……。

 そんなこんなとありましたが、このアハト・アハトは友人と俺の友情の証でもあります。なので、これからも大切に使っていこうと思いました。


「うん……」
 エンターキーを押し終わり、焔は遠い目をしていた。最後はなんとなくいい感じにまとめられたし、もういいかこれで。嘘も吐いてないし。真実だし。うん。よし、これで提出しよ……。



『了』


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星杜 焔(ja5378)/男/18歳/ディバインナイト
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エリュシオン
2017年04月11日

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