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『 狩りニケーション 』
ウィンター ニックスaa1482hero002)&クロエaa0034hero002


 世間一般には誤解されがちだが、英雄は忙しい。
 その特殊性からH.O.P.E.のエージェントか非合法なヴィランとなる事がほとんど。それらがいわゆる自由業であるが故に、自由になる時間は多いと思われがちである。
 それも一面では正しいだろう。
 しかし、英雄の忙しさというのはそういった時間に追われるような忙しさとは種類が違う。
 世界蝕の影響によりこちらの世界へ来た英雄たちには基本記憶がない。また、あったとしても曖昧だ。
 身体に浸み込んだ常識、そして物理法則ですら異なる世界で生きていくには、覚えることが多すぎる。
「つまり、英雄はあらゆる学習を効率的にこなす必要があると某は考えた」
「なるほどなるほど、それで?」
 顎に手を当て深く考え込むような表情で語るウィンター ニックス(aa1482hero002)にクロエ(aa0034hero002)は先を促した。
「それは人間関係も同じだろ? ズドンと踏み込むのは楽だけどよ、踏み込んじゃまずい相手ちゅうのもいる」
「意外と距離感とか気にするんですね……」
 草をかきわけながら進むウィンターの後ろ姿を追いながら呟く。
 ここはH.O.P.E.の東京海上支部の近くの山の中である。本来の登山道からも離れ、完全に生い茂った森の中を二人は進んでいた。
「そこで某が考えたのがこの狩りニケーションって訳だ!」
「狩りニケーション」
「おう、この国には飲みニケーションという伝統があると聞いてな、真似してみた」
 言葉の意味や捉え方を微妙に間違えがちなのも英雄にはよくあることである。
「一回の狩りでいろんな複雑な行動が含まれる。手っ取り早く相手を知るのには最適だ。だから、共に狩りを行う事で交友を深めたい次第だ!」
「なるほど、今日こうして誘われた意味はよーく分かりました」
 足元に注意しながらウィンターに返す。草で覆われているうえに結構な斜面だ。油断してると無駄に痛い目に遭いかねない。
「クロエ殿は狩りの経験は?」
「こっちではないですねぇ。元の世界でなら兎狩り程度なら」
「兎狩りか。ああいう小動物狩りもお互いの知恵比べのようでそれはそれで楽しい」
 ウィンターがニッと人懐っこい笑みを浮かべる・
「この山では何が取れるんですか?」
「ふむ……某もここに来たのは初めてでな。あまり詳しくはないが聞いた話だとイノシシなどがいるらしい」
「イノシシ、ですか。なかなかの大物ですね」
 返事を返しながらクロエは先を進むウィンターの背中を見た。
 道なき道を進みつつ、持っている大きめのククリナイフで特に邪魔な草木を切り落としていく。
 自分で歩く為というよりは後ろにいるクロエの為だろう。
(ふぅむ……傍若無人に見えて意外と気遣いがあり、豪快に見えて細かなところに目が行く。掴みどころの無いお人だ……)
 値踏みするようにその一挙手一投足に注目する。
(もしかしたら、僕と同じで本音を隠してるのかもしれないな……)
 ウィンターのちぐはぐな在り方にそんな感想を抱く。まあ、確証はない、単なる印象に過ぎないのだが。
 それにしても……
(狩りニケーション、か。確かに意外と有効なのかも……)
 ウィンターの行動から自然と人となりを推察していた自分を鑑みて、ぼんやりとそんなことを考えるのであった。


「お、いたぞ。」
 額に手を当て遠くを望むように見渡していたウィンターが何かを見つけた。
「イノシシですか?」
「うむ、まだ気づかれてはいないようだ」
 少し身を屈めてウィンターの後ろからその先を双眼鏡で覗き込む。
 なるほど、確かにかなり離れた斜面の下にフゴフゴと鼻を鳴らしながら歩くイノシシの姿があった。
「犬も無しによくぞ見つけましたねぇ」
「その辺りは経験と勘だな」
 通常山での狩りは犬や罠を使うことが多い。野生動物は鼻が良く、また臆病で慎重だ。そんな動物を相手より先に発見するというのは非常に困難な作業であるはずだった。
「獲物は何を?」
「うむ、銃にしようかとも思ったんだが、我々が銃を使っては正直簡単すぎるかと思ってな」
 そう言ってウィンターが細長い鞄から取り出したのは、木製の簡素な弓だった。
 普段エージェント達が使っているAGWは別にライヴスを込めなくても通常の銃と同様に使用が可能である。それを英雄の能力で使えば当てる事に関しては問題ないだろうが、ウィンターはそれで良しとしなかった。
「クロエ殿の分も用意してあるぞ」
「ありがとうございます。おや、これは……手作りですか?」
 簡素な作りのそれをマジマジと観察する。一般的な弓より大分小ぶりで全体の長さでも1mもない。
「おお、もちろん手作りだぞ。急ごしらえだから非常に簡単なもんになっちまったが」
 そう言って今度は矢を手渡してくる。こちらもどうやら手作りらしい。
「まず某が近づいて驚かしてこよう。すると獣道を辿って逃げようとするはずだ。獣道は分かるか?」
「いえ……ちょっとわからないですね」
「ふむ、あのイノシシの後ろ側に見えている。そうだな……ちょうどこちら側に向かって伸びてる奴だ」
「うーん」
 言われてみれば見えるような気もしないでもないが、確信をもって判断できるほどではない。
「まあ、要は向こうに行くかこっちに来るかの二択だ。そこを狙えばいい。クロエ殿なら何とでもなる」
「なるほど? やってみましょう」
 かなり大雑把なウィンターの指示に黒絵は素直に頷く。
 すると逆にウィンターの方がきょとんと少しだけ驚いたような表情を見せた。
「……? どうしました」
「いや……某の指示に本当に何とでもなると思っているようだったのでな。クロエ殿は余程の自信家のようだな」
「どうでしょうねぇ? どちらかというと夢想家、だと思いますが」
「なるほど。少しだけクロエ殿の事が分かってきた。では、某は行くとしよう。あまり話し込んでいては逃げられるからな」
「お任せします」
「任された」
 最後にニッと野性味あふれる笑みを見せ、ウィンターは斜面を降り草むらの中へ姿を消した。
 それから、待つ事しばし……視線の先にいたイノシシがにわかに慌ただしく辺りを警戒し始める。
「お、気付いたね、イノシシくん」
 それを見てゆっくり弦を弾き始める。
 強すぎず、弱すぎず。弓に合った適切な力でゆっくりと確実に狙いを定める。
「プォォォ!」
(来た!)
 イノシシが危機を感じ取ったらしく、鳴き声を上げながら走り出す。
(なるほど……大体分かったぞ)
 イノシシが走るルートを見て、ついに獣道が目視で確認できた。
 ならば、後はその先に狙いを定めて……
「そこだ!」
 矢を放つ。クロエの放った矢は、見事イノシシの腰のあたりに命中した。
「ブフォウ!」
 大きくいななくきバランスを崩すが、しかし野生の動物はそれだけでは倒れない。
 ヨタヨタと数歩よろめいた後に、再び駆け出した。
「やるもんだ」
 呟きながら次の矢を番える。
 だが、その矢は結局放たれることはなかった。
「プギュ!」
 突然、イノシシの後ろ足に矢じりが生え、今度こそイノシシは転倒する。
「よし!」
 草むらから姿を現したのは、もちろんウィンター。
 どうやらイノシシがよろめいている間に追いついたらしい。
 ウィンターはそのまま弓をナイフに持ち替え、イノシシに駆け寄りとどめを刺す。
「大丈夫ですか?」
「もちろん。それにしてもお見事だったな、クロエ殿」
「いやいや、ウィンターさんの指示通りにやっただけですから」
「指示通りにやれる事が見事なのだ」
 手慣れた様子でイノシシの足に縄を結んでいくウィンター。
「これからどうするんですか?」
「この近くに解体をさせてくれる場所があるらしい。そこを借りよう」
「なるほど。それじゃあ、その間ボクはその他の食材を調達してくるとしますか」
「頼む。某も焼くとか煮るくらいなら出来るが、本格的なのはちょっと難しいからな。任せるぜ」
「ええ、任されました」
 意趣返しのようにそう返して、フッと微笑む。

 さて、ここから先は狩りニケーションではなく飲みニケーション。
 互いに言葉と思惑と杯を交わし、夜は更けていったのであったが、それはまた別のお話。
 

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa1482hero002 / ウィンター ニックス / 男 / 27 / ジャックポット】
【aa0034hero002 / クロエ / 男 / 13 / ソフィスビショップ】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ツインノベル、ご注文ありがとうございます、弐号です。
まだ慣れない二人の狩り道中いかがだったでしょうか。お気に召していただけたら幸いです。
初対面の人と仲良くなるのはなかなか難しいですが、その距離の詰め方というのはそれぞれ人によって違うものです。
狩りをきっかけにするというのは現代ではない世界から来た英雄同士の交流としては案外一般的なのかもしれませんね。
それでは、ありがとうございました。


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2017年04月12日

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