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『密かな二人 』
ダシュク バッツバウンドaa0044)&アータル ディリングスターaa0044hero001


「お、桜咲いてんじゃん」
 ダシュク バッツバウンド(aa0044)の弾んだ声に、アータル ディリングスター(aa0044hero001)は金の瞳を持ち上げた。時刻は夕方。少し前まではすでに暗くなっていた頃合いだが、日が徐々に伸びてきたため空にはまだ淡い青さが残っている。視線を少し上げた先には、ちょうど見頃を迎えたらしい薄紅の花の群れ。風はほとんど感じないが、花びらが一枚、また一枚と離れて落ちてはらはら踊る。白いビニール製の買い物袋を持ったまま、ダシュクは口元を微かに緩めて桜の花を眺めていたが、突然、何かを期待するようにアータルの瞳を覗き込んだ。黒い三白眼が何をアータルに期待するのか、それが分からない程アータルは愚鈍な男ではない。しかし、それを分かった上で、アータルは冷淡とも言える潔さで答えを返す。
「花見はしないぞ。もう一人が待ってる」
「ちぇー」
 やはり期待はそれだったらしく、ダシュクは子供のようにむうと唇を尖らせた。成人している、酒も飲む、どころか飲んだくれと言っていい量を毎度しこたま飲むくせに、どうしてこうも一つ一つが子供染みて見えるのか。
 図体のでかい子供を桜に置いて、アータルは我が家へ帰ろうとそのまま足を踏み出したが、ダシュクは桜の下から動こうとせずきょろきょろ辺りを見回し始めた。右よし。左よし。前よし。後ろよし。通りに自分達以外の人影がない事を確認した後、空いている方の手のひらでアータルの手をぎゅっと握る。
「!」
 驚いたアータルが思わず視線をダシュクに向けると、ダシュクは素知らぬフリをして顔を明後日へと背けていた。その様子にアータルは眉の一つも動かさず、無表情で、思い切り、ダシュクの手を握り返す。
「いだだだだ」
 余りに強い握力にたまらずダシュクは手を離した。手を振ってもじんじんと痛みも痺れも残っているのに、当のアータルは完璧なまでの無表情を貫いている。「いーじゃねぇか、たまには……」とぶすっと漏らすダシュクの耳に、やはり揺らぐ事のないアータルの冷淡な声が届く。
「人前でそうするのは好みじゃない」
「あっそ」
(そうですね、二人きりでもいちゃつきませんもんね)
 日常のあれこれを思い出し、ダシュクはぶつぶつ呟いた。ダシュク本人は心中のみで愚痴っているつもりだが、実はわずかに音となって漏れている事に気付いていない。

 アータルはこう言っているが、ダシュクとしてはこれでも結構我慢している方なのだ。闘い好きの捻くれ者、しかし本来は愛情深い。そんなダシュクだから本当は「いちゃつきたいよーっ」と声を大にして言いたいし、もっとアータルに愛情表現して欲しい。それなのにアータルの愛情表現は圧倒的に少ないし、自分からもアピールするけどこうやって跳ね除けられてしまうし……ましてや手を握るのだって、ちゃんと人がいない事を確認してから行ったのに、それを褒めてくれるどころか「人前でそうするのは好みじゃない」……いくらなんでも心がちょっと折れてきている。
「お前、ほんとに俺のこと好きなわけ?」
 思わず、ダシュクはそう呟いた。それを聞いたアータルは間髪入れずにこう返した。
「好きでもない奴にできることか?」
 その言葉に、ダシュクの奥底の部分に一瞬にして熱が灯った。好きでもなければできないこと。何がとは言わない、言えないあれ。
 それを、質問に質問で返す形で、なんて事のないような無表情で言う男に、ダシュクは知らず潤んだ瞳で恨めし気に男を睨む。
「アータルってほんっとに嫌なやつだよな」
「惚れたんだろ」
「……」
 またも間髪入れず、「当たり前」とでも言うように返されて、ダシュクはいよいよ黙ってしまった。愛情表現は絶対に自分の方が上回っている自信があるが、力関係は圧倒的にアータルの方が上。口でも勝てない。口以外でも。ダシュクはいつだってアータルに圧倒的に敗北している。
「桜が、ついてる」
 その声に、行動に、すぐに反応する事が出来なかったのは。アータルはダシュクの短い銀髪にさらりと人差し指を滑らせ、ついていた薄紅を一片地面へ払い落とした。そしてそのまま、ダシュクの顎先を掬い上げ――
「……!」
 唇に、わずかな温もりと濡れた感触。耳に届くリップ音。ダシュクが驚いて視線を上げると、アータルの金の瞳と唇がダシュクのすぐ目の前にある。正に、キスが出来るぐらい。今、何をされたのか、そこでようやく思い至り、感情の渦が音となってダシュクの口から零れて落ちる。
「……え? あの、……え?」
「呆けてないで、さっさと帰るぞ」
 微かに笑った、と思ったのは一瞬だけで、アータルは何事もなかったようにダシュクに背を向け歩き出した。見ている人がいなかったか、なんて全く思いも至らず、ダシュクは頭を抱えてその場に立ち尽くしてしまう。

 そりゃあ、もっと愛情表現してくれてもいいのにとは思っている。
 お帰りのちゅーとか、いってきますのちゅーとか、そういう事もしたいって心の中では思っている。
 でも、それでも、こういう突発的な一撃はやっぱりそれなりに衝撃的で。それを、「経験が少ない」とからかわれるのも分かっているが、それでも、でも、それだって。
「俺はお前の傍に、共に在る事が出来るなら、それでいいと思っているんだけどな」
 微かに耳に入った声に、いよいよダシュクの中の何かがぼんと弾け飛んだ。ぷしゅうと、煙を上げるダシュクを少しだけ振り返った後、アータルはやはり何事もないようにさっさと歩いて行ってしまう。
「そ、そう、そういうのをさ……」
 もう少し普段から言ってくれても……なんて言える筈もなく。きっと言った所でまたさっきみたいに躱されて、そして気を抜いた時にどでかい爆弾を落とされるのだ。自分はなかなか返ってこない愛情表現にもだもだむらむら苦しみながら、同時にいつ落とされるか分からない一撃の威力にびくびくしている。
「俺だって、お前の傍にいられれば……ああ、もう、アータルのバカ!」
 

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ダシュク バッツバウンド(aa0044) / 男 / 27 / 能力者】
【アータル ディリングスター(aa0044hero001) / 男 / 23 / ドレッドノート】 


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。
 冷淡なようでいてやる事きっちりやっちゃう系のアータルさんと、積極的なようでいて意外に純情もだもだ派なダシュクさん、という感じで書かせて頂きました。
 口調その他イメージと違う点などありましたら、お手数ですがリテイクお願い致します。
 この度はご指名下さり、誠にありがとうございました。
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2017年04月14日

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