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『 これもきっと愛 』
フィオナ・アルマイヤーja9370)&グリーンアイスjb3053)&ブルームーンjb7506


 年があけて、あっという間にひと月余りが過ぎて。
 日本語では「逃げるように去る」といわれる2月ももう半ばという頃。
 フィオナ・アルマイヤーは所属する大学部の研究室で、いつもどおりに自分のデスクの引き出しを開けた瞬間、とんでもない違和感を覚えた。

 文房具やそのほかの様々な物が取り出しやすいように行儀よく収まっている中、明らかに異彩を放つ箱がふたつ並んでいたのだ。
 色合いの異なる2種類のライトグリーンの包み紙を、どちらも見えるように凝った折り方で包み、白く光沢のあるリボンをきりりとかけた箱がひとつ。
 星空のようなミッドナイトブルーの包み紙に、金色と黒色の細いカーリングリボンと瑠璃色のシフォンリボンをあしらった箱がひとつ。

 フィオナはペンケースほどの大きさの箱ふたつを前に、無言のまましばし彫像のように固まっていた。
(こっ……これが……まさか!?)
 内心の動揺はかなり激しい。
 とはいえ、一見クールビューティー、普段からあまり表情を変えることのないフィオナのこと、周囲の者には引き出しを開けたまま何か考え事をしているぐらいにしか見えないのだが。
(に、日本式、バレンタインデーチョコレートですか!!)
 思わずあたりを見回す。
 見慣れたメンバーはお互いに普段通りの会話を交わし、特に浮ついた様子はない。
 それからカレンダーを確認する。
 間違いない。今日は2月14日、いわゆるバレンタインデーだ。

 日本での暮らしにもそれなりに馴染んだフィオナは、母国とはかなり事情の違う日本のバレンタインデーについてもある程度知っている。
 曰く、女性から男性に告白する日であること。
 なぜかその際にチョコレートを贈ること。
 それが転じて、今では友達にも高級なチョコレートを買って贈ったり、自分で買って食べたりする習慣になっていること。
 どうしてそうなったのか分からないが、とにかく日本ではそういう日になっているらしい。
 だからまず思いついたのは、研究室の誰かがみんなに配ったのではないか、ということだった。
 だがしばらく様子を伺って見ても、皆の引き出しには異変はないようだ。

(お、落ち着きなさい、フィオナ。とりあえずどなたからの贈り物なのか、本当に私宛で間違いないのか確認しなくては……)
 自分に言い聞かせつつ、そっと箱を取り出す。
 そう、もしかしたらうっかりさんが、自分のデスクと他の人のデスクを間違えて、大事なチョコレートを入れてしまったかもしれないのだ。
 そこで、グリーンの包み紙の重ねた部分に、そっと忍ばせるようにして封筒が差し込んであるのに気付いた。
 表の宛名はフィオナ宛てである。
 中のメッセージカードには、優しくてきれいな文字が並んでいた。
 だがその内容に、フィオナはまた言葉をなくす。

『今夜22時、時計台の公園のベンチでお待ちしています』

 ――よし、ちょっとこれは置いておこう。
 フィオナはもう一つの青い包み紙の箱を調べる。こちらにもメッセージカードがついていた。
 かわいらしい文字のメッセージに目を落とし、フィオナは思わず手で顔を覆う。

『今夜22時、時計台の公園のベンチに来てくださいね』 
 

 その日の夜。
 ご機嫌な様子でグリーンアイスが公園へやってきた。
「雨にならなくてよかったわよね」
 夜陰に翻る淡いグリーンのドレスの裾、けぶるように柔らかくなびく金の髪。
 夜空を見上げる瞳も金色と、これで白い翼を顕現すれば、およそ人間が想像する『天使』そのもの。
 が、実に残念なことに、グリーンアイスは駄天使、もとい、堕天使だった。

「あんたにしてはちゃんとした時間にきたわね」
 植え込みの陰から、魔法のように人の意識を捉える不思議な響きの甘い声が囁いた。
「いつも通り、寝ていてもよかったのよ?」
 くすくす笑いながら夜の闇から抜け出すように姿を見せたのは、ブルームーンだ。
 可憐で気まぐれな少女のようにも、世慣れた妖艶な美女のようにも見える、こちらははぐれ悪魔。
「あー、うん、大丈夫。昼間しっかり寝てきたからからね」
 グリーンアイスがどこまで本気か分からない調子で、さらっと流す。
 ブルームーンは厭味が不発に終わり、軽く鼻を鳴らした。
「ま、あんたが二日連続で夜の外出なんて、随分頑張ってるじゃない?」
「そりゃもう。だってやっとバレンタインデーなんだからね!」
 グリーンアイスは足を速める。

 目的の時計台は公園の広場にあった。
 四方から広場に向けて道が繋がっており、ちょっとしたイベントなどが開かれることもあるほどの広さがある。
 時計台の下にはいくつかのベンチがあって、街灯の明かりに照らされていた。
「チョコレートの仕込みから、手紙の準備、我ながらよく頑張ったわよね」
 グリーンアイスが感慨深げに空を見上げる。
「寧ろ、昨夜の侵入がいちばん楽だったわね」
 ブルームーンもそう言って頷いた。
 天魔の透過能力さえあれば、鍵のかかった部屋もどうということはない。

 もうおわかりだろう。
 フィオナのデスクにチョコレートを仕込んだのは、このふたりだ。
 年中眠そうでやる気なさげなグリーンアイスと、目立つのが大好きで活動的なグリーンアイスは、普段それほど仲が良さそうでもなかった。
 だが生真面目で世間知らず、何事にも一生懸命で純粋な性格のフィオナを気に入っているという点では完全な同類であり、フィオナをからかうときだけは双子のように息もぴったり。
 今回も『友チョコ』を贈ろうという気持ちに嘘はなかったのだが、そこで普通に渡さないのがこのふたりだ。
 手間暇かけた悪戯を用意して、こんな場所に呼び出したのである。

「あ、ちょっと! フィオナは時間をきっちり守るんだからね。さっさと隠れなさいよ!」
 ブルームーンが時計を見上げて、グリーンアイスの腕を引っ張る。
「あー、はいはい、最初はそこの茂みなんかいいんじゃない?」
 ふたりは少し離れた茂みの中に身を隠し、フィオナの到着を待つことにした。


 フィオナは重い足取りで公園の通路を歩いていた。
「やっぱり、お断りするしかありませんね」
 結局、今日は一日、何も手につかなかった。
 グリーンの包み紙の主は、よほど育ちの良いお嬢さんと思えた。
 丁寧な言葉でフィオナのことをよく見ているらしい褒め言葉を綴り、もっと親しくなりたいと書いてあった。
 ブルーの包み紙の主は、少女とみえた。こちらもフィオナのことを憧れのお姉さんと慕っており、ぜひお近づきになりたいとある。
「やっぱり女性なんでしょうね……」
 フィオナはがっくりと肩を落とす。
 どんなことでも相手の好意を断るのには勇気がいる。ましてやフィオナにはそっちの趣味はない。
 だから今回の呼び出しを無視するという手もあったのだ。
「そもそも、どちらも女性なら、こんな時間に夜の公園に呼び出すなど……」
 非常識だ。
 そうも思ったが、フィオナが行かねばいつまでも待っているかもしれない。
 待っている間に良からぬ輩に、お嬢さんと可憐な少女が酷い目にあわされるかもしれない。
 色々考えた結果、ちゃんとお断りして、ふたりとも早く家に帰ってもらうしかないという結論を出したのである。

 22時のきっちり5分前に、フィオナは公園についた。
「それらしき人は……いらっしゃいませんね」
 カップルや、酔っ払って寝ている連中は何人か見えた。
「何かトラブルでもあったのかもしれませんね。少し待ってみましょうか」
 ここでからかわれたかもとか、そもそも女性ではなかったのではないかとか、そういう事は考えないのがフィオナだ。
 空いていたベンチに腰掛け、そっと息を吐く。


「うーん、ここからだとよく見えないわね」
「あのカップル邪魔よね。蹴り飛ばしてこようかしら」
「それはいいけど、フィオナにも気付かれるよ」
 茂みに潜む天魔コンビは、広場を指定したことを少し後悔していた。
「あの屋台の陰からならよく見えるんじゃない?」
 ブルームーンは昼間にアイスなどを売っている屋台を指差す。
 ふたりはそっと茂みを抜け出し、フィオナから見えない方向から屋台に近づく。
「うわー、ため息ついちゃって。ほんとフィオナったら真面目なんだから!」
 グリーンアイスが手で口元を押さえながら、ぼそぼそと呟く。
「ふふっ。誰かに好かれて悩むフィオナの横顔、たまんないわね」
 ブルームーンが僅かに頬を上気させて囁く。
「って、ちょっとあんた、どきなさいよ。この場所見つけたのは私でしょ?」
「押さないでよ。フィオナに気づかれるじゃない」
 そんなやり取りも数分のこと。
 何度目かに時計を見上げたフィオナのやるせない横顔に、ついにグリーンアイスが立ちあがる。
「あーん、もう無理! フィオナそんなに思いつめてなんて可愛いの!!」
「あんたはもう! もう少し我慢するってこと知りなさいよ!!」
 そう言いながらも、グリーンアイスに後れをとってなるものかと、ブルームーンも飛び出した。

「「フィオナ―――――!!!」」
「!?!?!?」

 がしっ。

 両脇から柔らかくていい匂いのする、けれど力強い腕に捉えられるフィオナ。
「どう、フィオナ? ちょっとドキドキした? でもフィオナの憂いの横顔もとっても素敵よね。ふふ、新発見ね」
 ブルームーンが身体をすりつけながら、自由な方の人差し指でフィオナの白い頬をつつく。
「フィオナったら真面目すぎて心配になっちゃう。こんな時間に、知らない人に呼び出されるなんて。でもそれがフィオナのいいところだよね」
 グリーンアイスがフィオナの腕に自分の腕をからめ、肩に頭を持たせかける。
「ど、ど、どうしてここに、おふたりが……!!」
 フィオナは思わず口走ったが、ここでようやく事態が呑み込めた。
 というか何故、包み紙の色で気付かなかったのか。
「騙したんですか……!」
「人聞き悪いわねえ。もっと仲良くなりたいのは本心じゃない。あと友チョコって知らない?」
 しれっと言い放つグリーンアイス。
「そうよねえ。もっとお近づきになりたいのも本心よ? それに」
 ブルームーンが眉を寄せ、ぐっとフィオナの顔に顔を近づける。
「やっぱりフィオナは真面目すぎるのよね。いい? 今度こんなことがあったら、ちゃんと私に相談するのよ。変な男に騙されたら大変じゃない!」
「へっ……! だ、騙されたりしません!!」
「うーん、フィオナの良さに気付く奴なら、あたしは褒めてやりたいとは思うけどね。でもちゃんとした奴か見極めるまでは、渡さないからね!」

 ――ああ、またやられた。

 フィオナは半ば放心状態で、堕天使と小悪魔にぎゅうぎゅうと挟まれていた。
(まあ、でも……)
 自分を好きだと言ってくれる人に、辛い言葉をかけなくて済んだ。
 その点については、ほっとしているのも確かだった。

 悪戯をこんな風に受け止めて、怒ったりしないところがフィオナのいいところなのだが。
 それだけに一層、グリーンアイスとブルームーンの『愛』を一身に集めているのが辛いところでもあった。

「そうだ。どうせならここでチョコレートをいただきましょう。ご一緒にどうですか」
 断るからにはプレゼントも返そうと思っていたのだろうか。
 フィオナの生真面目さはやっぱりぶれない。
 包み紙を丁寧に開き、可愛く並んだチョコレートが出てくると、ものすごい反応速度で両側から手が伸びてきた。
 その手を互いにけん制しつつ、ブルームーンとグリーンアイスが軽く睨みあう。
「ちょっとあんた、行儀が悪いわよ!」
「そっちこそ同じこと考えてたのね」
「ふ、ふたりとも……?」
 びっくりするフィオナの前に、ぬっと指が伸びてきた。
「「はい、あ〜ん♪」」

 フィオナの受難は、まだまだ続きそうである。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja9370 / フィオナ・アルマイヤー / 女 / 23 / 悩める乙女】
【jb3053 / グリーンアイス / 女 / 18 / 緑のお嬢様】
【jb7506 / ブルームーン / 女 / 18 / 青の下級生】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもご指名いただきまして、誠に有難うございます!
お待たせしました、番外編その2をお届けします。
プレゼントの包みはご指定の色イメージ以外、勝手に作りましたが、お気に召しましたら嬉しいです。
可愛いエピソードをご依頼いただき、有難うございました!
SBパーティノベル -
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エリュシオン
2017年04月20日

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