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『過ぎ去りし日との邂逅 』
ダシュク バッツバウンドaa0044)&アータル ディリングスターaa0044hero001

 ダシュクは眼が覚めた時、違和感に気付いた。
「……んんっ? 朝……だよな?」
 カーテンからこぼれる陽射しは白くて強く、午後の柔らかな光ではない。
「じゃあ何でアータルは起こしにこないんだ?」
 いつもは依頼やアルバイトなど何かしら予定が入っているダシュクだったが、今日は珍しく一日が空いていた。
 なので共に暮らしているアータルから、「生活用品を一緒に買いに行こう」と言われていたのだ。
 二人で行動をする時、いつもアータルが先に動いてくれる。
 なのに今日に限って、彼はダシュクを起こしにこない――。
「昨夜までは普通だったよな? 明日は朝早くから出掛けるから、酒を飲まずに早寝するように言われたし」
 ボリボリと頭をかきながら、ダシュクはリビングルームへ向かう。
 しかしそこにアータルの姿がないどころか、カーテンすら開いていない。
「……んだぁ? アイツ、珍しく寝坊してんのか?」
 壁掛け時計を見てみると、もうすぐお昼近い。
 この時間まで、アータルが眠っているというのも珍しい。
「つうか、変だな。まさか体調を崩したとか?」
 不安になったダシュクは、アータルの部屋へ向かった。
「アータル、大丈夫か?」
 扉を軽くノックした後、すぐにダシュクは部屋の中へ入る。
 いつものアータルであれば、そんなダシュクの行動で眉間にシワを寄せるだろう。
 しかし当のアータルは、未だベッドの中だった。
「……アータル?」
 ダシュクが近付いても、彼は姿勢正しく眠っている。
 念の為に手で呼吸を確認すると、寝息を感じられた。
「やっぱ寝ているだけ、か……。ん〜、にしては、顔色が悪いような……」
 元々色白のアータルだが、共に行動しているダシュクには彼のわずかな顔色の差が見抜ける。
「それに何だか苦しんでいるような……。悪夢でも見てんのか?」


 ――この時のアータルの意識はダシュクが言った通り、悪夢の中にいた――


(……ここは、どこだ?)
 アータルは燃え盛る周辺を見回して、疑問に思う。
(何故、俺はここにいる? 確かベッドで寝ていたはずだが……。ダシュクはいないのか?)
 いろいろと考えてはいるものの、何故か身体は動かず、視界もある程度の範囲しか見えない。
(もしかしたら仕事中なのかもしれないな。しかしそれならやはり、ダシュクが傍にいないのはおかしい。それに仲間達も……『仲間』?)
 不意に思い付いた言葉で、アータルは胸がざわめいた。
 今のアータルは全身を縄で縛られて、地面に座っている状態だった。
 近くにはアータルのように縛られた若い男達が転がっており、目の前では村や森が焼けている。悲鳴や怒号が飛び交い、明らかに修羅場であることが分かるのだ。
 ――だが、『今のアータル』にはこんな場面に出くわした記憶が無い。
 アータルはダシュクと出会う前の記憶が、いくつか抜けている。
 気にはしていたものの、それでもダシュクと過ごす日々が忙しくも賑わしいことから、過去のことで悩むことはほぼなかった。
 だけどアータルは、この場面を知っていることに気付く。
 頭で考えるよりも先に、身体の奥底から恐怖と不安がよみがえりつつあるのだ。
(『コレ』は……俺の失った記憶、なのか? こんなことが……)
 アータルは、決して戦いに弱くはない。
 もし本当にここがアータルの故郷であるのならば、仲間である同族達も戦いに強いはずだ。
 しかし敵が自分達以上に強い存在ならば、こんなふうに惨めな扱いを受けても何の不思議もない。
 ――残酷だが、納得できる真実。
(ああっ……! 奪われていく……、何もかも!)
 自分達が大切に大事に築き上げてきたモノ達が、あっと言う間に奪われていく。
 何とかしたいのに、動くどころか声すら上げられない。
(何故っ、どうして俺は動けない? 俺には戦う力があるはずなのにっ!)
 兵隊服を着ている男達が武器を手に持ちながら、次々と破壊していく。男達の顔は何故か、真っ黒なピエロの仮面をかぶっているように見える。
 そして男達は口々に言う。

「コレは罰なのだ!」――と。
「力無き者が、逆らう声を上げることなどあってはならないのだ!」――と。
「だからこそ、全てを失うのだ!」――と。
  
 歪んだ笑みを貼り付けながら、全てを奪っていく。
 やがて男達は、村の中からある者を引きずってきた。
 ボロボロにされたその者は地面に乱暴に捨てられると、ゆっくりと顔を上げる。
 そしてアータルの金色の両目に映ったのは――、よく知っている『あの人』の顔だった。
「あっあなたはっ……!」
 ようやく自分の声が出せる。
 しかしその直後、男達が『あの人』へ向けて剣を振り下ろした。

「うっ……わあああーー!」

「アータルッ!」
「ハッ……!?」
 眼を開けたアータルは、ダシュクの顔を見て一瞬にして現実へ戻る。
「はあはあっ……! ダシュク……か?」
「ああ、そうだ。大丈夫か? 唸り出したかと思ったら、突然叫んだんだ。嫌な夢でも見てたのか?」
「夢……? ……ああ、そうか。夢を見ていたのか……」
 アータルは顔にかかった前髪を指で払うと、自分が汗まみれになっていたことに気付いた。
「……もしかして、俺の異変に気付いて来たのか?」
「まあそんなところだ。今日は一緒に買い物に行こうって言ってたのに、昼近くになってもおまえが起きてこないから、心配になって見に来たんだ」
 ダシュクの説明を聞いて、アータルは深いため息を吐く。
「……ああ、そうだったな。悪い。休みだから、目覚ましをかけるのを忘れていた。いつもなら目覚ましがなくとも、朝には自然に目が覚めるんだが……」
「何だ、寝すぎて悪夢を見ていたのか?」
 ダシュクは重い空気を変えようと軽く笑いながら言ったのだが、アータルは天井の一点を見つめたまま。
 どう声をかけたらいいのか迷っているダシュクに、アータルは布団の中から手を出して向ける。
「ダシュク、悪いがしばらくの間、俺の手を握っててくれないか?」
「あっああ、良いぜ。お安い御用だ」
 求められるままに握り締めたアータルの手は震えており、そして汗が滲んでいた。
「俺は……守れなかったんだな。大事なモノ達を……」
「えっ?」
 アータルの呟きを聞いて問いかけようとしたダシュクだが、アータルが泣いているのを見て言葉を詰まらせる。
 しかし思い切ってアータルの手を放すと、覆い被さってギュッと抱きしめた。
「アータル、大丈夫だ。その……辛い事があっても、俺は傍にいるから……。おまえの近くに、ずっといるからさ」
「ダシュク……、おまえの体温はあたたかいな……。それに鼓動もうるさいぐらいだ。性格が出ているぞ?」
「……んだよ。人がせっかく真面目に言ってんのに」
 少し怒った風に言いながらも、ダシュクはアータルがいつもの調子に戻りつつあることに、内心ホッとする。
「さて、ダシュク、もうそろそろ買い物に行く準備をしよう。このままだと帰ってくるのが夜遅くなる」
「そんなに買う物、多いのか?」
「人手がある時に、買い込みたいんだ。大きな荷物も、ダシュクなら運べるだろうからな」
「ったく……。人使いの荒いヤツだ」
 ブツブツ言いながらも、ダシュクはアータルから離れた。
 アータルは大きく息を吐くと、手で濡れた目元を拭う。
(失った記憶は、まだ全てを思い出せたわけではない。……だがそのことを悲しく思うよりも、こんな形で思い出したくはないというのが、『今』の俺の本音だな)
 夢で見た出来事は、しっかりと思い出せる。
 しかしこんなふうにダシュクを心配させる形で思い出したくはない――と、アータルは思うのだ。
(ダシュクに俺の弱いところは見せたくはない。……いや、ダシュクには見せても良いような悪いような……。男心は複雑だ)
 いつもはアータルがダシュクをからかっているのだが、そのダシュクに弱みを握られているような気持ちになってしまう。
 ダシュクが落ち込んでいる時のことを後でからかったりはしてこないことは分かっているのだが、そこはそこ、アータルのプライドの問題となる。
「おい、平気か? 起き上がれるか?」
 少しの間、考えていただけなのだが、ダシュクは心配そうに間近でアータルを見つめていた。
 だがそんなダシュクを見て、アータルは妙案が浮かんだ。
「……実は少し調子が悪いんだ。手を引っ張って、起こしてくれるか?」
「分かった。ホラ、手ぇ出せよ」
 アータルは言われるままに掛布団をよけると、ダシュクへ向けて両手を伸ばす。
 アータルが差し出した両手を何の疑問も持たずに掴んだダシュクは、突然グイッと引っ張られて眼を丸くした。
「うわわっ!? いっいきなり何すんだ!」
「少し静かにしていろ」
 いつの間にか、アータルはダシュクにしがみつくような形で腕の中にいる。
 そのことに再びダシュクは驚くも、悪い気はしない。恐る恐るアータルの背に両腕を回して、抱き締めた。
「フッ……、まるで子供のような身体だな。体温が熱く、鼓動が早い。実にダシュクらしい」
「そっそれはこんな格好をしているから……」
「だが悪くはない。たまにはこうやって、おまえに抱き締めてもらおう」
「えっ!? まっまあたまになら、良いけどな」
 照れながらアタフタするダシュク。
 アータルはクスッと笑い、顔をダシュクの胸に埋めながら小さく呟く。
「――ありがとう、ダシュク。おまえがいてくれて、良かった」


<終わり>



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0044/ダシュク バッツバウンド/男性/27歳/人間 攻撃適性】
【aa0044hero001/アータル ディリングスター/男性/23歳/ドレッドノート】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 再びのご指名、ありがとうございました(ぺこり)。
 アータルが弱いところを見せましたが、それでもダシュクより一枚も二枚も上手というストーリーを書かせていただきました。
 楽しんでいただければ、幸いです。
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2017年04月21日

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