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『I(ai) 〜zankoh〜 』
水嶋・琴美8036

 チカチカと瞬く灯りを眺めて、少女は  を待っていた──

 長い事、待っていたような気もするし、そうでもないような気もしていた。
 一つ確かな事は、自分にとっての世界が変わる事である。
 自分にとって良い事なのか悪いことなのか判らなかったが、はるかに良い事に思えた。

 ──早く会いたい。

 揺らめくように瞼を少女は震わせた。


 ***


「うん……」
 薄暗い部屋のベッドの中、水嶋・琴美(8036)は目覚め、ゆっくりと伸びをした後、目覚ましのアラームを止めた。

 何か夢を見ていたような気がするが、琴美は思い出せないでいた。
 昨夜ゆっくりと湯船に漬かってから寝なかったのがいけなかったのだろうかとぼんやり考えながらテレビをつける。
 女子アナ達が流行りのスイーツの紹介をしていた。
「おいしそうですね。誰か差し入れてくれないでしょうか」
 もう少しダラダラ寝ていても良かったかもしれないと思いながら規則正しい生活が身についている自分が少々恨めしかった。

 本来なら休暇が明けて任務に当たっているか訓練をしているかのどちらかであるが、
 何故か”謹慎”7日目である──。


 自分の知らない所で連続殺人犯に仕立て上げられ、
 知らない所で防衛省と公安の睨み合いで強制有給休暇消化。
 容疑者として追いかけられ、
 殺人の実行犯であるaiに襲われて返り討ちにしただけである。
 そのaiが防衛省と公安のサイトに犯行声明を出して一件落着であった筈だったが
 ”謹慎”命令なのである。

 犯人逮捕もできずに面目をつぶされた公安とうまい所を独り占めした防衛省(棚からぼた餅状況で入手した
 霊鬼兵モドキ(ai))の楽しい高官同士話し合いで、
 うちの自衛官がご迷惑をお掛けしました。お詫びに省内の責任で”謹慎”させました。
 きっとそんなとこだろうと琴美は考えていた。


 つい暇すぎて色々考えてしまう。
 実際、琴美の心はここ事件以降モヤモヤしていた──。

 琴美がプライベートで使うスマホに見覚えがないアドレスから「タスケテ」と書かれたショートメールが届いたのだった。
 誰かの悪戯かとそのメールを調べてた所、以前iaが琴美に電話をかけてきた時と同じ番号であった。
 それから毎日同じ時刻に届くようになったのだった。
 悪戯メール可能性は否定できないが、琴美は何故かaiが送っているような気がしていた。


 霊鬼兵は、死体を継ぎ合わせた人間兵器だと伝えられている。

 ──私を忘れないで──
 そう言ったaiも死体で作られた人型兵器ならば、魂は何処からきて何処に行くのだろうか?
 死にきれず魂が彷徨っているのであれば送るのが自分の仕事であると琴美は思った。


(私も焼きがまわったのかしら──)
 ベランダのカーテンを静かに動かし、外を眺めるながら何処かに電話を掛ける琴美。
「お久しぶりです。少々手を貸していただきたいのですが、よろしいですか」


 ***



 ──数時間後。
 琴美を乗せた車は、山道を走っていた。
 少し広くなった場所に琴美は車を寄せ、トランクから荷物を取り出すとそのまま林の奥へと入っていった。

 車道から見えない位置まで来た事を確認し、素早く服を着替える琴美。
 黒のショートスリーブのインナーに色っぽいカーブを描く尻にぴったりとフィットするスパッツ。
 ミニのプリーツスカートのファスナーを素早く上げる。
 編み上げのブーツに履き替えた琴美は、武器が入ったトランクを片手に更に奥へと入っていった。

 マンションを出る前、急ごしらえではあるが、琴美を陥れaiに殺人を教唆した”協力者”をおびき出す罠を仕掛けていた。
 それに引っかかってくれれば協力者は、aiが運び込まれた研究所にやって来る筈である。


 ──暫くして一台の車が山道を上がってくるのが見えた。
 琴美は先程、道路に岩を落として塞いだ地点に移動し、物陰に隠れて車が止まるのを待った。
 運転席と助手席から男が出てきて押したが岩はびくともせず、後部座席に座っていた男も出てきて漸く岩を道路下に落とす事ができた。
 その隙にトランクの中に滑り込む琴美。男達は琴美が車に乗り込んだ事に気づかず、そのまま研究所を目指して発進した。

 車が止まり人の気配がなくなったのを確認した琴美は、トランクから這い出し駐車場の中を見回した。
 外の警備に比べて中の警備は、かなり薄い警備のようだ。
 換気口の留め金を外し、身体を潜り込ませた琴美は、車を待っている間に暗記した地図を頭の中で展開させ、地下にある研究室を目指して進んでいった。



 地下階に辿り着くとキンキン声の喚き声が聞こえてきた。
 琴美が覗き込むと車の後部座席に座っていた男が白衣の男に向かって怒鳴っていた。
「いや、それは無理です」とか「ありえません」とか答えている言っている白衣の男に男は聞く耳を持たなかった。
「元々死人を集めて作った怪物だ。元から動いていなかったかもしれないじゃないか!」
「確かにおっしゃられる通りなのかもしれませんが。文献によれば”生きている”状態ならば、それなりの傷でも治ると書いてあります」
 でも”彼女”は、こんな傷さえ再生できないでいます。と白衣の男は琴美がつけた傷を指さす。

「”彼女”の死亡診断を以て標本化するという命令書に従うのが命令違反ですか?」
 生きているというのであれば根拠を聞かせてほしいと白衣の男も食って掛かる。
「命令書を無効にするのならば新しい命令書か、医局長なりの然るべき命令がなければ受けられません」
 白衣の男が言い切ると同時に男は机にあった大きなフラスコで力一杯を殴りつけた。
 頭から血を流して倒れる白衣の男を医務室に連れて行けと男は部下に命じた。


 ドクターが連れ出されて男が一人残ったのを確認して琴美は部屋の中に躍り出た。
「貴方が”協力者”だったんですね」
「水嶋、何故ここに!……そうか、あのメールは罠か!」
 私宛に届いたaiからのメールをちょっと弄っただけですが。と琴美。
「貴方に一つ聞きたい事があります。何故aiに人を殺させたのですか?」
「決まっている。”霊鬼兵”は兵器だからだ。そうはいってもこいつは目覚めたその日に研究所で生みの親の博士や研究職員、警備員を皆殺しにした奴だからな。
 根本的に人殺しが好きなんだろう。だがその勢いで味方迄殺してしまったら本末転倒だからな。
 そんなこいつに殺していい奴。悪い奴って調教しなおすのは大変だったんだが──お前にあっさり殺されて物凄くがっかりしたんだったよ」
 ”霊鬼兵”は丈夫だと聞いていたので再生したのかと思って、連れ帰ろうと思ったんだが失敗したよ。と苦笑いをする。
「何故、私と戦わせたんです」
「それは、こいつが選んだのさ。お前の映像なんて犯罪者リストよりも遥かに高いセキュリティが掛かっているからな。どうやって見たのかこっちが知りたい位だ」
「そうですか──参謀長、今回の顛末はお聞きになった通りです」
 如何しますか?と琴美は無線で尋ねた。
『速やかや身柄の確保及本部への移送を命じる』
「──承知しました」


 引っ立てられていく男達に見送った琴美が、ちらりとaiを見る。
 そして小さな声で呟いた──
「これであなたは自由に慣れたのでしょうか──」
 そんな琴美の言葉に眠っているようなaiの遺体がゆらりと揺れたように見えた──。



<了>
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東京怪談
2017年04月21日

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