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『「生まれてきてくれてありがとう」を伝える日 』
ユエリャン・李aa0076hero002)&フィアナaa4210

 四月二一日、夕刻。

 ぴーんぽーん――インターホンの音が茜色の空に響いて。ぱたぱた、次いで聞こえたのは軽快な足音。
『はい、どなたです、か?』
 電子越しに、どこかあどけなさを感じる少女の声。無垢な声音に、インターホンの前にて佇む『来訪者』は、口紅で朱色に艶やかな唇を優しく笑ませて。
「我輩だ」
 と、来訪者――ユエリャン・李(aa0076hero002)は答えた。
『ユエ!』
 途端、インターホンの向こうの少女が声を弾ませる。彼女、フィアナ(aa4210)がドアから踊るように現れたのはそれから間もなくであった。
「まあ! いらっしゃい、なの、よ!」
 全身いっぱいに嬉しそうなオーラを放つフィアナ。会いに来ただけでこんなに喜んでくれる子がいるだろうか? ユエリャンも心からの笑みをそれに返した。
「急にすまぬな」
 携帯端末から「今から会えるか」とは連絡を入れたものの、ユエリャンは用事の内容までは伏せていたのだ。「いいえ!」とフィアナは首を振ると、興味を湛えた真ん丸な瞳でユエリャンを見上げた。それに促されるまま、ユエリャンはニコヤカにこう話したのである。
「夜桜を、見に行かぬか? ちょうど近くに見所があるのでな」
 なぜならば、とユエリャンは微笑む

「今日は君の誕生日であろう? ――祝うと、約束したであるしな」

 四月二一日、それはフィアナが生まれた日。
 生まれてきてくれてありがとう、を伝える日。

 桜が満開に咲き誇る、ある春の一日。







 目的地へとのんびり歩いて行く。夕暮れの長い影を踏んで、アスファルトの道。でこぼこの少し古い舗装の隙間からは緑が伸びて、春の小さな花をつけていた。
「あれはホトケノザ、あれはカラスノエンドウ……」
 道すがら、他愛もない会話の一つとしてユエリャンは花の名前を口にする。その一つ一つを、フィアナは真っ直ぐな眼差しでウンウンと聴いていた。
「ユエはなん、でも知ってるの、ねー」
「知識は良い。いくら持っても懐が重くならず、一度持てば減ることもないのである。……尤も、物忘れという厄介な強盗はいるのだが」
 おどけてみせるユエリャン。「たしかにー」とフィアナがクスクス笑う。
「物忘れさんは、困ったさん、ねー。私もこの前、ね、目覚まし時計を、セットしようと思ってたのに、セットし忘れちゃって、たの」
「それはそれは。セット忘れの予備用に、もう一台の目覚まし時計を用意せねばならんな? 予備の予備があればもっといい」
「ふふ。お部屋が、目覚まし時計まみれに、なっちゃうの、よー」
 何気ないやり取り。ちょっとした散歩道。出発してからずっと、フィアナの機嫌は最高潮だ。ユエリャンと手を繋ぎ、会話の合間に鼻歌を口ずさむほどである。春らしいショートブーツの軽やかな足取りと、上機嫌に揺れるシフォンスカート。花銀の髪には花をモチーフにした髪飾り。
「君はさながら、春の妖精のようであるな」
 横目に見やるユエリャンが目を細める。「そお?」とフィアナがはにかんだ。
「ユエも、すてき、なのよー。女優さん、みたい」
 フィアナの言うように、中華風に麗しく飾ったユエリャンは、ピンヒールでスラリと強調した体躯も合わさってテレビの向こうの芸能人のようである。「うむ、ありがとう」とユエリャンは礼を述べた。

 さて、さて。そんな道中。
 いつの間にやら、どこにでもあるようないつもの町の風景にポツリポツリと提灯がぶら下がり始め、「桜祭開催中!」というのぼり旗も並び始め。にわかに人通りも増えてきたような。
 それから、いい香りがする――屋台だ。たこやき、やきそば、フランクフルト、リンゴ飴――賑やかさがいっそう増してくる。

「わ、すごい! 賑やか、なのー。それにとっても、いい香り!」
 フィアナはキョロキョロと周囲を見渡した。賑やかさ、人々のどこか浮かれた雰囲気に、見ている側までもウキウキとしてくるような心地である。
「存外に流行っておるのだな」
 同様にユエリャンも周囲を見。そして、フィアナへ視線をやった。
「……さて、桜のライトアップまでまだ少し時間がある。腹ごしらえと洒落込もうか?」
「賛成なの、よー! 何を食べよう、かしら。どれも、おいしそう……迷っちゃう、のよー」
「好きなものを食べたまえ、今宵は君の誕生日なのだから。何でも買ってやるから好きなものを言うが良いぞ」
「! ……ほんと? いいの?」
「かまわんさ。君がお腹いっぱいになってくれるのなら、我輩も嬉しいさ」
「!! ユエ、ありがと、なのよ! だいすき!」
 花のようにフィアナは笑む。「どういたしまして」とユエリャンも笑む。

 右へ左へ、行き交う人々。
 華やかな屋台から顔を上げれば、そこには桜がたわわに枝を伸ばしていて。
 屋台と提灯の灯りに、満開の春。時折ヒラリと落ちてくる。

「ライトアップはまだであるが、この時点でも美しいものであるな」
 公園のほとり、ベンチに腰かけて。ユエリャンは屋台で買ったやきそばをチマチマと食べながら、黄昏時の桜の公園を眺めていた。鞠のようにふくふくとした花が枝いっぱいに満開で、白い花びらがわずかな光に輝いている。
「さっきからずーっと楽しい、から、ライトアップが始まったら、楽しすぎて倒れちゃうかも、なのよー」
 同じく黄昏の暗闇に染まりつつある桜を見、フィアナがころころと笑う。「倒れられたら困るのである」とユエリャンもつられるように肩を揺らした。それから英雄は、フィアナを見やる。彼女はタコヤキをふうふうと冷ましつつ、ゆっくり食べていた。
「お口に合うかね?」
「うん! おいしい、のよー。タコヤキ、すき!」
「火傷をせんように気を付けるのだぞ」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
「ウェットティッシュも持ってきたのでな。口を拭くなど好きに使いたまえ」
「ユエの鞄は、魔法の鞄なの、よー。ふふ、ありがと、なのよ」
 ――本当に、この桜の花びらのように無垢である。ユエリャンはフィアナを見守りつつ、思う。優しすぎるほど優しくて、裏表もなくて、真っ直ぐに好意を伝えてくれる眩しい子。だからこそ、かけがえのない友人。

「フィアナも、ユエが好き! すごーく、大好き!」

 目が合った拍子だった。にぱ、と桜よりも満開にフィアナが微笑む。
「……えへ。なんとなく、ね、フィアナのこと、すきーって、思ってくれたような気がした、のよー」
「おやおや……見透かされてしまうとは」
 ビックリしつつも、照れてしまうような。ユエリャンは笑みつつも肩を竦めてみせる。フィアナは弾むような物言いで言葉を続けた。
「ユエと一緒にいると、ねー。ぽかぽかするの、よー」
「ははは、照れてしまうではないか。……おっと。そろそろ、ライトアップの時間である」
 食事もひと段落。二人が立ち上がれば――瞬間だった。あちらこちらで一斉にライトアップが始まる。暗闇に浮かび上がるのは、華やかな桜の列。幻想的な輝き。人々の歓声が聞こえた。
「わ、すごい、すごい……!」
 フィアナは瞳を輝かせる。見開いた碧玉の瞳に映りこむ、輝く桜達。そのあまりにも美しい光景に、魅入るフィアナはしばし言葉を忘れていた。
「うむ、これは……見事であるな」
 同じく、ユエリャンも照らされる夜桜に感嘆の吐息を零していた。と、その手をフィアナがくいくいと引く。
「あっち、近くで見てみたい、のよー」
「そうだな。行ってみよう」

 きらきら、輝いている。桜が。舞い散る花弁が。
 それを映すフィアナの双眸もまた、宝石のように輝いていた。楽しそうに、嬉しそうに……。

「あっちの桜も、見に行きたいの、よー」
 少女はユエリャンの手を握り、あっちこっちと弾む機嫌のまま引っ張って行く。ユエリャンも楽しそうにしながらそれについていく。風が吹いた。桜吹雪が艶やかに舞う。二人を包んで、光を纏って。
 不思議なものだ、とユエリャンは思う。二人で一緒に見る桜が、ことさら綺麗に見えるのは。フィアナも同じことを思っているだろうか? そうだったら、とても……嬉しいと、思う。


 ――楽しい時間はあっというま。


 少女をあまり夜遅くまで連れ回すのもよろしくない。一通り公園の桜を一周して。「そろそろ帰ろうか」とユエリャンの言葉に、少し名残惜しそうにしながらもフィアナは「はーい」と返事をした。
「あ。最後に、わたあめ、欲しいの、よー」
「わたあめか。構わんぞ」
 帰り道の屋台の前。ユエリャンは購入した大きな大きなわたあめを、フィアナへと手渡した。が、受け取ったフィアナが一口の後、わたあめをユエリャンに差し出して。
「わたあめ、はんぶんこ、するの」
「ん? 半分になってしまって良いのかね?」
「おいしくて、幸せで、嬉しいので、……ふふ。だから全部、ユエとはんぶんこするの、よー」
「――、ありがとう、フィアナ」
 無垢な想いに微笑んで。フィアナが嬉しそうにしてくれると、見ているユエリャンまで心が温かくなってくる。そのままユエリャンは差し出される白を、一口。
「うむ、甘くて美味しいな」
 心から美味しいと思えるのはきっと、嬉しい楽しいを分かち合っているからで。不思議だ。幸せは分かち合っても減ることがない。それどころか倍になる。不思議だ――そして、幸せだ。

 甘いわたあめを頬張りながら。ユエリャンは今一度、桜を見上げた。
 帰り道だけれども、まだやることが一つある。これを食べ終わったら、フィアナに誕生日の贈り物を渡そう。前もって買っておいた組紐の装飾だ。

 彼女は喜んでくれるだろうか?
 喜んでくれたら……とても、嬉しい。



『了』


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ユエリャン・李(aa0076hero002)/?/28歳/シャドウルーカー
フィアナ(aa4210)/女/16歳/命中適性
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2017年04月27日

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