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『風の国、動き出す季節 』
ゼロ=シュバイツァーjb7501)&矢野 胡桃ja2617)&矢野 古代jb1679)&華桜りりかjb6883


 西日本の、とある穏やかな海に浮かぶ島。
 近隣では天使だ悪魔だなんだかんだと大きな出来事が次から次へと起きている中、不思議と平和な島。
 もちろん全くの平和ということは無く、小さな島ゆえに見過ごされていることも多い。
 ゼロ=シュバイツァーがそこへ着目し、ひっそりと『拠点』にしようと思い立ち行動に移してから、なかなかの時が経過していた。

 まずは自分の拠点用に、家を一軒買い上げた。
 島民と他愛ない会話を交わし、困りごとを解決し、そのお礼に海の幸や美味い酒を貰う。
 アットホームなコミュニケーションから、天魔絡みの対応まで。
 地道ながらも苦に感じないのは、ゼロ自身が楽しんでいるからだろう。
 楽しく過ごす為の場所づくりなのだ、楽しくないわけがない。


「うん? なんか珍しい酒を持ってるな、ゼロ」
 久遠ヶ原学園へ戻ってきた際、手土産片手に歩いていたゼロへ矢野 古代が声を掛ける。その隣には、愛していると書いて愛娘の矢野 胡桃、共通の友人である華桜りりかも一緒に居た。
「あーー、これな。島からの土産やねんけど」
「ほう……」
「しま……ですか」
「それだけじゃない、わね。右腕?」
 地酒に目を輝かせる古代、『島』の話は軽く聞き知っていたりりかと違い、胡桃は探るように目を輝かせた。
「……ふっ、さすがへーか。誤魔化しはきかんようやな……」
 酒瓶を古代へ渡し、ゼロが手荷物から取り出したのは……

「「ふわぁああああああああ!!!!」」

 乙女たちの眼がキラッキラに輝く。
 そこに登場したのは、ツヤツヤの真っ赤な苺。採れたて苺。甘い香りが漂ってくる。
「んむ……。いち、にぃ……すごいの、6種類もある、です」
 ただの苺ではなく。6つの品種を言い当てて、りりかは再び胡桃と手を取りあってキャアキャア喜ぶ。
 このまま食べても間違いなく美味しい。
 練乳はどうしよう。
 チョコレート掛けもたまらない。
 お菓子? お菓子もつくる? お、おいしく作ってくれる誰かを探す???
「オトモダチにどうぞってなー」
 食べて食べて。ゼロの言葉は、果たして彼女たちに届いているのか。

「なぁなぁ、よかったら次の休みに遊びに行かへん? ちょうど良い季節やで」

 盛り上がるのを見計らってのゼロの誘いに、乗らない者などいなかった。




 こうして、ゼロは初めて友人を伴い『島』を訪れた。
「よーーう、先週さんぶりー……」
 ゼロが陽気に片手を挙げると、周辺に居た島民がザッッと音を立てて引いたのが解かる。
(え……どういうことだ?)
(私たち、あやしくない、わよね……?)
(ゼロさんの……日頃のおこない、です?)
 少女たちが、古代の後ろに隠れる。
「え、あれ?」
 ゼロも予想外の反応だ。二の句を告げないでいると、

「ま、まさか」
「兄ちゃんに友達がいるなんて……」
「誰も相手にしてくれないから、こんな辺境に来るのだとばかり……」
「先週のだって、でまかせじゃないかって……」

「聞こえとる、聞こえとるで自分ら!!」
 それに、『こんな辺境』と違うやろーー?
「話したやん、酒好きと苺好きの仲間が居るって。貰った地酒と苺な、喜んでくれたんや。そんで、一緒にこの島に来たいってな」
 ゼロの説明を受け、島民たちも安堵したようだ。
 『友達がいない説』は冗談として、自分たちが作ってくれたものを喜んでくれたという事は嬉しい。
 古代が酒を、胡桃が苺を、りりかが苺を使ったチョコ菓子類を語ると、笑顔で頷いてくれる。

「はーい! という事で改めて紹介しまっす。こちらが俺のボスのへーかと、だいまおー・りんりん、そして世界の褌王古代さんです!」
「えぇ、と。へいか、というのはあくまで渾名、であって。別に何でもない、ので。私、力もない小娘、ですから」
 胡桃が困った笑みを浮かべ、照れ隠しにゼロの腕を叩く。なお、その小さな指先には『斬弾』の力が込められており、ゼロは左腕が外れ落ちそうな痛みに笑顔で耐えている。
「だいまおーではないと言っているの、ですよ」
 胡桃の隣で、同じように笑顔のりりかは、『祓い給へ 清め給へ』でそっとダメージを回復してやる。
(……見事なアメとムチ捌きだな)
 それを他方の隣で目にしてしまった古代は、少女たちの連携に恐れを抱くのであった。アメとムチの使用順が逆で、意味も違うが。
「で。俺が褌王の ……誰がだ!!」
「持ってるやんー ほら」
「ひっぱるな、ひっぱるな!!」
 携帯品に常備している真白の褌を取り出そうとするゼロへ抗う古代だが、その段階で手遅れである。
「なんだ、兄さん泳ぐのが好きなのかい。海水浴は7月あたりからだねぇえ……」
「……なるほど」
 海水浴場も、島の周囲に幾つもあるという。
 さまざまな褌で楽しめるかもしれない。

「そんでな。今までは俺ひとりで島の手助けしとったんやけど。この三人も、仲間になってほしいんや。それで紹介しに来ました」
「……三人も?」
「せや」
「この島に?」
「できることは、少ないと思う、けれど」
「えと……よろしくお願いいたします、です」
「俺の娘――胡桃は世界一可愛い。否、銀河一可愛い。むしろ何かと比べることは罪だと言わんばかりに可愛い。その娘がこの島を護る限り、俺も力になると約束しよう」
「……父!? 父までどういうこと!!?」
 『こんなところで、「めっ!!」』とばかりに、胡桃は古代の背をグイグイ押す。
(あ、ずるい、なにも攻撃してへん。贔屓や贔屓)
 隠れたところでゼロのブーイングまでがお約束。
 ゼロが心を許している相手と知って、島民たちの緊張も緩み始める。
「一人じゃできることに限界があるやろ。四人になったらできること、やってほしいこと、聞きたいねん。ええか?」
 急な話だけれども、これを機に『この先』の話をしないか?
 ゼロが持ちかけると、日が暮れる頃には宴会交じりの話し合いをしようということになった。
 ゼロひとりの来訪であれば速攻で宴会なのだが、他にも客人がいるとなれば準備もそれなりに。――という、歓迎ぶりである。




「俺としては、人が既にいる事が驚き桃の木山椒の木だよ……」
「さすがに無人島は見つけにくい時世やしな?」
「それで、あの対応だろ? お前、何したんだよ」
「犯罪者を見るような眼は止めて下さいませんかね古代さぁん!!」
「……んと、ゼロさんなら……だいじょうぶ、です。ちゃんと、みなさんがゼロさんを大すきって……伝わったの、です」
「りんりんは、ほんま天使やなーーーー!!」
「右腕。美味しいアイスクリーム屋さんは、どこ?」
 宴会準備が整うまで島の案内をしようと買って出たゼロだが、話が進んでいるやらいないやら。
 ゼロが拠点としている『家』を紹介してから、島をグルリと巡ろうという事になる。
「おっ、アイスやな。海の方やで。行こ行こ! 搾りたての牛乳を使うとるんで、ごっつ美味いんや。チョコレートも期待してエエで、りんりん♪」
「わかっちゃいたが……道の緩急が激しいな」
 三名のあとをゆっくりと追いながら、古代は土地そのものをじっくりと見渡す。
「俺に出来そうなことと言えば、力仕事や足りない物の買い出しくらいかねぇ」
 『速さ』が必要な時はゼロが、『魔法』や『癒し』にはりりかが居る。胡桃? 娘は存在だけで絶大な効果を発揮する、それ以外に何を望むつもりか。
「お買い物? モモも一緒に、行く」
 てててと戻ってきて、腕にしがみついてくる可愛さたるや! わかるか! おわかりであろうか全国の諸君!!
「せやな、へーかは信仰≪シンボル≫枠やな。へーかやし」
「右腕……それ、夜の席で言ったら……わかる、わよね?」
「存分に、その力を見せて下さるという事ですよね解かりまs」

 ――しばらくお待ちください――

 ゼロがヒールで自力回復をしている間、三人は特産アイスクリームを堪能し。
 泳ぐにはまだ早いと言われる、透き通ったブルーの海を見下ろして。
 足湯で一休みしたら、北方面に在るという工房で『匂い袋』の制作体験。
「線香やお香まで……特産品だったとは知らなかった、です」
 手のひらサイズの、西陣織の袋。可愛らしく美しく、どれにしようか迷いながらりりかは感嘆する。
「なんでもある島だな……。ほんと、ここ一つだけで独立できそうだよ」
 よく見つけたもんだ。古代がしみじみと頷く。
「……友達にも……お土産にしたいわよ、ね」
 胡桃は修学旅行モードに突入していた。
 地図で見れば小さいのに、実際に歩けばそれなりの広さがあって。それぞれの地域に自慢の品があって。
 風の音、波の音、緑の香り、そのどれもが心を優しくさせる。
(短い期間になる、けれど……)
 学園に戻ったら渡したい友人たちの分も欲張って選んで、制作テーブルに着いた胡桃は思う。
(それでも、いつか……いつか、叶うなら)
 ゼロが語る『新しい風』。
 種族も、力も、関係なしに。
 心を同じくする者たちで、穏やかに過ごせる場所。
 そこで、大好きな人たちと過ごせたら。きっと、なんて、素敵な。

 


 さて、宴の場は整った。
 用意されたのは広々としたコテージで、屋外では特産品の野菜や牛肉、海鮮が贅沢にバーベキューにされて焼きあがったものから運ばれてくる。
「俺、此処に住めるわ」
 牛肉と日本酒の相性の良さに、古代はカッと目を見開いた。どこぞの高級ホテルでステーキにされそうなものを、豪快に串焼きと来たもんだ。
 未成年で小食の胡桃には、旬の果物を使ったスイーツ各種が用意された。卵と牛乳のプリンがまた、美味しいこと!
「あの……よろしければ、こちらもどうぞ、です」
 もらってばかりでは申し訳ないから。
 美味しかった苺のお礼にと、りりかは手作りチョコを用意していた。
「チョコレートと合う何か、新しい出会いがあると……嬉しいの」
 きっと、この島なら思いもよらぬ出会いがありそう。そんな期待を抱いてしまう。
 暖かくておいしいものは、心を優しくさせる。
 場が和んだのを感じ取り、ゼロがゆっくりと本題を切り出した。
「常に誰かがいるっちうのは難しいのは、今のところは変わらずなんやけど。そこでやな」
 ゼロは、用意してきた島の地図を広げる。そこには、幾つかの印がつけてあった。
「これは、『へーかの銅像』設置予定の場所や。島の各所に『へーかの目安箱』を設置して、そこに依頼ごとを入れてくれれば大体の事は対応する――っていうのはどうやろ」
「銅像は却下、ね」
 ロールケーキを頬張りながら、空いている手で胡桃はスタンエッジでもってゼロをしばき倒す。
「銅像は、ともかく。ゼロの『家』まで、依頼書を運ぶのは……大変、ですよね。これだったら、皆さんもお願いしやすいですよ、ね」
 ホットミルクで流し込むと、胡桃はニコリと微笑む。
 島を歩き回って感じたのだ。一日中働いて、疲れた体で『頼みごと』を送るのは大変だろう。
 そして、自分たちが来るたびに歓待するのもしのびない。
 もっと気軽に、気楽な関係で良いはず。
「はー、いたたたた……。あとな、みんなで騒げる場所……運動場付き宴会場の『だいまおーのしろ』の建設。これは譲れへn」
「……ゼロさん?」
 じ、っと涙目でりりかが見つめる。
「だいまおーのしろだけは名前の変更を検討して頂きたいの、です」
「と、可憐な乙女が二人そろって嘆願しているわけだが――……」
 そこへ、古代が助け舟を……
「こういうものは、『わかりやすさ』が一番だと俺は考えている。その点、可愛らしいモモの銅像は島内にあっておさまりがいいだろう。『少女へのささやかなお願い』は、子供から大人まで親しみやすいと考える」
「!!?」
 裏切られた!? と、胡桃。
「一方『だいまおーのしろ』だが。これは外敵に対して牽制の意味を持つ。聞くからに怪しいが、何が潜んでいるかわかりにくい故に”真っ先には攻撃しがたい”。これが要所だ。有事に逃げ込み、その間に俺たちが対処すればこれ以上なく安全な場所となる」
「っ!?」
 同じく、りりか。
「さすがに俺たちも建築技術は詳しくない。島内でまかなえるなら、頼みたいんだが……。無論、無償とは言わない。そうだろ、ゼロ?」
「もちろんや。銅像も同じやな。これは『俺から、みんなへの依頼』や。俺に出来ることは、俺が助ける。俺たちにできないことは、助けてくれんやろか。そうやって、助け合って、一緒に暮らしていけんやろか」
 一方的に与えるだけではなく。受け取るだけではなく。
 それぞれが、それぞれにできることを、相応の対価をもって。
 それが、互いの尊厳を守ることになるだろう。
「ちなみに、被害や面倒事は古代さんが主に引き受けてくれまーす。わーい、ありがとう」
「言ってない、言ってない」
(さすがゼロさんと言う感じ……です? 根回しが早いの……)
 手際の良さ・説得力のある弁舌に、なんだかんだとりりかも感心してしまう。
 強制するのではなく、相手の話も聞きながら。
 ……陛下とだいまおーだけは、どうして聞き入れてくれないのか謎だけれど。
(……居場所、ですか)
 いつか、自分の居場所が出来たら。帰る場所が出来たら。
 記憶を失っているりりかには、そんな夢がある。
 記憶を――取り戻したい気持ちと、それを恐れる気持ちもある。『今』の心地よさに、甘えていたいと。
 もし、取り戻しても。取り戻さないままでも。
 この島は、りりかにとって『帰る場所』となるだろうか。

 知らない人がたくさんいる。
 竦みあがりそうな、緊張と恐怖で強張りそうな状況、だけれど。
 優しい空気。自分を取り巻く大好きな人々。美味しい美味しい甘いものが、胡桃の気持ちを和ませる。
 この島に吹く風は、嫌いじゃない。何となくそう思う。


「華桜さん、飲んでるか?」
「あっ、はい。いただいてます、です」
 宴は解散となり、四名が残ってそのままコテージへ宿泊という流れとなり。
 訪れた静寂の中、古代はりりかへ酌を。外見年齢に反して、りりかも成人している。
 こうして、飲み友達として過ごすこともあった。
「ありがとうございます、矢野さん」
「礼ならゼロに言ってやれ。……ここまで浸透してるとは思わなかったわ」
「はい」
 明るく人好きのする性格だとは思っていたが、こんなにも受け入れられているとは。
「ひつようと、されているんですよね」
 撃退士という肩書だけではなく、その接し方も。きっと。
「……ゼロさんの、国ですね」
 王がいて、臣民がいる――そういった支配的な意味合いではなくて。大きな家族のような、そんな。
「あーーっ、それな」
 そこへ、ゼロが割り込んできた。
「国……組織の名前なーー。まだ決めてへんねん。誰か、名案ない?」
「胡桃帝国」
「却下」
 間髪入れずに答えた古代の背を、寝ぼけ眼の胡桃がポカポカ叩いた。
「……んむ……『からすきんぐだむ』?」
「りんりんが、真面目にボケよった……!」
「しんけん、です」
 いっしょうけんめい、考えたのに。
 茶化され、りりかは頬を膨らませる。
「そうね……。『風の島』も、良さそう、だけれど」
 ありふれてるかしら。目をこすりこすり、胡桃が呟く。
「ふぅむ……。ゼロの『新しい風』と併せて新、……じゃあ捻りが無いから『神風』……だめだ、特攻して沈むやつだ」
 『国』と名付けると、身構えられるか?
 土地の名前には、古から続く先人の思いが込められている。
 それを大切にした上で、それとは別としての、『組織』としての呼び名。
 これから仲間が増えた時に、わかりやすく紹介できるように。
「うーーーーん。こいつは宿題やろか」
 こればっかりは、大切なものだから焦ってもよくないはず。
 ガシガシと髪をかきむしり、ゼロは深く息を吐き出す。

 宿題。
 重い響きのはずなのに、何処かワクワクする。
 ――動き出した。
 今まで、一人で下地を築いてきたものが、いよいよ形になろうとしている。
 その実感が、ゼロの心を躍らせる。


 季節は、『次』へと向かい始めた。





【風の国、動き出す季節 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb7501 / ゼロ=シュバイツァー / 男 / 33歳 / 闇より風を起こす鴉】
【ja2617 /   矢野 胡桃   / 女 / 17歳 / 陛下】
【jb1679 /   矢野 古代  / 男 / 40歳 / 世界の褌王】
【jb6883 /  華桜りりか  / 女 / 17歳 / だいまおー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご依頼、ありがとうございました。
『風の国』の物語、第2話をお届けいたします。
楽しんでいただけましたら幸いです。
SBパーティノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年04月28日

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