▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『 ちょこれーとぎふと 』
セフィド=ツィーゲルka5404)&茲妃ka5313



 Side K→

「僕、これからちょこ食べてくるね」
 というセフィドの言葉から全ては始まった。
「チョコってどこで?」
 反射的に聞き返す茲妃に彼は満面の笑顔で言い放つ。
「ちょこの祭典だよ!」
 脈絡のない言葉に突然どうしたと思ったが、そもそも茲妃が気づかなかっただけで、往来には至る所にチョコフェスなるもののポスターが貼られていたのである。
 どうやら街の広場で、お菓子屋さん達が腕に縒りをかけたチョコ達を場合によっては実演しつつ販売するという催しをしているらしい。それに彼は行きたいという事だ。
 祭典というからには会場は多くの人でごった返すだろう、そんな中を匂いに釣られあっちへふらふらこっちへふらふら、遊びに来た他の客にぶつかったりなどして運悪くガラの悪い奴に捕まったり、そうでなくともはた迷惑を振りまきながら、その一方でもみくちゃにもされ、迷子になっているのにも気づかず同じ場所を周回し同じちチョコばかり食べたり、底なしの胃袋に試食用のチョコを放り込み続けて、そのまま帰ってこなくなったり…そんな不安が脳裏をよぎっていったらもう面倒見の鬼としては、友達と呼ぶには未だに歯がゆくも知人と呼ぶにはもう少し暖かな存在である彼の事が心配でほっておく事など出来なかった。
 なんてまだるっこしい言い訳はさておき、そんな次第で茲妃はほぼ条件反射のように名乗り出ていたのである。
「俺も一緒に行こう」
 というわけで茲妃はこの日、自らの意志では決して足を運ぶことのない会場までやってきた。チョコレートフェスティバルと派手に書かれた入場ゲートに向けて吸い込まれていく老いも若きも男も女も人種問わない人波に、よくこれだけ集まるものだと感心しつつ、その手前にある受付で入場券とパンフレットを貰ってくる。
 出迎えてくれる噎せ返りそうなほどの甘い香りに若干怖じ気付きつつも入場ゲートを抜けパンフレットを開いて尋ねた。
「どこから見て回る?」
「このちょこのオブジェっていうのが見てみたいかなぁ」
 パンフレットの表紙を見て彼が言った。食べられないオブジェに興味があるのかとこっそり驚いたりもした茲妃だが。
「自分より大きなちょこなんてお腹に入るかなぁ?」
 と続いた言葉に、ですよね、と内心で返していた。口に出したのは。
「……セフィドなら、入るんじゃないか?」
 だったけど。



 Side S→

「俺も一緒に行こう」
 という茲妃の言葉に安堵とそれから嬉しさがこみ上げてきた。
 もしかしたら誘えば一緒に来てくれるんじゃないかと少しは思ったりもしたのだけれど、本当は甘い物が苦手な彼の事だからちょこなんて興味がない事は明白だし断らないまでも内心嫌がられるかもなんて思ったりもして、一緒に行こうよってなかなか言い辛いなって思ってたんだけど、だから先回りをされちゃったけど、こんな風に彼の方から申し出てくれるなんてセフィドとしては嬉しくないわけがない。
 これから美味しいちょこをいっぱい食べられる上に彼も一緒とあっては小躍りしたいくらいの気分だ。
 会場の外までいっぱいの人混みについつい乗まれそうになるセフィドの代わりに彼が入場券とパンフレットを貰ってきてくれた。
 場内には小さな出店がいくつも並んでいて、既にどこも人だかりが出来ている。どこから見て回るかと聞かれたのでセフィドはパンフレットの表紙を指差した。このオブジェが見たいと言ったら、彼は難なく案内してくれる、何とも頼もしい限りだ。
 ちょこで作られた巨大な鳥が翼を広げたオブジェ。自分が両手を広げるよりもはるかに大きい。朱雀とかフェニックスとかそんなような名前が付いている。色鮮やかで精密で繊細で美しく絹のような軽さと柔らかさを感じさせるちょこ。いったいトリュフ何個分で出来ているんだろう。
 そんな事を考えたら、もう甘い香りも相まって口の中は涎で溢れかえってしまう。お腹もすいてきたし食べたいな…ダメかな…なんて思っている隣で、だ。彼がこう呟いた。
「なんか、食べるのが勿体ないな…」
「えぇぇっ!?」
 ついつい、あり得ないものを見てしまうような目を向けてしまう。
 何言ってるの、食べてこそのちょこだよ! とセフィドとしては力説したいところであったが、甘いものが苦手な彼に上手く伝える方法を考えている間に結局また彼に先を越されてしまった。
「これは展示用だし、食べられるチョコ、見に行くんだろ?」
 そうだった! ここへ訪れた最大の目的はこんな食べられませんのちょこなんかじゃなかった。力説している場合でなはい。
「行く!!」
 そうして反射的にセフィドは駆けだしていた。



 Side K→

「行く!!」
 と、いきなり勢いよく駆けだしたセフィドを慌てて追いかける。その背中はまるで大好きなものを前にはしゃぐ子供のように見えて、ちょっぴり微笑ましくもあったが、好きにさせておくとろくなことがなさそうなので、彼の鞄の紐を手綱のように握りしめた。もはや使命感のように。
 駆け出した彼の足が止まる。もちろん茲妃が鞄の紐を掴んだからではない。「ご試食いかがですかぁー?」というお姉さんの愛らしい声に捕まったからだ。是非もない。
「いただきます!」
 彼は元気に答えてトレーの上にのったチョコの粒を摘んだ。幸せそうにチョコを頬張る彼にこちらまで頬が緩む。
 微笑ましげに見守っていると。
「お兄さんもいかがですか?」
 と自分の方にもお姉さんは笑顔でトレーを差し出してきて茲妃は半ば気圧されるように後退った。見た目の雰囲気のせいか寄り付かれない事はあってもその逆はあまりなくて。
「あ、いや、俺は…」
 しかしお姉さんは商魂逞しいのか服の袖を引っ張って甘ったるい声音でずずずいっと迫ってくる。
「新作のこちらはぁ中にパフが入っていてぇ、チョコなのにサクサク触感なんですよぉー」
 考えてみればここに訪れる者の大半はチョコ好きなんだろう、自分みたいなのは異質に違いない。無理に振り払うにも相手は女性だし、片手にトレーを持っている。さてもどうやって断ろうかと茲妃が考えあぐねているとそれを見かねたセフィドが助け船を出すように耳打ちした。
「僕がココくんの分も食べてあげるよ」
「あ、ああ…」
 彼が心配でついてきたのに、まさかその彼に助けられるとは。
 試食用のチョコを手に取りお姉さんの視線が外れた隙にそっとセフィドにチョコを渡す。甘いものが苦手な自分と食いしん坊のセフィド。なんてwin-winな関係…でいいのだろうか。彼の満足そうな顔に茲妃は考えるのをやめた。
 試食をしたチョコを早速手に取りレジに並ぶ彼を視界の片隅に入れながら、寄ってくる店員らを適当にあしらう。
 何故、こんなにも自分ばかり、試食品を持った店員が寄ってくるのだろう。気のせいだろうか。それとも何かの罠か。よもや、甘いものと自分の見た目のギャップに寄り付かれているとは気づかない茲妃であった。
 ほくほく顔で買い物を済ませたセフィドはといえばもう別のチョコレートに心を奪われているのか。
 あっちへふらふら、こっちへふらふら、それは茲妃が思い描いたそのままの姿だ。
 そうかと思えば突然。
「あ! あっちにも見たことないちょこがあるよ!」
 なんて一応、声をかけたつもりなのかそちらを指差しつつ走り出す。
 間が悪いことにそこに、試食品を持ったお兄さんが茲妃の前に立ちふさがった。今にも人混みに飲み込まれそうな彼に立ち往生しながらも茲妃はなんとかそれを振り切って後を追う。
 完全に見失ったが、彼の背中が消えた方に向かうと程なく店の列に並んでいる彼の姿を見つける事が出来た。その店は並んでいる客に店員が試食のチョコを配るタイプらしい。
 ホッと安堵の息を吐いて茲妃は試食のチョコを食べている彼の鞄の紐を掴んだ。驚いたように振り返るセフィドに釘を差す。
「好きに行くのは良いけど…俺もいること忘れんなよ」
 それに彼は目をぱちくりしていた。迷子になりかけていた自覚はどうやらなかったらしい。だが。
「そうだね、ココくんも一緒じゃないとダメだね」
 と言って笑った。
 気を抜くと、今のようにまたはぐれかねない。かくて会計の時も後もこの鞄の紐を手放すまいと心に誓った。
 チョコを買えてご満悦の彼がパンフレットを広げる。
「この店に行きたいんだけど」
「それならはこっちの方が近道だ」
 彼の指差す店を覗き込みながら茲妃は鞄の紐を掴んだまま歩き出した。
 その道すがら、彼が先ほど食べたチョコの味や触感を語ってくれた。
 興味ないと思っていたけど、意外にそうでもなくて楽しい。
 こんな風に楽しそうにチョコの話をしたり、幸せそうに食べたりする彼の姿を見ていて、少なからず感化されたという事だろうか。
 最初は心配だけでついてきただけだったのに、いつしか苦手な甘い香りも気にならなくなっていて、苦手だと思っていたけど、あんなに美味しそうにされると、一粒くらいなんて気分になるから不思議だと思った。

 だから。
 そんな帰り道のサプライズに――。


 ▽
 ▽
 ▽



 Side S→

 甘くて美味しくて、まるで宝石みたいなちょこれーとたちの誘惑についつい夢中になってしまうのは仕方がない。本当は片端から全部試してみたいけど、さすがに先立つものもあるから厳選しないとね、というわけでセフィドは心を鬼にしてパンフレットと睨めっこしながらうろうろしていると、道行く人の持っているちょこに目が止まった。
「あ! あっちにも見たことないちょこがあるよ!」
 面白い形をしたちょこを食べながら歩くその人を見失いそうになって慌てて追いかける。なんとか追いついて息も切れ切れに声をかけた。
「それ、どこの店のちょこですか?」
 突然の見知らぬ者からの問い、しかしそこはちょこフェスに集った同志というわけだ、何とも気さくにその人たちは店を教えてくれた。
 何のことはない、すぐ目の前にあったその店の列に並ぶ。そういえば彼の姿が見あたらないけど、先ほども後ろで見ててくれてたし、今も離れて見ててくれているのだろう、くらいに思う。
 それよりもお店の人が並んでる間にどうぞと試食用のちょこを持ってきてくれる事の方が重要だ。重要だ、とセフィドは思っていたのだけれど。
 なんだろう、美味しいのだけれど、この物足りない感じ。
 と、突然鞄の紐を誰かに掴まれた。
 びっくりして振り返ると彼のちょっと困ったような顔がそこにある。
「好きに行くのは良いけど…俺もいること忘れんなよ」
「…………」
 彼の言葉に思わず目をぱちくりしてしまったのは、彼の事を忘れていたからでも、置いてきてしまっていたらしいからでもない。
 口の中のちょこの味が…彼の姿を見て変わったからだ。物足りなかった穴にそれが上手くはまったような、うまく言葉で説明出来ないのだけれど、一つだけ確かな事は。
「そうだね、ココくんも一緒じゃないとダメだね」
 どこかで見ててくれるなんて一方的なのじゃなくて、隣にいて、こうやって鞄の紐を握ってて、それはつまり手の届く距離にいてくれるという事で、彼が傍にいてくれるからもっと美味しく感じられるのかな、なんて思ったりして。
「1人で食べるご飯より、みんなで食べるご飯という事かな」
「なんだ、そりゃ。どうした、急に」
「なんでもない」
 試食のちょこを食べて、レジの列に並んで買ったチョコを鞄に詰めて、また別の店へ試食に行く。
 食べ歩き、正に食べながら歩く、最高のイベント。ちょこも美味しくて、彼も楽しんでくれているらしい事も顔を見ていたら伝わってきて嬉しくて時間の経つのも忘れてしまいそうだ。
 とはいえさすがにずっと歩きっぱなしで足が疲れを訴える。というわけでベンチで小休止する事に。
 ついでに上から買った順に詰め込んでいただけの荷物を、仲間のお土産用のチョコと自分用のチョコに整理する事に。
 買ったときの事を思いだすと感慨深くなる。試食の味を思い出したら、また食べたくなってきたりもしたが、さすがにお土産用に手を出すわけにはいかないので、我慢我慢なんてセフィドが葛藤していると。
「そうだ飲み物、いらないか? 買ってくるよ」
 彼が立ち上がって言った。
「じゃぁ、…紅茶をお願い」
「ああ」
 そう言って買い出しに行く彼の背を見送って、セフィドは整理の為に出していたチョコを慌てて鞄に押し込んだ。
 今がチャンスだ、と思ったのだ。
 実は気付いていた。あれほど甘い香りのチョコに辟易していたのに、お酒の匂いに釣られて唯一彼が試食を断らなかったチョコがある事を。
 そして紅茶の置いてるドリンクバーはこのベンチから、中央のオブジェを挟んだ反対側まで行かないと売っていない事を。


 ▼
 ▼
 ▼


 ベンチでセフィドは紅茶を彼はコーヒーを飲んで互いに人心地吐いてから、帰路についた。
「ココくん。今日はありがとう。とても楽しかった」
「ああ、俺も楽しかったよ」
「それでね…」
 セフィドはパンパンになった鞄の一番上に入っているシンプルなラッピングの施された箱を取り出して彼に差し出した。
 それはセフィドが彼のために選んだビターチョコだ。
「ココくん甘い物苦手でしょう? …特別だよ」
 チョコじゃあ喜んで貰えるかわからないけど…でも、少しだけでも、喜んで貰えたら嬉しいなって、そう思う。今日一日彼が一緒にいてくれたから、美味しくて楽しかった。そのお礼と日頃の感謝を込めて。
 喜んでくれるかな、とセフィドは彼の顔を覗き込む。
 彼は少し驚いたように目を見開いて、それからどこか明後日の方を向き、はにかむみたいにして言った。
「……大事に食う」
「うん!」

 また一緒に出掛けようね。



 Side K→

 ▽
 ▽
 ▽

 ――嬉しくて、でもそれをうまく表に出せなくて「……大事に食う」なんて、どこかぶっきらぼうに言ってしまったけれど、顔が耳まで熱いから、なんかもう、いろいろ伝わってるんじゃないかと思う。

 また一緒に出かけられたらいいな。




 ■END■


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

ka5404/セフィド=ツィーゲル/男/43/霊闘士(ベルセルク)
ka5313/茲妃/男/28/霊闘士(ベルセルク)



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

お待たせしました。
在りし日のメモリアルログをお届けします。
楽しんで編集させていただきました。
懐かしく楽しんで頂ければ幸いです。



SBパーティノベル -
斎藤晃 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2017年04月28日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.