▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『俺たちゃ中年だっちゅーねん 』
天狼心羽紗音流aa3140hero001)&ユエリャン・李aa0076hero002)&比蛇 清樹aa0092hero001)&シュネー・エルフェンバインaa1101hero001)&ラドヴァン・ルェヴィトaa3239hero001)&鵜鬱鷹 武之aa3506


 女三人寄れば姦しいと言う。
 では男、しかもオッサンが六人集まった場合は何と言うのだろう。

 むさ苦しい、暑苦しい、鬱陶しい……まあ、どう転んでも爽やかなイメージには程遠いと思われる。
 そんなオッサン六人が、雪深い山の中にある名も知れぬ温泉に浸かっていた。
 これが美女六人なら眼福である。
 しかしオッサンだ。
「それがどうした、こちとら見せモンじゃねーぞ!」
 オッサン達はすっかり出来上がっている。
 見れば、湯には盆に載せた徳利が浮かび、周辺には空になった一升瓶がいくつも転がっていた。
 横付けにされた三台のスノーモービルには、まだ手を付けていない日本酒やビールが何本も詰まれている。
「おうおう、それでバレンタインの戦果どうだったよ!? ワシはお店のオネーチャンからサービスチョコもらったから、ホワイトデーはボトル入れに行かなきゃネ!」
「それ、どう考えても販促だよね」
「本人もサービスと言っているあたり、落涙を禁じ得ないであるな」
「俺は相方から、後は片手で足りるくらいだ」
「ばれんたいん、何だそれは?」
「俺様ははいずれ家臣となる幼子から贈られたぞ!」
 静かな温泉に、オッサン達の野太い声が響く――


 ・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥


 これは、彼等が企画した「ホワイトデーだから純白のゲレンデに繰り出そうぜ!! ドキッ!! 国鉄で征くオッサンだらけの春スキー大会in新潟」、その一部始終を記録した物語である。

 首謀者は言うまでもなく、退屈させると危険が危ない系のこの人、天狼心羽紗音流(aa3140hero001)だ。
 しかし計画の実行を目前にして、ユエリャン・李(aa0076hero002)からストップがかかった。
「ちょっと待て赤いの。だから何でオッサン集会に我輩が呼ばれるのだ」
「わかる! わかるぜ!」
「そうであろう、では我輩はこれにて――」
 だが、くるりと踵を返そうとしたユエリャンの肩を、紗音流のごっつい手ががっつりと掴む。
「ワシもあと20歳若いリャンリャンと来たかったわ!」
 え、そこ?
「だがリャンリャンよ、共にオッサンとなったこの時に出会ったのも何かの縁――んがっ!?」
 踏まれた。
 足の甲を思いっきり、10センチのピンヒールで。
「我輩はまだ25歳であるぞ」
 だがしかし外見年齢28歳、実年齢36歳――文句の付けようもなくオッサンである。
 見たところ性別不明という点を抜きにしても、中年であることに変わりはない。
 よって離脱は不許可とする、以上!

「すきーとは、なんだ?」
 シュネー・エルフェンバイン(aa1101hero001)が無表情のままに首を傾げる。
 だが耳がピコピコとせわしなく動いているところを見ると、どうやら興味津々である様子。
「俺様もスキーは初めてだ、知識としては心得ているがな」
 その疑問に答えようと、ラドヴァン・ルェヴィト(aa3239hero001)がこれまでに得たジャパンカルチャーの知識を掘り返し、前世紀の遺物が置かれた地層からそれを引っ張り出して来た。
「スキーとは日本における前時代の特権階級が好んだとされる、貴族的で優雅な遊びだ。雪の上を板に乗って滑るだけという、何の生産性もない活動であるがゆえに、今では廃れてしまったと言われている」
「いや待てラド、ちょっとそのトンデモ知識は待て!」
 紗音流が慌てて首を振る。
「廃れてない、スキーは廃れてないから! 確かに今はスノボに押され気味だけど!」
 それに特権階級の遊びでもないし、むしろ庶民的な方で――
「なに、みんなスキー知らない!? え、だって平均年齢だいたい40歳だし、そのへんってバブル景気のスキーブーム世代じゃないの!?」
 しかし、紗音流を見つめる仲間達の瞳は語っていた。

 バブルって何?
 スキーブームって何?
 あと国鉄って何?

 同世代のはずなのに、ジェネレーションギャップに交流を阻まれるとは、これいかに。
「昔はこの国もやたらと景気が良かったんだよ……ジャパンアズナンバーワンとか浮かれててな……あったんだよ……右肩上がりの成長を無邪気に信じてた時代が……」
 貧困とか格差なんてものは、どこか遠い国や時代の出来事だと思っていた、今となっては夢のような、まさに泡のように儚く消えた時代。
「ホコ天でナウなヤングがラジカセ片手にローラースケート転がして踊ってたんだよ……」
 なんて言っても今の子には意味がわからないだろうけれど。
「その頃はな、JRのことを国鉄って呼んでたんだ……ああ、首都圏を走る電車を国電って呼んでたこともあったっけな……そうそう、JRになってからはE電って言い換えてた気もすっけど……もう、誰も言わねえよな……」
 紗音流はその泡が弾けて消える寸前の、最後の輝きを見ていた。
 あれから20年あまり、思えばこの国も変わったものだねぇ婆さんや(誰

「まあいい、ごちゃごちゃ言う前にやってみりゃわかるって! スキーの楽しさと、それにかこつけた温泉あんど雪見酒の素晴らしさがな!」
 どちらかと言えばメインは後半部分だったりするかもしないかも――と、それはともかく。
 新幹線に乗り込んで、いざ征かん白銀のゲレンデ。

 ぷっしゅうぅぅ!

「電車に乗ったらまずはコレだよな、コレ!」
 座席に落ち着いたら何はなくとも缶ビールを開けるのがオッサンの嗜みである。
 三人掛けの座席を向かい合わせ、靴を脱いで前の座席に足を投げ出すのもまたオッサンのオッサンたる所以。
「普通、そういうことは前の席に誰もいない時にするものだろうが……まあ、いいか」
 蹴ったり蹴られたりしながら、それでも足を伸ばすことを止めようとしないオッサンどもを横目に見ながら、比蛇 清樹(aa0092hero001)はひとり静かに缶ビールを傾ける。
「騒ぎ過ぎると周りに迷惑だ、ほどほどにな」
 とは言え、賑やかなのも悪くない。
 と、前の座席に丸まっていた、ヨレヨレ白衣にくるまった毛玉が何か呟いた。
「カツカレー、まだかなぁ……」
 毛玉の正体は鵜鬱鷹 武之(aa3506)、タヌキのワイルドブラッドだ。
「紗音流くんが奢ってくれるって言うから来たのに……」
「おう武之、カツカレーは向こうに着いてからだ」
 紗音流の返事に、もふもふの丸い耳がくたっと折れる。
「じゃあ、待たせた分だけ豪華にしてね……エビフライ付きが良いな」
 それだけ言うと、武之は果報を寝て待つ構え。
 マフラーのように首に巻かれたもふもふ尻尾が、清樹のもふ願望を刺激する。
 ついつい手が出そうになるけれど――
「モフるならカツカレー奢って」
「何故カツカレーなんだ?」
「養ってくれてもいいけど、そしたら何でもするよ」
「いや、養うつもりはないが」
「じゃあ、カツカレー」
「だから何故カツカレーなのかと……」
 そんな堂々巡り的な会話を続けるうちに、新幹線は長いトンネルを抜けて雪国へ。

「おぉっ!?」
 ごーん!
 思わず立ち上がり、身を乗り出した拍子に窓ガラスに額をぶつけるラドヴァン。
「これはどうしたことだ、世界から色が消えているではないか!」
 いや、色どころか世界そのものが消えてしまったようだ。
「この世界は何処か異界からの浸食を受けているのか!? まさか、スキーとは名ばかりで実はこの白い脅威と戦うために――」
「落ち着けデカイの、それは雪であるよ……初めて見たわけでもなかろうに」
 背もたれを後ろに倒して優雅に足を組んだ紅一点(?)、ユエリャンに言われてラドヴァンは額をさすりつつ改めて窓の外を見る。
「それはそうだが、これほどのものは初めてだ。この白いもの全部が雪なのか」
 見渡す限りの銀世界。
 見上げた空にも雲が低く垂れ込め、どこを探しても色というものが見当たらない。
「本当にここは人が住める地域なのか……?」
「冬眠、してるとか?」
 ひょっこり顔を出したシュネーが、ぱたりと尻尾を振りながら、かくりと首を傾げる。
「いやいやないから、冬眠とかないし普通に住んでるし!」
 5本目の缶ビールを開けながら、すっかり出来上がった様子の紗音流がひらひらと手を振った。
「だとしたらこの厳しい環境で生きるために、人々はなにがしかの工夫を凝らしているはずだな」
 ラドヴァンは統治者の目で雪景色を見渡す。
 自分がこの地域を治めるとすれば、いかなる手段で生活を維持するだろう。
「そうか、彼等はこの雪の下にトンネルを掘っているのだな!」
 地下都市ならぬ雪下都市。
 カマクラという居住形態が存在するように、雪の中は温かい。
 反対に雪を保冷剤として使えば食料の長期保存も可能だ。
 外敵に発見されることもなく、秘密裏に力を蓄えることも出来る。
 これこそ安心安全、そして快適な市民生活を保証する、最善のシステムではないか。
「……デカイの、それは恐らく日本文化の過剰摂取による副作用であろうな」
 文化は文化でも頭にサブが付く方のアレ、とユエリャン。
 つまり平たく言えばアニメやマンガの見過ぎにより、妄想力が強化された状態。
「ここはまだ人っ子一人いない山間部ゆえ、そうした妄想が捗るのであろ」
 まあ、それも嫌いではないけれど、むしろ余計に膨らませたい気もするけれど。
「都市部に入ればまた違った景色が見られるであろうよ」
 彼等を乗せた新幹線は、駅のホームへと静かに滑り込んでいった。


「……雪、ないな……」
 駅の改札を出たシュネーは、尖った耳を力なく下げたまま、無表情に辺りを見渡す。
 尻尾はだらりと垂れたまま、その先端だけが不満そうに揺れていた。
「いやいや、あるから雪! スキー場にはちゃんとあるから!」
 その腕を掴み、紗音流はバス乗り場までシュネーを引っ張って行く。
 が、問題児は彼一人ではなかった。
「まだ移動するの?」
 もふもふタヌキが一匹、荷物を抱えて丸くなっている。
「もう動きたくない働きたくない、誰か養って」
「あーはいはい、もう少しだから! 直通のシャトルバスですぐだから!」
 宥めすかしてバスに乗せ、一行は今度こそ白銀の世界へ――

「なるほど、これが現実か」
 バスの中から外の様子を眺め、ラドヴァンは感心したように頷く。
「しかし同じ雪を掻くならトンネルを掘る方が楽ではないか、これでは雪が降る度に雪掻きが必要になるだろう」
 非効率この上ないと、元為政者は不満を漏らす。
「俺様がこの地を手に入れた暁には、非効率を廃して理想の雪国を作り上げてやろう」
「……人はそれを、大きなお世話と言うのだ」
 野望に燃える未来の王を横目で見つつ、清樹がぽつりとこぼす。
「む、何か言ったか清樹?」
「いや、何も?」
 しれっと答えて、清樹は窓の外を指さした。
「それより、ほら。裏通りなんかは雪が残っているだろう? そうした場所を移動するために、スキーは必需品なんだ」
「なんと、そうだったのか!」
 ラドヴァンは信じた。
 なんか嘘くさい気もするけれど、面白そうだから信じて乗っかることにした。
「ならば、いずれ雪国を統べる俺様にとって、スキーは必要不可欠な技術!」
 モチベ上がった!
 さあ滑るぞ!

 ――え、まだ?
「すきーうぇあ……というものを、着るのか」
 ずらりと並んだレンタルウェアを前にして、シュネーはぶんぶんと尻尾を振る。
「ラドの着れるウェアあっかなー」
 ほぼ唯一、スキーに慣れている紗音流が適当に皆の分を見繕うが、問題はオッサン達の無駄に良すぎる体格だけではなかった。
「尻尾穴が開いてるウェアとか、ねーか。ねーな、さすがに!」
「それより紗音流くん、カツカレーまだ?」
 隅っこで荷物と一緒に丸まった武之が、もふもふしっぽを気怠げに振っている。
「カツカレーな! わかってる、忘れてないぜ!」
 でも今はスキーが先……いや、そう言えば腹が減ったな。
 新幹線では酒浸りで、弁当を買うのも忘れていたし。
「怠け屋は仕方ないであるなぁ、かつかれーでも何でも頼むが良いぞ」
 基本もふもふ勢に甘いユエリャンの一声で、急遽スケジュールが変更となった。
 再び遠のく白銀の世界、でも仕方ないじゃない。
 ユエリャンがもふもふ勢に勝てないように、オッサンは食欲に勝てないのだ――とりあえず、まだカツカレーが胃にもたれず美味しく食べられる間は。


「はいカツカレーお待ち!」
 言い出しっぺの紗音流が全員分奢るよ、太っ腹だね!
「エビフライは?」
「ほれ、どーんと大盛りだ!」
 エビフライカツカレーなんてメニューはさすがにないからそれぞれ単品で、合体はセルフでおなしゃす。
「からい……」
 食欲をそそるスパイシーな香りに誘われて、カレーを思い切りパクっといったシュネーはぶわっと涙目。
 初めてのカレーは、とても大人の味でした。
「でも、肉はうまい」
 カレーはともかく、カツはいける。
 武之が出発前からカツカレーカツカレーと、「ヤシナッテ」と同じくらいに唱えていたのもわかる気がする。
 その彼は、二つの皿を前にしてご満悦の様子。
 あまりに嬉しそうだから、つい自分の分も分けてあげたくなった。
「たけゆき、かつかれー、好きなのか?」
 一切れだけど、精一杯の気持ちです。
 あと、ユエリャンにも。
「細いから、もっと食べたほうがいい」
 カツだけを自分の小皿に移して、残りのカレーとごはんをユエリャンの前に、どん。
「有難いことではあるが、それでは雪の子が足りなくなるであろ?」
「でも、からい……」
 うるうる涙目で見つめられれば、ケモナーでなくともついつい甘やかしたくなるもの……たとえ相手が良い歳をしたオッサンでも。
「ならば我輩のカツをやろう。あまりカレーはかかっておらぬから、この程度なら食べられるであろ」
「ありがとう、ゆえ、やさしい」
 いやいや、それほどでもないし、お礼はいいからその角とか撫でさせてくれないかな、と心の声。
 あと武之の耳とか尻尾とか。
「だからカツカレー奢ってくれるならモフっていいってば」
 漏れていました、心の声。
 ユエリャンは重篤なケモナーである。
 出来ることなら、このモフモフを養って毎日モフり放題ケモパラダイスしたい。
 しかし、残念なことにそれはもう一人の英雄にキツく止められている。
(「正直カレーライス二皿は少々厳しいのである……今この時だけでも堪能できるならば、この一皿を怠け屋に……いやしかし、せっかく雪の子が我輩のためを思って分け与えてくれたものを、横流しするのは人倫にもとる行為であるな……それに、カツがなければカツカレーとは……」)
 ぐるぐると葛藤するユエリャン、その薄い背中をオッサン特有のデカくてゴツい手が叩く。
「つまらぬことで悩むなユエリャン、カツカレーなど俺様がいくらでも奢ってやる!」
 はい、武之にカツカレーとシュネーには甘口のお子様カレー、ラドヴァン陛下から追加注文が入りました!
「これで問題なかろう。皆の者、心置きなくモフるが良いぞ!」
「やっぱりラドさんは頼もしいな」
 目の前にカツカレーの皿を盛られて、武之は丸いモフモフたぬ耳をピコピコさせる。
「でも奢ってくれたのはラドさんだし、モフっていいのはラドさんだけね。あと、どうせなら養ってよ、養ってくれるなら何でもするよ」
 武之は本能的に、彼が一番のカモ――いやいや、最も養ってくれる可能性が高いと目を付けていた。
 そう、あの魅力的な胸筋の奥に秘められたハートは、その筋肉のごとくしなやかで美しく、逞しいに違いないのだ。
 筋肉、嘘つかない。
 今はまだ良い返事をもらえていないけれど、いつかきっと……彼が一国一城の主となった暁には。

「よぉし、腹拵えが終わったら今度こそスキーだ! っと、その前に!」
 紗音流がごそごそ取り出したのは、食後に飲むタイプの胃薬である。
「飲んどきたい奴いるか! いるよな、オッサンだし!」
 え、なに、誰もいないの?
 カツカレーの後なのに?
 やだなー、みんな見栄張ってるんじゃないの?
 胃もたれしたままスキーとかツライよ?
「いや、ワシも特に必要ってわけじゃねーのよ!? たださ、ほら、念のためって言うか転ばぬ先の杖的な、デキる大人の嗜みって言うか?」
 結局、誰にも必要とされなかった胃薬は、そのままひっそりとポケットにしまい込まれたのであった。
 後でこっそり飲んでおこう、という密かな思いと共に。

 そしていよいよ、今度こそ、いざ白銀のゲレンデへ!
「で結局、ラドは着られるウェアあったの?」
「俺様はそこまで規格外のサイズではない、それより問題は――」
 紗音流の問いに、真っ赤なウェアに身を包んだラドヴァンは、その視線をシュネーに投げる。
 デザインを選ぶ余地がない点を除けば、サイズは豊富に揃っていた。
 しかし。
「尻尾を通せる穴の開いたウェアは、さすがに置いていないようだな」
 状況がよくわかっていないらしい本人に代わって清樹が答える。
「シュネー、その尻尾は……こう、服の中に入れておくことは出来るのか」
「あまり、しないな。でも、やってみよう」
 サイズの合いそうなウェアを手渡され、シュネーはまずそれをまじまじと見た。
 次いでまずは下からと、ファスナーを開けて広げてみる。
 それは随分と変わった形をしていた。
「せいじゅ、このずぼんは足がずいぶん細くて短いのだな。それに、ちゃんと尻尾の穴もあるぞ……大きすぎて、尻がすーすーするが」
「ってそれ上着やーん!?」
 袖に無理やり足を通し、首の穴から尻尾を出して、胸の上まで持ち上げた裾のほうからファスナーを降ろそうとしているシュネーに、紗音流がツッコミを入れる。
「紗音流、笑っていないで早く止めてやらないか」
「そう言う清樹だって黙って見てただろ!」
「俺はシュネーが何をしようとしているのか、理解するまでに時間がかかっただけだ……なにしろ常識人だからな」
 なんて言ってる間に、シュネーはますます酷いことになっていた。
 今度はズボンに頭を突っ込み……何をどうしようと言うのか。
「帽子。角と首も、温かい」
 ああ、うん、頭に被って足の部分に角を通して、余った裾を首に巻いたら丁度良いかもね。
「ってそれも違うな!? つかもう裸でいいよ! シュネー普段から半裸なんだし、裸スキーもいいんじゃない!?」
「良いと思うなら、まずは己が試してみることであるな、赤いの」
 溜息混じりに首を振ったユエリャンはお洒落なウェアにサングラス、雪焼け対策万全という一分の隙もない装備でシュネーの前に立った。
「これはこうして着るものであるよ、スキーウェアと言っても普通の服と変わりないでな」
 着替えを手伝って、ついでに可愛いピンクのマフラーも巻いてあげよう。
「おお……ゆえ、ありがとう」
 いい人だ。
 せいじゅは「ほごしゃ」という職の人だと聞いたけれど、ゆえも「ほごしゃ」の人だった。
「尻尾は身体に巻き付けておくのはどうであるかな」
「わかった、やってみる……あれ?」
 やってみたけど上手く歩けない。
 なんかフラフラして転びそうになる、って言うか転んだ!
「っと、危ねえ!」
 咄嗟に支えてくれたのはラドヴァンだった。
 シュネーは思わず尻尾を振ろうとしたけれど……動かない。
「ふむ、なるほど。尻尾のある生き物はそれで身体のバランスを保っていると聞くが、シュネーの場合もそうなのだろう」
 出せぬなら 作ってしまえ 尻尾穴
 ハサミでちょっきん、はいおしまい。
「あーっ! お客様! 困りますお客様! こちらレンタル商品ですので……!」
「なに、買い取れば良いのだろう?」
 店員の悲鳴をものともせずに、ニコニコ現金払い。
 俺様、太っ腹。
「ものはついでだ、武之にも穴の開いたウェアが必要だろう」
「あー、俺はいいよラドさん。腹いっぱいだし動きたくない眠い、それより養って」
 スキーなにそれ美味しいの、美味しいものはカツカレーで充分だから、本日の営業は終了しました。
「なにオッサンくさいこと言ってんの武之! オッサンだけど!」
 紗音流は隅っこで丸くなっていた武之を立たせようとするが。
「これは労働じゃねえから! いけるいける! って、いねぇし!?」
 その姿は、いつの間にか外の「雪遊びコーナー」にあった。
 何をするのかと見ているうちに、どんどん出来上がっていく雪の山。
 それを固めて、中をくり抜いて――はい、カマクラの出来上がり。
「労働、してるよな」
 しかもかなりの重労働なんですが、それは。
「でもまー、それもいいよね! ふりーだむバンザイ!」
 そう、オッサンとは自由なものなのだ。
 日頃は様々なしがらみに囚われて自由とは程遠い生活を強いられていればこそ、こんな時に自由を満喫せずに何とする。
「滑れるオッサンも滑れないオッサンも、好きに楽しめばいいよね!」

 カマクラでぬくぬく冬眠に入った武之を置いて、残る五人は今度こそ、本当に今度こそ、いざ白銀のゲレンデへ!
 紗音流は一般人のオッサンたちと遊んだりもするので、スキーはそこそこ出来るほうだ。
 本来なら上級者コースもどんと来いだが、まずはビギナーオッサンずに合わせる形で傾斜の緩やかなところから。
「リャンリャンは慣れてる感じだな!」
「そうさな、自前で道具を揃える程度には滑れるであるよ」
 紗音流の問いに謙遜してみせるユエリャンだが、実は滑り方は完璧にマスターしている。
「インストラクターの資格は持たぬが、身内に教えるだけなら構わぬであろ」
「おう、頼もしいぜ! おっ、清樹もなかなか決まってるじゃねーか! こりゃけっこう難関コースとか行けちゃったりする――」
「俺がアウトドア派に見えるのか?」
「え、なに、カッコだけ?」
「失敬な、普通に滑れる程度だ。まあ、基本を教える程度なら出来るだろうが」
 初心者二人に経験者が三人付いていれば、まず心配はないだろう。
 ……いや、前言撤回。
「紗音流は教える気ないな」
「その気があったとしても無理であろ」
 多分、紗音流は教師に向かない。
 面倒見は良いのだが、なにしろ自由すぎる。
 今も「手本を見せる」と言いつつ、ひとり風になっていた。
「子連れも結構いるな! マジ和む」
 もちろん他の客に迷惑になるようなことはしないが、フリーダムなことこの上もなし。
「こっちは無邪気すぎるシュネーしかいねーけど!」
「……で、シュネーは何をしている」
 清樹の見るところでは、雪の中に顔を突っ込んでいるようだが。
「せいじゅ、俺はわかったぞ」
「何が?」
「これは、かき氷だ」
「……そうか」
「でも、甘くない」
「シロップがないからな」
「しろっぷは、どこにある?」
「夏になれば手に入るだろうな」
「今は、ないのか?」
「かき氷は夏の暑い時期に食べるものだろう?」
「おお、そうか……では、夏になったらまた来よう」
 かき氷食べ放題だと喜ぶシュネーに、清樹は言えなかった。
 その頃には雪の「ゆ」の字もなくなっている、とは。
 かき氷は雪じゃない、とも。
(「まあ、今しばらく夢を見させてやっても良いだろう」)
 それよりも、今はスキーを正しく教えることのほうが大切だ。
「シュネー、スキー板はそうやって使うものではない」
 上に座ってどうするのか。
 いや、流した板を追いかける遊びでもないから。
 雪に突き刺すものでもないし。
「まずは装着の仕方から教える必要があるか」
 それとも他の遊び方を考えてみようか。
「スキーが無理ならソリで滑るか……いや、サイズ的に難しいか」
 子供が使っているようなソリとか、あっと言う間に転んで雪だるまになる未来しか見えない。
「同じソリでも犬ぞりなら……いや、そんなものはないか。スノーモービルなら……」
 だが諦めるのはまだ早い。
「とりあえず装着は出来たな。ではまず、そのまま雪の上を歩いてみようか」
 いちに、いちに。
「うおぉ、すべる……!」
 つるつる滑って前に進みません先生!
「ああ、手に持ってるそれ……ストックというのだが、それをつっかえ棒のようにして……」
「おぉ、進んだ」
 次は横にカニ歩き、それが出来たら板をハの字にして軽く滑ってみよう。
「はのじ……こ、こうで……こう、か?」
 シュネーは左足の板を真っ直ぐに置き、右足を……こう、くねっと、くるんと……何してるん?
「……はのじ、むずかしい……」
「それは、もしかしたら……ひらがなではの字を作ろうとしているのか」
 それは難しいね、うん。
 って言うかスキー板が蛇腹にでもなってかぎり無理だと思うよ。
「カタカナのハの字、こうだ」
「おぉ……!」
 先生のお手本通りに、ついーっと滑って……あの、止まる時はどうすれば。
「転べ」
 生まれたてのオッサンは疑うことを知らない。
 素直に転んで雪まみれ、尻尾をぶんぶん振って「出来た!」と喜んでいる。
「念のために言っておくが、これは意地悪でも指導放棄でもないぞ。スキーは転んだ数だけ上手くなるものだ、そのうち身体が勝手に動くようになるだろう」
 習うより慣れろ、だ。

 一方の初心者、ラドヴァンは最初のうちこそ派手に転んで雪まみれになっていたが、そこは流石に元一国の主にして英雄。
 周囲のスキーヤーの動きを見て、ユエリャンに口頭で僅かにコツを教わっただけで、あっという間に難なく滑れるようになっていた。
「ふむ、さすがに飲み込みが早いであるな。初心者コースは終了でよかろ」
 次はリフトでもう少し上の中級者コースへ行ってみようか。
「リフトに乗る時は板を平行にして、こうタイミングよく――」
 ごん!
 ユエリャン先生、リフトにどつかれて雪に埋もれました。
「い、今のはタイミングを間違えるとこうなるという見本であるよ、デカイのも気を付け……おや、デカイのはどこへ行ったであるか?」
 雪まみれの顔を上げ、周囲をきょろきょろと見回せば、遠ざかるリフトに真っ赤なスキーウェア。
「こうか! 意外に簡単だな!」
「う、うむ、さすがであるな……!」
 次のリフトをどうにか捕まえて、ユエリャンもラドヴァンの後に続く。
「降りる時は歩かずそのまま滑るのであるよ、リフトが押し出してくれるであるから……おお、上手いものであるな」
 と、見とれていたら降り損なうところだった。
 しかし、ここは先生として華麗な着地を決めなければと気負ったのがまずかったのだろうか。
 またしてもリフトにどつかれ、今度は雪に埋もれることはなかったものの、そのまま滑って……止まれない。
「あ、あ、あーーーーーっ!?」
 ユエリャン先生、スキーの理論は完璧である。
 人に教えることも上手い。
 だがしかし、名コーチは必ずしも名選手にあらず。
 要するに致命的な運動音痴ゆえに、実技は普通にド下手であった。
「頭でわかっていても体は動かぬでな!」
 スピードに乗ったまま、滑る、転がる、止まれない。
「わはは、失敗は成功の母であるぞ!」
 高笑いと共に転がり落ちて雪だるまになり、ごろごろごろごろ、どーん!
 麓で何かにぶつかって、ようやく止まった。
「おー、何かと思ったらリャンリャンか! 新手の雪遊びか、しかし美魔女が台無しだぞ!」
「誰が美魔女であるか、赤いのこそ何を――」
 その時、雪だるまの第二弾が、どーん!
「今度はシュネーか、何だそれ流行ってんのか!?」
「いや、そういうわけでは……」
 恐らく、転がるユエリャンを見て真似たのだろう。
「ゆえ、これは面白いぞ」
 雪まみれの耳と尻尾がぴょんぴょんパタパタしている。
「そうであるか、しかしこれは危険な遊びゆえ必ず誰かが見ているところでやるのであるぞ?」
 というわけで、まさしく失敗は成功の母。
 新しい遊びが出来上がりました?
「しかしリャンリャン、丁度良いところに転がってきたな!」
「む? 赤いのはここで何をしておったのだ?」
 ユエリャンが尋ねると、紗音流は背後に停めたスノーモービルの車体をぽんと叩いた。
「借りたはいいが動かせなくてな、仕方ないからここまで押して来ちゃったよ! リャンリャンなら運転出来るよね!」
 そんなわけで、これから温泉探しに行こうぜ!
「こいつは二人乗りだから、あと二台借りて、武之を拾って――」
「待て赤いの、今探しに行くと聞こえたのであるが」
「おう、言ったぜ!」
「遭難する未来しか見えぬであるな」
「はっはっは、心配すんな、だーいじょーうぶい!」
 呆れ顔のユエリャンに、紗音流はVサインを作って見せる。
「あっ、それともこっち?」
 右手の親指を鼻の穴に突っ込み、掌を返すように広げて――
 さすがにそれは知らないよね、バブルより遙か昔のテレビドラマが元ネタだし!

 そんなわけで、六人のオッサンはスノーモービルで雪原を征く。
 何の因果か男二人で二ケツして、温泉求めて東へ西へ。

 彼等の旅は、まだまだ続く――


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【aa3140hero001/天狼心羽紗音流/男性/外見年齢45歳/バブリー45歳児】
【aa0076hero002/ユエリャン・李/?/外見年齢28歳/美魔女的36歳児】
【aa0092hero001/比蛇 清樹/男性/外見年齢40歳/堅物40歳児】
【aa1101hero001/シュネー・エルフェンバイン/男性/外見年齢42歳/生まれたての42歳児】
【aa3239hero001/ラドヴァン・ルェヴィト/男性/外見年齢46歳/俺様46歳児】
【aa3506/鵜鬱鷹 武之/男性/外見年齢36歳/ぽんぽこ36歳児】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
いつもお世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました、お楽しみいただければ幸いです。

ケモパラダイスの後ろに銀河って付けたい衝動を必死に堪えました。
鎮まれ俺の右腕。

誤字脱字、口調や設定等の齟齬がありましたら、リテイクはご遠慮なくどうぞ。
SBパーティノベル -
STANZA クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2017年05月08日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.