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『初めましての再会 』
アークトゥルスaa4682hero001)&エクトルaa4625hero001


 遙か昔、或いはどこか遠くの世界。
 二人は血よりも濃い絆で結ばれた親子にして、王とその騎士であった。

 彼等が残した数々の物語は、今もなお伝説として語り継がれている。
 しかし英雄として現界した時、彼等の記憶は薄れ、曖昧なものとなっていた。

 王が覚えているのは自身の名と、共に歩んだ者達の面影、そしてどこか寂しげな風景の断片。
 騎士は何十年も時を遡ったように若返り、記憶は保っているものの、まるで寝物語に聞かされたおとぎ話のように現実感のないものとなっていた。

 王の名はアークトゥルス(aa4682hero001)
 騎士の名はエクトル(aa4625hero001)

 二人が今、この時に出会う。


 ・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥


「いらっしゃいませ!」
 今しがた空いたばかりのテーブルを拭いていたアークトゥルスは、ドアベルの音に顔を上げ、条件反射のように明るい声で新たな客を出迎える。
 カフェバーのドアを少し重そうに押し開けて、誰かを探すような目で店内を見渡しているのは、10歳くらいの少年だった。
「いらっしゃいませ、ご用件は?」
 迷子だろうかと思いつつ、アークトゥルスは少し背を屈めて目線を近付ける。
 それに気付いた少年は、客ではないことを申し訳なく思ったのか、少し目を逸らすようにして俯き加減になりつつも、礼儀正しく尋ねてきた。
「あの、すみません。ここにちょっと柄の悪そうに見える、赤毛のオールバックでサングラスのおじ……お兄さんは来ていないでしょうか」
 忘れ物を届けに来たという少年の言葉に、アークトゥルスは開店からこれまでの間に訪れた客達の顔を思い出してみる。
 しかし、それらしい人物に心当たりはなく、今また改めて店内を見回しても該当する人物は見当たらなかった。
「その人は確かにこの店に来ると言ってたのかな?」
「はい」
「そうか、でもまだ来てないみたいだし、どこかで寄り道してるのかもしれないな」
 それでも、来ると言っていたなら遠からず顔を出すだろう。
「どうだろう、その忘れ物……急ぎでないなら、うちで預からせてもらうというのは?」
「えっ、いいの!?」
 困った様子で視線を彷徨わせていた少年は、その言葉に礼儀を忘れて子供らしい顔を見せる。

 が、その視線がアークトゥルスの姿をはっきりと捉えた瞬間。
 少年の表情が石のように固まった。
 見開かれた目の奥に、歓喜の色が見える。
 それはじわじわと表層へ滲み出し、少年の全身に満ちていった。
 喉から掠れた声が漏れる。

「あーく……」

 しかし、対するアークトゥルスの反応は、少年が期待したようなものではなかった。
「え?」
 見返す瞳が疑問を投げる。
 名乗ってもいないし名札を付けているわけでもないのに、どうしてその名を知っているのか、と。
「……ああ、その探してるお兄さんか誰かが言っていたのかな」
 彼はそう判断したようだ。
「俺はアークトゥルス、ここの店員兼パティシエ見習いだ。君は?」
 問われて、少年は自身の名を明かす。
「エクトル」
「そうか、エクトル……不思議と懐かしい響きのする名だ」
 アークトゥルスは遠い過去の薄れた記憶を辿るように、ふと目を伏せた。
 しかし、彼の中にある「エクトル」の面影は、騎士として名を馳せた屈強な壮年男性のものだ。
 たとえ名前が同じであったとしても、遙か下からキラキラとした眼差しで見上げてくる少年と結びつかないのは無理もない。

「初めまして、エクトル」
 そう言われた瞬間、少年の心は凍り付いた。
 子供らしからぬ寂しそうな笑み浮かべ、なんとか言葉を返そうとする。
 しかし、何も出てこなかった。
 口を開くと言葉と共に涙がこぼれ落ちてしまいそうで――


 わかっていた。
 自分の記憶が「他者の記録」としか思えないように、彼の記憶も当時のままではないであろうことは。
 彼だけは特別で、他の全てを忘れても自分のことだけは覚えていてくれる――そんな期待が儚い夢でしかないことも。
 かつて同じように再会を果たした他の騎士達にも、怪訝な顔をされ、戸惑わせた。
 彼が同じ反応をするのは当然だ。

 わかっていた。
 わかっていたのに――我が子に等しい者を前にして、心に溢れる高揚と、懐かしさと慕わしさを、抑えることが出来なかった。
 それが萎んで消えた瞬間に感じた喪失感は、予想以上の威力でエクトルを打ちのめした。

 本当は、何も失ってなどいないのに。
 目の前で、戸惑いながらも微笑を浮かべ、何か事情があるのだろうと察し、何かしてやれることはないだろうかと真剣に考えている様子の青年は、確かにあの「彼」だった。
 かつて惜しみない愛情を注ぎ、育て上げた自慢の息子。
 やがて成長し王となった際には、臣下として忠義を尽くした主君。
 その彼が、再びこうして目の前に現れ、手を伸ばせば届く近さで微笑んでいる。
 彼が忘れていても、自分が覚えている。

 けれど……そうは思っても、この想いを通じ合えないことは悲しく、寂しかった。

 これ以上、関わらないほうが良いのだろうか。
 これが新たな物語の幕開けなら、そこに自分は必要ないのではないか。
 エクトルの知るアークトゥルスの物語には、華々しい活躍や幸福な時ばかりが記されていたわけではない。
 自分を思い出すことで、二度と開きたくないページまでもが開いてしまったら――

 本当は思い出してほしい。
 今すぐにでも抱きしめて、この想いを分かち合いたい。
 けれどそれ以上に、彼にとっての今が幸福なものであるならば、それが何よりの喜びであるとも感じる。
 だから、このまま立ち去ろうと決めた。
 客に忘れ物を届けに来た、見知らぬ少年として。

「あの、では、そうしてもらえますか?」
 エクトルは忘れ物を両手で差し出した。
「わかった、じゃあこれはお兄さんが来るまで預かっておくね」
「よろしくお願いします」
 これで用事は済んだと、エクトルは逃げるように背を向ける。
 しかし走り出そうとしても、足が思うように動いてくれなかった。
 自分はまだここにいたいと思っている。
 このまま終わるのはいやだと、理性の決定に本能が全力で逆らっている。
 その背中に、優しい声が舞い降りた。
「……お菓子は好きかな?」
 お菓子と聞いて、年相応な子供の部分が顔を出す。
 思わず振り返ったところでアークトゥルスと目が合った。
 同じ高さで、真っ正面から見つめ返してくる。
 こくりと頷くと、その青い目がきゅっと細くなった。
「そうか、好きか」
 にこにこと笑いながら、アークトゥルスはエクトルの手に個包装された小さなフルーツケーキを載せる。
「これは今日のお駄賃だよ。忘れ物はまだ渡せてないけど、前払いだ」
 少し固めで素朴な味わいのするそれは、英国に古くから伝わる伝統的なお菓子だった。
「俺は何故だか、このケーキが好きでね」
「……ああ、私も……」
 手のひらに載った、大きさの割にはずしりと重たいケーキを見つめてエクトルは頷く。
 ドライフルーツがぎっしり詰まったそれは、子供達がまだ小さかった頃、何か嬉しいことがある度に妻が焼いてくれたものだ。
 アークトゥルスはそれを心のどこかで漠然と覚えていたのだろうか。
「良ければ今度食べにくるといい。俺はこれでもパティシエなんだ。まだ見習いだけど、君の好きなものを作ってあげるよ」
「ほんと!?」
 その一言で、エクトルの中から大人の部分が蹴り出された。
 殆ど無表情だったそのおもてに、満面の笑みが広がっていく。
「ああ。それに、何故だろうな……君とはゆっくり話がしたいと、そう思ったんだ」
 そう言って、アークトゥルスは改めてにっこりと笑いかけた。

 昔のように彼の親としてでなくてもいい、ただ、傍にいられるなら。
 新たな世界の新たな物語の中、ページの隅で彼の幸せを願う、登場人物の一人になってみるのも悪くない。
 もしも運命が望むなら、いずれは真実を告げる時が来るだろう。
 その時までは、この新たな関係を紡いでいこうと決めた。

「ありがとう、また来るね!」
 すっかり子供の顔になったエクトルは、ケーキをポケットにしまって走り出す。
「ああ、約束だ」
 アークトゥルスが投げ返した返事は、ドアベルの軽やかな音と共に少年の背を追いかけていった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa4682hero001/アークトゥルス/男性/外見年齢22歳/若き王】
【aa4625hero001/エクトル/男性/外見年齢10歳/幼き騎士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご依頼ありがとうございました、お楽しみいただければ幸いです。

思い出と好物を勝手に作ってしまいましたが、如何でしょう……

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2017年05月08日

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