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『甘い『悪夢』 』
日暮仙寿aa4519)&不知火あけびaa4519hero001

 男の子とテーマパークに行くのは初めてだった。スイートパークの入口。赤須 まこと(az0065)は寒くもないのに、そわそわと赤いパーカーの前を合わせる。呼び出しの相手は日暮仙寿(aa4519)。ある理由から誘いに乗るのは気が引けたのだが、結局来てしまった。
「『奢るから相談に乗れ、いや話を聞いてくれ』……なんて言われたらね」
「独り言か?」
「うわあっ!」
 気づけば仙寿が隣に立っていた。冷静な印象を周囲に与える彼だが、存外わかりやすいところがある。あの時は悩んでいますと顔に書いてあった。
 仙寿が2人分の入場料を支払い、パーク内へと入る。
「ごちそうになります。とりあえず、どこ行こうか?」
「別に、まことの行きたいところでいいが」
 迷ったが、ケーキエリアの前にでかでかとおかれた立て看板に目を引かれ、とりあえずの行先に決めた。
「苺ショート、苺ムース、苺タルト……?」
 ポーカーフェイスで着席する仙寿の皿をまことが凝視する。
「春だから、苺メニューが豊富なんだろ。まことの皿にも載ってるじゃねぇか」
 まことの皿は彼ほどピンクと赤に支配されてはいないが、彼女はひとまず納得することにした。
「相談っていうのはあけびちゃんのこと?」
 声を落として尋ねる。彼の悩みを聞くのは2度目だ。1度目は半ば盗み聞きに近い形だったが、彼は憤ることもなくまことを相談相手と認めてくれた。
「初夢以降ずっと、卓戯の時に行った尾江戸の夢を見るんだ」
 相談は意外な切り口から始まった。
「その時とは設定がかなり違う」
「たしか二人はお侍さんの役だったよね?」
 卓戯の報告書はまことも読んでいたため、初夢の設定について詳しく尋ねる。彼が今見るのは菓子問屋の若旦那の自分と護衛役である不知火あけび(aa4519hero001)の夢だという。
「夢の中の俺、とある依頼の後に『じゃあ夫婦になるか』ってその……告白すっ飛ばして求婚しやがったんだ」
「んんっ!?」
 仙寿はむせたまことに水を渡す。
「そ、それで?」
 落ち着くと、にわかに好奇心が頭をもたげた。
「……楽しんでるだろ」
「スミマセン」
 隠しきれない瞳の輝きに呆れつつ、仙寿は語り始める。視線は夢見るように宙空を彷徨っている。
「全体の2割くらいは望富の戦闘依頼だ」
 仙寿はそこで言葉を止め、逡巡する。適切な言葉も見つからない上、内容にも大いに問題がある。
「で、8割ほどは……平和な感じ、だな。外に出かけたり、事務仕事をしたり」
「尾江戸での日常かぁ。楽しそうかも!」
 そんな夢なら自分も見てみたいと思う。茶屋で出会った素敵な若旦那と恋に落ちる、なんて展開はどうだろう。英雄である呉 亮次(az0065hero001)の役柄も気になるところだ。
「まぁ、そういうのは気楽で楽しい。……だが、その、雰囲気が……現実の俺たちとは、逆というか」
「ありゃ、仲悪いんだ」
 当然のように言ったまことに、仙寿は狼狽した顔を向ける。
「なっ……お前には、俺たちがどう見えてんだよ」
「え、いつも仲良しだなぁって。ボケとツッコミっていうか」
「……俺がツッコミっつーことでいいんだよな?」
「うーん、たぶん!」
 にこやかに頷いたまことを見て、仙寿がため息を吐く。――すっかり脱線している。
「話し戻すぞ。……俺が最初に言ったこと、覚えてるか?」
 まことはようやく閃いたらしい。
「あ! プロポーズのこと忘れてた! つまり8割は……」
 いちゃついているのである。見ている方が赤面するくらいに。
「声がでかい……」
 仙寿の脳裏に桜舞う小道の景色が浮かぶ。これは昨日の夢だ。少し先を行くあけびは花びらを捕まえようと手を伸ばす。その願いは直ぐに叶ったらしく、彼女はこちらを振り返る。薄紅色の花弁が髪に止まり、華やかな笑顔に彩りを添えていた。そして『仙寿』は甘い甘い声音で言うのだ、可愛い、と。
「仙寿くん? 大丈夫?」
 まことが立ち上がり、顔を覗き込んでくる。それをきっかけに別の夢が蘇る。
「仙寿様? 聞いてる?」
 あけびの白い手がきゅっと袖を引く。今のまことと比べてわかったが、あけびの位置は吐息がかかりそうなくらいの至近距離だった。
「もう、最近ぼんやりしすぎだよ? 私真剣に勉強してるんだからねっ」
 夢の中の自分はあけびの声に聞き惚れていたようだ。
「そうだな、夫婦(めおと)になった暁には、お前にも帳面付けを手伝ってもらわなくちゃならねぇし」
 うんうんと頷いたあけびだが、次の瞬間真っ赤になる。
「ば、ばかっ! こき使うつもりなら結婚しないからね!」
 ――照れ隠し。夢の中の自分ならば、あけびの気持ちが手に取るようにわかるのに。
「忘れたか? むしろ俺はお前を甘やかしすぎないかが不安なんだがな」
 あけびは取り繕うように、仕事の質問を始める。しかし甘い雰囲気は菓子問屋に長居を決め込んだらしく。寄り添って書き方を教える姿は恋人同士そのものである。
(あれは本当に俺か? いや夢だけど夢という事は願望なのか?)
 それとも。
「あけびには未だに冷たく当たっちまう。その反動なのか? 優しくするにも程度を超えてねーか?」
 どちらが正解でもおかしくない。だから藁にも縋りたくなる。
「まことは女子だし夢占いとか詳しくないかと……」
 子犬の瞳の少女は難しい顔をして黙っている。
「現実のあけびの顔が見られない。何とかしてくれ……。今の所戦闘に支障はねーけど更に不愛想になってる」
 仙寿は額に手を当て、目を閉じる。
「……仙寿くんはさ、あけびちゃんにお嫁さんになってほしいの?」
 やっと返ってきた言葉に、体が熱くなった。
「やっぱり、そうなるか?」
 まことは焦ったように首を振る。
「そうじゃなくて! えーと、私は仙寿くんじゃないから、仙寿くんの気持ちはわかんないんだよ!」
「は?」
 彼女はきらきらと輝くフルーツタルトに目を落とす。誰かを想うまばゆい感情に憧れるように。
「恋とか、私もよくわかんないんだ。わかるのは、自分の気持ちに嘘つくのは一番ダメな嘘だってこと」
 だから、問う。答えはまだ仙寿の中にはなかった。
「俺もわかんねぇ。自分のことなのに……」
「じゃ、保留にしよう」
 保留、と仙寿はおうむ返しする。意外な回答だった。
 彼はかつて「あけびと対等になりたい」と言った。師匠とよく似た存在ではなく、ひとりの『仙寿』という人間として認められたいと。
(そう思うのは、あけびちゃんのことが好きだからかもしれないけど……)
 それでも恋だと決めつけて押し付けたら、仙寿を嘘つきにしてしまう気がするのだ。
「保留! だって不愛想にしたくらいであけびちゃんは仙寿くんを嫌いになったりしないもん」
 なぜか堂々と胸を張る。
「あけび本人じゃないくせに断言するか。早速ルール破りじゃねぇかよ」
 仙寿は苦笑する。まことはバツが悪そうに言う。
「それはわかるからいいの! 保留! 現状維持! 何かご不満は?」
 そう問われて、やっとひとかけら、願いを救い取れた。
「例えば……『もっと優しくしたい』なら?」
 俯き加減に投げる言葉。
「ぶっきらぼうでもいいから、とにかく声かける! あとは、喜びそうなこと考えてみるとか?」
 失敗しても決してめげるなと念を押す。だって不器用でも彼が優しさを見せてくれたら、あけびはきっと喜ぶ。
「とにかくやってみる。女子の好きなもんとか、アドバイスもらっていいか?」
 まことは頷き、そしてニヤリと笑う。
「もちろん『これは恋だ!』って答えを出した場合も、全力で応援するから!」
「嫌な予感しかしない……」
 彼は全力でからかわれるという悪夢を幻視する。
「今日はありがとうな。また亮次とあけびも呼んで遊びに行こう」
「うん、約束ね」



 数日後、まことは再びスイートパークを訪れていた。
「女子会したかったのもあるんだけど……ちょっと相談があって」
 向かい合って座ったあけびが目を伏せる。既視感。重なる仙寿の面影を振り払いながら、まことはあけびの話を聞く。
「実は今年に入ってから、夢で……」
 内容は仙寿の見た夢と瓜二つらしかった。
「仙寿様は主君なのに、なんて夢を……!」
 頭を抱えるあけびに、まことはかける言葉が見つからない。
(身分違いの恋、ってやつ? それってそんなにいけないことなのかな)
 言いかけてやめる。生粋の現代っ子には、主従関係というものがピンとこない。けれどその価値観があけびを形作る大事な骨組みに思えて、壊したくないとも思ってしまう。
(なんども同じ夢を見る。それほど強い想いが二人にはあるんだ)
 仙寿はあけびを、あけびは仙寿を大切に思っている。それはわかるのだが。
「あけびちゃんは仙寿くんのお嫁さんになりたいの?」
 いつかと同じ問いを発すると、あけびは目を見開き、やがて懐かしむような目で笑った。
「実はね、師匠の仙寿様は私の初恋の人でもあるんだ」
 まことは混乱する。仙寿があけびに恋をしているとしたら、これはまずいのか。師匠と仙寿は限りなく近く、けれども違う存在だと改めて確認したばかりだ。
「私は生粋の忍で、本当は躊躇なく人を殺せる。私の人の心は姫叔父とお師匠様が持ってるんだ」
 言い切ってしまうあけびの潔さが哀しい。コーヒーの香りがやけに苦くて、まことはイチゴパフェのクリームをたっぷり口に運んだ。
「お師匠様が笑ってろって言ったから……だから私は人らしくありたい。……だからこそ元の世界で何があったのか悩むんだけど」
 まことは思い出す。彼女は悪夢に囚われている。師匠を自らの手で殺したという想像。それは彼女にとって、限りなく真実に近いものなのだろう。
「でも、あの夢を見てる時の仙寿様はお師匠様と同じ位優しいけど……全然お師匠様と被らないんだ。傍にいられて嬉しいのは同じなのにちょっと意味が違う気がするんだよ。何でだろうね」
 あけびがまことへと視線を移すと、彼女は口に手を当て目を泳がせていた。
「大丈夫? 顔赤いよ」
「そ、それは、いちごの食べ過ぎで…」
「何それ! 変なの!」
 あけびは笑う。師匠の仙寿が守りたいと願い、相棒の仙寿が惹かれてやまない笑顔だ。
「ね、次はケーキエリアに行こうよ! 新発売のコーヒーシフォンが美味しいんだ!」
「え? まこと、最近ここに来たの?」
「あ……秘密! ほら、行こ!」
 墓穴を掘ってしまったが、美味しいケーキで彼女を笑顔にしたいのは本音だ。
「きっと全部うまくいくよ。だから、あけびちゃんはそのままでいて」
 ――忍者でありながらサムライにならんとする彼女なら、忠義と恋だって共存させられるかもしれないから。
 まるで占い師のような言葉にあけびは首を傾げる。
「……変なまこと」
 それなのに、なぜか勇気づけられた気分になるのが不思議だった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【日暮仙寿(aa4519)/男性/16歳/明ける日は遠けれど】
【不知火あけび(aa4519hero001)/女性/18歳/久遠ヶ原学園の英雄】
【赤須 まこと(az0065)/NPC】
【呉 亮次(az0065hero001)/NPC】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、高庭ぺん銀です。いつもまことと亮次がお世話になっております。
助けてもらうだけでなくお二人に頼ってもらえるというのは、まことにとってとても嬉しいことです。不器用なアドバイスが、少しでもお二人の役に立っていますように。
作品内に不備などありましたら、どうぞリテイクをお申し付けください。それではまたお話しできるのを楽しみにしております。
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2017年05月12日

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