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『今夜はマフィアでパーリナイ 』
J・Dka3351)&ウィンス・デイランダールka0039)&lol U mad ?ka3514)&フェイル・シャーデンフロイデka4808

「なあ、おい、知ってるか?」

 lol U mad ?(ka3514)は振り返り、ニィと口元を歪ませてみせた。
「――今夜はブラッドムーンナイト。世界中から『超世界級(トビキリ)』のワル達が集まるトンデモ夜会。選ばれし者のみが行くことを許されたパーティ……。
 なんでも、豪華客船が会場ってウワサだぜ。そこでは何だって許されるんだ。カジノに女に酒にドンパチ! まさにどうしようもなく馬鹿な連中の為に用意された遊園地さ!
 いつ招待状が届くのか、誰が招待状を送っているのか、会のオーナーは誰なのか、そもそも何の為にそんなモノが開かれるのか……それらは一切の謎! おもしれェだろ? 不思議だろ?
 これはオレの想像だが、きっとブラッドムーンナイトには意味なんかねェんだ。きっと最高にナンセンスなんだよ。だからきっと、最高に楽しいんだぜ」
 朗々と男は語った。彼の視線の先には鏡があった。鏡の中ではもう一人のロルが、まるでオペラ歌手のような佇まいでロルを見つめ返していた。
「……」
 ここでロルは溜息を吐く。チラと後ろを見やれば、「洗浄中」の立て看板。
「は〜……オレもいつか行きてェなァー……」
 そう。ロルはまだ下っ端の下っ端、新入りの中の新入り。彼のいつもの仕事といえば……事務所内のトイレの掃除。この仕事にも慣れてきたもので、トイレを掃除させたらこのファミリーで右に出るものはいるまい。と、慰めのように自負してはいる。
 しかしフッと冷静になると虚しいものだ。トイレ使用者数の少ない真夜中、華やかな夜の片隅で、はべらせているのは掃除道具。手にはゴム手袋。握りしめているのはカッポン。包まれるのは女の香水ではなくトイレの芳香剤(森の香り)。いい年して、オレ、なにやってんだろ……虚無の眼差しでカッポンを見つめる。沈黙。静寂。

 はっ。いかんいかん。真面目になったらダメだこれ。

「そうさ、今夜はブラッドムーンナイト――♪」
 即興の鼻歌を口ずさみつつ、トイレの掃除を再開するロル。だったが。ここでふと、ロルは素敵なことを思いついた。思いついたというか思い出した。
 ロルには、J・D(ka3351)という同僚がいる。こいつがデキた奴で、同期だというのにブラッドムーンナイトの招待状が届いたのだそうで。とはいえあくまでもチラッと聞いた噂だ。なのでここで白黒はっきりつけようじゃないか。ロルはカッポンを置きゴム手袋を置き、携帯電話を取り出した。コールボタン。
「ヨーーーもしもし兄弟? 今ドコ? ナニしてンの?」
 数度のコール音の後、繋がるや否や。上機嫌に受話器の向こうへ語りかけるロル。
『……』
 返事は沈黙。
「モシモーシ? おうどした? 死んでんのか?」
『まいったぜ……』
 苦虫を噛み潰したような、ジェイの声。
「まいったって、ナニが?」
『道に迷っちまったぜ……』
「迷ったァ〜!?」
『こうなったら己の直感を信じるしかあるめえ。ちょいと忙しくなる、一旦切るぜ』

 ぷつ。ツー。ツー。ツー。







「上等だ」

 ウィンス・デイランダール(ka0039)は拳を鳴らしていた。雪銀の髪、紅灯の瞳、目付きと愛想は最悪の一言。まだ少年らしさが残るかんばせには凶悪な笑み。
 今夜はブラッドムーンナイト。世界中から『超世界級(トビキリ)』のワル達が集まるトンデモ夜会。選ばれし者のみが行くことを許されたパーティ。腕っ節が集うそこで、喧嘩が起きることなど当たり前。
 そう、キッカケは武勇伝の並べあいから始まった。俺が強い、俺の方が強い、いやいや俺の方がもっと強い――そんな馬鹿話の果てに、じゃあ実際にドンパチして決めようぜ。そんな単純明快に行き着いたわけだ。
 ウィンスもそんな中の一人。華やかな豪華客船の甲板の上、オーディエンスがシャンパン片手に殺せ殺せと野次る中、少年は拳を構えた。普段は槍を得物とするが、
「はッ。てめーらなんぞ、拳(こいつ)で十分すぎるっつーの!」
 という理屈。いの一番に飛びかかったのはウィンスだった。少年からすれば、どんな武勇伝を並べ立てられようが目の前の連中はしょせん、有象無象。
「弱い弱いッ!」
 止まって見える。大振りの拳を軽やかにかわし、ふとっちょの顔面に鋭くお返しを叩き込むウィンス。「はは!」と笑う表情に返り血が散った。白い肌によく映える。突き進む。突き進む。まるで一本の槍のように。また一撃、貫くような右ストレートが盛大に決まれば、オーディエンスが「おおッ」と湧いた。それが少年には心地いい。
「もっと盛り上げてくれよ、今夜はパーティだぜ!」
 喝采を見渡し、ウィンスは拳を突き上げ彼らを囃した。熱狂は高まる。が、余所見をしたためかここでウィンスの横面にキツイ一撃が叩き込まれた。少年のまだ細い体が甲板に叩きつけられる。
「いっで、……」
 顔を上げれば鼻血が落ちた。唇も切れている。だがそれでウィンスが怖気付くどころか――不敵に笑った。壮絶な負けず嫌いの根性にいっそう火がついた。
「おもしれぇじゃん!」
 跳ね起きる。今殴ってきたのはどいつだ。視線をめぐらせ、挑みかかる。

 ――そんな喧騒を、遠く見つめる者がいた。

「……」
 潮風に吹かれる眠たげな無表情。灰髪赤目の男の名は、フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)。ガサガサ、その手元でビニールの音を立てるのはマシュマロの袋だ。フェイルは筋張った手をおもむろにそこへ突っ込み、白くてふわふわしたお菓子を一つ取り出した。全く表情を変えぬまま、それを口へ。もきゅもきゅ、柔らかい甘さがとろけてゆく。男はマシュマロが大好物であった。いつもいつでも持ち歩いているほどに。
 こんなノホホンと人畜無害感をかもしだしているが、フェイルは一流の暗殺者だった。甘い甘いマシュマロをつまむこの指で、つい数分前、人を数人ほど殺めている。彼にとって人を殺すことは、袋の中のマシュマロをつまみあげるぐらい簡単なことで、日常動作だった。だから表情は変わらない。淡々としている。呼吸と同じ。呼吸ひとつひとつに感動が生まれないのと同じこと。
「……」
 フェイルはマシュマロを頬張りつつ、腕時計をチラと見やった。彼の成すべき『仕事』――隠さず言えば暗殺は、もう全て終わらせた。が、ブラッドムーンナイトはまだ続く。さてここからどうしよう。何をして過ごそうか。マシュマロを食べるだけも悪くないが、悲しいことにマシュマロの数にも限りがある。つまりどう足掻いてもマシュマロを食べる以外のことで時間を潰さないといけないのだ。
「暇……だな」
 もうちょっとゆっくりのんびり余裕を持って仕事をするんだった。後悔してももう遅い。呟きは潮風にもまれて消えた。気だるい眼差しで見守る喧嘩はいっそうハデになりつつある。彼と似た髪と目の色の少年――まあフェイルの髪は灰色で向こうは白銀だけど――は、相変わらず豪傑の振るう槍の如き勢いで敵を薙ぎ倒し続けている。アクション映画よりはスリリングで暇も紛れる。
 でも喧嘩だっていつまでも続かないんだ。だってそろそろ、『リング』に立っている者も減ってきた。あの少年はまだ立っている。きっと彼が勝つだろう。フェイルはそう思った。誰かが隣にいたら、賭けでもしたのだが。生憎、カモメすらもいなかった。夜の海は暗くて見通しが悪いし、なんにもいない。

 ――と、思っていた。

「……ん?」
 ふと、フェイルは夜空に何かを見つける。
「あれは……ヘリ?」

 ヘリ。
 そう。
 ヘリコプターだ。

「ふーー、っとやべえやべえ、大遅刻だ」
 ヘリコプターの中にはジェイがいた。見えてきた豪華客船にホッと安堵の息を吐く。その片手には拳銃一つ。突きつける先にはヘリのパイロット。
「ヘリジャックを思いつくとは、流石俺だな……」
 フ、と笑みを浮かべるジェイ。あれから――ロルから電話がかかってきたあの時から、それはもう迷いに迷ったものだ。多分、一生分の迷子になった。方向音痴のケはないハズだけれど、どうにも今夜はツキが悪い。港に辿り着いたのは船が出港した直後と知った時は、思わず「ド畜生」と舌打ちしたレベルだった。
 が、そんなことも過去の話。今こうしてジェイはちゃんと豪華客船に――ブラッドムーンナイトの会場にたどりついたのだ。
「終わり良ければ全てよし。あんたもそう思うだろ?」
 ヘリのパイロットにそう尋ねる。……瞬間だった。パイロットが隠し持っていた拳銃をジェイに向けたのだ。
「……っと。ツキが悪いねい――」
 ジェイのサングラスに突きつけられる銃口が映った。

 ――銃声は一発。

「あんたのことさ」
 ジェイはくずおれるパイロットを見下ろし、不敵に笑んだ。彼が持つ拳銃からは硝煙が立ち上っていた。全く、大人しく言うことを聞いてくれるなら生かして帰してやったものを。フ、と銃口の硝煙を吹いた。さて――
「やべえな」
 ついパイロットを撃ってしまったけれど。
「やっちまった」
 ジェイはヘリの運転などやったことなくて。
「あー、今夜はホントにツキが悪い――」
 つまりヘリは操縦を失い墜落していたわけでして。

「おいおいおいおいおい……アレやばくねぇかおい」
 落ちてくるヘリを見上げ、ウィンスはもはや喧嘩どころではなくなっていた。あれだけ周囲にいたオーディエンスも悲鳴を上げて、クモの子を散らすように逃げ惑っている。「なんだあのヘリは!」「こっちに落ちてくるぞ!」「ヤバイ! 逃げろ!」そんなパニックが、船を支配していたのだ。
「あ〜……これ、俺も逃げるべき……? だよな、これは……うん」
 さっきはあれほど燃え上がっていたのに、状況を見て急に冷静になったウィンスは自問自答の果てに頷くと、鼻血を拭って走り出した。とりあえず、ヘリを受け止めるなんて荒業は銀幕のスーパーヒーローに任せておく。


 とまあ、そんな直後である。
 お察しの通り、ヘリは豪華客船のド真ん中に激突し、お約束のように大爆発、大破炎上。


「……どうして……」
 傾く船体。燃え上がる船体。悲鳴と狂乱。その中で、フェイルは変わらず淡々とマシュマロを頬張っていた。
「どうして、豪華客船とヘリは……沈没や墜落のさだめにあるのだろう……」
「そりゃおめえ、決まってる」
 答えたのは、危機一髪パラシュートでヘリから脱出したジェイだった。
「庶民にゃ縁のない高価なモンほどぶっ壊し甲斐があるからさ。……で、ブラッドムーンナイトの会場はここだよな?」
「そーだけど……あんたかッ、この船にカミカゼアタックかましやがったアホは!」
 ジェイの問いに割り込んできたのは、避難最中のウィンスだった。火の手がすぐ近くまで迫っている。黒い煙がもうもうと立ち上っている。
「アホ? この俺がアホだと? 確かにそうかもしれねぇ。俺の人生を不器用にしか生きられねぇからな」
「スカしてる場合かドアホ! 逃げるぞ! このままじゃこの船といっしょにオダブツだ!」
 と、ウィンスがまくし立てた直後だ。すぐ近くで爆発が起きる。いっそう強い火がごうごうと燃え盛る――。
「……」
 フェイルはそれを眺め。そして、おもむろに近付いて――マシュマロを焼き始めた。
「……焼きマシュマロ、食べるかい……?」
 説明しよう! マシュマロは火であぶると、外はカリッ中はトロッで最高に美味しくなるのだ!
「ブラッドムーンナイトってのは想像以上にロックだな」
 それを眺めて、ジェイは呟く。「違うそうじゃない」。ウィンスは頭を抱えた。

 その間にも船体はどんどん傾いていって、まあ、最終的に大爆発するのだが、「爆発オチなんて最低」と誰かが呟いたわけだ。







「そうさ、今夜はブラッドムーンナイト――♪」

 トイレットペーパーを三角に折りながら、ロルはふんふんと鼻歌を口ずさんでいた。
「よし、ミッションコンプリ」
 事務所の全てのトイレ掃除を完了させたロルは、ピカピカになったトイレを見渡し達成感に浸っていた。あとは「洗浄中」の看板――彼にとっては最愛の仕事仲間――を片付けるだけだ。手洗い場でキチンと手を洗い、ハンカチで濡れた手を拭う。
「今頃みんな、ナニやってんだろなァ」
 独り言。そろそろ眠くなってきた。帰ったら寝よう。アクビを一つ。
「はー、オレもいつか、行ってみてェな〜……」
 そうさ今夜はブラッドムーンナイト。
 伸びをしながら、マフィア兼トイレ清掃員は『仕事場』を後にした。そして最後に電気を消せば、周囲は暗闇に飲み込まれる――。



『了』


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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J・D(ka3351)/男/26歳/猟撃士
ウィンス・デイランダール(ka0039)/男/18歳/闘狩人
lol U mad ?(ka3514)/男/19歳/猟撃士
フェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)/男/35歳/疾影士
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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2017年05月18日

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