▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『奪う男 』
ゼム ロバートaa0342hero002)&藤堂 茂守aa3404hero002

「来たか」
 とある廃ビル。腕組みをして壁に寄りかかっていたゼム ロバート(aa0342hero002)は入口へと視線を投げた。
「他ならぬゼムの頼みだからね。断る理由がないよ」
 藤堂 茂守(aa3404hero002)の顔が、窓から入る頼りない光に照らされた。まだ昼だというのに、空は暗い。雨が降り出すのを待ってでもいるかのように、茂守は押し黙ったまま窓の外を眺めた。見たところで薄汚れた隣のビルが見えるばかりである。
「……どうした。話せない理由でもあるのか……?」
「ないと言ったら嘘になるね。私のわがままとしか言いようがないものだけれど」
 ゼムが欲したのは過去。失くしてしまった前の世界の記憶だ。
「話したい人たちがいる、と言っていたね」
「そうだ。そのためにはお前を頼るしかない。俺の過去を知るというお前を」
 茂守は力なく笑う。理想と呼ばれた世界にて、ゼムは自分の理想的な動きをしていた。過去を教えるという行為は、恐らく自分の理想からは外れる。それでも――。
(あなたを私の理想として縛るわけにはいかない……)
 この世に来てから理想ではなくなりつつある彼を見るのは寂しい。けれど、自由にしてあげたいという気持ちも本心だ。
 茂守は静かに言った。
「知りたいのであれば教える。全て話そう……」
 言うと同時にアンダーリムの眼鏡を押し上げたせいで、彼の表情は判別できなかった。



「私はかつてゼムに仕える存在だった。仕事の内容は……簡単に言えば『なんでも屋』かな。まあ、そんな平和なものではなかったけれど、雇われれば何でもやった。依頼をこなしては法外な報酬を求め、あるいは奪い取り……気づけば賞金首、と言った具合でね」
 善から逸脱した者。奪うことを常とする者。自分がそうであったという事実をゼムはすんなりと受け入れることができた。だから別の視点から質問を投げかけた。
「お前と俺が組んだきっかけは?」
 茂守は一瞬だけ目を見開き、そしてまた笑う。
(仕事自体に疑問は持たないんだね……)
 ゼムは善人であるがゆえに、殺人をもいとわない『悪人』にならざるを得なかった。そうはっきりと告げたら、きっと不機嫌になるのだろう。
「私たちは刀の九十九神だった。初めから一対だったんだよ」
 さすがのゼムも驚いたらしい。顔にはあまり出ていないが、元相棒の彼からすれば充分な変化だ。
「刃がゼムで、鞘が私。名は秀(しゅう)、そして狩魔(かりま)」
「狩、魔……」
 ゼムはその名を呼ぶ自分の声が妙に懐かしいと感じた。
「秀は狩魔の理想だった」
 茂守はあえて第3者のように語る。藤堂 茂守と狩魔を切り離そうと、努力する。
「ある子供がいた。その子の家には閉ざされた部屋があり、何百年と使われていない刀がしまわれていた。その刀は子供の先祖が魔を滅するために鍛えたものだ。正式な名称はわからない。ただ『秀』という銘が刻まれていたことは確かだよ」
 すっかり摩耗した表面に唯一読める形で残されていた文字。それは刀工の名なのか、何かの単語の一部なのか、ついぞわからなかったという。
「その子には魔を狩る力の残滓が残っていたのかな。九十九神を見ることができたんだ。家はとっくに退魔の仕事から足を洗っていた。だからその子の力はひどく気味悪がられ、虐げられる理由にしかならなかった。人らしい扱いはされていなかったね。秀と狩魔は人ならざる身でありながら、彼の貴重な友人だったんだよ」
 ゼムはまっすぐにこちらを見ている。疑われてはいないようだ。
「子どもは日に日に心を蝕まれていった。あるとき秀はその子を救うことを決意した」
「……家の者たちを殺したのか……?」
 自分ならそうしたはずだ。
「ああ、その子を呪縛から解放するために」
 茂守は首肯し、そのまま視線を床に落とす。
「彼らは本来、人とは相容れぬもの。ただ一人の人間のため生きるべき世の境界を踏み越え、干渉するなんて許されるはずない。大いなる者の怒りに触れ、我が身を滅ぼすことなんてわかりきったことだ。けれど秀は足を止めず、狩魔は秀に付き従った」
 茂守はそこで視線を上げる。
「そんなに睨まないでほしいな。それが狩魔の望みだったんだから。そして自然の理に逆らった秀と狩魔は人に堕とされた」
「……それで」
「子供は、心を壊した。ひどい家族であってもやはり情はあったのかな。それとも『隠れていろ』という言いつけを破って、凄惨な景色を見てしまったせいなのかな。ただの人となった秀と狩魔だが、戦いに関するカンだけは人以上のものを宿していた。だから哀れな子供と自分たちを養うために『仕事』を始めたんだよ。ただの人となれば腹も減るし、食べなければ死にもする」
 茂守は言葉を止めると、くすりと笑う。その反応に、ゼムは不審そうに顔をしかめる。
「ああ、すまない。私たちは英雄に転生したことで、再び食事や睡眠の必要がない存在になった。不思議な因果だと思ってね」
 ゼムは笑わない。茂守が押し上げた眼鏡がかちゃ、と鳴る。
「そういえば私たちは、年を経て老衰で死んだりするのかな。まだ来たばかりだから、自分が老いているのかどうかもわからないね。その辺りは個人差があるようだけれど」
 死というワードはゼムを刺激したらしかった。
「前の世界の俺は、どんな風に死んだんだ」
「それだけは私も知らない。思い出せないんだ」
 茂守は眉を下げた。
「なら、お前は……?」
 何かを察したのか、ゼムの表情に苦みが走る。
「ああ、ご想像の通り。私を――狩魔を殺したのは秀だよ」
「……一体、何があった……?」
 秀は彼の理想だった。望むままに、望んだ通りに――自分も殺してくれた。
「ある目的を達するために狩魔が頼んだ、とだけ。……これ以上は、言えない」
「そうか……」
 茂守の脳裏を駆け巡るのはかつて彼を愛したある女の姿。どうしても彼女をこの手で殺めなければならなかった。そのために秀の力が必要だった。だから彼は秀に命すら差し出した。
「ならば聞かせてくれ。俺はどんな人間だったんだ」
「言っただろう? 私の理想そのものだよ。――別の言葉が欲しいなら、そうだね……。あなたは、本当に優しい人だったよ」
 だった、という言葉を無意識に選んでいたことに茂守は言ってから気づいた。そうだ、もうすべては過去なのだ。
(この世にはこの世のルールがある……ここはあの世じゃないのだから……私がそれを受け入れなければ……)
 自分勝手な寂しさは、ゼムの意思と天秤にかけるまでもない。
(それがあなたの理想であるなら、この世をあなたの理想とするために……私の記憶はあの世にのこり、あなたの記憶はこの世に生きるべき……)
 気づけばゼムがこちらを見つめていた。物思いに耽りすぎてしまったらしい。
「まだ何か聞きたいことはあるかな?」
「いや、充分だ。世話をかけたな……」
 ゼムは潔く踵を返す。茂守はその背中を見つめながら思う。終わったのだ、と。
(この世はあの世ではない、貴方の望む世界となるのであれば……それが一番だから……。全てを語った今、私はあなたから離れよう……)
 思いのかけらが、唇からぽろり零れる。
「これで良かったんだ……さようなら……ゼム……」
 がらんどうの空間に別離の呪文が反響した。言葉は透明の波となり、棒のように立ちつくす身体を打つ。そのたびに、心は痛みを訴える。
「茂守、また近いうちにな」
 暗がりの向こうから、思いがけない返事が届く。茂守の言葉が聞こえていたのかどうかは、それだけではうかがい知れない。何と返していいのかわからず、口ごもる。結局、言葉を紡げない内に足音は遠ざかっていった。
「参ったな」
 茂守は呟く。もし『また』があるならば、そしてこの先も続いてゆくならば、茂守にとってゼム ロバートはどのような存在になっていくのだろうか。答えはまだない。いずれにせよ、ゼムが望むのならば茂守は言い直さなくてはならない。
(……さようなら、秀。……さようなら……私の理想……)
 ゼムは、ある人物以外から何も奪わないと誓っている。けれど彼は茂守から寂寥(せきりょう)と自己犠牲を『奪う』のかもしれない。かつての相棒が評した通り、やはり彼は優しい男なのだ。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ゼム ロバート(aa0342hero002)/男性/26歳/この世界に、まだ】
【藤堂 茂守(aa3404hero002)/男性/28歳/エージェント】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お待たせいたしました、高庭ぺん銀です。この度は大切な過去編のご発注ありがとうございました!
頂いた情報を元に飛躍気味の妄想を詰め込んでお送りしております。発注文との相違点や、キャラ設定に反する点、その他足りない点などありましたら、どうぞリテイクをお申し付けください。それではまたお会いできる時を楽しみにしております。
WTツインノベル この商品を注文する
高庭ぺん銀 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2017年05月18日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.