▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『鴉、初詣 』
真壁 久朗aa0032)&セラフィナaa0032hero001)&小鉄aa0213)&稲穂aa0213hero001)&佐倉 樹aa0340)&シルミルテaa0340hero001)&御代 つくしaa0657)&メグルaa0657hero001)&齶田 米衛門aa1482)&スノー ヴェイツaa1482hero001

●鴉、集合
 めでたい新年しょっぱな、一人の忍者が顔を少々青白くして震えていた。彼の名前は小鉄(aa0213)。何故、新年しょっぱなから忍者が寒空の下で凍えているのか……話は今から丁度一年前に遡る。
 一年前、小鉄は今から向かおうという浅草の神社で仲間達と共に初詣を行ったのだが、その際電車の乗り換えに手間取ってしまい待ち合わせギリギリの登場となった。山奥の過疎村出身忍者と都会の複雑なる駅がコラボレーションした結果である。
 ので、今年の小鉄は去年と同じ轍は踏むまい、と余裕を持って家を出た。そして今年の小鉄は去年と違いスムーズな乗り換えに成功した。結果、集合場所に大分早く到着し多少寒そうな目に遭っている。
「しかし、遅刻は回避したでござるよ」
「来年はもう少しいい時間に到着出来るといいわねえ」
「小鉄さん、稲穂さん、あけましておめでとうございます!」
 微かに震える小鉄に稲穂(aa0213hero001)がしみじみと来年の希望を述べていると、御代 つくし(aa0657)が元気いっぱいに二人の元へと駆け寄ってきた。が、満開の向日葵のような笑顔はすぐに不安げな表情に変わる。
「えっと……待ち合わせってまだです……よね?」
 つくしはおずおずと呟いた後「今回は遅れてないよね!?」とメグル(aa0657hero001)の方を振り向いた。そんなつくしに微笑まし気な苦笑を浮かべ、稲穂は羽織の下の右手首をひらひら揺らす。
「大丈夫よつくしちゃん。私達が早く来すぎちゃっただけだから」
「よかった……去年は迷子になっちゃって、時間ギリギリだったから……」
「今年は迷わなかった?」
「はい!」
 稲穂の問いにつくしは元気いっぱいに声を返した。そのまま四人で他のメンバーを待っていると、仲良く手を繋いだ二人組がこちらへぱたぱた走ってくる。
「みなさん、あけまして」
「おめデトウごザいマスー」
 セラフィナ(aa0032hero001)とシルミルテ(aa0340hero001)は息ぴったりに述べた後息ぴったりに頭を下げ、その後ろから佐倉 樹(aa0340)と真壁 久朗(aa0032)も到着した。これで十人中八人が揃ったワケだが……残り二人がまだ来ない。
「あけましておめでとうございますッスよ!」
 マイペース農家……もとい齶田 米衛門(aa1482)が見参したのは一、二分経っての事だった。隣でスノー ヴェイツ(aa1482hero001)が「おはようさん」と片手を上げ、さっそくちみっこ達に特製の飴を配っていく。
「今回は桃味だ。遠慮なく食ってくれよ」
 ちみっこたちは あめを なめた。あめの おねえさんは まんぞくげだ。「いっぱい食って大きくなれよ」と鷹揚に頷くスノーの隣で、頭をわしわし掻きながら米衛門が口を開く。
「今年はオイが最後ッスね。迷えばいぐねえと思って早めに家ば出たッスが」
「まあものの見事に迷ったな」
「迷ったッスね」
 スノーからの合いの手に米衛門は素直に頷いた。ちなみに米衛門は迷子になり易い属性だが、スノーに迷子属性はない。しかし道には迷わないがブラブラするのが好きな為、米衛門が道を間違っていても一切口出ししなかった。結果、米衛門はちょっと迷った。
 とは言え早めに家を出たのが功を奏し、遅刻ではないしギリギリでもない。一同待ち合わせ時間パーフェクトクリアの集合である。無事に全員が揃った所で、つくしが仲間達を見回し元気いっぱい声を上げる。
「それではみなさん改めまして、あけましておめでとうございます!」
「今年も宜しくお願い致します」
 つくしの言葉にメグルが礼儀正しく頭を下げ、他のメンバーも「こちらこそ」「今年もよろしく」と挨拶を交わし合う。頬を赤くし、白い息を吐き、他愛ない時間を分かち合う【鴉】達。その隊長を務める男は、新年早々集まった面子を視界に収めて苦笑を浮かべる。
「なんだかあまり変わり映えしないな」
「クリスマスも皆で一緒に過ごしてましたし、変わり映えは確かにしないかもしれませんね。でも、それだけ過ごしている時間が多いって事ですよ」
 セラフィナは久朗を見上げるとにっこり笑みを浮かべてみせた。大切な人達と同じ時間を共有する事。その尊さを、幸せを、翠緑の瞳は知っている。
「……そうだな」
 セラフィナの声に久朗は苦笑を、先程よりずっと和らげた。そして改めて大切な仲間達の姿を眺める。
「それじゃあ、そろそろ行くか。去年と同じで詣でてから出店や土産物屋巡り……でいいか?」
 隊長の呼び掛けに「了解でござる」「異論はねえッス」と小鉄と米衛門が声を返した。他の面々も軽く返事をしたり頷いたりし、神社へ向けて歩き出す。

●鴉、お参り
 神社までの道中はたくさんの人で賑わっていた。去年も通った道であるし、出店も人生の中で幾度も見たものがほとんどだ。それでもやはりこの空間は心が踊る。気心の知れた仲間達と一緒なら、なおさら。
「メグル、林檎飴があるよ! 今年はお土産用にいっぱい買って帰らなきゃ!」
 はしゃぐつくしの隣でメグルは「そうですね」と頷いた。去年はつくしの保護者のようにと努めていたが、「共に歩く」という約束を交わした――故にその約束通り、前でも後ろでもなくつくしの隣を歩いていく。
 とは言え。
「つくし、出店が気になるのも分かりますが、もう少し前も見ましょうか」
 そこまでうるさくは言わずとも、心配故に保護者がしばし召喚されるのは仕方なく。
「今年も皆で来れて良かったわねぇ」
 仲間達の様子を朗らかに見守りつつ、稲穂は寒さを隠しきれない小鉄に懐炉(必須アイテム)を手渡した。「これも鍛錬でござる」と己が心に言い聞かせても、寒いものは寒い。無理はよくない。小鉄は懐炉を受け取った。
 神社の作法は少々面……複雑である。まずは鳥居。小揖と呼ばれる軽い会釈をし、今から神様に詣でるのだと気を引き締めてから鳥居をくぐる。参道の真ん中は神様の通り道と言われているため、出来る限り端を歩く。どうしても中央を横切らなければいけない場合は、軽く頭を下げながら、もしくは中央で神前に向き直って一礼してから横切るのがよい。
 手水をとって心身を清める。左手・右手の順で清め、左手に受けた水で口を漱ぎ、再び左手を清め、柄杓を清め、それから参道を通ってご神前へ。賽銭箱の前に立って会釈をした後、真心の印としてお賽銭を賽銭箱に入れ、鈴は静かに一回鳴らす。二礼二拍手後両手を合わせてお祈りし、深く一礼。後下がる。帰る時には鳥居をくぐってから、鳥居に向かい直して再度一礼。
「でも、あんまし難しく考えるこったねえッスよ。要は神様に対して礼儀を尽くすって事ッスから」
「お家にズカズカ上がり込ンデお願イ聞いテなんテ失礼デショ? 去年ノお礼ヲ言う、今年ノお願いヲする、それに相応シい態度ヲ取りまショウって事なのヨ」
 祖父祖母っ子なので作法はしっかりな米衛門、神社での礼拝の礼儀は割と物知りなシルミルテは一同にそう説明した。大事なのは心。とは言えせっかくならきちんとした作法でお参りしたい、と考えるのは当然であり。
 去年も行った事であるし、事前に米衛門講師、シルミルテ講師のレクチャーもあり、一同はスムーズに作法を行い神前へとそれぞれ立った。なお、食事の時も覆面を外さないという鴉七不思議の一つ謎の覆面……もとい小鉄がどうやって手水を行ったかは秘密である。
(投擲と、射撃の腕の向上と、それと隠密が上達しますように)
 小鉄は神妙な面持ちで両手を合わせ神様に祈った。ちなみに「隠密の上達」は去年も神様に願っている。二年連続エントリーである。初詣さえ覆面を外さぬ黒装束と入れ替わり、つくしとメグルが前に出る。
(今年も皆で楽しく過ごせますように。それと、皆ともっと仲良くなれますように)
(来年もまたこうして初詣に来れますように。つくしの怪我が少しでも減りますように)
 メグルは心中にて願い事を述べた後、ちらりとつくしの横顔を見た。つくしは穏やかな表情で神様にお願いした後、メグルへと笑顔を向ける。
「メグル、終わった?」
「はい。つくしもお願いしました?」
「バッチリだよ! それじゃあ一緒にお辞儀しようか」
「ええ」
 同時に神様の方を向き、丁寧かつ深く一礼。その後下がって樹とシルミルテにバトンタッチ。樹は小隊レイヴンの皆の平穏を願い、シルミルテは昨年の礼を述べる。そして米衛門とスノーと入れ替わり……久朗はその様を一歩退いて眺めていた。
 抱負も願い事も……久朗にはよく見えてこない。けれど多くの戦いの中で仲間を失いそうになる怖さを味わった。今こうして過ごしている皆、誰か一人でも欠けてしまったらそれは自分の世界が欠けるのと同じ事だ。
「クロさん、お祈りはしないんですか」
 柔らかく澄んだ声に、久朗は瞳を下へと向けた。隣で自分を見上げるのは天の川のようなセラフィナの瞳。
「お前こそ、行かないのか」
「二人とも、何してるの?」
 立ちん坊の二人を見つけ、稲穂がこちらへ歩いてきた。その手には巾着と、神様に備えるお賽銭。
「もし良かったら一緒にお祈りしない? 一人はやっぱり寂しいし」
「いや……俺は」
「オ願い事がなかッタら、去年はアリがトうございまシタ! でもいいのヨ」
「あとは自分の決意表明を言うってのもアリッスね。そったに難しく考えなくても、神様は怒ったりしねえッス」
 少々口下手の気のある隊長に、シルミルテと米衛門が先んじてフォローを入れた。抱負も願い事も、ない。だが決意表明――あるいは神ではなく、自分に向けての言葉であると言うのなら……久朗は神前に足を向け、セラフィナと稲穂もそれに続いた。賽銭箱の前で会釈。お賽銭を静かに入れ、鈴を鳴らし、二礼二拍手……。
(俺は、自分に何が出来るのか、考えていきたい。それはもう一人の英雄とも交わした約束だ。神頼みでも他人頼みでも無く自分の意志で。自分の世界を守りたい)
 神へではなく自分自身へ、久朗はそう言い聞かせた。顔を上げるとセラフィナの瞳がまっすぐに自分を見つめている。
「クロさん、いいですか?」
「ああ」
「二人とも、いい? じゃ、最後に神様に一礼」
 稲穂の言葉に三人揃って頭を下げ、これにて全員のお参りが終わった。しかし初詣のイベントが全て終わった訳ではなく。
「それじゃ、次はおみくじに行きましょう」
「今年こそは大物を引き当てるでござるよ!」
 拳を握る小鉄の背中を「はいはい」と押しながら、稲穂は一度ご神前を振り返った。稲穂の願い事は「来年もまた皆でここに来れますように」。
(どうか、よろしくお願いします)

●鴉、おみくじ
「おみくじって、どういう順番なのか毎回忘れちゃうんだよね」
 おみくじの順番表を見ながらつくしがわずかにむむっと唸った。ちなみにおみくじの中で最もいいのが大吉、次いで中吉、小吉、吉、末吉、凶、もっとも悪いのが大凶である。樹はつくしの横に立ち同じく表を眺めた後、さらにその横に立つうさみみへと問い掛ける。
「確かに。とは言え大事なのは吉凶じゃない……だっけシルミルテ」
「そうヨー。いい結果デモ気を抜けバ危ナいし、悪い結果デも心掛け次第デいい年になッタりするのヨー」
「それでは皆引いたでござるな。いざ尋常に……勝負!」
 小鉄の掛け声と共に(一部を除き)一斉にばっとおみくじを開いた。ちなみにシルミルテが直前に述べたように大事なのは吉凶ではないし、ましてや吉凶は勝負ではない。だが、小鉄には「勝負!」と言いたくなるのも仕方がないのっぴきならぬ事情がある。
「(昨年は凶でござった故、今年こそ大吉を引くでござる……!)ふん! 吉! 無念! だが去年より二つよいでござる!」
「私は中吉か。なかなかいい結果かしらね。ふむふむ、『願い事。努力を忘れなければきっといい結果に』『金運。いくら使ったか家計簿を』……なるほど」
 オーバーリアクション気味の小鉄に対し、稲穂の反応は実に落ち着いたものだった。これが凶などであれば流石に少し落ち込んだかもしれないが、去年シルミルテが「吉凶より大事」と言っていた内容についても落ち着いて読んでいる。
「ほら、内容もちゃんと読む」
「もちろんでござる。なになに、『願い事。怠け者ではいつまでも成功しません』。うっ……努力するでござる」
 おみくじの内容はお祈りに対する神様の返答、とも言われている。とは言え小鉄は決して怠け者ではなく、「隠密などより正面からの殴り合いが得意」「脳みそ筋肉で出来てるんじゃないかという噂がある」「頭の先からつま先まで忍ばない忍者という評価を仲間約一名から受けている」、だけだが……
「とにかく頑張るでござる!」
 小鉄は決意を新たにした。
「大丈夫ッスよ小鉄さん! オイは凶だったッスよ! 内容の方もかなり厳しめだったッス!」
 米衛門が豪快に笑いながら友人の肩に腕を載せた。その手にあるのは「凶」とくっきり刻まれた紙。
「米殿ォッ! あ、でも去年の大凶よりは一ついいでござる。良かったでござ……るな……?」
「ちなみにオレは末吉だったぜ! 『金運。出かけるだけでかなりの出費』だとよ。でもま、初詣じゃ仕方ねえよなぁ」
 戸惑い気味の小鉄に対し、スノーもまた末吉のおみくじをひらひらさせながら快活に笑った。下から2、3の吉凶でも、この二人、輝く笑顔である。つよい。

「大吉。『願い事。かなりツキが良い方に向いテいるはズ』。オオ―。……樹はどうダッタ?」
 無表情の相棒の顔をひょこりとシルミルテは覗き込んだ。樹はおみくじの上の文字を桃色の瞳へ見せる。
「末吉。内容はまあまあって所かな」
「ふーン」
 シルミルテはしばし樹を見つめた後、「セラフィナー」と友人の元へと走っていった。樹は手に隠したおみくじの中身に視線を落とす。
『願い事。あきらめモードはNG。もっと前向きに』
『待ち人。あきらめたら来ず。気持ちが大切』
「……」
「すごい! 大吉引いちゃった!」
 つくしの声に樹はおみくじを軽く握った。つくしは紙をきちんと開き、メグルの視界にきちんと晒す。
「『願い事。人に信頼される努力が実を結ぶはず』……だって! わあ……。メグルは?」
「僕は……僕も大吉です。『願い事。冷静になれば、誰かが助けを出してくれそう』『金運。財布を無くすかも』……」
 メグルはつくしを見、おみくじを見、またつくしに視線を向けた。喜色を隠そうともしないつくしに神妙な顔で告げる。
「つくし……楽しむのはいいですが、財布には気を付けて下さいね……」
「う、うん。分かったよ……」
「クロさんは? どうでした?」
 セラフィナの問い掛けに久朗はおみくじをそのまま渡した。「大吉」。『願い事。想うと吉』。
「願い事をした訳ではないのだが、心掛け続けろと、そういう事……か? お前は?」
「僕は今年は小吉でした。願い事の欄は『小さな事からコツコツと』。とは言っても僕もお願い事をした訳ではないのですが……」
 久朗はわずかに首を傾げ、セラフィナの発言の意図を聞こうとしたが、そこで鴉七不思議の一つ謎のウサ耳……もといシルミルテの瞳がこっそりセラフィナを見ている事に気が付いた。セラフィナもシルミルテの視線に気付いたらしい事を知り、久朗は細い肩を押す。
「行って来い。楽しみにしていたんだろう?」
 「新年最初の皆さんとのお出かけ! 楽しみです!」とセラフィナがはしゃいでいたのは出掛ける準備をしていた時。柔らかく自分を見つめる瞳に、セラフィナは満面の笑顔で返す。
「はい!」

●鴉、屋台
「それでは、いざ尋常に参るでござる!」
 鴉七不思議の一つ謎の覆面……もとい小鉄は目に入ったたこ焼き屋へ全速力で駆けていった。恐らくまた覆面をつけたままの小鉄の前で、消失マジックよろしくたこ焼きが消え失せるのだろうが……うん、もう気にしない。久朗は一人頷いた。
「食べ物などは片端から制覇するでござるよ! む、あの屋台は見慣れぬでござるな」
「珍しいのは分かるけど、食べ過ぎないよう注意してね」
 小鉄に諫めの言葉を投げ掛けつつ、稲穂もたい焼きを買い求めた。人数分を袋に入れてもらい仲間達の元へと戻る。
「はい、たい焼き。おいしい内にみんなで食べましょ」
「すいません、ありがとうございます。普段から何かと気を遣って頂いて……」
「そんなにかしこまらなくていいのよ。せっかくだから楽しみましょ。私もみんなでたい焼きを食べられたら嬉しいし」
 真面目で礼儀正しいメグルの言葉に稲穂は朗らかな笑みを返した。稲穂も楽しめるように、と気を回したい所だが、とりあえずこの場はたい焼きをおいしく食べる事が最善。そう判断したメグルは「ありがとうございます」とたい焼きを受け取り、つくしと並んであつあつの皮を口に入れる。
 焼きたてのたい焼きは外はカリカリ、中は瑞々しい粒あんこ。寒空の下で甘く温かいたい焼きを、皆と輪になって食べるシチュエーションは格別である。シルミルテもセラフィナと共にもぐもぐとたい焼きを頬に詰める。
「もぐモグもぐモグんまー」
「本当に、甘くておいしいですね」
 にこりと微笑むセラフィナにシルミルテもにぱーと笑みを返した。セラフィナと久朗が一緒に過ごす時間も取れるように、とつかず離れず適度な距離を今まで保っていたのだが、セラフィナは大事で大切で綺麗な友達。べったりし過ぎないようにと思っていてもやっぱりできれば近くに居たい。
(くろーにはオ墨付き貰ッタし、チョットぐらいは、いいよネ……?)

 一方、久朗は何をしているかと言うと。
「納豆はやめろ。生臭いから」
 眉間に盛大に皺を寄せ、旧来の知己にして恒久の天敵、樹の動向を眺めていた。樹の右手には餅があり、左手はひきわり納豆と粒納豆の間を揺れ動いている。
「くろー、納豆は身体にいいんだよ」
「知っている。だがやめろ」
 間髪入れずの返答に、樹は「やれやれ」と首を振った。さも「仕方ない」と言わんばかりの対応にさらに眉間に皺が寄ったが、さすがに神社と人前で騒ぎ立てるのはみっともない。
「む、あそこにあるのは……射的!」
 と、小鉄が何かを発見し、その何かに向かってまっしぐらに突撃した。見れば老若男女問わず銃にコルク製の弾を詰め、屋台の中に並ぶ景品目掛けてコルク弾を放っている。
「くろー、勝負しよう。納豆を賭けて」
 樹は射的の屋台をびしりと差し、大事な腐れ縁かつ親密なる宿敵に宣戦布告を叩き付けた。久朗は腕を組み、両目を閉じてわずかに頷く。
「いいだろう。だが、納豆は賭けない」

●鴉、射的
 スノーは食い意地が張っている。女性に対して使うべき表現ではないが、とにかく食い物には目が無いというのは間違いない事である。とは言え大食漢というわけではなく胃袋にはちゃんと限界がある。故にここで食べなければいけないものは食べ持ち帰れそうなものは確保、と飴のお姉さんは屋台を渡り歩いていた。
「ちみっこ共食ってるかー」
 スノーは戦利品を抱えつつ仲間達の元へと戻った。そしてさっそく戦利品の一つ、チョコバナナを配って歩く。
「わあ、ありがとうございます」
「こいつはここで食ってった方がいいからなぁ。そうそう、今の内にこいつも」
 つくしに声を返した後、スノーは戦利品を一度置き何かをつくしに差し出した。見れば飾り縫いの向日葵が見事に咲き誇るお守りが一つ。
「お守りって要は願いを込めりゃ良いんだ。これはつくし用に願いを込めて作ったヤツだぜ」
「かわいい……ありがとうございます!」
「セラフィナにはこっちだな」
 スノーは今度は白い鳥と黒い鳥を飾り縫いしたお守りを取り出すと、セラフィナの白い手に乗せた。「ありがとうございます」ときらきらした目を向けるセラフィナに「おう」とさっぱり声を返し、次はシルミルテに包みを持たせる。
「特別に趣向を凝らして兎型の飴を作ってみたんだ。遠慮なく食べてくれ」
「オオオー。すごイ。アりがトう!」
「いいって事よ。稲穂は今度一緒に出掛けようぜ。良い反物屋見付けたんだ」
 ちみっこ達にそれぞれプレゼントを配った後、スノーは友人へ声を掛けた。稲穂はスノーのお誘いに「ぜひ!」と目を輝かせる。
「ところで、なんか欲しいもんはねえか? 人も多いし買って来てやるよ」
「それじゃあ、後で一緒にお店までお付き合いしてもらってもいいですか?」
「今ちょっト見守り中なノ」
 セラフィナとシルミルテはスノーへそう述べた後、「見守り中」を指し示した。見れば小鉄・米衛門・樹・久朗が、それぞれ射的の銃を手に勝負の時に備えている。
「ほほー、勝負なのか?」
「ウン、納豆を賭けテ」

 去年の射的の順番はおみくじのよろしくない順番だった。ので今年はおみくじのよろしい順番とする事にした。
「くろー、納豆にからしは入れる?」
「納豆は賭けないと言っている」
 大吉を引き当て一番手となった久朗は慎重にコルク弾を詰めた。納豆と納豆農家さんに罪はないがそれとこれとは話が別だ。
 なお、今回は公平(?)を期するため、ポイント制で勝敗を決める事となった。倒しやすいお菓子は一点。お菓子より少し重いマスコットは二点。大きなぬいぐるみや重しを付けられたゲームなどは五十点。景品の数を競う形にするとどうしてもお菓子に偏ってしまう、それではちょっと面白味がない、というのが理由である。
(とは言っても、さすがにあんなでかいぬいぐるみには手が出せないが……)
 一回につきコルク弾五発、しかしそれだけであのぬいぐるみは倒せるような代物だろうか。……いや多分無理だろうが、今久朗が気にするべきはそこではない。なんとしてでも納豆は避けねばならぬ。負けたら本当にやりかねないのがあの洗濯い
「くろー、早くして」
 後ろから樹の声が聞こえ、久朗は思考を射的に戻した。まあいい、とりあえず勝てばいいのだ。銃の狙いを標的に定める。

(あの巨大なぬいぐるみを倒せば五十点でござるか……)
 二番手、吉、小鉄は銃を構えて悩んでいた。小鉄が射的を行ったのは去年の初詣が初である。つまり今回が二回目である。故に射的では何を狙うのがセオリーなのか、攻略のコツは、という事は小鉄には一切分からない。
(お菓子が一番点数が低いのは、それだけ倒しやすいから……というのは予測がつくのでござるが、果たして本当にそうなのでござろうか。お菓子は的が小さい。しかしぬいぐるみは的が大きい。的が大きい方が当たりやすいから実は倒しやすいのでは?
 しかしぬいぐるみはその分重量がある故倒しにくい……やはりお菓子を狙った方が……しかし小さいお菓子をちまちまと狙いちまちまと点を稼ぐ事が果たして正しいと言えるのか……)
 小鉄は悩んでいた。ものすごく悩んでいた。脳みそ筋肉で出来てるんじゃないかと噂される脳みそで力いっぱい悩んでいた。
(『願い事。怠け者ではいつまでも成功しません』……先程のおみくじにはそう書いてあったでござる。今年の拙者の抱負の一つは射撃の腕の向上。これはその好機なのでは? もし、戦場にて敵わぬかもしれぬという強大な敵と見えた時、その時拙者はどう動く? 射撃の腕を磨いておけば、これまで以上に仲間達を護る事に繋がるのでは?)
 小鉄は固く覚悟を決めた。標的は愛くるしい表情を浮かべる真っ白なクマのぬいぐるみ(全長2m)。倒すべき敵に射的銃の先を向け、決意に瞳を鋭くする。
「いざ、尋常に勝負!」

(さてと、どうしようかな)
 三番手、末吉、樹は、先の二人が撃っている間に景品の品定めをしていた。親密なる宿敵に(さっき何か不穏な事を考えていたような気もするし)勝って(ついでに納豆を食べさせたい)のはもちろんだが、せっかくなら取って嬉しいものを取りたい。
(……あ、あれ、いいな。でも、あれもいいな……ちょっと倒すのは難しいかな……でも、せっかくだし……)
 と、樹が狙っていた一つが何かに弾かれたように後ろに倒れた。店主がそれを無造作に掴み、倒した相手の手に渡す。
(……あれは取られちゃったか。シルミルテにいいかなと思ったんだけど。頼めばくれる気もするけど……)
「佐倉さん、次ッスよ」
 米衛門の声に押され、樹は射的銃を取った。狙っていた内の一つはまだ棚の上にある。
(とりあえず、あれは貰おう。それとお菓子三つ取れば少なくともくろーには勝てるし。後でやっぱり欲しかったな、なんて後悔はしたくはないし)
 片目を瞑り、意識をしっかりと集中させる。息を軽く吐いた後、樹は一発目を放った。

(な……なんだあいつの目は……!)
 射的店主はある一人の客の姿におののいていた。射的銃を吟味する客はたまにいるが、その男の姿は良し悪しも分からぬ素人のごっこ遊びではない。そつのない動作で重さを確かめ、無駄のない動きで銃を構え、そして戻す。その動き、効率の良さ、そして眼光は正しく獲物を狙う狩人の目。
(そ、そういや去年仲間の一人が言ってたな……やけに雰囲気のある客が来たと。結果の方は並だったがありゃあ射的銃に慣れてないだけで、回数重ねりゃ確実に化けると。ま、まさかそいつが今俺の店に……?)
 男はようやく銃を選び終わったらしくコルク弾を詰め始めた。その動作一つ一つにも得体の知れぬ重みがあり、店主の喉がごくりと鳴る。
 男は準備を整えると、景品に銃の先を向けた。後に店主は仲間達に語る。あれは熊を狙う猟師の目そのものだったと。
 男の名は齶田米衛門。去年おみくじで大凶を引き、今年は凶を引き当てた、マイペース純朴マタギ農家である。

●鴉、団欒 
「第二回目射的王者、ヨネチャン〜」
「どうもありがとうございますッス!」
 米衛門は自分が取った射的の景品を高く掲げた。ちなみにその手にあるのは巨大お菓子の箱。十点。ちなみに久朗と樹は同列、四点で、最下位は小鉄。零点。
「弾は全部当たったでござる!」
「そうね。最初から最後まで巨大ぬいぐるみ狙いだったものね」
 結局、小鉄は最初から最後まで巨大ぬいぐるみ一本とし、弾は見事に全部当てた。しかし軽いコルク弾五発で巨大ぬいぐるみ(2m)は倒れてはくれなかった。
「拙者の力量が足りず倒す事は叶わなかったが……来年は必ず……」
「やめて」
 不穏過ぎる小鉄の言葉に稲穂はすかさず突っ込んだ。あれは罠である。どう考えても罠である。だがそれを上手く伝える事は意外に難しい。
「とりあえず、何処かでご飯でも食べましょうか。一回外に出なくちゃダメかしら」
「それならおでんの屋台があったぜ。中に座敷がついてんだ」
 稲穂の声にスノーが応え、一同はおでんの屋台へ移動する事となった。他の屋台の品も持ち込み可能という事で、一部は待機、一部は食べたい品を入手のために外に出る。
「それじゃあスノーさん、お願いします」
「おうよ。はぐれないよう気を付けてくれよなぁ」
「おでんヨロシク」
 セラフィナ・スノー・シルミルテが仲良く揃って何処かに出掛け、つくしも「ちょっとお土産買ってくる」とメグルと共に出て行った。残った久朗・樹・米衛門・小鉄・稲穂で頼むおでんを選ぶ。
「そうだ、これ」
 久朗は忘れない内にと、樹へマスコットを差し出した。シルクハットを付けたうさぎのぬいぐるみは、樹が密かに狙っていた射的の景品。
「くれるの?」
「おまえじゃなく、シルミルテにだ。セラフィナによくしてくれる礼に」
 樹はマスコットを受け取ると、代わりにお菓子を二つ久朗へと突き出した。こちらも先程の射的でゲットした景品である。
「……?」
「これも、くろーじゃなくてセラフィナに。シルミルテの大事な友達だから」
 久朗はお菓子をしばし見つめると、軽く笑んで「分かった」と受け取った。その光景を眺めていた米衛門と小鉄と稲穂が頷く。
「仲良き事は美しきッスね」
「その通りでござるな」
「ほんとにねえ」

 神社で買った「御守」と書かれたお守りと、スノーから貰ったお守りを二つ大事に手首から下げ、つくしは林檎飴に負けない程に目をきらきらさせていた。小ぶりで可愛らしいりんごにたっぷり絡んだ真っ赤な飴。食べれば飴の甘さとりんごのジューシーな甘酸っぱさが絶妙なハーモニーを奏でてくれる。
「おいしそうだね、メグル」
「そうですね」
 つくしは「どれにしようかな」と呟きながら林檎飴を選び始めた。どれも綺麗でおいしそうだが、せっかくなら一番大きくて宝石みたいにきらきらしているものがいい。お留守番しているもう一人の英雄が喜ぶ顔が見たいから。
「メグル、今年は何をお祈りしたの?」
「そういうのは教えるものではない、と去年も言いましたよ」
「ケチ」
 つくしは口を尖らせながら、ふふふ、とすぐに笑みを零した。メグルもそっけない口をききながら、柔らかな表情を浮かべてみせる。
「去年は色々あったし、沢山傷ついたけれど、今こうしていっぱい楽しんでるから、いいの。今年もたくさん頑張って、皆で一緒に過ごしたい。メグルも、隣を一緒に歩いていてね。今年も。これからも。ずっと」
 つくしの言葉にメグルは少し目を開き、それから目元を和らげた。共に歩くと決めた人。笑顔で居て欲しいと願う、大切な能力者。
「はい」
「うん! ……よし、決めた。すいません、これと、これと、これ下さい! あ、あとこれも!」
 メグルに弾けるような笑顔を見せた後、つくしは店主のおじさんにお目当ての飴をお願いした。メグルも隣でこの時を楽しむ。前でも後ろでもなく、隣で。

 セラフィナがスノーとシルミルテと共に屋台に戻ると、机の上にはすでにおでんが到着していた。さらにスノーがお好み焼きや焼きそばなどを遠慮容赦なく追加していく。
「よし食え! どんどん食え!」
「頂くでござる!」
「オイも遠慮なく食うッスよ!」
 スノーの声に小鉄と米衛門が箸を掲げ、他のメンバーもそれぞれ目当ての品を皿へと取った。セラフィナが稲穂に近付き、お腹がいっぱいになってしまう前に、といちご飴を一つ差し出す。
「いつも皆を気にかけてくださってありがとうございます!」
「あら、嬉しい、ありがとう!」
 稲穂はいちご飴を受け取ると胸の前に添えて見せた。しっかり者だが見た目は和服少女な稲穂に、真っ赤で可愛らしいいちご飴はよく似合う。
「さっきは一緒にこれを買いに行ったんだよな」
「スノーさん、お付き合い下さりありがとうございました。今日の飴もおいしかったです。いつも楽しみにしています」
「そっかそっか。んじゃまた作ってきてやるからなぁ」
「はい!」
 セラフィナの言葉にスノーは嬉し気ににかっと笑い、セラフィナも満面の笑みで返した。久朗はその様子をなんとはなしに眺めていたが、ふと、米衛門の瞳が自分を見ている事に気が付いた。
「どうした? ヨネ」
「あっと……実は久朗に話そうと思っている事があるッスが……」
 左腕のいつにない様子に久朗は黙して米衛門の言葉を待った。だが、米衛門は程なくしていつもの快活な笑みだけを寄越す。
「今度改めてお願いするッス! 今年もどうぞよろしくおねげえするッスよ」
「……ああ、もちろん」
 久朗はジュースの入ったコップを持ち上げ、米衛門はそこに自分のコップを打ち付けた。それから「さあこれも食うッスよ」と久朗の皿に食事を乗せる。
「ところで、去年と比べて皆との関係はどうだ?」
「“変わらない”ッスね。久朗は?」
「俺は……さあ、どうだろうな」
「あ、あの、真壁さん、ちょっといいですか?」
 つくしが、自分の席から離れ久朗に話し掛けてきた。気を遣い、米衛門が席を離れようとすると「そのままで大丈夫です!」とつくしは米衛門を引き留める。
「あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします!」
「ああ、こちらこそよろしく。一年前よりも皆と打ち解けてきたかな。前より更に元気になったな」
 久朗の言葉に、つくしは少しだけ口をきゅっと引き結んだ。つくしにとって久朗は信頼する隊長だ。信頼して欲しいな、信頼してもらえてるかなと内心ちょっと思っている。
 それを口に出して尋ねる事はまだ出来ないが、おみくじの内容は『人に信頼される努力が実を結ぶはず』。努力すればきっと。だから。
「私、今年も一生懸命頑張ります。どうかよろしくお願いします。ヨネさんも、どうかよろしくお願いします!」
「もちろんッスよ。元気者同士、一緒に【鴉】を盛り上げるッス」
 米衛門の言葉に、つくしは明るく笑みを見せ、その笑顔に久朗も表情を和らげた。だが、次のつくしの発言で瞬時に真顔になる事になる。
「頑張ります。いつきちゃんと真壁さんみたいにいっぱい仲良しになれるように!」
「頼むから、あいつの真似だけはしないでくれ」

「メグルさん食べてますか? せっかくの初詣ですから美味しいものたくさん食べましょう!」
 セラフィナはメグルの元を訪れると、空いた席にちょこんと座った。気遣い上手のしっかり者に、メグルは丁寧な言葉を返す。
「セラフィナさん、お気遣いありがとうございます。セラフィナさんも楽しんで下さい」
「はい!」
「……じー」
 と、斜め後ろから視線を感じ、メグルは振り向いてぎょっとした。見ればうさ耳……もといシルミルテがメグルの髪をじっと見ている。
「シルミルテさん……どうしました?」
「メグルしゃん」
「はい」
「今年もよろシク」
「……宜しくお願い致します」
 シルミルテがにぱーと笑みを浮かべたので、メグルはぺこりと頭を下げた。メグルにとってシルミルテは「不思議な人」だ。シルミルテは見た目こそ小さな子供だが、見た目だけでは測れないのだろうとメグルは内心思っている。
 一方、シルミルテはメグルに対してこのように思っていた。一度髪をいじりたおしたい。果たしてこの二人が(色んな意味で)通じ合う日は来るのだろうか。それは誰にも分からない。

「ヨネさん、この前は美味しいお野菜をありがとう」
「トッテもおいしカッタよヨネちゃん」
「どういたしましてッス!」
「米殿の野菜は確かに美味でござる。この前お裾分け頂いたものも絶品でござった。ここのおでんも美味でござるが、米殿の野菜を使ったおでんも食べたいでござるな」
 米衛門に感謝を伝える樹とシルミルテの視界の端で、おでんが消えた。否、多分小鉄が食べているのだが……久朗は気にしない事にした。つくしは慣れた。シルミルテは「つらぬきとおしちゃってるにんじゃ」と内心思っている。
 稲穂は一時箸を置き、わいわいと食事を楽しむ仲間達の姿を視界に収めた。
 ここの皆は小鉄含め無茶をよくする、怪我をすることも多い。
 心配だが、それを止めることは出来ないし、したくない。
 ならばこそ共に戦場に立てるときは一緒に無茶をしよう、そうでないときは暖かいご飯で帰りを迎えよう。
 常に笑顔で彼らを暖めるのが、きっと自身に出来ることだろう。
 そう心に刻みつつ、今はこの団欒を、楽しむ。

●鴉
 おでん屋を出た後はしばし自由行動の時間となった。主に土産を購入するためにと設けられた時間である。
 樹も持ち帰ることができるものを留守番している第二英雄へのお土産に、と足を屋台に向ける……前に、おでん屋を出て何処かに行こうとするつくしの背中に呼び掛ける。
「つくしさん」
「なに、いつきちゃん」
 樹は向日葵のついたストラップをつくしの方へ差し出した。先程の射的で欲しいなと思ったもう一つのもの。ともだちに、似合いそうだと思ったから。
「これ、私に?」
 頷いた樹に、つくしは「ありがとう!」と笑顔を向けた。つくしが樹を大切な友達だと思ってくれているのと同様に、樹にとってもつくしは大事なともだちだ。
 大事だから、
 いつか
「そうだ!」
 つくしはビニール袋に右手を入れ、林檎飴を一本差し出した。きょとんとする樹に、つくしは変わらぬ笑顔を振りまく。
「これ、いつきちゃんにあげる。おいしいよ!」
 キラキラとした林檎飴は、いつも明るく元気なつくしによく合っている。樹は林檎飴を受け取り、つくしに橙の瞳を向ける。
「ありがとう」

「これ」
 射的で取った景品の一つを久朗はセラフィナの手に渡した。両手に収まる大きさのペンギンのマスコット。
「お前に、いいかなと思って」
「ありがとうございます!」
 両手にペンギンのマスコットを乗せ楽しそうにするセラフィナに、久朗は瞳を和らげた。と、先程の疑問を口にしてみる。
「さっき、願い事をした訳ではないと言っていたな。あれは?」
「えっと……さっきも言ったように、お願い事はしなかったんです。変わっていく世界をありのままの姿で受け止めたかったから。
 僕もクロさんや皆の世界と同じ時間を生き続けていきたい。目まぐるしく変わっていく世界の中でも、変わらずに寄り添い、支える存在で在れるように」
 普段よりずっと大人びた表情で、セラフィナは久朗に微笑んでいた。普段は好奇心旺盛な純真な少年といった風情だが、青みがかった翠の瞳は時折酷く深くも見える。久朗はそれに対し、ただ小さく頷いた。
「そうか」
「はい! そのために、『小さな事からコツコツと』、なんですかね?」
 セラフィナの瞳はすっかり普段の無邪気さを湛えていた。だから久朗も「そうかもな」と、普段通りの言葉を返す。
「くろー!」
 と、シルミルテの声が聞こえ、二人はそちらを振り返った。見ればシルミルテがうさぎのマスコットを右手に掲げこちらへと近寄ってくる。
「コレ、どうもありがトネ」
「あ、ああ」
「頑張ってネ」
 何を、とは聞けなかった。だから久朗は鴉七不思議の一つ謎のウサ耳……もとい謎の生き物……もといシルミルテに「ああ」とだけ返事をした。シルミルテは内心苦労人と思っている久朗に対し「(今年も苦労ヲかけますが)ヨロシクおねがいしマス」と心の中で思っていた。
 一方、セラフィナは樹に近寄り、こそこそと話し掛ける。
「樹さん、お菓子どうもありがとうございました」
「こちらこそ、シルミルテと仲良くしてくれてありがとう」
「どうかこれからも、クロさんの事を見ていてくださいね」
 セラフィナからのお願いに、樹は「……うん」と少し曖昧に頷いた。セラフィナはしばし樹を見つめ、「今年もよろしくお願いします」と頭を下げてシルミルテのもとへ走っていく。
「シルミルテさん! 今年もたくさんよろしくお願いします!」
「こっちこソたくサんヨロしくネ!」
「真壁さん」
 今度はメグルに呼び掛けられ、久朗はそちらに身体を向けた。そんな気がするだけかもしれないが、前よりも顔色が良くなったような、遠くを見つめる事が減ったような……どこか雰囲気の変わったメグルが、落ち着いた声で挨拶を述べる。
「挨拶が遅くなり申し訳ありません。今年も宜しくお願い致します」
「そんなにかしこまらなくていい。こちらこそ、よろしく頼む」
 久朗はそう言ったが、メグルは姿勢を崩さなかった。元よりメグルは礼儀正しく真面目なタチだし、メグルは久朗を信頼できる隊長と思い、少しでも肩の荷が降りるように努めたいと考えている。
 一方の久朗にしても口数の多い方ではない。なんとも言えない沈黙が流れる中、鴉七不思議の一つ謎の覆面が近付いてくる。
「真壁殿、メグル殿、皆で写真を撮るそうでござるよ」
「写真?」
「せっかく初詣に来たんだし、記念に写真を撮りましょう」
 小鉄の言葉を稲穂が引き継ぎ、小鉄は二人の背中を捕らえてぐいぐいと押していった。その先には仲間の……愛すべき【鴉】の仲間達の顔がある。
「メグルさんはこっちッスよ」
「メグル、こっちこっち」
 米衛門とつくしに呼ばれ、メグルは元気っ子二人組に挟まれた。久朗は後ろに行こうとしたが、小鉄にガシリと引き留められる。
「真壁殿はここでござるよ」
「……俺が真ん中なのか」
「真壁殿が隊長でござる故」
 不器用で真面目な隊長の肩を叩きながら、小鉄は覆面の下で口元を緩めていた。また来年も一人も欠ける事なく迎えたい。それを言葉と出す事はないが、仲間と過ごす日常を日々自身の記憶に刻んでいく。
 今この時も。
「それじゃ撮るよー」
 撮影を請け負ってくれたおじさんの声に従い、【鴉】達は思い思いのポーズと表情を形作る。あるいは太陽のように、あるいは月のように、あるいはあたたかく、あるいはおおらかに豪快に、あるいは向日葵のように、あるいは不器用に。共通して言える事は、どれもいい顔だという事。
 シャッター音と共に、今この時を胸に刻む。
 そしてまた、来年も。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【真壁 久朗(aa0032) / 男 / 24 / 能力者】
【セラフィナ(aa0032hero001) / ? / 14 / バトルメディック】 
【小鉄(aa0213) / 男 / 24 / 能力者】
【稲穂(aa0213hero001) / 女 / 14 / ドレッドノート】 
【佐倉 樹(aa0340) / 女 / 19 / 能力者】
【シルミルテ(aa0340hero001) / ? / 9 / ソフィスビショップ】 
【御代 つくし(aa0657) / 女 / 16 / 能力者】
【メグル(aa0657hero001) / ? / 22 / ソフィスビショップ】 
【齶田 米衛門(aa1482) / 男 / 21 / 能力者】
【スノー ヴェイツ(aa1482hero001) / 女 / 20 / ドレッドノート】 

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 こんにちは、雪虫です。【鴉】の皆様の初詣のご様子、わいわいと楽しんでいる情景を重点にしたためさせて頂きました。
 かなりアドリブを入れておりますので、口調やイメージ、やり取りなどに齟齬がありました場合は、お手数ですがリテイクをお願い致します。
 ちなみにおみくじの吉凶と内容についてですが、こちら雪虫の創作ではなくガチの結果となっております。
 皆様の一年がより良いものとなりますよう、心よりお祈り申し上げます。
八福パーティノベル -
雪虫 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2017年05月23日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.