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『バトルオブザ高貴 ザ・ファイナル 』
ジャック・J・グリーヴka1305)&クローディオ・シャールka0030)&エヴァンス・カルヴィka0639

 新進気鋭に一気に成り上がったマフィア、グリーヴファミリー。
 長き伝統を持つ古くからのマフィア、シャールファミリー。

 二つの巨大な組織が、今、対立していた。

 グリーヴファミリーは近年台頭してきた新規勢力である。疾風怒濤の勢いで数々のファミリーを併合・傘下に加え、今や「裏社会にグリーヴあり」と言わしめるほどの勢力を誇る巨大組織だ。

 シャールファミリーは古くから脈々とこの地に覇を轟かせてきた「裏社会のゴッドファーザー」である。長き伝統に裏付けられた血の絆のもとに、マフィア界のロイヤルファミリーとして知られている。

 グリーヴファミリーは挑む。シャールファミリーに勝利し、真の意味で裏社会の帝王として君臨することを。
 シャールファミリーは迎え撃つ。裏社会の秩序を、野心のままに荒らしまわる「小僧」に仕置きをするために。



 ――舞台は夜。
 九〇年代のチープなネオンが極彩に踊る摩天楼――そのはずれ、誰もいない廃工場。
「なんだ? あいつら、まだ来てないじゃねぇか……」
 傲慢を絵に描いたような男――グリーヴファミリーの若頭、ジャック・J・グリーヴ(ka1305)がその場に現れた。いかにも成金然としたブランドの腕時計をわざとらしい動作で見やる。これでもかと装飾された貴金属と宝石が暗闇に瞬いた。
「まあ……決闘の十分前だからな。じきに来るだろうさ」
 腕時計から雇い主へ視線を戻し、エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が答える。彼は傭兵としてジャックに雇われた者である。あの腕時計だけで俺の年収以上あるんだろうなぁ……と漫然とエヴァンスは思っていた。
「ふん」
 エヴァンスの言葉にジャックは不愉快げに鼻を鳴らした。高い金をはたいて雇った傭兵ではあるが、どうもジャックは彼が気に入らないらしい。こいつ敬語も使わないし。敬え。フン。
(まあ……、今夜は大事な夜だ)
 ジャックは気を引き締め直す。今夜、グリーヴファミリーかシャールファミリーか、裏社会の帝王の座が決まる。その重大な役目として選ばれたジャックに、緊張が無いと言えば嘘になった。

 町の喧騒が遠く聞こえる――
 張り詰めた空気のまま、嫌なほど長く感じる短い時間が過ぎて。

 ――チリンチリン――

「! この音は……!」
 闇の彼方より聞こえた音に、ジャックは弾かれたように顔を上げた。一方でエヴァンスはキョトンとしている。
「え? この音って、ママチャリのベル――」

 ――チリン。

「……待たせたようだな」
 地面を踏みしめる音――自転車のペダルから地に足をつけ、ヘルメットをグイと上げ、一同を見渡したのはママチャリにまたがったシャールファミリーの御曹司クローディオ・シャール(ka0030)その人だった。
(チャリで来た……!)
 エヴァンスは光景に言葉を失う。クローディオはチャリで来たのだ。というか引き連れている部下も全員チャリだ。チャリオブママ、つまりママチャリだ。マフィアだけどチャリで来た。
「ふ」
 最中、ジャックが口角をつった。
「見た目に騙されるなよエヴァンス、奴等はシャールファミリーが最強の尖兵、疾風怒濤の銀騎士機動兵団――」
「銀騎士機動兵団」
「またの名をアイアンシルバーズ」
「アイアンシルバーズ」
 鉄か銀かどっちだよ、とエヴァンスは素直に思った。中学生がノートに書いた必殺技かよ。
「ていうか暴走族的にバイクならまだしもママチャリって……全員律儀にヘルメットつけてるし……」
 エヴァンスは引き続き呆気にとられている。すると、クローディオが悠然と笑んで傭兵を見やった。
「こんなことわざを知っているだろうか――」
「?」
「二度あることは……三度ある」
「……」
「そういうことだ」
「いや、だから何!?」
 話の前後関係が皆無というかカオスである。
「……久し振りだなクローディオ」
 と、ジャックがクローディオで話しかけた。「今のやりとり聞いててよくそんな平然としてられるなアンタ」とはエヴァンスが心の中だけで思った話。
「あれ、ていうか知り合いだったのか」
 ジャックとクローディオを交互に見やるエヴァンス。泰然としているジャックに、どこか表情に憂いを浮かべたクローディオ。

 ――かつてジャックとクローディオは親友だった――



※ここから回想シーン



「……泣くなよ、クローディオ」
 高い空。視界を覗き込むのは、一人の少年。幼いジャックが、倒れていた幼いクローディオに手を差し伸ばした。
「ひっく……ぐすっ……」
 幼いクローディオは涙ぐみながらも、小さな手を取る。ぐいと引っ張られ身を起こすけれど、べそをかいている少年はしょんぼりと背中を丸くしていた。すりむいた両膝、土の着いた服、クローディオはさっきから何度も転倒しているのだ。
「どうやったら、ジャックみたいに補助輪なしで自転車に乗れるようになるんだろう……」
 幼いクローディオの傍らには、自転車が横に倒れている。カラカラカラ……と車輪が虚しく回っている。さっきから彼は補助輪無しで自転車に乗ろうと試みては転び続けているのである。もうめげそうで、涙も止まらない。そんな少年の背を、幼いジャックがポンと叩く。
「だーいじょーぶだって。こんなもん、ノリだよノリ。いけるって」
「でも……」
「あきらめたらそこで試合終了だぞ!」
「……うん」
 鼻をすすって、自転車を起こしそれにまたがるクローディオ。ジャックが後ろから支えてくれる。「じゃあもう一回な!」と走り出す。

 青い空――風が吹き、景色が流れる……。

「ねえ、ジャック。いつか……大きくなったら、二人でいっぱい自転車に乗ろうね!」
「おう、約束なクローディオ! いつか二人で世界を一周しようぜ! 自転車で!」


 ――約束だよ……。



※回想シーンここまで



「な、なんか……唐突な回想シーンだったな……」
 エヴァンスが誰とはなしに呟いた。何だ今の。何だ今の(二回目)。
「あの頃のおまえは……もう、いないのだな」
 そんなエヴァンスを全力でおいてけぼりにして、クローディオは長い睫毛の目を伏せる。
「あの長い坂道をブレーキいっぱいにぎりしめてゆっくりゆっくり下って行ったあの頃のおまえは!!」
(何言ってんだコイツ)
 エヴァンスは「なんでここに来てしまったんだろう」と遠い目をして天を仰いだ。
「ふん! 笑止!」
 そんなエヴァンスをおいてけぼりに、ジャックが凶悪に歯列を剥いて嘲笑してみせた。
「友情……絆……信頼……どこから来て、どこへ行く? そんなものは……この俺様が破壊する!!」
 なんでコイツ急にラスボスみたいなこと言い出したんだろう、エヴァンスは考えるのを止めた。一方ジャックは引き続き暗黒微笑していた。
「この世において、俺様の伴侶は金と、そして――」
 めきめきめきめき。不穏な音が辺りに響く。音の出所はジャックだった。めきめきぶちぶち――それは服が張り裂けゆく音。その理由は、ジャックの筋肉がいきなりスゲービルドアップしたからだ。

「――筋肉(マッスル)ッ!!」

 服バーン。エンターテイメントにおいて受ける要素はエロスとバイオレンスだ。これはエロス成分だ。このエンターテイメントにおける最初で最後の肌色シーンだ。男なのでおっぱいに修正する必要がない。無修正おっぱい。すごいぞ。強いぞ。モザイク要らずのすごいやつ。
 ちなみに下半身は無事なので安心して欲しい。こういう筋肉で服バーンは下半身の筋肉をビルドアップさせずズボンをノーダメージに保つことがまことの紳士だ。お子様にも安心。
「ククク……俺様は筋肉狂信者で筋肉さえあればオールオッケーと思っているフシがあることは否めない」
「わあすごい説明口調」
「この力に俺様が出会ったのは今から四年前――」
「え、ひょっとしてまた回想シーンなのか? また回想するのか? 尺伸ばしに必死な連載漫画か?」
 無修正ジャックの言葉にエヴァンスはちゃんとレスポンスしてあげるすげーいい奴。
「なんかもう……なんだこれ。ファンタジー色すげーぞマフィアなのに俺達」
 マフィアってなんだっけ、と心底思ったエヴァンスだった。念のために記しておくが、この場の全員、マフィアっぽいイカしたスーツを着ているぞ。黒いやつだ。あとなんか……ファーがついてるイカニモなロングコートを肩にかけている。モブは全員黒スーツ黒サングラスのモブい感じのアレコレ。もしこれが絵だったらコピペが大活躍するやつ。

 さてそんなコピペモブマフィアが固唾を呑んで見守る中、グリーヴファミリーとシャールファミリーの若頭が相対する。(そういえばこれマフィアな物語だった)

「世を統べるに相応しきは金ッ! そして圧倒的暴力ッ!!」
 エクストリームテラマッスルなジャックが不敵に笑う。その手には銃があった。
「え!? そんだけムキムキなのに肉弾戦しないの!?」
 これには流石のエヴァンスも二度見。
「馬鹿野郎! 常識的に考えて人間のパンチより銃の方が強いだろうが!」
「う、うーん……?」
 マジレスなのかギャグなのか。答えあぐねにあぐねまくるエヴァンスだった。
「力と野心に溺れてしまった哀れな男……」
 一方、クローディアはムキムキ無修正のジャックに目を細める。
「愚かな野望を胸に抱き、ここで安らかに眠って逝け。――いくぞ、ヴィクトリア!」
 チリンチリン! クローディオの愛ママチャリ、ヴィクトリアのベルが高らかに鳴り響く。
「行くぞ、皆のもの! いたずらに秩序を乱す、かのグリーヴファミリーに秩序の鉄槌を!」
 雄々しく勇ましく、そして麗しく――クローディオは華美なる外套を翻してみせる。凛と見すえるその青き眼差しに、ママチャリに乗ったコピペモブマフィア達が「おおおおおおおッッ」と声を轟かせた。エヴァンスは「なんでアイツあんなに冷静でいられるんだろう」と不思議に思っていた。
「いざ!」
 クローディオがペダルに足をかける。

 だが彼は知らない。その外套がチャリの車輪に巻き込まれていたことに。
 そのことによって、世界に波乱と戦乱の時代がやって来るということに――。



●五十年後

「――というお話があったのさ」

 老いたエヴァンスは幼い子供達にそう締め括って微笑んだ。暖炉の火がパチパチと優しく爆ぜる。穏やかな橙の灯りが、夜の部屋を温かく照らしていた……。
「えー、もうおわりー?」
「まだおはなしききたいよー!」
「それからどうなったの? ねえおじいちゃんってばー!」
 子供達が老人の膝によじ登る。エヴァンスはからからと笑って、幼い孫達の頭を順番に撫でてやった。
「今夜のお話はここまでだよ。もういいこは眠る時間だ……」
 緩やかな言葉。されどエヴァンスに集まる小さな瞳達はまだ興味に輝いていて、老人は苦笑をこぼす。
「また明日、話してあげようとも」
「やくそくだよ、おじいちゃん!」
「もちろん、約束だとも。――さあ、明日のために、もうお眠り」
「はーい! おやすみなさーい!」
「ああ、おやすみ子供達」



『了』


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ジャック・J・グリーヴ(ka1305)/男/21歳/闘狩人
クローディオ・シャール(ka0030)/男/27歳/聖導士
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)/男/28歳/闘狩人
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2017年05月30日

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