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『冗談ではすまなかった話 』
レティシア ブランシェaa0626hero001)&木霊・C・リュカaa0068)&ガルー・A・Aaa0076hero001)&Le..aa0203hero001)&コルト スティルツaa1741


 それはひとつの伝説の始まり。……かもしれない。


 きし、きし。
 古いクラブハウスの床は、歩を進めるごとに何かしら呟いているようだ。
 ガルー・A・Aはその音を楽しむように、ゆっくりと歩いて行く。
「ほんのちょっと離れただけで、なんだか妙に懐かしく感じるもんだな」
 よくある地方都市の、よくある大学。
 見栄えのいい綺麗な建物は正面に並んでいるが、その奥の奥、低い建物がいくつか肩を寄せ合うように集まっている場所がある。
 教室大の部屋はどこも似たり寄ったりだ。物が積み上がり、歴代の学生たちの記憶を留めているようでもある。
 大学を卒業するまでは、ここはガルーにとって『日常』そのものだった。
 だが立場が変われば、場所に対する想いも変わる。
 建ち並ぶ校舎の壁に反響して、ひと固まりとなって届く学生たちの声や物音は、自分にとってはもう『過去』なのだ。
 自分はもうここを巣立った人間だという誇りと、拭いようのない寂しさと。
「ま、当事者じゃない学園祭っていうのも悪くないよな」
 ガルーは自分の感情を冷静に見つめ、僅かに口元を緩めた。

 窓の外で新緑がまぶしくきらめく。
 まだ細く柔らかい枝を揺らして吹き抜けた風が、部屋を通り過ぎていった。
 木霊・C・リュカは金色の髪を風に揺らして嬉しそうに笑う。
「学園祭がいいお天気になってよかったよ。風が気持ちいいよねぇ」
 揺れているのはリュカの髪だけではなかった。
 彼の黒く長いスカートの裾もそよそよと揺れているのだ。
「ふざけんな。気持ち悪いに決まってるだろうが」
 レティシア ブランシェが妙に迫力のある、低い声で唸る。
 不機嫌そうにテーブルについた片肘で顔を支え、苛立ったように組んだ片足をぶらぶらさせる。
 その彼の足もやはり、スカートの裾からのぞいているのだった。
 そう、このふたり、なぜかクラシカルなロングスカートのメイド服姿なのである。
「うん、やっぱりジャージを履いたままだと、気持ち悪いと思うよ? 諦めて脱いだ方がいいと思うな」
 リュカが少し首を傾げて、レティシアの姿を見つめた。
 白い小さな襟、大ぶりのフリルがついた純白のエプロン、膨らんだ袖の黒いドレス。
 上品なメイド服を纏ったレティシアだが、ドレスの中の足は裾を追ってたくし上げたジャージを履いたままなのだ。
 だがレティシアはふんと鼻を鳴らして、リュカの提案を却下する。
「ここまで妥協しただけ有難く思え。俺のジャージに触ってみろ、メイドのまま冥土送りにするぞ」
「それは困るかなあ。でもどうせ着るなら、ちゃんと着たほうがカッコいいと思うんだけどなあ。ミニスカってわけでもないんだし?」
「俺は別にミニスカでも構わねぇがな。ジャージがもっと見えるだけの話だ」
 レティシアにとって、ここだけは譲れないというラインのようだ。


 話は少し以前にさかのぼる。
 毎年初夏に開催される学園祭で、彼らのサークルでも何か模擬店をしてはどうかという話になったのだ。
 コルト スティルツが言った。
「大学で語り継がれる伝説のメイド喫茶を目指しますの」
 いや正確には、ちょっと違った表現だったかもしれない。
 でもだいたいそんな感じの話になり、同級生のLe..(ルゥ)も賛同した。
 しかも彼女たちがメイドとして活躍するのかと思いきや、レティシアやリュカ達もメイド姿になる方向で話がまとまってしまったのだ。
 こうして飲み会の冗談半分だった話は、冗談ではない話になってしまう。
 まあよくあることではあるが。
 そしてクラブハウス棟の1階にある共同会議室を運よく(運悪く?)確保した一同は、まさに学園祭の当日、部室で着替えを済ませたところなのだ。

 そこにガルーがやってきた。
 久しぶりでありながら、少し前と全く変わらない様子で部屋に入ってきたガルーは、到着早々、後輩の姿を指差して笑う。
「リュカちゃんなにそれ傑作ww 可愛くない!」
 メイド喫茶をやるかという話が出たとき、ガルーもその場にいた。
 その頃すでにガルーは卒業が決まっていたので、次の学園祭に自分は学生ではないと分かっていた。
 というわけで、後輩達がちゃんとやってるか見に来てやったというか、見物に来たというかは微妙なところだ。
「え? だってお兄さんに似合わないはず無いじゃない……?」
 リュカはロングスカートの裾を軽くつまんで、くるくると回って見せる。ふわりと舞い上がるスカートになんだか楽しくなってきたようだ。
 もっとも、リュカはこの企画に最初からノリノリで、自主的にメイドドレスをレンタルしてきたほどなのだが。
「ちょっとー、就職活動より気合入ってんじゃないの? そーゆー就職するワケ?」
 容赦なく笑うガルーの言葉に、ふとリュカの目から生気が失われた。
「えーあー、ガルーちゃん、今日はお祭りだから……そーゆーのなしにしてほしーかなー……なんて?」
 無事3年生に進学したとはいえ、次なる難問は避けられない。
 それでももう暫くは、学生生活の馬鹿騒ぎを心おきなく楽しみたいのである。

「ああ、そりゃ悪かった! 大丈夫、素敵よリュカちゃん! それよりもレティちゃんのほうが問題じゃない?」
 振り向いたガルーの視線を、上目づかいに睨みながら受け止めるレティシア。
 相変わらずジャージの足をぶらぶらさせている。
「やだもう、下は脱ぎなさいよ、スカートが泣いてるわよ」
 襲いかかる先輩! 反撃する後輩!
「やめろ変態!!」
「スカートの下にジャージなんかを半端に履いてるほうが、よっぽど変態チックだ!!」
「お前は! 部活帰りの女子中高生を変態と言うのか!!」
 どこの田舎の話なのか。
 長いスカートをたくし上げ、必死で逃げまどうレティシアだったが、思わぬ伏兵に襲われる。
「……あら……」
 ものすごくわざとらしく、ルゥがアツアツのコーヒーを入れたポットを持って通りかかったのだ。
「大変だね。どうしよう。早く脱がないと火傷するかも」
 すごく……棒読みです……。
「…………!!!」
 この期に及んで、貸衣装を汚すことを避けたレティシアの負けだった。
 熱いコーヒーで汚れたジャージと、自主的に別れることとなる。
「北風と太陽ですわね」
 コルトはにこにこと笑いながら、家で焼いてきたクッキーをルゥのポケットに滑り込ませた。
 ルゥはぐっと親指を立ててみせる。
 口癖が「お腹空いた」になっているルゥにとって、何よりの報酬である。

「でもスカートが変な膨らみ方しないから、綺麗にみえるよ?」
 リュカがぱっぱっと、レティシアのスカートを直してやる。
「誰がそういうのを目指すと言った……」
 布一枚で仕切られた空間の、この無防備さは何なのだ。
 何故、パン一むきだしよりもぞわぞわと落ち着かない気分になるのだ。
 レティシアはかろうじて内股になるのをこらえ、半ば呆然と立ちすくんでいた。
 ので、足元をすくわれよろめいたところを、出てきた椅子に受け止められるようにして座り込んでしまう。
「うわっ!?」
 見事なまでの、コルトとルゥの連係プレイ。
 さっとケープをかけられ、ついでに肩を押さえこまれる。
「ご安心下さいまし。どこに出しても恥ずかしく無いメイドにして差し上げますわ!」
 どん!
 机に据え付けられたメイクボックスが、異様な存在感を放っていた。


 人がごった返す大学は、今や大騒ぎだった。
 近所の人やOBやその他諸々の老若男女が押し寄せ、学園祭独特の雰囲気を楽しんでいる。
 クラブハウス棟にも占いの館や割と真面目な写真展や、その他いろいろな出し物があって、冷やかし半分の人々が廊下をぞろぞろと通って行く。
 そんな中にリュカの声が響き渡っていた。
「いらっしゃいませ〜♪ メイド喫茶はこちらでーす!」
 満面の笑みを浮かべ、レースのヘッドドレスも清楚な、大人びたメイドさんだ。……どう見ても男だけど。
 しかしコルトの手がけた化粧は完ぺきで、不気味さはまったくない。
 その笑顔に釣られて一歩入った客は、続いて棒読みの野太い声に出迎えられる。
「おかえりなさいませご主人様」
 どちらかというと、屋敷を守る武装メイドのような目つきのレティシアだ。

 その背後で「しゃらら〜ん♪」という音が鳴った瞬間、ガッと伸びた腕がスマホを握った客の手を捉える。
「お帰りやがれください出口はあっちだ、写真撮ってんじゃねぇ」
「落ち着いて、レティちゃん。お客様をお席にご案内して?」
 作り声のメイドに救われた気になって振り向いた客は、そこでまた硬直する羽目になるのだ。
「いらっしゃいませ〜♪」
 白のレースに縁取られた健康的な小麦色の、筋肉質な太腿が眩しすぎる。
 OBとして高みの見物を決め込んでいたガルーだったが、気がつけばノリノリでミニスカメイド服に身を包んでいた。
 ルゥが選んでくれた、パニエで膨らんだレースのスカートは破壊力抜群だ。
 一度吹っ切れると元々のノリの良さが顔を出す。
 今やガルーは心から、怪しいメイドを楽しんでいた。
「写真撮ってもいいのよ〜?」
 ふんっ!
 力を込めると、なおも盛り上がる筋肉。
 見せつけられた客は、無言のままスマホを下ろすのである。

 だがここでお客を帰らせては、喫茶店をやる意味がない。
 すかさず近づいたコルトが声をかける。
「おかえりなさいませですわ、ご主人さま!」 
 ふわふわの長い髪をみつあみにしてリボンをつけた可愛いメイドさんだ。
 給仕とあって、いつも以上に笑顔も輝く。
 席に案内されると、それらしくテーブルクロスがかけられ、一輪挿しにはピンクのバラなどが活けてある。
 よくみれば会議室の中はレースのカーテンなどで綺麗に飾り付けられ、普段の殺風景な部屋とは思えないほどだった。
「ご注文は……メニューはこちら、です」
 ルゥは長い髪を編んで涼しげなシニヨンにまとめていた。
 大きなレース飾りのついた華やかなエプロンはきりりと白く、普段ふんわりした雰囲気を漂わせるルゥが、少し大人びて見える。
 模擬店なのでメニューはそれほど多くないが、その分心をこめていれた紅茶やコーヒーでおもてなし。
「こちらはお茶受けのクッキーですの」
 コルトが頑張って焼いたクッキーも添えて、ひとときのくつろぎを楽しんでもらう。

 もちろん、こういう普通のものではないサービスを求めるお客にも対応可能だ。
「おいこっち、コーヒーふたつでよかったよな……じゃない、ございますね」
 レティシアの雑な給仕にも需要があるらしい。
 結構、声がかかっている。
 レティシアはトレイを片手に早足で通りかかりながら、リュカに囁く。
「おい、こっちも少しは手伝え」
「えー? でもレティちゃん、にこにこ笑いながら呼び込みできる?」
 リュカの言葉ももっともだった。
 レティシアは少し考えた結果、給仕担当に専念すると決める。
「なんなら俺様が呼び込みするか?」
 レティシアを変態呼ばわりした割に、充分変態チックなまでに筋肉メイドを楽しんでいるガルーがリュカの隣で足を見せつける。
 が、その顔色が一瞬にして青ざめた。
「待って、こんな処に職場の取引先の奴がいる! 隠れさせて……!」
 リュカを盾にして押し出すガルー。リュカは面白そうに、歩いてくるスーツ姿のふたり連れを見た。
「えー、せっかくなら入ってもらわない?」
「俺様の輝かしい将来を台無しにするんじゃない!!」
 ガルーはあっという間に店内に逃げ込み、衝立の向こうの給仕スペースへ。
 輝かしい太腿はこの場合に限り、邪魔になるらしかった。


 日が落ちる頃、模擬店は終了となる。
 カーテンを閉め切った部屋で、一同は心地よい疲れにひたった。
 ガルーが紅茶をいれたカップを運んできて、ルゥとコルトにすすめる。
「ルゥちゃん、コルトちゃん、お疲れ様でした。いやほんと、お疲れですよね」
「ガルーさんもお疲れ様ですの」
 カップを受け取って、改めてコルトが男性陣を見渡す。
 そしてふっと微笑んだ。
「みなさん、とてもお似合いですわよ」
 リュカがはっと何事かを思いついた表情になる。
「ねぇねぇ、これ写真集にしたら売れるんじゃ無い……?」
「「売れるか!!」」
 レティシアとガルーが同時に叫んだ。

「とんでもねぇ黒歴史だ。さっさとここを片づけて、部室に戻って着替えるぞ」
 レティシアが憮然として、コルトのクッキーを口に放り込んだ。
 が、ルゥがつんつんと、その肩をつついた。
「なんだ?」
「せっかくなのにもったいないと思うよ」
 レティシアは手を振って、ルゥの言葉を遮る。
「あー、もう充分着た。祭は終わり。見苦しい野郎どもはすぐスカートを脱げ」
 ガルーとリュカを指差すレティシア。
 だがルゥがさらにつんつんとつつく。
「三人の服は、さっきコンビニから宅配して置いた。だから帰りもその服で頑張って」
 ルゥはいつものおっとりした風情のまま、「いい仕事しただろう?」といわんばかりに、ぐっと親指を立てる。
「待て。言っていい冗談とそうでない冗談が……」
 言いかけたレティシアの目の前に、ひらりと出てきたのは宅配便の送り状の控え。
 そこには几帳面に「衣類」と書かれていた。
「大丈夫、可愛いよ」
 のほほんと紅茶をすするルゥ。
「あはは、ルゥちゃんてば、やってくれるねえ」
 さも楽しそうに笑うリュカ。
 余り物事に動じないタイプなので、この冗談すら笑っている。
 そのリュカの肩を力強く掴む手。ガルーだった。
「なあリュカちゃん、学生と違って大人の世界には色々あるって知ってるか?」
「えー? 何だろう?」
 ガルーは首を傾げるリュカの頭を机に押し付け、背中のファスナーに手をかける。
「脱げ! せめてロングスカートを譲れ!! 誰かにこの姿を見られたら俺様の将来にかかわるだろうが!!」
「えー、あんなに楽しそうにしてたのに? 心のままに生きるほうがきっと楽しいよー?」
 リュカはぞんざいに扱われながら、やっぱり笑っていた。


 こうして「伝説のメイド喫茶」は、こっそり撮影されていた数々の写真と共に、思い出の一幕となる。
 一部にとっては、おそるべき黒歴史となったのは言うまでもない。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0626hero001 / レティシア ブランシェ / 男性 / ジャックポット】
【aa0068 / 木霊・C・リュカ / 男性 / 人間・攻撃適性】
【aa0076hero001 / ガルー・A・A / 男性 / バトルメディック】
【aa0203hero001 / Le.. / 女性 / ドレッドノート】
【aa1741 / コルト スティルツ / ? / 人間・命中適性】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、英雄もみんなも大学生なIFノベル第二弾になります。
今回は学園祭ということで、より学生らしい馬鹿騒ぎになるよう執筆いたしました。
学生時代は、ある意味で現実の中でのIF世界なのかな、などと思いつつ。
お楽しみいただけましたら嬉しいです。
この度のご依頼、誠に有難うございました!
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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リンクブレイブ
2017年06月01日

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