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『アイスが溶ける前に 』
大門寺 杏奈aa4314)&宮津 茉理aa5020

●太陽の悪戯
 雲ひとつない快晴。少しばかり暑いと思えるほどの陽気は、初夏というよりフライングした夏そのものだ。そして、そんな日は――アイス日和と昔から決まっている。宮津 茉理(aa5020)はそんなことを考えながら、ショッピングモールの入り口に立っていた。
「こんにちは、茉理ちゃん。待った?」
 声の方向に体を向けると、先輩と慕う大門寺 杏奈(aa4314)の姿があった。ロングスカートと、レースをあしらったオフショルダーのブラウスが大人びた雰囲気だ。
「あ、先輩…ううん、今来た、ところ」
「私も早めに来たつもりだったんだけど……」
 茉理は斜め下に視線をそらす。
「それは……楽しみ、だったから……」
「私もだよ。今日はいっぱい楽しもうね」
「もちろん。全力で、楽しむから」
 眩しい日差しが白銀の髪に照りつける。雪の妖精のような杏奈が、溶けてしまいそうな錯覚を覚える。
「中に入ろっか。あんまりここにいると、茉理ちゃんが溶けちゃいそう」
 くすくすと笑う杏奈。偶然の一致に少し驚いている間に、杏奈は茉理の手を取り歩き出した。
「……私って溶けそうなイメージなの?」
「暑いの苦手でしょ? アイスのイメージも強いし」
 店内は軽めに冷房が効いている。ひんやりとした空気に包まれて、茉理はほっとした表情を浮かべた。その様子がなんだか可愛くて杏奈は自然に笑みを浮かべてしまう。
「2人きりって、初めてだね? 今までは4人一緒だったし」
 首を傾げ気味に言うと、ショートボブに切りそろえられた髪が揺れる。帽子も似合いそうだけれど、こんな光景を見られるならばナシで正解だったかもしれないと茉理は思った。
(先輩、すごく綺麗。私は………どうなんだろう? 先輩の隣を歩くのにふさわしいのかな?)
 ちらりとショーウィンドウを見る。今、茉理は杏奈とお揃いの服を着ている。いやでも自分と彼女を比べてしまうのだ。
(それに……)
 茉理は機械化された腕をそっとさする。普段は長袖の服と手袋で隠している部分。生きていることを希薄に感じてしまう、その象徴のような部分だ。大丈夫だと言い聞かせても、やはり悪目立ちしていないか不安になってしまう。
「茉理ちゃん、どうかした?」
 少し歩幅が狭まっていたらしい。杏奈が立ち止まって振り返る。
「ううん、何でもない。暑くなるし、新しい夏服も買わなきゃなって……」
 杏奈とガラス越しに目が合った。杏奈は手をつないだまま、現実の茉理に向き直る。「うん、やっぱり」と小さく呟く声が聞こえた。
「とっても似合ってるよ、茉理ちゃん♪ お揃いの服を着るのって、嬉しいね」
「うん……!」
 勇気を出してオシャレしてよかった。心が暖かい。頬なんて熱いくらいだ。でもそれが心地良かった。
「まずはアイスからに食べよっか?」
 茉理お気に入りのアイスショップ『メルトスノウ=プリンセス』で新作が発売されているらしい。「アイスの次はどこへ?」と話し合う彼女らの目は真剣そのものだった。

●スイーツ・メドレー
「決まった?」
 店の前。茉理の視線は色とりどりのアイスが並べられたショーケースに釘付けだ。
「うーん……新発売のリッチチョコベリー味とクリーミーチーズケーキ味は決定で……。問題は、ラスト一種類かな……?」
 当然のように3段アイスを想定する茉理だが、杏奈は慣れた様子で見守る。定番のバニラ? それとも抹茶? キャラメル系も捨てがたい。
「先輩はもう決まった?」
「私の分は、茉理ちゃんにおまかせしていい?」
 茉理はぱちぱちとまばたきする。
「いいの?」
「茉理ちゃんのセンスを信じてるからね」
 上目遣い気味に言う杏奈。珍しく甘えたような表情だ。
「先輩はこのお店初めてだっけ? それならバニラは絶対おすすめ。北海道産のミルクとか、創業の時に苦労して探したバニラビーンズとか、すごくこだわってるんだって」
 物静かな茉理だが、アイスに関する情熱は彼女を饒舌にさせる。杏奈が2段アイスを希望すると、すかさずバニラと相性ピッタリのストロベリーをすすめる。イチゴの果肉がたっぷり入った贅沢なフレーバーだ。
「私は、ミルクティー味にしようかな」
 と、自分の注文も決定した。店員が綺麗な半球を重ねていくのを固唾をのんで見守る。
「お待たせいたしました!」
 顔を見合わせ、二人声を揃える。いただきます!
「うん……! 新作も美味しい……!」
「バニラも濃厚でとっても美味しいよ! 思いっきり甘いのも好きだけど、こういう優しい感じも好きだな」
 しばしの沈黙。美味しいアイスと心地よい空気に浸る。
「はい、あーん」
 杏奈からアイスを差し出されて、茉理は頬を染める。
「嫌?」
「嫌、じゃない……! けど、ちょっと恥ずかしいなって……」
「まだ人少ないし、ここは陰になるから誰も見てないよ」
 昼前にアイス屋に行く客は珍しいのだろう。店員からは観葉植物が邪魔になっていて見えない席だ。茉理は納得する。アイスの誘惑と先輩の厚意に逆らう理由はない。
「ん、ありがと」
 ぱくりと一口。およそ3秒間の至福に酔いしれたら、今度はお返し。
「先輩も、あーん」
 うん、と囁くような声で杏奈が答える。まるで密会でもしているようだ。それが可笑しくて茉理はくすりと笑う。杏奈に告げれば彼女も似たような表情で笑った。
「言われてみれば、そうかもね」
「悪いこと、何もしてないのにね?」
 けれど、強いて言えば――相手の最高に可愛い表情を独り占めしていること。それは二人のささやかな罪なのかもしれない。



「パンケーキも美味しかったね」
「付け合わせのアイス、パンケーキ専用に開発したっていうだけあったよね。また来たいかも」
 昼食後、甘い香りを漂わせた2名はぶらりとモール内を巡る。ウィンドウショッピングのつもりが、ついついおしゃべりに夢中になってしまうのはご愛敬だ。そして、あっという間におやつの時間。
「茉理ちゃん、まだ余裕ある?」
「もちろん。アイスは別腹、だし」
 このあとは杏奈おすすめの喫茶店で、デニッシュを頂く予定だ。チョイスしたのはもちろん、アイスを乗せたデザート感覚のメニューだからだ。
「……また見られてる、ような……」
 茉理は義手をかばう。
「大丈夫。見られてるとしても茉理ちゃんが可愛いからだよ」
 ふと目をやると、頬を赤らめた少年たちが慌てて目をそらした。
「ほらね」
「今の人たちは、先輩を見てたと思うけど……」
 入店したときからずっと感じていた感覚。すれ違う者たちの目が時折、こちらに釘付けられては離れていく。茉理は勘違いしていたが、彼らは涼しげな美貌を持つ少女たちの姿に見とれていたのだ。つまりはふたりとも正解なのだが、彼女たちにとっては大した問題ではない。花より団子である。



「んん……幸せ」
 茉理はうっとりと目を閉じる。さくさくのデニッシュ。チョコソースとバナナ、そして少し溶け始めたバニラアイスのハーモニーが最高だ。
「喜んでもらえてよかった」
 杏奈は先輩の顔で微笑む。しかしメープルシロップをたっぷり含んだ生地を口に入れれば、とろけるような笑顔に変わる。『ほっぺが落ちる』だなんて本気で思っているわけじゃないが、思わず手で頬を包み込んでしまう。
「先輩」
 一足先に現実に戻って来た茉理は杏奈を呼ぶ。こころなしか普段より甘さを含んだ声だ。
「あーん」
 杏奈は誘われるままに、差し出されたフォークから一口ぱくりと頬張った。

●また、次も
 外はまだ明るいが、店内に設置された飾り時計は帰るべき時刻を指していた。温かい屋外に出ると、ちょっぴり魔法が解けた気分になる。
「まだ少し暑いかも、この分だと夜までかな?」
 杏奈が言う。
「そうだね……でも、もう少し手繋いでてもいい?」
 茉莉が答えると、彼女はもちろんと頷いた。
「色々と新鮮だったよ。今日は本当にありがとう」
 杏奈がきゅっと茉理の手を握る。茉理は名残惜しさに胸が締め付けられるのを感じる。またすぐに会えるとわかっていても、この思いは止められない。
「私も、先輩とお出かけできて楽しかったよ」
 笑顔はうまく作れただろうか? 不安になったが、杏奈が微笑み返してくれればすぐに氷解する。
「これからもいっぱい色んなとこ行って、たくさん楽しんで……茉理ちゃんと思い出をいっぱい作っていきたいよ」
「うん。私も、同じ気持ちだから」
 一緒ならば、また次も楽しい時間が過ごせる。ふたりはそう確信していた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【大門寺 杏奈(aa4314)/女性/16歳/分かち合う幸せ】
【宮津 茉理(aa5020)/女性/17歳/分かち合う幸せ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご指名ありがとうございました。高庭ぺん銀です。
ハピネスランドに続きシャンゴリラでも、お二人から幸せを分けていただきました。またのご来店orご来園お待ちしております。
作品内に不備などありましたらご遠慮なくリテイクをお申し付けください。
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2017年06月02日

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