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『お茶会へようこそ! 』
夢洲 蜜柑aa0921)&ウェンディ・フローレンスaa4019)&オリガ・スカウロンスカヤaa4368)&スヴァンフヴィートaa4368hero001


 キラキラ降り注ぐ木漏れ日がまぶしい。
 夢洲 蜜柑が大きく息を吸うと、柔らかな緑のにおいが胸に広がる。
 精いっぱい背筋を伸ばすと、大きく枝を広げたクスノキは笑うように葉を揺らした。
(まるで公園みたい!)
 蜜柑は初めて足を踏み入れた大学のキャンパスを、珍しそうに見渡す。
 ウェンディ・フローレンスはわずかに首を傾げ、並んで歩く蜜柑の表情をそっと窺った。
「蜜柑ちゃん、緊張していますの?」
「えっ……!」
 ドキッとした蜜柑は思わず足を止める。
 実は結構緊張していた。でもなんだかそう言うのが申し訳ないような気がして、蜜柑は慌てて顔の前で両手を振る。
「あのっ、なんだか大学って、ちょっと雰囲気が違うなって思って……!」
「ふふ、大学も学校ですわ。少し広くて、建物が大きいからそう感じるのかもしれませんわね」
 蜜柑はこくこくと頷くと、改めてぴしっと背筋を伸ばした。
「ああほら、もう見えてきましたわ。あそこですの」
 ウェンディが指差す先には、緑に囲まれた白い建物が、日差しを浴びて眩しく輝いていた。
「本当に、とても素敵な方ですの。きっと蜜柑ちゃんも好きになると思いますわ」
 ウェンディは花がほころぶように微笑んだ。
 そのたおやかな微笑に、蜜柑はいつも見とれてしまう。

 年上の素敵なお友達。
 蜜柑はウェンディのことを憧れをこめて『おねーさま』と呼んでいた。
 お茶会に招いてくれたり、蜜柑に似合うおしゃれを教えてくれたり。
 年齢の割に少し幼く見えることを気にしている蜜柑にとって、異国の物語のお姫様のようなウェンディは、正に憧れのお姉様そのもの。
 だが蜜柑はある日、驚くべき事実を知ったのだ。
 なんとウェンディが憧れる、素敵なレディがこの世に存在するというのだ。
「ねぇ、おねーさま。そんな素敵な方にあたしも会ってみたいな」
 ダメ元でお願いしてみると、ウェンディはすぐに承知してくれた。
 そして今日がその方にお会いする日なのである。

 蜜柑は建物の入り口で、ガラスに映った自分の姿をチェックする。
 おねーさまが選んでくれたワンピースはちゃんと似合っている……と、思う。
(しっかりしなきゃ!)
 おねーさまががっかりしないように。
 おねーさまが憧れている人が、がっかりしないように。
 蜜柑は小さくこぶしを握って顔を上げ、建物に足を踏み入れた。


 お湯の沸く音が静かな部屋を満たす。
 オリガ・スカウロンスカヤはいつもの通り、自分のデスクで本を開いている。
 穏やかな昼下がり、この部屋に漂う優しい空気が、スヴァンフヴィートは好きだった。
 誰にも邪魔されることのない、ふたりだけが共有する空間。
 言葉がなくてもかまわない。ふたりを繋ぐのは、言葉よりも強い絆なのだ。
 だが今日はずっとこのままで過ごすわけにはいかない。
 インターフォンが来客を告げ、オリガが本から顔を上げた。
「約束の時間ちょうどね。どんなお嬢さんなのかしら?」
 青い瞳が楽しそうに細められると、学者らしい好奇心が顔をのぞかせる。
 ノックの音に、スヴァンフヴィートが扉へ向かった。
「わたくしが出ますわ」

 扉を開けると、オリガの生徒であるウェンディと、その後ろで目を大きく見開いた少女が立っていた。
「こんにちは、スヴァンちゃん。こちらが蜜柑ちゃんですわ」
「は、じめまして!」
 少し上ずった声が出てしまったのも仕方がない。
 スヴァンフヴィートの視線は全てを見通すようだったし、彼女の容姿は女神のように美しく、威厳をそなえていたからだ。
「スヴァンフヴィートですわ。宜しく。先生がお待ちですわ、中へどうぞ」
 どうなることかと部屋に入った蜜柑だったが、迎え入れたオリガの微笑みを見て気が抜けそうになる。
「はじめまして。いらっしゃい、蜜柑ちゃん」
 派手さはないが、知性が滲み出るような笑顔の、美しい女性だった。
 大学の先生なんて、蜜柑にとってはみんなおじいさんというイメージだ。
(それが、こんなに綺麗で優しそうな女の人だなんて!)

 暫くぼうっとして立っていると、背後からスヴァンフヴィートの声がかかって我に返る。
「いつまで突っ立っていますの? そちらにお座りなさいな」
「ありがとう、スヴァンちゃん。蜜柑ちゃん、わたくしの隣でよろしくて?」
 ウェンディはいつも通りの笑顔を浮かべている。どうやらスヴァンフヴィートは普段からこんな感じのようだ。
 蜜柑はまだちょっとドキドキしながら、すすめられたソファに腰を下ろした。


 オリガが白いポットの蓋を開け、金属製のティーメジャーを使って茶葉を入れる。
 紅茶はとても綺麗な装飾のついた缶に入っていた。
 部屋の隅で湯気を立てていたポットからお湯を注ぎ入れ、蓋をした上からミトンのようなカバーをかける。
 蜜柑はその優雅な仕草にずっと見入ってしまった。
「珍しいですか?」
 そう声をかけられても、しばらくは自分に言われたのだと気付かなかったぐらいだ。
 蜜柑はびっくりして、小さく縮こまる。
「いえ、あの、じっと見てしまってごめんなさい……」
 ウェンディがくすくす笑いながら、助け船を出してくれた。
「先生がお茶を入れるお姿は、まるで舞踏のように優雅なのですわ」
「あら光栄ですね。自分では良くわからないのですが」
 砂時計の砂がきっちり落ちるのを見届け、オリガはお茶をカップに注ぐ。
 銀のトレイでティーカップを運ぶのは、スヴァンフヴィートだ。
「冷めないうちにお飲みなさいな」
 言い方は少し怖いが、蜜柑の前にお茶を置いてくれる手はどこか優しい。
 オリガが受け入れた客は、自分にとっても客ということなのだろう。

「いただきますわね。……いい香り!」
 ウェンディはカップを口元に運び、うっとりと呟いた。
 蜜柑も真似をして少し香りをかぐ。
「わあ……!」
 紅茶を飲んだのはもちろん初めてではない。
 それどころか、ウェンディがときどき淹れてくれる、美味しいお茶だっていただいている。
 ところがこの紅茶は別格だった。
 口をつけると、渋みのない軽やかな風味。まるで魔法の紅茶だ。
 ウェンディのほうをこっそり見ると、蜜柑と一緒にいるときとは少し違う、はしゃいだような笑顔があった。
「先生が淹れてくださるお茶は本当に素晴らしいですわ。ねえ、スヴァン?」
「言うまでもないことですわね。誰にでも真似のできることではありませんわ」
 スヴァンフヴィートも満足そうに紅茶を飲む。

 オリガはそんなやり取りを、優雅に微笑みながら聞いている。
「大変な評価ですね。紅茶はコツを掴めばちゃんと答えてくれるのですよ。蜜柑ちゃん、よければお菓子もどうぞ召し上がってくださいね」
 純白のトレイに、ジャムが載ったクッキーが並んでいる。
 見たことのないクッキーだった。
 少し迷った蜜柑だが、ウェンディが頷くのを見て、おずおずと手を伸ばした。
「わ、おいしい!」
 固めのクッキーは優しい甘さで、紅茶によく合う。
「お口にあったのなら嬉しいですね」
 蜜柑は、憧れのおねーさまであるウェンディが、この先生に憧れる気持ちが少しわかったような気がした。
 そしてウェンディがもう少し大人になったら、この先生のような雰囲気になるのではないかとも思う。

 そんな風に思ううちに、蜜柑の人懐こい性質が顔を出す。
「あの、オリガお姉様はおねーさまの先生なんですね!」
「ええそうです。大学でのウェンディちゃんはとても優秀な学生なのですよ」
 蜜柑はその言葉を聞いて、自分が褒められたように嬉しくなった。
 ウェンディも嬉しかったようで、隣の蜜柑に向ける笑顔が輝いている。
「先生はとても博識でいらっしゃいますの。ファンタジー文学や児童文学がご専門ですけれど、挿絵も描かれますし、作家でもいらっしゃるのですよ。美術館の学芸員もなさっていますし」
 ウェンディの言葉を、オリガは微笑みながら聞いていた。
 実は作家としての活動は多少訳ありだったりもして、それがオリガがこの遠い日本にいる理由でもあるのだが、とてもそんな人物には見えない。

「蜜柑ちゃん、本はお好きですか?」
 そう話しかけると、オリガはスヴァンフヴィートに、本棚から本を一冊持ってこさせる。
 それは児童文学書だった。
 スヴァンフヴィートが開いて見せたページには、主人公の少女と妖精が語らう場面が描かれた挿絵がある。
「先生のお描きになった挿絵ですわ」
「ええっ!」
 蜜柑は改めて挿絵と、オリガの顔を見比べる。
(本当にすごい人なのね……!)
 そこで蜜柑はふとあることに気付いた。
「あの、この妖精さん、なんだかスヴァンお姉さまに似ているわ」
 スヴァンフヴィートは目を丸くする。
 オリガは楽しそうに笑っている。
「そう言われてみれば似ているような気がします。無意識のうちにモデルにしていたのかもしれませんね」
「……お茶が冷めましたわ。カップを一度下げますわね」
 スヴァンフヴィートの表情は心なしか誇らしそうに見えた。

 続いて運ばれてきたのはティーカップではなく、繊細な金属の握りに嵌め込まれたガラスの器に入った紅茶だった。
 暖かな紅茶の湯気でガラスが曇っている。
「今度は少し濃く入れたお茶です。ジャムと一緒に飲んでみてくださいね」
 ガラスの器の傍に、銀のスプーンにすくった杏のジャムが添えられていた。
 少し口に含んで紅茶を飲むと、甘酸っぱいジャムの風味と溶け合ってふわりと夢心地になる。
「なにこれ、おいしい!」
「ロシアンティーですわね。茶器も素敵ですわ」
 ウェンディはオリガのコレクションのひとつを、じっくりと眺める。


 蜜柑はすっかりこの部屋でのお茶の時間が気に入ってしまった。
 上品で美しい、本物のレディたちの中で、上質な物に触れる時間は、自分も少しだけレディに近付けたようで自然と背筋も伸びる。

 そこで蜜柑は部屋の中に飾られている、銀色をした金属製の不思議な物に気付いた。
 それは蜜柑の身長ぐらいの高さで、ずんぐりとした卵に足がついたような姿をしていて、全体に綺麗な装飾が施されていた。
 すっかりオリガに懐いた蜜柑は、無邪気に尋ねる。
「オリガお姉様、あれは何に使うものなの?」
 オリガが僅かに眼を細める。何か遠くにあるものを見るかのようだ。
「あれはね、お湯を沸かすための道具なのです。今は部屋が暑くなりますから使っていませんが、寒くなった頃にお湯を沸かしてお茶をいただくと格別ですよ」
「なんだか素敵! いつか飲めたらいいな」
「では、またご招待しましょうね」

 オリガの微笑みの後ろに隠れているものを、蜜柑は知らない。
 だからこそ、屈託のない笑顔を向けてくれるのだとオリガは知っている。
 素直な心を持つ者に嘘や誤魔化しは通じないのだ。
「ね、スヴァン。こんな可愛いお客様なら大歓迎ですよね」
 スヴァンフヴィートも知っている。
 この人は自分のもとにやってくる者を優しく受け入れ、導くことができる人だと。
 だからこそ、自分もここにこうしているのだから。
「お姉さまのお客様なら、わたくしにとってもお客様ですわ」
 スヴァンフヴィートの笑みはどこまでも穏やかだった。

 蜜柑は嬉しそうに、ウェンディの腕に自分の腕を絡ませる。
「おねーさま、素敵なお茶会に連れてきてくれてありがとう!」
「蜜柑ちゃんが楽しそうでよかったですわ」
 ウェンディは、今やレディ修行からはちょっと外れているような蜜柑の姿に、小さく笑う。
 ここに来るまで背伸びしていた蜜柑の姿を思い出すと、おかしくなるほどだ。
 ウェンディは蜜柑が気付かないような小さな仕草で、オリガにそれを知らせる。
 オリガも微笑んで頷き返した。

「さあ、そろそろ新しいお茶を淹れましょうね」

 お茶会の楽しみは、素敵なお茶と素敵なおしゃべり。
 日が陰るまで、楽しそうな笑い声が部屋に満ちていたのだった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0921 / 夢洲 蜜柑 / 女性 / 14歳 / 人間・回避適性】
【aa4019 / ウェンディ・フローレンス / 女性 / 20歳 / ワイルドブラッド・生命適性】
【aa4368 / オリガ・スカウロンスカヤ / 女性 / 32歳 / ワイルドブラッド・攻撃適性】
【aa4368hero001 / スヴァンフヴィート / 女性 / 22歳 / カオティックブレイド】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、レディ達のお茶会の一幕をお届けいたします。
どのようなお茶会にしようか迷った結果、オリガさんの経歴から、かなり好きなように膨らませてしまいました。
ロシアンティーも湯沸かしのサモワールも私の好みで勝手に盛り込んでおります。
皆さまの設定とノベルの内容がかけ離れていなければいいのですが……。
もしお楽しみいただけましたら幸いです。
この度のご依頼、誠に有難うございました!
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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リンクブレイブ
2017年06月05日

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