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『新たな風 』
御門 鈴音aa0175)&風間 進aa2887

「せんぱーい」 
 コツコツと、足音が響く、遠くから聞こえる自分を呼ぶ声にはたりと少女は歩みを止めた。
 その声は遥か後方から聞こえるはずなのに、足音は急ぐ気配を見せない。
 まったくもってのんびりした後輩である。だがそんな彼女のふてぶてしいところを可愛いと思えるようになったのは、人として成長したおかげか。
「せんぱーい。まってくださいよぉ」
 思わず『御門 鈴音(aa0175) 』は振り返る、切りそろえらえたばかりの髪の毛が風に舞い上がり揺れた。メガネにかかる前髪を整えて、そして廊下の向こうで手を振る少女に歩み寄る。
「文菜ちゃん……」
 廊下の奥から響く声の主それは『五条 文菜(NPC)』であり鈴音の後輩、入学直後から何かと仲良くやっている、友人だ。
 普段であれば声をかけられるととてもうれしい、けれど。
 今の鈴音は少し緊張したような表情を浮かべてる。
 それもそのはず、今から鈴音が目指そうとしていたのは図書室、そしてその図書室に鈴音がいるのがおかしいというのは文菜はすぐに気付いてしまうだろうから。
なおかつ鈴音はここにいるのを文菜に知られたくは……ない。
 きがする。明確な理由はない。ただ……。
 なんとなくだ、なんとなく。
「先輩、こんなところにいた。最近捕まらないからどこに隠れたのかと……」
「隠れてないよ?」
 そう、本当に隠れているわけではない、ただこの学校の図書室は学校のはずれにあるだけで。
 ここのあたりはただでさえ生徒が来ないからあまり目撃されないだけで。
「……あら?」
 その時である、文菜は首をひねった。
「どうしたの?」
 鈴音は荷物を背に隠して問いかける
「先輩、図書室に用事なんて珍しいですね、追試ですか?」
 その言葉に鈴音は思わず肩を落とした。安心半分、文菜が鈴音を普段どういう目で見ているか分かったことが半分。
「そんな、わけないじゃない、授業の復習だよ、家に帰るとほら」
 英雄たちがうるさいから。
 そう暗に示して見せると文菜は感心したように頷いた。
「先輩もやっと勉強する気になったんですね」
「そ、それはほら、来年受験だから……」
 硬い口調で言葉を続ける鈴音、いつかぼろが出そうで怖い。だが幸いなことに文菜はすぐに本題を入ってくれた。
「あ、そうでしたね、大変ですね。そしてお休みの日のチケット。これ先輩に預けておいてもいいです?」
 文菜は鞄から二枚のカラフルなチケットを取り出した、遊園地の無料入場券である。
 この前追試で鈴音は旅行に行けなかったため、文菜が調達してきてくれたのだ。
 今度の日曜日に行く手はずになっている。
「なんで二枚とも預けるの?」
「それは……。まぁ、念のため」
 普段と違って歯切れの悪い文菜に首をかしげつつ、チケットを本に挟む鈴音。
 すると文菜は踵を返して走り去ろうとする。
「勉強頑張ってくださいね」
 そう手を振る文菜、その背中を見送って鈴音も手を振った。
 その背中が角を曲がり、見えなくなったのを確認して鈴音は図書室の扉をあける。
 そこにはいつもの光景が広がっていた。
 窓いっぱいからさす日差し、風になびくカーテン。
 春の季節も過ぎ夏に差し掛かろうというこの頃、青臭い風と共に、古びた本特有の黴臭いにおいが鼻腔をくすぐる、いつか彼はこの香りが好きだと言っていた。
『風間 進(aa2887) 』がそこにいる。本のページを静かにめくり、ノートにメモを取りながら、彼は本を読み進めていた。
「風間さん」
 鈴音は静かに歩み寄ってその斜め前の席に腰を下ろした。
 進は視線だけあげて鈴音を見ると、一行分だけ本に視線を滑らせた後。それを閉じた。
「じゃあ、昨日の続きからでいいか?」
「はい」
 そう元気に告げて鈴音は教科書を開く。

    *    *

 そして夜、一人風呂から上がると、アイスを食べてながらケンカしている姉妹を
尻目に、鈴音は携帯電話に目をやった。
 机の上で震えているスマホ。そのディスプレイを数秒凝視した後。
 大切なものを救うように、それを手に取った。
 こんな夜遅くに誰だろう。そう鈴音は髪の毛を拭く手も止めてスマホの画面を見やる。
 進の連絡かと思うと顔が赤くなるが。実際は文菜でがっかりした。しかし本当にがっくり来たのはその内容で。
『すみません先輩。週末の遊園地ダメになっちゃいました』
 そんな一文に目を滑らせた鈴音はスマホをベットに放り投げてしまう。
「楽しみにしてたのにぃ」
 そう文菜への抗議を枕でかき消しながらも、日曜日どうするかを考えた。
 余ったチケットは使っていいと言われていたが、一枚しかない、英雄を連れていこうにも、一枚しかないと告げれば骨肉の争いが繰り広げられるだろう。 
 何せ今だって、お互いのアイスを奪い合うために虎視眈々とお互いの出方をうかがっている始末。
 これが遊園地のチケットとなれば家が吹っ飛びかねない。
 であればあの二人ではない誰かと遊園地に行くしかないのだが。
 だが……。
 いったい、だれを、さそえば。
 体育の授業で、グループを作ってくださいと先生に言われた時特有のお腹の痛さがこみ上げる鈴音。
 そんなやり場のない衝動にまかせて鈴音はスマホをいじっていたのだが、着信履歴にとある名前を見つけ手を止めた。
 文菜の名前の下にある、進君の文字。
 連絡先を交換してから何度か彼からの連絡があったのだ。
 スマホのメッセージアプリ経由であればさらにやり取りはしている。
 大抵は集まる時間や場所の伝達や、あっても鈴音が教科書を忘れたの借りたいと言った相談のメッセージで、決して色気のあるものではなかったが……。
 これはチャンスかもしれない。
 鈴音は思った。進ならきっと断らないだろうし何より、少しだけあってみたかった休日に、彼と。
 だから勇気を出してメッセージをつくる。
 何度も書き直して、何度も思い直して、何度もあきらめたくなったけど。
 六割の言い訳と、弐割の謙遜、一割の雑談と、一割の本音。
 よければ一緒に遊園地いきませんか?
 その一文を伝えるためだけにひたすら文章を書き連ねて。そして鈴音はそれを送信することに成功する。
 直後あまりの疲れに鈴音は仰向けに寝転んでメガネをはずす。
 髪は完全に乾いていた。
 そのまま少し、休むつもりで瞳を閉じたのだが。
 鈴音はすぐに眠りに落ちてしまった。

   *   *


「待たせてごめんなさい!」
 そして時は過ぎて日曜日、自分の持てる全てのお洒落力を振り絞って鈴音はそこにいた。待ち合わせの時刻を十五分過ぎ、時計塔の柱に背を預けて佇む進へ頭を下げると、彼は読んでいた本を閉じて、小さく告げた。
 その時、鈴音の鼻腔を懐かしい香りがくすぐる。
「大丈夫だ、待つのも楽しい」
 それは図書室で嗅いだあの黴臭さ。
 思わず鈴音は頭を振り上げる、進と思わず視線が合った。
「いこう」
 そう告げると進は鈴音を先導してゲートへと向かう。
 外観からして中世のお城をイメージしたテーマパーク。任務で遊園地に訪れたことはあるが、単純に遊びに来たのはどれくらいぶりだろう。
 さっきまで感じていた緊張は図書室の香りで解けたし、今日は楽しくなる気がして、鈴音は進にパンフレットを差し出した。
「実は乗りたいアトラクションがあって」
「もし、それが絶叫系なら少し心の準備が……」
 進は少し表情を暗くして告げる。
 そんな彼を見て鈴音は微笑んだ。
「大丈夫です、私も苦手ですから」
 そうやって、アトラクションの待ち時間や移動中、ご飯。沢山進と言葉を交わした、思えば勉強以外の事でこれほど話したのは初めてで。
 いつの間にか進とは普通に話せるようになっている。
「次はどこにいこうか? あ……」
 いつの間にか敬語も砕けていて、あわてて直そうとしたが、進はそのままでいいと言った。
「同級生なのに、敬語もおかしな話だろう?」
「そう……かな?」 
 だがその時である、その平穏を無情にかき消す存在が一人。
 遊園地の人ごみの中で指を鳴らした。
 その直後、どこから現れたのだろうか、たくましい四肢の獣のような従魔が噴水広場のタイルを削り、着地した。
 悲鳴が上がる。
「遊園地に従魔!?」
 鈴音は幻想蝶に手を伸ばす、いつかの遊園地での戦いを思い出すが、それとは状況が決定的に違っていた。英雄は傍らにいない。
 今日は、家で、お留守番だ。
「こ、こんな時に……」 
 次の瞬間鈴音を見つけた従魔は咆哮を轟かせこちらに走り寄ってくる。
 思わす鈴音は進に叫んでいた。
「逃げて!」
「いや、逃げるのは君だ」
 そう前に出る進。その体からは霊力が噴出しているのが見える。
「あなた……」
 共鳴状態である、その状態で進は従魔の突撃をいなし。そして鈴音を抱えて飛び去った。
「逃がすものか」
 その鈴音を視界の端に捉えて。黒いスーツの女は笑う、赤いルージュの唇をなぞって、そしてほくそ笑む。
「リンカーがいたのは予想外だけど、私のペットに勝てるかどうかは別よ」
 そう告げて女性は人ごみに姿を消す。
 対して鈴音は。
「待って! 進君! 倒さないとみんなが」
「君を下ろしたら戻るから大丈夫だ」
「それじゃ、見失っちゃう」
「でも。他にどうしようもない」 
 そう進が苦々しくつぶやいた。
 その時鈴音は感じたのだ。進はたぶん自分を守るべき存在だと思っていると。
 けど違う、自分はもう守られてばかりの少女ではない。
「あの従魔強いよ、進君でも一人じゃ無理」 
 鈴音は小さくそう告げた。その言葉の続きを進は無言で促す。
「私、できると思う。この遊園地来たことあるから、二人ならきっと倒せる」
 その言葉の重さが進の心に響いたらしい、進は鈴音を下ろして問いかける。
「どうすればいい?」
 次いで鈴音は進へと耳打ち、直後走り出す、背後に迫る従魔に石を投げて挑発。
 そのまま教会のような建物の下へ。
 その建物は空を回るメリーゴーランドのような形状をしていて。その人が乗り込む部分それを進が切り落とす。
 すると。見事に従魔はすっぽりとその入れ物にはまり前後不覚に陥った。
 次の瞬間。
 空から落下してきた進、全力の一撃にて、入れ物ごと従魔を叩き切った。
「すごい! 進君、やったね!」
 そう手を取って喜ぶ鈴音。そんな鈴音に進は問いかける。
「御門さんも、リンカーだったんだな」
 二人はその後事後処理のためにH.O.P.E.へと送られた。デートは途中で中止、それどころか仕事をさせられて少しブルーになったが悪いことばかりではなかった。
「じゃあ、進君もエージェントなの? 同じ支部の?」
「それを聞きたいのは俺もだが、その反応からすると」
 二人は頷きあった。であったことがないだけでリンカーで、同じエージェント。
 数奇な運命もあった物だ。そう鈴音は素直に驚いた。
「御門さんは少し危なっかしいな、共鳴もしてないのに」
 だが、と進は瞳を伏せて、次いで鈴音へと手を差し出す。
「御門さんがいなければ被害をあそこまで抑えることはできなかっただろう。ありがとう、感謝してる」
「進君もたった一人で従魔に立ち向かおうとするなんて、かっこよかったよ」
 そう二人は手を取った、親愛の証、握手を交わし、いつか同じ仕事をすることになったらその時は……と約束をした。

 エピローグ
 そんなこんなで波乱の日曜日が終わると憂うつな月曜日がやってくる、遊べず疲れをため込んだ日曜日の後はさらに月曜日が重たい。
 暗い顔をして歩いている鈴音、その背後から文菜が飛びついた。
「せーんぱい?」
「あ、文菜た……」
 その時である、鈴音は眼前に信じられない写真を突きつけられた。
 それは昨日の遊園地で楽しくあそぶ鈴音と進の写真。
 顔が一気に茹で上がる鈴音である。
「あのイケメンは先輩の彼氏ですか?」
「なんでこんな写真を!!」
「私が何で遊園地のチケットを持っていたかわかります? あそこでバイトしてるからですよ?」
 そう悪戯っぽく笑う文菜。その表情に鈴音は普段上げないような悲鳴を上げる。
 
    *    *

「風間 進ね……」
『黒いスーツの女性(NPC)』は進の写真を破り捨てると、ヒールを鳴らして路地裏に消える。
「まぁ、邪魔されてしまったけど、次は……ね」
 そう怪しげな微笑をはりつけ、彼女は次なる奸計を張り巡らせる。

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『御門 鈴音(aa0175) 』
『風間 進(aa2887) 』
『五条 文菜(NPC)』
『黒いスーツの女性(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております、鳴海です。
 最近お体の調子はよろしいでしょうか、お忙しいそうなので少し心配しておりました。
 今回は鈴音さんに爽やかな青春の風をと思い。負の感情からは遠ざけた青臭いお話を目指してみました、ここからどんな物語が始まるのか楽しみです。
 次のプロットもお待ちしております。
 進さんの事も知る機会をいただければ嬉しいです、ぜひともご検討いただければと。
 それでは今日はこのあたりで、鳴海でした、ありがとうございました。
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2017年06月07日

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