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『幻獣人形 』
セレシュ・ウィーラー8538


「ただいま帰りましたわ、お姉様!」
 元々、石像であった少女である。
 セレシュ・ウィーラーによる施術で即席の付喪神となり、新たな人格と生身の肉体を獲得し、女子高生として学校へ通うようにもなった。
 そして今、帰って来て、この地下室に駆け込んで来たところであるが、今日はやけに元気が良い。
「嬉しそうやね。彼氏でも出来たん?」
「それなら、こんな早い時間に帰って来るわけありませんわ。そうではなくて私、新しい魔法を開発いたしましたのよ! 現国の授業中あんまり暇だったもので」
「ほほう」
 セレシュは思う。今の自分は、この少女の母親のようなものでもある。
 母親は、子供が何か出来るようになったら、それがどれほど稚拙なものであろうと褒めてやらなければならない。
「どんな手品か楽しみやね」
「うふふ、手品とおっしゃる? 私を侮ると、どういう事になるか……今、教えて差し上げますわ」
 付喪神の少女がパチッ! と楽しげに指を鳴らす。
 セレシュの全身から、力が抜けた。
 生命力が失せた、とセレシュは感じた。まるで肉体が、いきなり無生物に変わってしまったかのようである。
 セレシュは倒れた。
 衣服が、裂けている。
 胸と尻が、無機的に硬質化を遂げながら膨張し、ランジェリーとブラウスとスカートを内側から押し破ったのだ。
「あら……ご、ごめんなさいね、お姉様」
 その破けた部分を観察しながら、付喪神の少女が困惑している。
「その……お姉様でしたら、おわかりでしょうけど。この魔法はね、対象の方が心の奥底で無意識に望んでおられる事を、具現化しつつ人形化……」
 その口調が、哀れみのようなものを帯びてゆく。
「何と申しましょうか、その……お召し物が破けてしまうほど、胸とお尻が肥大化するなんて……お姉様が、そこまで気にしておられたとは」
『何を』
 唇も舌も、樹脂の如く硬質化して動かない。セレシュは念話を使うしかなかった。
『うちが一体、何を気にしとるって?』
「その……貧乳、と申しましょうか……それではあまりに惨い言いようとおっしゃるなら、幼児体型」
 セレシュは立ち上がった。
 指が曲がらず、拳を握る事が出来ない。
 なので、貫手を突き込むしかなかった。
 鋭利に硬質化した五指の先端が、付喪神の少女の鳩尾にめり込んだ。
『図星やから怒っとる、わけやないでえ。うちはな、服がワヤになってもうたから怒っとるだけや。間違えたら、あかんよ』
 付喪神の少女は応えず、口をぱくぱくさせながら身を折って倒れ、悶絶している。
 放置しつつセレシュは、破けた衣服を己の身体から引きちぎった。
 露わになったのは、人形の四肢と胴体である。
 材質は不明。とにかく柔らかな肌が、つるりと硬く滑らかに無機物化し、品質の良い陶磁器のような光沢を帯びている。白磁の肌、とでも言うべきか。
 胸と尻は、豊麗に膨らんで柔らかそうな丸みを帯びつつも、硬く強固である。
 左右の脇腹も、綺麗にくびれたまま硬質化しており、いくら自堕落に過ごそうと弛む事はなさそうだ。それは、それだけは本当にありがたい。
『うちの理想なんは、まあ事実やけどな……』
 セレシュは軽く、頭を掻いた。
 手は動く。四肢は球体関節で繋がっており、魔力で動かす事が出来る。
 球体関節があるのは、しかし両腕両脚だけだ。頸部から腰にかけては、美しく滑らかな曲線を維持しつつも固く一体化している。つまり、動かせない。
『……可動よりボディライン優先と、そうゆう事やな』
 これでは服を着る事もままならない。胴体を曲げられないので、着用出来るものも限られる。
『アレや。昔マネキンに着せとった、あれ……どこやったかなぁ』
 丈の短いメイド服の事であるが、持って来てもらおうにも、付喪神の少女は悶絶しながら気を失ったままだ。


 目の付け所は悪くない、とセレシュは思う。
 対象者……この場合はセレシュ・ウィーラー自身の魔力を消費して行う魔法。
 だから、魔力の乏しい少女でも、セレシュ相手にこれほどの効果を生み出す事が出来る。
『なかなかの悪知恵や。下手すると……石像以前のアレが、また蘇って来とるんと違う? 勘弁やで、もう』
 念話で1人ぼやきながらセレシュは今、メイド姿であった。
 長手袋とニーハイで、球体関節は隠す事が出来る。
『ふふふ、白磁の絶対領域……ま、自分では見えへんのやけどな』
 手足は動くが、身体が曲がらない。
 そんな状態で不自由なくこなせる家事など、高所のハタキがけくらいであった。床に落ちた埃は、後で同居人に掃除させれば良い。
 その同居人はまだ、地下室で気絶している。
 放置したままセレシュは、タンスの上をぱたぱたとハタキで殴打し続けた。
 気のせい、であろうか。肩に、何やら違和感がある。
 四十肩ですの? などと、あの少女が気絶中でなければ言われているところであろうか。
『ま……原因は、わかっとるんやけどな』
 感触でわかる。どうやら肩の球体関節部分に、ブラジャーのストラップが挟まっているようだ。
『下は、大丈夫やろな……』
 セレシュは掃除を中断し、メイド服を脱いだ。
 球体関節に絡まっていたブラジャー、いつ絡まってもおかしくはないショーツ。
 両方を脱ぎ捨ててから、再びメイド服を身にまとう。
 そこで、付喪神の少女が居間に入って来た。
「うぅ……し、七年殺しでも喰らったような気分ですわ……って、おっお姉様! 下着が脱ぎっぱですわよ!? そのメイド服の下、何にも着ていらっしゃらないの? 何やら面倒な性癖にお目覚めになったわけではないでしょうね!」
『七年殺しは鳩尾やのうて尻の真ん中やろが』
 言いつつセレシュは腰に両手を当て、己のメイド姿を誇示して見せた。
 その胸では、エプロンドレスが形良く柔らかそうに膨らんでいる。だが無論、中身は硬質化した人形の胸なのだ。
 同じく固く、だが見た目は柔らかそうに丸みを帯びた尻の周囲では、丈の短いスカートが愛らしい花弁の如く広がっている。
 そのスカートとニーハイの間で、ちらりと存在感を放つ白磁の太股。
 メイド服の上からでも見てとれる、滑らかな胴のくびれ。
 これまで様々な変異を経験してきたが、今の自分が最も美しい、とセレシュは思った。
『この最強のボディライン、どないなもんや。寄せて上げる
ブラも矯正ストッキングも要らんのやでえ』
「はあ……どうでも良いですけど、少し動いただけで丸見えですわよ? お姉様」
『人形のお尻や』
 叩くように、セレシュは己のスカートを捲り上げて見せた。
 つるりと固く艶やかな、ゆで卵を2つ並べたかのような双丘が露わになった。
『着せ替え人形は見られてナンボやろ。恥ずかしがって、どうすんねん』
 自分は人形で良い……否。最初から人形だったのだ、とセレシュは思った。
 自分が元々どのような身体であったのか思い出せないが、どうでも良い。
「私、わかって参りましたわ。お姉様ってば、どうやら人形系の魔法が効きやすい……と言うか、効き過ぎて変になってしまわれがち」
 付喪神の少女が、印を結んだ。
「今、解呪して差し上げますわ……」
「こら自分、居間で魔法使うとるんやないでえ」
 セレシュは睨んだ。眼鏡の下で、左右の瞳が禍々しく発光する。
 眼鏡がなかったら、付喪神の少女は石像に戻っていた、かも知れない。
「おイタしとったら、ほんまもんの七年殺しやぞ」
「ひいぃ……まっ魔法が、私の魔法が! おかしな効き方を……」
 付喪神の少女が、青ざめながら逃げて行く。
 その背中に、セレシュは声を投げかけた。
「埃、ちゃんと掃除しといてやー」
 セレシュは、ハタキがけを再開した。
 手足しか動かなくとも、身体を曲げられなくても、気にする事はない。
 自分には、きちんと床の掃除をしてくれる同居人がいるのだから。
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小湊拓也 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年06月12日

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