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『俺になった君は俺 』
高野信実jc2271

 昨夜は久しぶりに少し冷え込み、初夏の朝日が生み出した朝もやが学園を包み込んでいた。

 そんな朝もやをかき分け、学園の校門前に立つ小さな人影――

「ここが久遠ヶ原学園ってとこだね。結構来るのに手間取っちゃった」

 まだかなり幼さの残る少年で、学園を見上げるその目にはここへ来るまでの苦労が滲み……出てはおらず、ただただ、好奇心だけが宿っている。

 そんな少年の背後から「い〜そ〜ぐっす〜〜〜!」と、急ぐなら叫ぶ体力を足に回せばいいのにと思いたくなるような叫びが聞こえてきた。

 その声に少年は開きっぱなしの校門をくぐり、その陰にしゃがみ込むと、すぐ目の前を黒縁眼鏡で小柄ながらも若干筋肉質な青少年、高野 信実が鞄と柔道着を片手に通過していく。

「アイドル部の朝練始まる前に、基礎練は終わらせるっすよ!!」

 風の如くというよりは、フリスビーを追いかける犬のように懸命でまっしぐらな青少年の後姿を見送った少年はしばらく見届けていたが、二カッと悪だくみを思いついたような笑みを浮かべた。

「よーし、あの人になろう!」

 そう決めた少年はその途端、黒い反物のようなものが周囲を飛び交い、少年を包むように球体を作りあげる。そして逆再生のように戻っていくと、その中から出てきたのは少年ではなく青少年、信実の姿であった。

 その信実は喉に手を当てて、あーアーと最初は少年の声だったが次第に信実の声そっくりとなり、「こんなもんっすね」ともはや本人でも見分けがつかないであろうというレベルの信実がそこにいた。

 その信実は校門の陰から出て、道の真ん中で堂々と大きく伸びをする。

「さって、まずは何をするっすかね」

 信実ではあるが信実らしくはない、少年の姿だった時に浮かべた笑みと同じものを浮かべきょろきょろと見回していると、信実よりもいくつか年上であろう女生徒に「もう来てたんだ」と声をかけられる。

「今日の朝練はいつもより早いって、忘れずにいたんだね。それじゃ、行こ」

 そう言って女生徒は信実もどきの手を取って走り出すので、信実もどきはわけはわからなくとも、面白そうな事になりそうな気がしたので大人しくついて行くのであった――




 アイドル部の部室から聞こえるいつもとは違った騒がしさに胸騒ぎを覚えつつも、柔道着の信実は部室の戸を開けた。

「すんませんっ、早くなったの忘れてたっす!」

 1人で柔道の基礎訓練をしていた信実だが、途中でアイドル部の朝練が今日は早い事を思いだし、着替える時間も惜しんで走ってやってきたのだ。

 そんな信実に向けられる目は冷たいというよりも、剣呑としているというか、恨みがましいというか、中には涙をためている者もいて、とにかく色々な感情が入り混じった目であった。

 ただ共通があるとすれば、みんなというか女子部員達は一様に顔を赤くして、羞恥と怒気をはらんでいるという事である。しかも胸を守るように腕を交差していて、信実を見るなり腕により一層の力をこめたようにも見える。

 その中の1人が何をしたのかわかってるのと、静かながらも確実に怒気をはらんだ声で問いかけてきた――が、もちろん今しがたやってきたばかりの信実には話が全く見えない。

「何のことっすか?」

 当然の反応。

 それがとぼけている様子ではないとわかってくれているのと、そんなとぼけ方をするような人物ではないとわかってくれているだけに、彼女達はすんなり、今の状況を多少の警戒心を残しつつも受け入れてくれた。

 なによりも今しがた学生服姿で窓から飛びだしていった信実が、柔道着姿で部室の戸を開けるという、一見するとコントのような不可思議な現象の原因にすぐ、思い至ったためである。

 その原因を聞かされた信実は「俺そっくりの天魔っすか!?」と驚きつつ、その信実もどきが悪戯をしていった事も聞かされ捕まえなければならないという使命感が芽生える。

「俺がとっ捕まえてやるっすよ! ……ところで、どんな悪戯されたんすか?」

 全く察しない信実の問いに女性部員達は皆、ただ目を逸らすだけというよくわからない反応に、首を傾げた信実の耳に女性の悲鳴が飛び込んできた。

 自分に関係があるような気がした信実はそのまま窓から飛び出し、悲鳴の聞こえた方へと走っていく。するとスカートを押さえた女生徒が信実を睨み付け、口を開こうとした信実の言葉を平手が遮った。それもかなり強烈な一撃で、見事に吹っ飛ばされた信実。結局、弁明する余地もなく女子生徒は行ってしまった。

 次々と聞こえる悲鳴に青ざめ、とてつもなく嫌な予感しかしない信実は「本格的に気合い入れないとだめっすね」と決意新たにして立ち上がり、練り上げられたアウルが警察官のような服を創り上げ信実の身を包む。

「これは……かなり不味いっすね――あッ!」

 気合いを入れた矢先、ずいぶん先の方で校長の銅像の陰から出てきた自分が像によじ登る姿を発見した信実は思わず驚きの声を上げてしまった。そして驚いた声が思ったより遠くまで通ってしまい、スカートというか、お尻を押さえていた女生徒が一斉にこちらを見ると、よじ登っている信実に気づきもせず駆け出してきた。

 その目には殺意が宿っていて、これまでに出会ってきた天魔よりも遥かに恐怖を覚えた信実は「戦略的撤退っすね……」と背を見せ全力で逃げ出す。

 捕まれば命はないと思えるほどの緊張感と恐怖心が信実に襲い掛かり、女生徒から逃げるべく学園内を全力で奔走する。並の人間であれば簡単に撒けるほどの逃げっぷりではあるが、当然相手も並の人間ではない。むしろ中には自分のようなペーペーとはまるで格の違う女生徒だっている。

 しかしそれでも必死に信実は逃げ回り、最終的に若干地の利が働くアイドル部の部室周辺にまで距離を稼ぎつつ辿り着くと『カーテンがきっちりと閉められている部室』へと飛び込んだ。

 扉を閉め、追手の気配をやり過ごす信実――ふうと一息ついてから、息を飲んでしまった。

 カーテンを閉めている時……それは中で着替え中の時。着替え中の札もかかっていて、普段なら絶対に踏み込まない信実も慌て過ぎてすっかり失念してしまっていたのだ。

「すんませんっす!!!」

 着替え中の女子部員以上に顔を赤くしてすぐに飛びだした信実。そのすぐ目の前に、消火器の栓を抜いている自分の姿があった。

「見つけたっすよ、犯人!」

「激ヤバっす!」

 見つかっても信実もどきは信実のマネを止めず、走って逃げだすのを本物の信実は追いかける。前を走るもどきが何度か壁にぶつかっては「なんでなんで!?」と、素の口調で繰り返していた。

「俺も撃退士の端くれっすからね! 透過はさせねーっすから!」

 わけもわからず女子生徒に追い回された時は回らない頭も、こんな状況ならちゃんと働いてくれた信実。これも実戦を経験したからこそであろう。

 だがひたすら逃げ惑う信実もどきはたまにいる生徒に回り込んでは信実に向かって投げるように押し、信実は受け止め立たせ、「すんませんっす!」と謝りながらも追いかけ、時には相手が女の子だというだけで変な所も触っていないのに、どぎまぎしながら必要以上に謝るので、差はなかなか縮まらない。

 差が縮まらぬまま、信実もどきは見つけた階段をとりあえず駆け上がって屋上へと逃げ込んだ。屋上へ逃げこまれ、空を飛んで逃げられるのではと思いはしたが、フェンスに追い詰められた信実もどきは上を見上げ、そしてフェンスを背にして信実と向き合うだけで、空へ逃げるという素振りを見せなかった。

「……やっと、追い詰めたっすよ。いったい、何の目的があってこんなことするっすか。しかも何でおれに化けたんすか」

 追い詰められ半泣きの自分へ、武器は出さないものの油断なく構え詰め寄る信実。

 そんな信実へ「目的……」と、信実もどきはキョトンとしたかと思うと、顔をくしゃりと潰してその場にへたり込んでわんわんと泣きだした。

「……父さんも母さんも、飛べないおいらなんかいらないって、今まで、ずっと独りで、寂しかったんだよう! だから、だから……」

 それ以上の言葉は言葉にならず、さらに大きな声で泣く。

(だから、誰かに構ってもらいたかった――)

 自分もどきの言いたい事が、その気持ちが、家に帰ってもおかえりと言われた事がない信実には、痛いほどよく分かった。そしてなぜ自分に化けたのかは、何となくや偶然ではあるのだろうけど、きっとこの自分もどきも直感的に感じたのかもしれない――似ていると。

 自分もどきに自分の姿を重ねた信実はスッと手を差し出すと、この学園ではあまり見せない、少し大人びた表情を向けた。

「本当に、俺達そっくりだ。でもね……『寂しい』ってのは『何してもいい』って理由にはならないんだよ。一緒に謝ってあげるから、謝りに行こう。
 それで……えっと、君の名前は?」

 名前を尋ねると、わずかに泣き止んだもどきが「……ビリーブ」と名乗った。

「じゃあ、ビリーブ。君がここに住めるよう、頼み込んであげる。ここならきっと俺みたいに『寂しい』がなくなるから」

「……本当に?」

「本当さ。ビリーブみたいに独りで寂しかった俺が言うんだ、間違いない。だからね――」

 自分の髪ってこんな感触だったけと思いながら自分に化けたビリーブの頭に手を置き、泣きじゃくって瞼を腫らした自分の顔に顔を近づけ、「行こ?」と信実は微笑みかけるのであった。




 日頃から真面目な信実なだけあって、ビリーブを連れて謝りに行けばすぐ誤解は解け、そしてビリーブの幼さに誰も責めるという事はしなかった。

 ビリーブの処遇にしても、さすがは来るもの拒まずな学園だけあって、学園で引き取る事もすんなりと決まってこの話はめでたしめでたし、一件落着――で終わるはずだった。

「なーなー信実ー。その変な運動、何の意味あんのー?」

 柔道の基礎練をしている信実に、信実が問いかける――もちろん、問いかけた方はビリーブである。信実がすっかり気に入ったのか、時々――いやけっこうな頻度かもしれない――こうやって信実の姿で遊びに来るようになった。

「こうしてみるとさー。信実って足短くて銅がなっがいなー」

「うるさいっすよ、ビリーブ! 柔道に向いてる体型ってだけっすからね!」

「胴が長くて足短いってのは認めるんだー!」

 きゃははと笑われ、ぐぬぬと拳を握りしめ歯を食いしばるそんな信実の姿は学園、いや、世界中を探してもビリーブしか知らない姿であろう。

 そしてうるさいっすねと文句を垂らしながらも、基礎練に戻る信実。だがいつもより体が軽い気がするし、その理由にも信実は気づいていた。

(双子の弟ができたみたいっすね)

 ずっと1人いた柔剣道場でそんなことを思う、信実であった――……




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jc2271 / 高野 信実 / 男 / 14 / お兄ちゃんは嬉しい】
【オリジナルNPC / ビリーブ / 男 / 推定10 / 寂しがり屋】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせしました、こちらが後日談のおまけノベルの前日談となるメインノベルです。内容的に同一CPというにはちょっと難しいものになってしまっていますが、きっとこれからどんどん、それっぽくはなるんだろうなあという妄想の余地があるということで、ご満足いただけたらと思います。
この度のご発注、ありがとうございました。
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楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年06月13日

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