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『貴方は誰? 』
アルベルト・レベッカ・ベッカーjb9518)&鏡国川 煌爛々jz0265

窓を開けると初夏の訪れを告げる蝉の声。に、負けないほどのテンションで、レベッカはウィンク一つ。

「きーららちゃん、デートしましょ!」
「えっえっ」

空は青く澄んでいた、煌爛々の、赤くなった頬を誤魔化せないほどに。



「うむむむ」

鏡国川煌爛々は悩んでいた。姿見の前で小一時間は悩んでいた。

(デートって何着てけばいいですし…?)

毎日お水をあげていれば動くよと言われて買ったカエルのTシャツは、今日も動きそうにないので却下だし。
ヌシ釣りの時の探検隊服は、ロマンを探しに行くときじゃないと着れないし。
クリスマスバイトの時のサンタ服は、どうみても季節が違うし。

「…いつものにするですし」

煌爛々はため息をついてセーラー服を手に取った。



待ち合わせ場所にて、ストロベリーブロンドの長髪を探す。パッと見当たらないが、連絡もなしに約束を反故にする相手でもない。煌爛々は目立ちやすいベンチに座って待つ。そう無意識に考えていることに、気付かないまま。

「っ、お待たせ」
「だいじょぶですsあれっ」

荒い足音と共に、後ろから肩に触れる手。電車が遅れて、と息を切らせて謝る相手の、ストロベリーブロンドは短い。

「…何?」
「レベッカがレベッカじゃなくてレベッカできたですし…あれっ??」
「全部俺だけど、それ」

少し小馬鹿にしたような顔をするアルベルトは、いつも以上になんだかスタイリッシュに見えて。さっきまで忘れていた、気にしてなかった自分の恰好が、煌爛々は急に場違いに思えてくる。

「…ふぅん」

少し俯き加減にあわあわしている煌爛々をどう思ったか。アルベルトはふ、と顔を緩めると。

「お手をどうぞ?お嬢さん」

ニヤリと笑って手を差し出した。



初夏の日差しは暑すぎることもなく、商店街の大通りを吹き抜ける風も心地よい。

「な、なんかキラキラしてるですし!!」
「わかったから入るぞ、邪魔になるだろ」

ファンシーからクールまで、一通りジャンルの揃った服飾店に尻込みする煌爛々の背を強引に押す。触ったら壊すと思っているのだろう、伸ばしては戻す指先とは裏腹に、煌爛々の目は正直に輝いていて。

「ぷっ…好きなの選んで来いよ」
「うぇっ!?」

おそるおそる持ってきたのは、ジーパンに黒のTシャツ。誰にでも似合う、言い換えれば無難な組み合わせを見て、アルベルトは一言。

「却下」
「うえぇぇっ!?」
「そんなことだろうと思った…ほれ、これとこれな」

よく煌爛々が視線を向けていたジャンルから、似合う組み合わせをチョイス。伊達にレベッカやってません。
ドッタンバッタンと、およそ服を着ている擬音ではない更衣室から、待つことしばし。

「……へぇ」
「ぐぬぬぬ」

女の子らしい花柄をあしらった、シンプルなワンピースの裾を握りしめ、煌爛々は俯く。布が違うだけなのに、どうしてこうも視線が面映ゆいのか。

「そのままでいい、座って」

戸惑いながらも指示に従う煌爛々の前に、アルベルトはスッと跪くと無言で足をとる。恭しい手付きでミュールを履かせ、足首の鎖を留めて。するり、そのまま視線を上げる。絡めとる。

「似合ってるよ」
「ぐぬぬぬぬぬ!!」

照れ隠しの拳が届く前に笑って立ち上がる。俺の見立てだからな、と。無意識に上機嫌なことに、気付かないまま。



街角に秘密基地のようにひっそり佇む店は、入ってみたら可愛らしいアンティークの並ぶ雑貨屋さん。

「レベッカ!馬車が鳴ってるですし!!」
「ああ、オルゴールになってるんだな。ほら、ここを回してみろよ」

アルベルトが螺子巻きを指し示すも、手を振って後退りする煌爛々。いまだにとある教師の執務室のドアを壊しては、反省文を書かされているのを思い出したのだろう。

「いっ、いいですし……壊しちゃう、ですし」
「大丈夫だって…ほら」

残念そうな瞳を見ていたくなくて、怯える手を奪い螺子巻きに添える。そのままそうっと一緒に回して。

「わぁ…」

軽やかに鳴り走る馬車を、じっと眺める煌爛々。アルベルトは静かに手を離し、それをポケットの中で握りしめる。
――はぐれそうだから、と、あとで差し出してみようか。



カフェタイムは誰にでも等しく訪れる。つまりは、どこも混んでいるということで。

「ちょっと待ってろ、飲み物買ってくる」

人混みに消えるアルベルトの背を、煌爛々はそわそわと見送る。普段と違う恰好のせいか、妙に落ち着かない。

「やぁお嬢さん、私とお茶でもどうですか!」
「………えっ?」

今までそんな声のかけられ方をしたことはなかった。最初、自分宛とは思わなかったほど。でも目の前のアッシュグレイの白スーツは、しっかりとこちらに視線を合わせてきていて。

「いや〜〜私は運がいいですね!こんな可憐でフェアリィプリティなお嬢さんがお独りでふるえる以下略」
「なんかすごい殴りたいですし!?」

たぶん許される気がする、と拳を握りつつも、服を破りそうで煌爛々は機敏に動けない。その隙にと図々しくも男はずいと近付き、あまつさえ握った拳に手を重ねてくるではないか。

「運命の出会いに感謝してまずはチッスを」
「…お取込み中悪いんだけどな」

くん、と拳が取り戻される。同時に、反対側から肩に回される腕と、頭に乗る重み。声が、頭蓋骨を伝って響いてくる。

「俺の連れなんでね、おっさんは遠慮してくれる?」
「おやぁ残念、彼氏さんお持ちでしたか」
「えっえっ」

にっこりと牽制するアルベルトに、肩をすくめて嘆く男。煌爛々は、展開についていけずに戸惑っている。その様子に男は片眉を上げると、ニヤニヤと言葉を紡いだ。

「あっれぇ〜もしかして、もーしーかーしてお友達同士でしたぁ〜?じゃあ私にもチャンスありますよねお嬢さん一目惚れしたんでまずはチッスから」
「……行くぞ煌爛々」
「やっぱ殴っとくべきですし、ってちょ、レベッカ!?」

あんなにも躊躇っていた手を、強引に引っ張っていく。なぜこんなにも心中穏やかでないのか、理由に気付けないから足も止まらない。

「…ッカ、レベッカ!どーしたですし」
「っ!わ、るい」

人混みを抜けたところで、ようやく煌爛々の声が耳に届く。慣れない靴で一生懸命ついてきてくれたのであろうぎこちない歩き方に、アルベルトはバツの悪さで胸が痛む。

「なんでも、ないんだ…ごめん」

お詫びに、と雑貨屋でこっそり買っておいた髪飾りを煌爛々の髪に飾る。乱れた髪を丁寧に櫛梳るのも忘れない。

「なななんあなんあ」
「何語だよ、それ…はははっ」

不意打ちに真っ赤になる煌爛々を見て、アルベルトは自身の心が穏やかに凪いでいくのを感じた。



商店街のゴールは、整備された海岸線。人気のスポットではあるが、シーズン前の今は人影もまばら。

「やんのかコルァですし!!」
「キシャァァァーーッ!!」

なぜか勃発した煌爛々とカニの戦いを、砂山をベンチ代わりにアルベルトはぼんやり眺める。この穏やかでアホらしくて楽しい日がずっと続けばいい。傍らにこの騒がしい少女がいたなら、きっと、いつまでも。

「なあ、もし俺が、煌爛々のこと――」

不意に。
言葉の先を奪うように、強風が吹く。足元の砂山が崩れ、アルベルトはバランスを崩し落ちていく。
土台のしっかりとしていないモノは脆い。思わず閉じた瞼の裏に、空白が突きつけられる。今まではさほど気にしてこなかった、己の空白部分。土台となる記憶。

それを持たない自分が、この砂山のように不安定な自分が、今、何を願おうとした――?

「うおおお砂が!靴に!じゃりじゃりですし!?」

ぴょんぴょんと跳ね回る煌爛々に、ハッと意識が浮上する。しかし心は空白に囚われたまま、アルベルトの口から言葉が滑り落ちる。

「なあ、もし俺が――レベッカじゃなかったら、どうする?」


空白のレベッカを乗っ取った、全く違う誰かだとしたら。
目の前の笑顔は、もう、手の届かない遠くへ行ってしまうだろうか。


うーん?と考え込む煌爛々に、アルベルトの顔に後悔がよぎる。聞かなければ、誤魔化したまま過ごせたかもしれないのに。
苦い想いを抱えるアルベルトをよそに、煌爛々はおもむろに顔を上げると。

「……レベッカが何言ってるか、さっぱりですし!!」

キリリッ!と真顔で宣言した。

「………そうだよな、煌爛々はそういう奴だよな」

俺の悩みを、シリアスを返せ。
完全に力の抜けた身体をなんとか起こし、アルベルトがいつもの軽口を返そうとしたところで。

「でも私の知ってるレベッカは、最初からレベッカでしたし。だから、私のレベッカはレベッカだけですし!」

うんうん、と一人納得する煌爛々に、虚を突かれ固まるアルベルト。じわじわとその意味が浸透するにつれ――頬に、朱が走る。

「簡単なことですし、レベッカ、なんでわかんないですし」

ふふん、とドヤ顔まで向けられて、ああ、もう。

「……負けた、かもな」

くぐもった本音は、口を覆う掌の中に消え。赤く染まる頬を隠すように、残った手を煌爛々の頬に滑らせる。やられっぱなしは、趣味じゃない。

「悪いコトを言うのは、この口か?」

ふに、とアルベルトの指が煌爛々の唇の真ん中に触れる。そのまま、ふにふにとなぞっていって。端までたどり着いたとき、いつの間にかこつん、とおでこが触れる。

「そんな口には、オシオキが必要、だよな?」
「!!??」

パクパクと言葉を紡げない唇の代わりに、戸惑いを雄弁に訴えてくる煌爛々の瞳。合わせた視線を絡めとるように、にっ、と笑って。

ぐいいいいいいいいいっ!!!
「いっひゃあああああ!!??」

アルベルトは、思いっきり煌爛々の口を引っ張った。



蒼闇色の空に、星が瞬き始める。波打ち際でそれを見上げるアルベルトの、頬にはくっきりとモミジ模様。

「なにも殴ることはないだろ…」

ぶつくさとこぼれる文句とは裏腹、その口は隠しようもない笑みに彩られ。
腫れた頬を冷やすシンプルなハンカチには、『A.R.B』のイニシャルがガタガタとした線で主張していた。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb9518 / アルベルト・レベッカ・ベッカー / 男装ver / 22 / ともだち?】
【jz0265 / 鏡国川煌爛々 / 女 / 17 / 脳筋使徒】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご無沙汰しております、日方です。まさか覚えていて頂けるとは思いませんで、発注文にお名前を拝見したとき思わず笑いました。
相変わらずきららの扱いがお上手ですが、今回はがんばって一矢報いてみました。終了前ですし、と思ってちょっと踏み込みすぎた気がいたしますが、こんなん思ってねーよ!とかありましたらご遠慮なくリテイクください。どこかで見たことのあるようなモブもいますが、あくまでモブです。ええ。ウザ…存在感がありすぎるようでしたら、こちらもご遠慮なくリテイクください。
リプレイを読み返しながら、育んできた年月に懐かしい心地になりました。ご縁を、ありがとうございました。
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日方架音 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年06月13日

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