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『殻の内側に 』
加茂 忠国jb0835)&鏡国川 煌爛々jz0265

窓を開けると初夏の訪れを告げる蝉の声。に、負けないほどのウザ…存在感で、忠国はウィンク一つ。

「デートしましょう!夏ですからね!」
「……ここは更衣室ですしこのハレンチィィ!!!」

空は高く澄んでいた、忠国が、どこまでも飛べそうなほどに。



「まったく、なんで私がですし」

ブツブツと文句をこぼしながらも、煌爛々は足を動かしていた。あのとき脊髄反射レベルでぶっ飛ばしたのに、いつの間に服にメモを挟んだのだろう。場所と時間が簡潔に記されたそれを、何度も確認する。

「絶対に冗談なんですし、罠ですし」

行ってもいないとかそんなんに違いない、そう考えつつも足は止まらない。だって。

(ともだちと、待ち合わせ)

心なしか速まる足音は、しかし近付くにつれしぼんでいく。まばらな人影の中に、あの暑苦しい存在感が見当たらない。

(わっ、わかってた、です、し…)

しょんぼりと足が止まる。握りしめたメモが、右の掌でくしゃくしゃに――

「きーららちゃんっ!」
「ふぎゃあああああ!?」

耳元に吹きかけられた吐息に、煌爛々の裏拳がキまる。デートの開始はちょっぴり遅くなりそうだ。



初夏の日差しは暑すぎることもなく、商店街の大通りを吹き抜ける風も心地よい。

「ゲーセンですし!でかいですし!!」

新規オープンしたばかりのゲームセンターから、最新機種が煌爛々を手招く。そわそわと忠国を見上げると、優しい瞳が頷いた。

「行きましょう、特に音ゲーなどオススメします見せてください腹がチラチラそして可愛らしいオヘソからの魅惑の大双丘へtぐべらぎゃっ!!」
「店員さーん、このパンチングマシーン全然弱いですしー」

にっこり笑顔で振りぬいた拳は、見事に的のど真ん中へクリーンヒット!
根元から折れた的は、見事に忠国の顔面へクリーンヒット!

「ふっ、ひるがえる魅惑の布からの腿チラ、私のハートにクリーンヒット…ぐふっ」

忠国は、満足そうに、散った。



あちらこちら、ウィンドウショッピングは結構体力を使うもので。

「きららちゃん、喉乾きませんか?」

 忠国が指さした先には、搾りたてフルーツジュースの専門店が客引きをしていた。

「美味しそうですし!よくわかんないフルーツもあるですし!!」
「どれどれ…ああマンゴスチンですか。これは果物の女王とも呼ばれるつまり私の守備範囲なんですけどそれで」
「とりあえず黙りやがれですし」
「ハイ。あっきららちゃんは座って待っててくださいね、さあさあ」

にっこり握られた拳に忠国はお口チャック。そのまま流れるようなエスコートで煌爛々を座らせると、カウンターに向かって何かを注文した。待つことしばし。

「あれ、一つだけですし?」

大きなグラスを一つだけ運んでくる忠国。自分の分だけを買ってきてくれたのだろうか、煌爛々がそう申し訳なく思っていると。

「いえ二人分です。――こうするんですよ、えいっ!」

忠国は、根元が一つ吸い口二つのハート型ストローを、さした。

「さあどうぞ!遠慮なく!さあさあさあ!!」
「………ありがとですし、遠慮なくいただくです、し!」

 暑苦しさ全開の笑顔で迫ってくる顔に、清々しい笑顔で振りぬかれた拳は光速を超え。忠国が落ちてくるまでの間に、ジュースは煌爛々にしっかり飲み干されていた。



なんやかや、楽しそうに進む足が、一瞬止まる。

「…きららちゃん?」
「っ!な、なんでもないですし!!」

咄嗟に顔を背けつつも、煌爛々の視線はきらきらとした店へと引き寄せられていた。どうやら化粧品の類を扱っているらしいその店には、なるほど可愛らしい細工のものが揃っている。あと女子も揃ってる。

「Yes花園!No素通り!初めまして運命のお嬢さん!飾らずとも貴女はとても美しいですがほんの一雫の以下略」
「あら、ありがとう?」

長いストロベリーブロンドがさらりと流れるのに相貌を崩す忠国。そっと手を取ろうとしたところで、煌爛々はハッと我に返る。

「ッッなにやってるですしこのハレンチ!!」

繊細な商品の横で振るうのはためらうのか、拳を上げては下ろす煌爛々。

「ヤキモチですか大丈夫!私の愛は全世界を包んでなおマントルに乗って巡ります!」
「地底で燃え尽きてろですし!!」

きららちゃんへの愛を証明してみせましょう!と高笑いで店の奥に消える忠国。一連の展開を眺めていた女性は、緑の瞳を悪戯っぽく瞬かせてきららを手招く。

「な、なんですし?」
「大変ね、あの手のタイプは上手に隠しちゃうから」

良いコト教えてあげるわ、そう寄せられた口元から煌爛々の耳に一言二言落ちたところへ、ドヤ顔の忠国が戻ってくる。

「はい、どうぞ」
「こ、れ…」

綺麗な袋の中には、お姫様のような細工の口紅。何故わかったのだろう、自分がどこを見ていたのか。見上げた忠国の得意気な表情の中、瞳だけはほんのり優しい色を宿してるようで。

「あっ、ありがと、ですし…!」

悔しくてそらした視線の先で、女性の唇ががんばってと微笑んでいた。



商店街のゴールは、整備された海岸線。人気のスポットではあるが、シーズン前の今は人影もまばら。

「今日は楽しかったです」

中でも人影のないところを選び、忠国は笑う。今日は、煌爛々にどうしても伝えたいことがあった。

「いや〜〜私も愛とかもらったことなくてですね!」

あっけらかんと自身の過去を語る。相手が気に病まないよう、あくまでも軽く。


欠陥品、そうとしか見てもらえなかった日々。
結果がすべて。努力など、想いなど、歯牙にもかけられなかった。


「あっでもわりと毎日楽しく過ごしてるんですよこれでも。世界は愛に満ちているッ!」

誰からも愛されなくとも、愛に満ちたこの世界で呼吸をしていれば、愛に染まれる気がするから。
自分はもう――それでいい。でも。

「……だからねきららちゃん。君には、私のようになってほしくないんです」

自分と似たこの少女には、まだ未来のある煌爛々には。他人に愛されることを知ってほしい。
だから忠国は笑う。にっこりと笑う。もらったことのない愛を、少しでも伝わるようにと精一杯こめて。

ぽかん、と口を開けて聞いていた煌爛々の脳に、ゆっくりと言葉がしみこんでいく。瞳が理解の色に染まった瞬間、無駄にハイスペックな身体能力で忠国の後ろに回った。そして。

カックン
「えっ」

膝に強烈なカックンをくらってしまってな。
いきなりの衝撃に呆然とした忠国が気付いた時には、なぜか砂浜に正座状態だった。

「えっちょ、きららちゃ」
「黙って正座してろですし」
「ハイ」

何だかよくわからないが、後ろの気配はとても怒っている気がする。乱暴に包装が破られる音を聞きながら、忠国は混乱した。



(あの手のタイプはね、殻を作るのが上手いの)

無残な姿となった包装から出てきた口紅、掌サイズのそれを見つめる煌爛々の脳裏に声が再生される。

(一回びっくりさせて、壊してやらないとダメなのよ)

この壊れそうなシロモノは、どうやって使うのだろう。戸惑いながら扱っていたのがバレたらしい、そっとこちらを伺う忠国が振り向きそうになるが。

「黙って前見てろですし」
「ハイ」

あまり時間をかけては、せっかくヒビを入れた殻が戻ってしまう。心の中で謝りながら、口紅を思い切り引っ張る。バキッ、と思いの外大きな音に忠国の肩が跳ねるも、振り返るのは何とか堪えたようだ。

(だからね――でかいの、一発ドカンとかましてやりなさい!)

声に背を押されるように、むき身の口紅を塗りたくる。鏡も技術もないベッタベタの唇から、自然と言葉が飛び出していく。

「…諦めた顔で、声で言われたって説得力ないですし!」

悔しさをぶつけるように、煌爛々はグイッと、目の前の銀髪を引っ張る。驚いた瞳が平静を取り戻す前に――べちょっと、おでこに一発。

「……ッ!?」

勢いでそのまま倒れこむ忠国の顔は、完全に驚愕で固まっている。頬を染める熱を夕陽のせいにして、煌爛々は口紅を袖で拭う。はやく、はやく。

「びっ、びっくりさせたら、なんか、真っ白になるって言ってたですし!だから、その、ちゃんとわかってから、言うですし!」

見上げる視線が居たたまれなくて、煌爛々は忠国の目を隠す。掌に感じるまつ毛の感触が、やけに気になって。はやく、はやく。

「ハレンチ……たっ、忠国は!」

走馬灯のように駆け巡る思い出を、自らも必死にめくる。迷路のように深い山で途方に暮れていた自分を、傷付きながらも離さないでいてくれたのは。

「大丈夫、って言ってくれたですし!何度も、なんども、言ってくれたですし…!」

あの時は意味がわからなかった。でもそれからも、何度も何度も手を差し出してくれて。わかるまで、傍にいてくれて。はやく、はやく――言わなきゃ。

「私はっ、私は………ぅ、す、きですし!ほら!誰もいないなんてことないですし!わかったかザマーミロですしうおおおおおお!!!!!」

急に開けた視界に忠国が見たものは、すでに豆粒ほどの大きさに遠ざかった煌爛々。巻き上げられた砂煙に、その姿はだんだんと消えていく。

「あ……」

思わず漏れた声は途方に暮れ。動かない脳の代わりに、身体が、利き手が何かを求めるように動く。
伸ばされた腕はしかし、いつものように、諦めたように、ゆっくりと地に落ちていき――

「念のため言っとくですけど!ともだちの!ともだちのすきですし!!」

豆粒ほどの遠方から、何かが腕に当たる。忠国は跳ね飛んでいきそうなそれを慌てて掴むと、シンプルな男物のハンカチが広がった。よくよく見ると、裾に、小さく『T.K』と刺繍されている。ガタガタの、何とかそう読める、といった間違っても既製品ではないクオリティで。



蒼闇色の空に、星が瞬き始める。いつのまにか満ちてきた潮の飛沫が、いまだ動けない忠国の顔を遠慮なく濡らしていく。

「………私の、負け、ですね」

大切そうにハンカチを握りしめていた掌で、目元を覆う。しょっぱい水が一滴、忠国の頬を洗い流していった。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb0835 / 加茂 忠国 / ハレンチ / 33 / ともだち?】
【jz0265 / 鏡国川煌爛々 / 女 / 17 / 脳筋使徒】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご無沙汰しております、日方です。まさか覚えていて頂けるとは思いませんで、発注文を受け取って思い切り吹きました。
アドリブOKの温かいお言葉をいただきましたので、後半、盛大にやらかした感はありますが、IFノベルですからね!ということでひとつ……。いつもは忠国さんが好き勝手動いて振り回すのですが、今回はどうも、うちのアホの子がドッカンしたようで。IFって素晴らしいですね!!
リプレイを読み返しながら、育んできた年月に懐かしい心地になりました。ご縁を、ありがとうございました。
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日方架音 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年06月13日

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