▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『恋多かった者達の恋 』
卯左見 栢jb2408

 微睡みの中、ベッドの軋む音にゆっくりと目を開けた卯左見 栢の視界に飛び込んできたのは、白い肌であった。

 ベッドの縁に腰掛けて、伸びをしている白い背中――そこめがけて栢は腕を伸ばし、ぎゅうっと抱きついた。距離感を誤り腰にしがみつくような形ではあるが、それでも十分。嬉しそうな顔でスリスリと腰に頬を擦り合わせる。

「おねーしゃん、おはよぉぉぉう」

 寝ぼけて回らぬ舌で挨拶をすると、頭を撫でられながら御神楽 百合子に「おはようございます、栢ちゃん」と返される。たったそれだけの事でも栢は幸せに包まれ、「ふへへぇ」と笑うのだった。

 立ち上がろうとする気配はわかっていたがそれでも腰から離れようとせず、ベッドに寝そべったままずるーりと胴を伸ばす様にくっついていく。

「栢ちゃん、朝ごはん作りますので……」

「えー……じゃあ、おねーさんの後ろにくっついてく!」

 そう言って腰から離れ立ち上がり、栢がベッドのタオルケットを剥ぎ取って肩にかけている間に、百合子が「栢ちゃんの服、借りますね」と、栢の部屋着にしている黒い薄手の七分袖を着るのだが、当然大きすぎるので肘の部分まで袖を引っ張る。そして改めて百合子の後ろから首に腕を回し、覆いかぶさるようにして抱きつく栢。

 そんな栢へそういえばと、百合子は上に左手を伸ばして栢の顔を引き寄せ、上と後ろを向くような少し無理な体勢をとりながらも、ほんの一瞬とも呼べるくらいごくわずかな時間、唇を重ねた。

 重ねる寸前に栢は思わず「ひぇ……!」と呟いてしまっていたが、素直に受け入れ、唇が離れた後は「にへへへ」と笑い自ら百合子の頬にちゅっちゅっと繰り返すのだった。

「おはようのキスがまだでしたね」

「そーだね!」

 自分の髪に顔を埋め、頬でグリグリされるがままの百合子は胸の前にある栢の手に指を絡めて、キッチンへと歩き出す。

 それほど手の込んだ物を作るわけではなく、コーヒーメーカーをセットしてからフライパンにハムを並べて卵を落とし蓋をすると、バゲットを食べやすいサイズに切っていく。半分ほどを切ったら残りは包んで棚へと戻し、霧吹きで湿らせてからバターを乗せてオーブントースターへ。

 冷蔵庫から野菜スティックを取り出してテーブルに並べ、黄身をプルプルと揺らして皿に乗せると、淹れたてのコーヒーと一緒に並べる。そしてトースターからバターの濃い匂いと、焼きたてのようなバゲットの香ばしい匂いが漂い始め、トースターの上で温めておいた皿へ適当に積み上げて、テーブルの中央に――この間ずっと、栢は百合子にべったり、くっついたままであった。

「暇だったり、飽きたりしませんか」

「しないよ! おねーしゃんの手を見てるだけで、時間なんてあっという間に過ぎちゃうし!」

 耳――ではなく、耳のような髪の房がぱったぱったと動いているように見えるが、百合子に声をかけられてテンションが上がり、激しく頬ずりして髪が揺れているだけである――たぶん。

「ほら、栢ちゃん。座ってください」

「はぁーい!」

 返事をする栢が百合子の正面に座る。隣り合った方がより距離は近いのだが、食べてる間も百合子を見ていたいからと、同棲を始めた時からずっと対面である。

 2人とも席に座り、手を合わせ「いただきます」――1人の時にはなかった習慣だが、2人で居るようになって身についたものだった。

 フォークを黄身にいれると、食欲をそそる黄金色がその姿を現し、バゲットの先をつけて口に入れる百合子――を見る栢。その手はなかなか動こうとはしない。

 ニンジンスティックを指で挟んだ百合子が栢の熱い視線に気づき、「手が止まってますよ」とニンジンスティックの先端を栢の唇につける。反射に近い形で栢の口が動き、ポキリポキリと徐々に短くなっていく。そして最後、尻尾のような残りを指で押し込むと、そのまま百合子の指までが栢の口に入っていった。

 驚きとは少し違った表情を見せた栢。あむりあむりと歯は立てずに百合子の指をしばらく堪能していたが、指は引き抜かれ、しょんぼりとした栢の気持ちを表すかのように糸を引く――が、その指を自分の唇で拭うような仕草を見せられ、栢は思わず「ひえっ!」と漏らしていた。

「かわいい反応ですね」

「うう……こんなの、おねーさんにしか見せたことないし……今までおねーさん以外にも好きな人いたけど、おねーさん以外じゃこんな気持ちになったことない……」

 自分が何を言っているのかよくわからなくなってきて、頬が熱くなってきた栢は髪で顔を隠す。熱くなった頬というか、顔が隠れたのはいいが、その代わり、赤く染まった耳が露わになっていた。

 小さく笑った百合子が身を乗り出し、赤く染まった耳に触れると、思いのほか栢はびくりと大きく身をすくませる。身をすくませるが振り払ったり逃げたりはせず、大人しく触られるがままに身を任せるのだが、百合子の指で耳たぶを弄られ頬に指が擦れるだけで背中がぞくぞくする。

「栢ちゃんもたくさん『好き』があったみたいですけど、本当の意味で『好き』になったのが初めてなんですね」

「おねーさんは……?」

 髪の隙間から覗き込み、恐る恐る尋ねる栢。そんな栢へ笑みを強めて言った。

「私も初めてですよ。こんな強烈に『好き』って思えるのは」

「一緒だね……!」

「ん、一緒ですね」

「わぁい!」

 2人で笑いあい、色々と耐え切れなくなったのか栢は勢いよく立ち上がると、タオルケットが落ちるのも構わず座っている百合子の横から抱きつく。

「おねーさん好き! 大好き! んー……っ好き、好きぃ!」

 言ってもいい足りないくらいだと何度も好きを繰り返し、身体に埋め込んでしまうのではないかというくらい、百合子の頭を強く抱きしめ胸に押し付ける。ただこうしているだけでどんどん鼓動は早くなり、もっともっと伝えたい、もっともっと触れていたいと、その想いは強まっていく。

 横から抱きつかれたので抱きつき返すのは難しいからと、腰に右手を回す百合子。手の触れた箇所が熱を帯びていくのがはっきりとわかり、百合子もまた、こうして触っているだけでどんどん胸が高鳴っていた。

「……今日こそはお出かけしようと思っていましたけど、今日もうちで一緒に過ごしますか」

「おねーさんと一緒ならどこだっていいよ!」

 栢の返事に「そのうちお出かけできる日もくるでしょう」と言って、左手も栢の腰に回すのだった。

 抱きしめ返す百合子が「栢ちゃん」と呼んだ。

「んー?」

「……愛してますよ」

 言われた栢はひえっと漏らしたが、それでも逡巡したのちに「あたしも」とそれだけを返すのが精一杯であった。

 ――恋多かった2人が今、お互いを愛し合っている。それはきっと運命の巡りあわせなのだろう。

 いつまでも、いつまでも、この恋が、この愛が、続きますように――




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【jb2408 / 卯佐見 栢    / 女 / 21 / たくさん好きって言われたい】
【jz0248 / 御神楽 百合子 / 女 / 25 / 何度でも伝えたい】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
この度のご発注、ありがとうございます。当初はお出かけもさせようと思っていたのですが、字数の関係と、どうせならもう少し濃くいちゃつかせようかと思いまして、こんな形になりました。満足頂けたら幸いです。
またのご発注、お待ちしております。
WTシングルノベル この商品を注文する
楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年06月19日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.