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『Let's go out, My sister! 』
aa2518hero001)&サーフィ アズリエルaa2518hero002

「そういえばサフィは、どうしていつもメイド服なんですか?」
 ある日の宵。食後のケーキを皿に並べていた禮(aa2518hero001)は、黒い大きな瞳をサーフィ アズリエル(aa2518hero002)に向けて尋ねた。サフィは紅茶を淹れる手を止め、彼女に向き直る。
「どうして、と言われましても……家事などを行うには、これが一番良いのです」
 禮の記憶が確かなら、サフィはメイド服を10着以上は持っていたはずだ。けれど、それ以外の服となると全く見覚えがない。
「そもそもメイド服以外の服って持ってるんですか?」
「いいえ」
 即答である。
「だったら、お買い物に行きましょう!」
 サフィは一瞬の戸惑いを見せた後、誘いに乗った。本音を言えば『別にメイド服でいいのに』なんて気持ちもある。しかし、誘いを断るという選択肢など彼女にはなかった。姉と慕う禮とのお出かけ。きっと楽しい日になるだろうとサフィは確信していた。

 やって来たのは大型ショッピングモール『シャンゴリラ』。真っ先にレディースファッションのエリアへ向かう。
「こういう場所は慣れないので、どのお店に入ったら良いか悩みます」
「あ、ここはどうですか?」
 落ち着いた内装の店舗には、サフィよりも少し年上と思われる女性客が目立った。待っていたのは、エレガントでちょっぴり大人な自分への変身。かと思いきや。
「やっぱり動きやすさは重要ですよね!」
「ええ、そのとおりです、ねえさま」
 なんだかんだで彼らは戦士だった。流行りのアイテムやきらきらとした装飾品には目もくれず、シンプルなシャツが並ぶ棚の前に立つ。
「ひとつ、お願いをしても良いでしょうか?」
 禮が声に振り向くと、サフィは口元をほころばせて姉の顔を見返した。いたずらを思いついたような表情だ。
「ねえさまに服を見立てて頂きたいのです」
「わたしが……?」
 彼女はこくりと頷く。その仕草だけで、惜しみない信頼が伝わってくるようだ。いつもは甲斐甲斐しく世話をしてくれる彼女が、珍しく頼ってくれるのも嬉しい。
「お安い御用ですよ」
 ほとんど直感的に、禮は服を選び取る。その服を着たサフィの姿が脳裏に浮かんだのだ。大きな妹は、柔らかで軽い白の布と幾分かずっしりとした黒の布を胸に抱える。
「すみません。試着をしたいのですが」
 わくわくと声を弾ませて店員を呼び、禮はカーテンの向こう側へ妹を送り出した。5分ほど経った頃、カーテンの音の後に禮を呼ぶ声がした。
「サフィ! とっても似合ってますよ」
 白いブラウスと黒のパンツを着こなしたサフィが、姿勢良く立っていた。すらりとした体躯に、クールな表情。ぱりっとしたメイド服はもちろん、こういったスタイルも似合わないはずはなかったのだ。
「このまま行きましょう、サフィ!」
 着てきたメイド服をショップバッグに詰めてもらい、会計を済ませる。今のサフィはメイドというより、おしゃれなカフェの店員といった雰囲気だ。
「そうだ! エプロンも買いましょうか」
 はしゃいだ様子で言う禮に、サフィは言った。
「ねえさま、家事をするならメイド服があります」

 店内をぶらりと歩いていると、夏を意識した商品の展示が目に留まった。竹製のベンチにはイグサの座布団が置かれ、豚をかたどった蚊取り線香まで置かれている。生活雑貨を取り扱う店舗らしい。
「日本の夏、ですか。ほら、あれも……」
 禮が指をさす。吊り下げられた風鈴が、ちりん、ちりん、と絶え間なく鳴っている。
「美しい音ですね。まるで楽器のような……」
 あるいは人魚の歌声のような、透き通った音色。メロディの奏者が扇風機から送られる風であるのは、室内ゆえ仕方ないのだろう。
 竹で編まれた籠やざるも、近くに陳列してあった。サフィが興味を示したのは竹箒。足元にあるのはちりひとつないリノリウムの床だが、掃いて感触を確かめてみる。
「悪くありません。せっかくですから新調しましょうか?」
 すっかりメイドモードに入っていたサフィだが、戯れに剣のように構えて見たのがいけなかった。彼女の中にある別の一面が顔を覗かせたのである。
 思うにこれは、玄関や庭の掃除に使う用具だ。つまり外敵が現れた際に手にしている可能性が高い。
「曲者です!」
 シミュレーション開始。禮を背に庇うと、間髪入れず仮想敵を斬り捨てる。わさわさと枝分かれした切っ先が、宙空に無数の一文字を刻んだ。
「わぁ! 頼もしいです、サフィ!」
 禮がぱちぱちと手を叩く。その反応に気をよくしたサフィは、次のシチュエーションに取りかかる。
「この程度、何でもありません。次は……そうですね。敵が後ろから来たら……」
「恐れ入ります、お客様」
 声の方向に目をやると、営業スマイルを貼り付けた店員が後ろに立っていた。
「他のお客様のご迷惑となりますので……」
 物腰柔らかく怒られてしまった。自分とは別の意味の鉄面皮に、サフィはある種の尊敬を覚えてしまう。去って行く店員を見やりながら、禮はしょんぼりと言った。
「ごめんなさい。私が止めなくてはいけなかったのに……」
 サフィは真面目な顔で首を振ると、禮の眼をまっすぐに見つめた。
「つい楽しくなってやりました、今は反省しています」
「……親指を立てながら言わないでください」
 ツッコミを入れてから吹き出した禮。同時にサフィもくすりと笑みを浮かべた。小さな姉と大きな妹の微笑ましき風景がそこにあった。

「思ったよりたくさん買っちゃいましたね……重くないですか?」
 両手に荷物を持ったサフィの顔を、禮が隣から見上げる。
「大剣より重いとお思いですか? ねえさま」
 説得力は十二分。あくまで荷物持ちの仕事を譲るつもりはないらしい。禮は荷物を受け取ろうとした手をひっこめる。代わりにこう持ち掛けた。
「ティータイムにはちょうどいい時間ですね。どこかでお茶でもしていきませんか?」
「本当に、ここには何でもあるのですね。では、喫茶室にご案内いただけますか?」
 レストラン街。ショーケース内の食品サンプルや、壁に貼られたポスターがそれぞれに、自店の魅力を主張している。
「ケーキが食べられるお店もたくさんあるんですよ。どこに行きましょうか?」
 歩く禮の眼がある店舗に釘づけられる。新メニューと描かれたポスターには極彩色のきらめき。そして――禮の進行方向には柱。
「あ……フルーツタル」
 ごちん。硬い音に反応し、サフィの足が止まる。
「……ねえさま」
「大丈夫です。あのポスターの写真があまりにも美味しそうで……」
 額を撫でながら禮が微笑む。
「いつものねえさまですね。安心しました」
 記憶障害の心配などはなさそうだ、と付け加えると、軽くぶつけただけなのにと禮が苦笑する。
「ほら、あのお店は宇治金時がおすすめみたいです。もうかき氷の季節なんですね」
 テイクアウト専門の店なのが惜しかったが、ショーケースを眺めるだけでも楽しい。
「水をモチーフにした和菓子は、見ているだけで涼し気ですね。抹茶のムースも美味しそうです……!」
 ケーキを愛する人魚は、楽し気に和の甘味を見つめる。
「それから、やはりスイカでしょうか。トマトも果物みたいに甘くなりますよ」
「四季というのは食文化も豊かにするのですね」
「そうかもしれません。それに夏限定のケーキにも出会うのも楽しみです」
 厳正なる協議の結果、ふたりは例のタルトを出している喫茶店へと入った。
「わたしは、フルーツタルトとホットの紅茶を」
「同じものをお願いします」
 サクサクのタルト生地にはカスタードが敷き詰められ、イチゴにブルーベリー、オレンジやキウイや白桃がランダムにちりばめられていた。向かいあった皿に置かれたケーキは、似ているようで少しだけ違う輝きを放っている。
「こんな素敵な日常、夢みたいです」
 さらりとサフィが呟く。その言葉は不思議なほど禮をはっとさせた。サフィの過去について、詳しいことは禮にはわからない。けれど、彼女が平和に対する憧憬や愛着を抱いているのなら、自分と同じだ。
「サフィ。また一緒にお買い物しましょうね」
「……ええ、また」
 サイフォンの音が耳に心地よい。サフィの耳には潮騒のメロディが聞こえ出す。それは記憶。禮とサフィの懐かしい故郷。
 記憶の中のサフィは幾度となく思い出す。遠い昔に居なくなった、懐かしい人魚のねえさまを。あわただしく記憶のページはめくられ、自分の手には新たなしわが刻まれて行く。最後に姉を思った時には確か――55歳になっていたはずなのだ。
「行きましょうか、サフィ」
 行く? どこへ? 今度こそ連れて行ってくれる? ふとそんな思いが脳裏をよぎる。うっかり零れ落ちないよう、唇をぎゅっと結んだ。目の前には幼い姿の姉が、こちらへ手を差し伸べている。つるりとした若者の手を重ね、小さな手を包む。
「ええ。帰りましょうか、ねえさま」
 袋に詰めた日常の重みを左手と肩に、大切な温もりを右手に感じながら、サフィは家路を辿り始めた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【禮(aa2518hero001)/女性/11歳/白い渚のローレライ】
【サーフィ アズリエル(aa2518hero002)/女性/18歳/エージェント】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、高庭ぺん銀です。いつもお世話になっております。
妹をリードする禮お姉さんと、ねえさま大好きなサフィさんの休日。楽しんで頂けましたら幸いです。
作品内に不備などありましたら、どうぞリテイクをお申し付けください。
それでは、またお会いできる時を楽しみにしております。
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2017年06月21日

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