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『幸福を抱きしめて 』
天野 一羽aa3515)&ルナaa3515hero001)&ラレンティアaa3515hero002

 ハピネスランド。懐かしい雰囲気を持つこの遊園地には、少し奇抜なキャンペーンが存在した。簡単にいえばカップル割引。受付で『恋人である証明』を行った者たちにのみ、その権利は与えられる。
「いらっしゃいませ! 3名様ですか?」
 受付に座るアルバイトは、今日もペンギンの顔を模した野球帽をかぶっていた。
「こんにちは。……お久しぶり、です」
 素晴らしい営業スマイルは、天野 一羽(aa3515)を見た瞬間、あんぐりと口を開けた驚愕の表情へと変わる。
「あ、あの……?」
 一羽が目の前で手を振ると、受付係は絞り出すように言った。
「……これは、どういうこと……なんすかね?」
 その日の受付は空いていた。過ぎ去りしゴールデンウィークに客足が伸びた反動だろう。今はここだけではなく、アミューズメント業界にとって中休みのような時期だ。今受け付けている3名の後ろで列は途切れている。
「そちらのおふたり、今カノと元カノじゃなかったんすか!?」
「違っ……んむむ!」
 小柄な少年を後ろから抱きしめ、胸にうずめてしまったのはラレンティア(aa3515hero002)。狼の特徴を色濃く残したワイルド系おねえさまである。
「ラレンティアちゃんは、一羽ちゃんのことが大好きなのよね?」
 セクシー系おねえさまこと、ルナ(aa3515hero001)が問うと、ラレンティアは即答した。
「ああ、そうだな」
「ふふ、私も!」
 どちらかと言えば母性に近い感情ではあるが、彼に愛情を抱いていることは間違いない。
「もちろん、ラレンティアちゃんのことも好きだけどね?」
 ご機嫌な様子でルナがウインクする。こちらは友情の意だろう。あるいは一羽を愛する気持ちでつながった同志と言っても良い。つまり、因縁の相手かと思われた2人はむしろ仲が良いらしかった。
「なるほどね! 合意の上なら、ハーレムとかも全然アリっすよね!」
「んん〜!」
 意義あり、と唸る一羽の声。息が苦しいのかと判断したラレンティアが拘束を緩めてくれる。しかし、おねえさまたちを止めるまでには至らなかった。
「そうそう、証明をしなくちゃね」
 ルナとしては割引よりも、このプロセスに価値を感じているようだ。だって、大好きな一羽と『恋人』として振る舞えるチャンスなのだ。
(安売りはダメ、よね。でも……これなら許してくれるかしら?)
 ルナは一羽の頬にそっとキスをした。
「ああ、そうだったな」
 ラレンティアも反対側の頬に軽く唇を押し当ててきた。まさかの連続攻撃に、頭がショートしそうになる。
「ほら、バッジ。楽しんできなよ、魔性の少年」
 純情な少年に、またしても不本意な称号が与えられたのだった。

 左腕にルナ、右腕にラレンティア。まさしく両手に花状態でやってきたのは、写真館だった。言い出しっぺはルナだ。
「着替えて写真を撮るんだって。ラレンティアちゃんも好きなドレスを選んでいいからね」
「私もか?」
 ルナの勢いに押され、ラレンティアも着替えることになった。ドレスの良しあしはわからないので、コーディネートはルナにお任せだ。
「一羽ちゃんはこんなのどうかなぁ?」
 白いタイツにかぼちゃパンツ。学芸会から飛び出してきたような、王子様の衣装をルナは手に取る。
「こ、これはちょっと……」
「じゃあ、お姫様にする?」
「ルナ……」
 大きな目を細めて睨みつけてくる一羽だが、ルナにとっては可愛らしく見えるだけである。しかし、あまりいじめすぎるのも本意ではない。
「それじゃあ、私たちをエスコートできる衣装を探してほしいな。先に着替えてくるから、ね?」
 お姫様はタキシードの類をご所望のようだ。しかも、衣装の選択は一羽のセンスに委ねてくれるという。かなりの譲歩だ。
「よかったのか?」
 カーテンの向こう側。あっさりと折れたルナを訝しく思ったのか、ラレンティアが聞く。
「うん、一羽ちゃんなら何を着てもきっと素敵だから。それに……」
「それに?」
「どうせ写真を撮るなら、みんな笑顔の方が良いでしょ?」
 かつてサキュバスだった美女は、優しい目をして笑った。
「ただいま」
 シンプルな黒のタキシードを来た一羽は、英雄たちの背中に声をかけた。
「きゃー! 一羽ちゃん、すごく似合ってる!」
 すぐにルナが寄ってきて一羽を抱きしめる。愛おしくてたまらないと言う様子だ。写真館のスタッフは微笑ましげにこちらを眺めている。
「私はね、このドレスにしたの」
 ルナが自分から体を離してくれたので、一羽は安心する。彼女が着ていたのは爽やかなミントグリーンのドレスだった。レースをふんだんに使ったスカート部分がふんわりと床まで広がる。お姫様を思わせるキュートなデザインだ。頭には白銀に輝くティアラが乗っていた。
「似合うかな? ちょっと可愛すぎるかも……」
 少しだけ不安そうにルナが言う。
「そんなことないよ! 綺麗……だと思う」
 尻すぼみになる言葉。相手に届いたか怪しいものだと思っていると、ルナは泣きそうな顔で笑っていた。
「ありがと」
 ラレンティアが着ていたのはネイビーのドレス。マーメイドラインのエレガントなデザインは、ラレンティアを別人のように見せた。
「顔が赤いぞ?」
 ラレンティアが意地悪な笑みを浮かべると、一羽はますます赤くなる。彼への想いは恋愛感情ではないが、自分を見てドキドキされるのは悪い気分ではない。
「涼しくて、意外に快適かもしれんな。しかし、戦いには不向きか」
 ざっくりと開いた胸元に手をやり「がら空きだ」と呟く。当たり前だが、中身はいつも通りの彼女だ。
「それでは皆様、カメラの前に並んで下さい」
 一羽を真ん中に立たせて、両側から抱き着こうとしたふたりを一羽が止めた。
「それじゃドレスが映らないよ? 今日の思い出っていうか……ちゃんと写真に残したい、な」
 彼の気持ちを嬉しく思った2人は、おとなしく身を引く。3人で手を繋ぎ、寄り添い合った写真はとても幸せそうな表情で撮れていた。

 昼食はレストランのテラス席でとることにした。
「行くぞ、一羽。この前とは違う肉の匂いがする」
 ラレンティアはぐいぐいと腕を引いてくる。
「私、屋台で書いたいものがあるんだけど」
「そうなの? じゃ、ルナの分のハンバーガーも買っておくね」
 フライドチキンやステーキ、角煮丼にジンギスカン。ラレンティアはいつものように、肉メニューばかりを注文する。
「相変わらず、すごいなぁ」
 一羽が肉マウンテンに目を奪われていると、ルナが戻ってきた。
「私たちは、こ〜れ」
 ルナが持ってきたのは、忘れもしないあの姿。ハートストローが刺さったカップル仕様のジュースだ。
「しかもピンクだし!」
「いちごミルク味だって」
「ハートのクッキーまで乗ってるし!」
「ラブラブな感じでいいわよね!」
 勝ち目がないことを悟った一羽は、それ以上言い返すのを辞めた。
「一羽ちゃん、早く早く〜」
 ご機嫌なルナに急かされて、一羽も覚悟を決めた。
(この席はお客さん少なめだし、誰も見てないよね)
 パシャ。聞こえるはずのないシャッター音に一羽は顔を上げる。
「ラレンティア!」
「必要かと思って撮っておいたぞ」
 彼女は得意げに胸をそらした。褒めてもいいんだぞと言わんばかりに。
「今回は提出しなくていいんだよ……」
「でも必要っていうのは正解よね! ラレンティアちゃん、えらい!」
 ラレンティアの撮影した写真は、ルナの写真フォルダで大切に保管されることになったのだった。

「最後はやっぱり観覧車よね!」
 閉園の花火まであと少し。3人は絶好の鑑賞スポットへと乗り込んだ。
「私、一羽ちゃんの隣ね」
 ルナがそう言うのは予想できていたので、素直にスペースを空ける。しかし、ぎゅうぎゅうと腕に抱き着かれては反応に困ってしまう。
 ――とその時。ゴンドラがぐらりと傾く感覚に、一羽は身構える。
「な、何やってるの? 狭いって……」
 ラレンティアもまた一羽の隣に座ったのだ。2人の体は一羽にぴったりと密着していて、サンドイッチ状態のまま動けない。二人掛けのシートに3人で座っているのだから、ぎゅうぎゅう詰めになるのは当然だ。一羽は思わず真っ赤になる。
「一羽ちゃん可愛い〜」
 ルナが一羽を横から抱きしめた。
「ほら、抱き返してやれ」
 ラレンティアは一羽の肩を押してルナへと押し付けつつ、自分も彼の背にぴったりと張り付く。
「も、やめ……」
 湯気でも出そうな状態の一羽を救ったのは、軽やかな爆発音と光の雨だった。ピンク色に染まった空気はにわかに浄化され、皆、夜空を彩る色彩に見とれる。
「綺麗ね……」
「うん。3人で見られてよかった」
 重なったルナの手を優しく握り返す。
「またいつでも一緒に見てやる」
「うん、そうだね」
 ラレンティアの頬ずりを心地よく受け入れる。
「……楽しかったね」
 暖かな温度に包まれて、一羽は穏やかな気持ちで笑った。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【天野 一羽(aa3515)/男性/16歳/リア充】
【ルナ(aa3515hero001)/女性/26歳/未来への約束】
【ラレンティア(aa3515hero002)/女性/24歳/リア充】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、高庭ぺん銀です。
この度は、3度目のご来園ありがとうございました! ペンギン帽子は、まさかの展開にニヤニヤが止まらなかったようです。皆さんにハピネスな休日を過ごして頂けたならば幸いです。
作品内に不備などありましたら、どうぞリテイクをお申し付けください。
それでは、また皆様にお会いできる時を楽しみにしております。
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2017年07月03日

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