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『いつか出逢えるわたしの為に 』
ミィリアka2689

 ――きっかけは、ただの憧れだった。
 “侍”は、ミィリアにとって特別な言葉だ。
 誰もが童心に抱く幻想、ちょっとしたお伽噺。
 魔法の国の王子様や、食べきれないほどのお菓子の家とは少し違う、けれども大して違わない。
 もしも他の子の幻想と違う部分があったとすれば、それはいつまでも覚めない夢だったという事だろうか。

(そもそも……強さってなんだろう?)

 最初はただ、純粋に努力が楽しかった。
 鍛錬はとてもシンプルだ。やればやるだけ成長を実感できる。
 努力し続ければ、きっといつかは誰にも負けなくなる。
 力があれば、強さがあれば、誰かを助けることだって可能だ。
 強さとは――理不尽を覆す手段なのだと知った。

(絶対に負けたくない。だって、負けたらこれまでの努力が無意味になる。あんなに頑張ったのに、あんなに積み重ねたのに。あんなに……あんなに……)

 負ける悔しさは、大人になればなるほど増える。
 当たり前に感じていた成長が薄まり、“現実”が立ちはだかる。
 ――“絶対”なんて、ない。
 地面に膝を着いた時。口の中に込み上げる、血の匂いを味わった時……。
 積み重なっていく実感がある。“このままではいけない”と。
 考えつく事は全部やる。身体を動かしていないと“現実”に追いつかれそう。
 もっと速く地を蹴り踏み込めばいい? 目に留まらぬほどに振り抜けばいい?
 心臓がしきりに跳ねるのは疲れのせいじゃない。漠然とした不安が――“現実”が迫る恐怖――。

 逃げ出すようにどこにでも走る。
 世界はどんどん広がっていく。憧れた東方にも、リアルブルーの日本にも行けた。
 もうとっくに知ってるんだ。自分の憧れた“ヒーロー”は、そんなに良いものじゃないって。
 だってもう行けるんだ。どこにだって、ひとりだって。
 でもまだ納得できない。まだ終わってない。思い描いた自分に、辿り着けてない。

 だから……探して、探して、探し続けた。
 強くなる為なら、何とだって戦う。強大な歪虚と何度も戦う。
 勝てなくたっていい。挑むことに意味がある。今はまだ、それでもいつかはきっと……。
 過酷な環境にだって挑む。北方の凍土に荒れ狂う竜にも刃を突き立てた。
 それでもまだだ。どれだけ返り血を浴びても満足できない。
 自分の流した血と、自分が流させた沢山の血を、踏みしめながら走り続ける。
 どくんどくん、まだ心臓が鳴っている。急かすみたいに、立ち止まる事を責めるように。

(強くなりたい……もっと強く、強く……でも……強さって――なんだっけ?)

 エトファリカ連邦、通称東方。
 憤怒王九尾から解放された今も、その支配の影響は色濃く残り続けている。
 国土を点々と汚す歪虚の支配領域から、今宵も歪虚が人々を襲うのだ。
 ミィリアがその依頼を受けた事に特に理由はない。
 強いていうなら、敵の数が多かった事。強い妖怪が混ざっているらしい事。
 村人の命が掛かった有事だが、そうであるがゆえに十分な数のハンターを用意している時間がなかった事……。
 つまるところ、危険そうだったから。自分一人だけで戦えそうだったから、引き受けに過ぎなかった。
 ハンターは通常、複数名のチームを組んで任務に当たる。
 毎度それが同じ面子とは限らない。仲間が強すぎれば、あまりにも呆気なく戦いが終わってしまうこともある。
 だからこそ、この状況は都合が良かった。より自分を追い込まなければ、きっと強くはなれないから。
 背にした太刀から刃を引き抜き、覚醒の火を入れる。
 刃の構えに踊らされるように、光の花弁が舞い上がった。
 雄叫びと共に地を蹴り前へ。イメージするのは誰? 追いかける背中はどれ?
 妖怪の爪を弾きながら、滑るように刃は月光を弾く。
 袈裟に切り落とされる身体。その向こう側から、既に次の相手が迫っていた。
 取り囲まれ、次々に繰り出される攻撃。だがミィリアはその尽くをいなし、そして切り捨てていく。

 既に答えは出ている。ミィリアは――もう、十分に強い。

 そんじょそこらの雑魔程度は相手にもならない。
 わかっていた。理解している。もう、力押しでどうにかなるような境地は通り過ぎたと――。
 考え事をしていたら、巨躯の歪虚がぐらりと倒れるのを見た。
 刃を握る掌に残された僅かな重みと、刃に滴る血を横目に、ようやく自分が倒した事を思い出す。
 あとに残ったのは消えていく歪虚の塵と、ぽつんと村の真ん中に立ち尽くす自分だけ。

(ああ――月が、きれいだなあ)

 ただの歪虚に思い入れなんかない。別にこの村に特別な感情なんかない。
 なのに全てが呆気なく終わってしまった時、急に寂しくなって、やるせなくなった。
 まるで誰かに置いて行かれたみたい。いや、置いて行かれたのだろうか。
 思い描いていた理想は、ずうっと遠くに消えてしまった。
 目に見える、手の届く範囲に収まったはずの現実が、なぜだかどんどん遠くなる。
 大切な人に置き去りにされたみたいに。見知ったはずの懐かしい道で、迷子になったみたいに。
 寂しくて、悔しくて、認められない“今”が、歯がゆくて――。

「あの……おねえちゃん」

 ふいに声がして、夜の帳に虫の声が戻ってきた。
 ゆっくりと振り返ると、そこには十にも満たないような、幼い少女が立っていた。
 ミィリアの容姿は幼い。そんな彼女を見上げ、少女は辿々しく声をかける。

「村を守ってくれて、ありがとう」

 ミィリアの頬についた歪虚の返り血が乾いていくのは、別に特別な意味なんかない。
 歪虚が消滅すればその痕跡も塵に消える。だから、血に染まった服が元の色合いに戻っていくのは当たり前だ。
 幼い少女の瞳に映る自分を見た。
 血染めの自分。がむしゃらに力を追い求め、迷子になった、泣き出しそうな自分。
 その自分にこびり付いた影が、月明かりに癒やされるように消えていくのを見た。

「これ……お姉ちゃんにあげる」

 差し出された小さな野花を見つめる。
 何の変哲もない花だ。名前すらないかもしれない。
 でもそれは、故郷を襲う歪虚から自分たちを救ってくれた恩人への、ささやかな返礼だった。

(そもそも……強さってなんだろう? ……ううん。ミィリアは、どうして強くなりたいんだろう?)

 この世界には、自分よりも強い者たちが沢山いる。
 様々な想い、様々な物語、世界中で繰り広げられる冒険の中で、沢山の現実を知った。
 強い味方、強い敵。綺麗事なんか言わない。負けたくない。だって、負けず嫌いは性分だから。
 でもきっと、この道は間違いではなかった。
 正しい方法で、正しい想いで、歪むことなく前に進んできたと言えるだろう。
 だって――“誰かを助けられる”ことは、こんなにも嬉しいのだから。

「こちらこそ。守らせてくれて……ありがとうでござる」

 名前も知らない花を手に、名前も知らない少女に笑いかける。
 まだ何者でもない自分。でも、この世界に刻む足跡は間違いじゃない。
 焦る気持ちは消せはしない。だってそれは、正しい感情だから。
 前に進むために必要な――大事な自分の一部だから。
 いつか答え合わせをするその時まで――。

(諦めて……なるものか!)

 また当たり前に夜が明けて、新しい一日が始まる。
 踏み出す足は軽やかに、今日も迷い路に足跡を刻む。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2689/ミィリア/女性/12/闘狩人(エンフォーサー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はノベルを発注いただき、まことにありがとうございます。
おまかせということでこんな感じになりましたが、いかがでしたでしょうか。
ノベル商品を納品するのは初となりますので、OMC商品がどんな感じなのかよく分かっていないのですが……。
最初のお客様としてミィリアちゃんを書けた事を嬉しく、そして光栄に思います。
実はミィリアちゃんは結構「闇」もありそうなキャラだなと感じているのですが実際はどうなのでしょうか。
アサルトライダーズにいると出ないような気もしますが。
それでは、またご縁がありましたらよろしくお願いいたします。
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ファナティックブラッド
2017年07月03日

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