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『がおぅ堂の、いつもの日常 』
虎噛 千颯aa0123


「……はぁ……」
 がおぅ堂のゆるキャラマスコット、もとい雇われ店長の白虎丸(aa0123hero001)は大きな身体を小さく丸めて、それはそれは切なげに溜息を吐いた。
 駄菓子屋がおぅ堂のお得意様は学校帰りの子供達である。
 昔ながらのレトロな雰囲気を目当てに遠方から訪れる客もあったが、大抵は週末に集中している。
 つまり平日の午前中――まさに今は、開店休業の状態だった。
 しかし、溜息の理由はそこではない。
「千代坊はすっかり烏兎坊が気に入った様子でござるな」
 以前はよくお店やさんごっこで遊んでいた虎噛 千代(jb0742)は、あまり店に顔を出さなくなった。
 どこへ行くにも「がおーちゃん、がおーちゃん」とくっついて来た彼は今、新しく出来たお姉ちゃん、烏兎姫(aa0123hero002)の追っかけに夢中なのだ。
 いや、いいのだ。
 烏兎姫は千代なのだから、同一人物が同じ行動をするのは当然だ――そう、白虎丸は信じ切っていた。烏兎姫は千代であると。
 何を言ってるのかわからないかもしれないが、本人も多分あまりよくわかっていない気がする。
 けれど、ある日突然現れた烏兎姫が虎噛 千颯 (aa0123)をパパと呼び、千颯もそれを当然のように受け入れているのだから、烏兎姫はやはり千代なのだ。
 きっと千颯が息子を甘やかしすぎたために、ワガママゲージが一本では足りなくなったのだろう。
 増えたゲージが人の姿をとったもの、それが烏兎姫。
 よって二人は同一人物。
 年齢も性別も違うし、共通点と言えば「ワガママ」と「パパ大好き」くらいしか見当たらないが、それだけあれば充分だ。
 千代が楽しそうに「うーねーちゃん、うーねーちゃん」とくっついて歩き、何でもかんでも真似したがる姿は可愛らしく微笑ましい。
 いつものように「白虎ちゃん一等くじ」に誘っても「ちよ、それもうあきちゃった」と言われ、白虎ちゃんグッズよりも烏兎姫が持つファッションアイテムに興味津々なのも、きっと成長の証なのだろう。
 だから、いいのだ。
 寂しくなんかない、マスクの陰でそっと涙を拭いてたりもしてない。

 それよりも、問題は千颯だ。
 彼は頑張って作った白虎ちゃんグッズが見向きもされなくなったことにショックを受けて(と白虎丸は考えていた)、まるでゾンビのようにやつれ果ててしまったのだ。
 おまけに、いつもうわごとのように「ネットネット」と呟くようになってしまった。
(「ねっと、とは何でござるか……?」)
 熱湯のことだろうか。
 そう言えばゾンビは細菌や毒素の巣窟であり、噛まれたり引っかかれたりするとそこから感染して病気になると聞いたことがある。
 菌類は熱に弱い。
 消毒と言えば熱湯。
 そうか。
 白虎丸は大きなヤカンにいっぱいの湯を沸かし、それを目を血走らせてノートパソコンに齧り付いている千颯の頭上から――

 じょぼぼぼぼぼ……!!

「ぐぁっちぃぃぃぃぃっっっっ!!!」
 千颯は生き返った。
 元気に飛び跳ね、ノートパソコンを頭上高く掲げて喜びのダンスを踊っている。
 よかったよかった……え、違う?
「何するの白虎ちゃん!? 熱湯かけたらパソコン死んじゃうでしょ!?」
 そっちか。
「これがなかったら俺ちゃんのパパ生命が再起不能なんだからねっ!?」
 文字通り、頭から湯気を立てる千颯。
 本体へのダメージはないのだろうか……いや、それさえ気にならないほどに、そのぱそこんとやらのダメージが心配なのか。
「しかし千颯、先程から熱湯熱湯と呪文のように唱えていたでござる」
「熱湯じゃなくてネット!」
「ねっと……おぉ、あれでござるな!」
 はい、洗濯ネット。
 違う?
 じゃあ台所の水切りネット。
 これも違う?
「もう、いいから白虎ちゃんは店番しててよ! 俺ちゃんネットショップの管理で忙しいんだから!」
「ねっとしょっぷ……熱湯を売るでござるか? これはまた珍奇な商売を……」
 違うそうじゃない、って言うか熱湯から離れてくれないかな。
「白虎ちゃん、今うちの経済状態がどうなってるか知ってるよね?」
 もちろん知っている。
 ワガママ王子のワガママ度は右肩上がり、それに比例してパパの甘やかし度とバカ親度、それにエンジェル係数も右肩上がり。
 そこに追い討ちをかけたのが、ショッピングモンスター烏兎姫の存在である。
 ファッション大好き可愛いもの大好き新しいものも大好きな彼女は、最新情報のチェックを欠かさない。
 そして気に入ったものがあればどんな手段を使ってでも……具体的にはパパにおねだりして手に入れる。
 彼女の希望が叶えられなかったことは一度もなく、お財布ダメージは右肩上がりどころかうなぎ登り。
 しかし虎噛家の家業は駄菓子屋、基本的にお得意様である子供達の財布は小さく軽い。
 エージェントとして請け負う仕事の報酬を含めても、台所では火の車が燃え尽きる勢いでガンガン回っていた。
 そこで考えたのが、がおぅ堂のゆるキャラマスコット白虎ちゃんの有効活用である。
「って言うかさ、千代ちゃんが白虎ちゃんグッズあんまり喜んでくれなくなっちゃったから、押し入れにいっぱい余ってるんだよね」
 畳にののじを書く千颯。
 がおーちゃんは相変わらず大好きだけど、グッズはちょっと遠慮したいお年頃になってしまったようだ。
 幼児のブームは熱しやすく冷めやすい。
 昨日まで夢中になって見ていたアニメを、今日は「こんなの赤ちゃんが見るものでしょ」と冷たく突き放すのも、よくあること。
 それはそれで成長の証と受け止めれば喜ばしいことではあるものの、問題は調子に乗って作りまくったグッズをどうするか。
 出来が良いこともあって捨ててしまうのは勿体ないし、ぬいぐるみなどは供養しないと祟られる気がする。
 そこで思い付いたのが、この有効利用――つまり、一般への販売である。
「ふむ、それで熱湯販売でござるか」
 郵便料金が値上がりした昨今、送料を安く抑えるために圧縮して送るのだろう。
 それを元に戻すのに、きっと熱湯が必要なのだ――カップ麺のように。
「しかし、そんな手間をかけずとも店に置けば良いでござるよ」
「ちっちっち、白虎ちゃん、うちは駄菓子屋よ? 駄菓子の他に余計なものは置かないのがうちのポリシーなんだから」
 それに駄菓子屋の客層では、それなりに値が張るグッズがバカ売れするとは思えない――と、多分こっちが本音。
 そんなわけで、気前の良い大好きなパパであり続けるための最終兵器として実装されたネットショップ「がおぅ堂電脳支店」は、まずまず順調にネットの海へと漕ぎ出したのだった。
 以来、お客様の反応が気になって仕方ない千颯は暇さえあればパソコンに齧り付き、暇がなくてもスマホでチェックし、「ネットネット」と呟くネットゾンビと成り果てたのである。

 あっ、でも今までに千代ちゃんにあげたものは、そのまま大事にとっておくからね。
 子供のブームが忘れた頃に再燃するのもまた、よくあること。
 或いは成長してから懐かしく思い出し、捨てたことを激しく後悔するのもまた、よくあることだから。


「パパ、お買い物いこ!」
「いこー!」
 週末、パパの財布が試される時が来た。
「ねえねえ、これ! これ可愛いよね、ボクが着たらぜったい似合うと思うんだ!」
 定期購読しているティーンズ向けのファッション誌をちゃぶ台に広げ、烏兎姫が跳ねる。
 指さしているのはリボンやレースを使い、ふわっと裾の広がった超ミニワンピにショートパンツを合わせたコーデ。
「同じタイプでちょっと長めのワンピもあるんだけど……ねえパパ、どっちが良いと思う?」
 なお写真には参考価格が表示してあるが、ファッションはカジュアルでもお値段はあまりカジュアルとは言い難い。
 パパのお財布レベルを考えれば、これはどちらか片方――なるべく着回しがしやすい方に軍配を上げるべきなのだろう。
 しかし、このパパは底なしの親馬鹿だった。
「うん、烏兎ちゃんならどっちも似合うと思うな!」
「だよね! パパならそう言ってくれるって信じてたよ!」
「パパ、ちよは? ちよは?」
「もちろん千代ちゃんもどっちも似合うよ!」
「待て千颯」
 腕を引いて二人から引き離し、白虎丸は千颯の耳元で囁いた。
「千代坊は男子でござるぞ」
 そして同一人物である烏兎姫も男子――だと、白虎丸は認識している。
「男子にスカートは、いささか問題があるのでは……」
「なに言ってるの白虎ちゃん、男子にスカート良いじゃない! どこかの国じゃ男の民族衣装がスカートなんだぜ!」
 あれをスカートと呼ぶのも何処からか抗議の声が飛んで来そうだけれど、それはひとまず置いといて。
「つまんないこと言ってると、ここで必殺フルオープンパージ――」
 いや、それは困る。
「じゃあ白虎ちゃんだけ留守番」
 それも困る。
 せっかく店も休みなのだから、白虎丸だって一緒にお出かけしたい。
「白虎ちゃん、もっと視野を広く持とうぜ? 千代ちゃんは可愛い、ドレスを着た千代ちゃんはもっと可愛い。それで良いじゃない」
 いいのか。
「人はその人に似合う服を着るのが一番なんだよ。スカートだって似合えば良い、白虎ちゃんだって似合うと思うでしょ?」
「それは、確かに……で、ござる」
「だから、千代ちゃんのスカートは女装じゃない。似合う服を着てるだけなの」
 知り合いの他には千代の「女装」に気付く者はいない。
 烏兎姫と一緒に歩いていると、道行く人々に「まぁ可愛らしい姉妹ねえ」などと声をかけられるのはもう慣れた。
「それでも何か言うなら、いっそ千代ちゃんにもフルオープンパー……」
「男子にスカート、何の問題もないでござるな!」
 それで良し。
「じゃあボク着替えて来るね!」
 二人の間から烏兎姫がひょっこり顔を出す。
「千代くんもおいで、おめかししてあげるよ!」
「おめかし! する!」
 今日は何を着て行こうか――いや、それよりも何を着せようか。
 千代は近頃、烏兎姫の着せ替え人形と化していた。
(「だって何を着せても喜ぶし、何でも言う通りにしてくれるんだもん」)
 やはり同一人物だから考えることも好みも一緒なのだろうか。

 かくして、四人で楽しいショッピング。
 近所のモールにはティーンに人気のアパレルブランドが揃っているため、大抵の買い物はここだけで済んでしまう。
 烏兎姫の年頃なら、家族と出かけるよりも友達と原宿や渋谷のお洒落なカフェでお茶する方が良いという子も多いだろう。
 けれど烏兎姫にとっては、パパとのお出かけ以上に嬉しいことはないのだった。
 ねだれば何でも買ってもらえるし、千代は可愛いし、ゆるキャラマスコットは面白いし――
「うーねーちゃん、おててつなご?」
 くいくい、千代が烏兎姫の袖口を引っ張る。
「ん、いいよ?」
 差し出した手に、小さな手がきゅっと吸い付いてきた。
「パパとがおーちゃんも!」
 もう片方の手が千颯と白虎丸に差し出されるけれど。
「千代坊、人の手は二本しかないでござるよ」
 ここはパパに譲るのが筋と、白虎丸はそっと後ろに下がる。
 しかし王子様は頑として言い張った。
「や! パパとがおーちゃんも!」
 困ったねぇ。
「では、こうするでござるか」
 白虎丸は千代をひょいっと肩車。
「俺は千代坊の足と手を繋ごう、でござる」
 しかも両手両足だよ、ダブルだよ、すごいね!
「落ちないように足首を掴んでるだけ、とも言うけどね」
「しっ、烏兎ちゃん。それは言わないお約束」
 白虎丸にしっかりと支えられ、千代は左右に手を伸ばす。
「ちょっと高いよ、腕が疲れるー」
 文句を言いながらもしっかりと繋いで離さずにいてくれる烏兎姫と、何があっても離さない覚悟の千颯パパ。
 無事に三人一緒に手を繋ぎ、ご機嫌な王子様は頭の上で指示を出す。
「がおーちゃん、ぜんそくぜんしーん!」
 目指すはJCに人気のブランドショップ。
 そこで雑誌に載っていたのと同じものを――
「んー、でもそっくり同じっていうのもつまんないかな、ね、パパ?」
「うん、そうだね。ほら烏兎ちゃん、これなかどう? あ、こっちも可愛いんだぜ!」
 目移りしちゃって決められない×2。
 だが色々と迷うのもショッピングの楽しいところ。
 試着室で二時間ほど粘った挙げ句に「ちよ、これがいい!」という鶴の一声であっさり決まり、次はテイストの似た服を探しに子供服売り場へ――もちろん女児の。
 ティーンズ向けのブランドアイテムとそっくり同じものを見付けることはまず無理だが、テイストさえ似ていれば、細部の違いは白虎ちゃんグッズで培ったパパの裁縫スキルでカバーが可能だった。
 そのうち自分でデザインから起こしたり、完全オーダーメイドで何でも作っちゃうかもしれない、このパパ。
 あ、子供服販売に手を広げてみるのも良いかも?

 パパのお財布が瀕死のダメージを負ったところで、今回のお買い物は終了――いや、まだ終わらない。
「ねえパパ、じゃあちょっと見るだけなら良い? 次に来た時に迷わないで決められるように!」
「そうだね、烏兎ちゃんは何が欲しいのかな?」
 でも知ってるけどね、やっぱり迷うって。
「そろそろプールの季節でしょ? だから水着! 可愛いの!」
「ちよも! ちよもみずぎー! かぁいいのー!」
 え、待って。
 ちょっと待って、まさか水着も?
「うーねーちゃんと、おそろいのー!」
 ああ、やっぱり。
 それはさすがに、どうなんだろう。

 しかし、試着室でビキニやワンピ型の水着を着た千代は当然のように似合っていた。
 そしてもちろん、超絶カワイイ。

 似合う服が一番の法則は、ここでも適用……して良いのだろうか。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0123/虎噛 千颯/男性/外見年齢24歳/熱湯よりも熱い親馬鹿ぱぅわー】
【aa0123hero001/白虎丸/男性/外見年齢45歳/ちょっぴり寂しい天然キング】
【aa0123hero002/烏兎姫/女性/外見年齢15歳/パパの財布にダイレクトアタック】
【jb0742/彪姫 千代/男性/外見年齢4歳/ドレスの似合うワガママ王子(虎噛千代)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
ご依頼ありがとうございました。

口調等の齟齬やイメージの違いなどありましたら、ご遠慮なくリテイクをお願いします。
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2017年07月04日

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