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『廃屋の一夜 』
海原・みなも1252

 海原みなもは、改めて洋館のエントランスを見回して溜息をついた。
 床には埃が厚く積もり、天井からはレースのカーテンのように蜘蛛の巣が垂れ下がっている。
 草間武彦と共に行った仕事の帰り道、土砂降りの雨と雷鳴が響く中で道に迷ってたどり着いたのが、ここだった。
「ガソリンも残り少ないし、車の中で過ごすよりは、マシだろう。……今夜はここで泊まるか」
「そうですね」
 草間の言葉にうなずいて、みなもは小さく体を震わせる。
 車を降りて洋館の中に入るまでの間に、ずぶ濡れになってしまったのだ。むろん、着替えなど持っているはずもない。
(何か、濡れた服のかわりになるものがあればいいのですが……。それに、暖房なども……)
 胸に呟く彼女の隣で、草間が派手なくしゃみをした。
「着替えは無理でも、せめて毛布とかないか、探してみるか」
「はい」
 小さく鼻をすすって言う草間に、みなももうなずいた。
 二人はそのまま、エントランスの奥へと入って行く。
 一階は居間や食堂などが並んでおり、暖炉もあったが燃料がなく、暖を取る役に立たなかった。
 なのであきらめて、二人は二階へと向かった。
「これ……」
 その一室で、みなもは壁に掛けられているドレスを見つけた。
 この洋館に似合いの、少しばかり古めかしいデザインのもので、カバーが掛けられていたおかげで埃もついていない。
「濡れた服でいるより、マシじゃないか? 着替えろよ」
 草間が言って、部屋を出て行く。
 それを見送り、みなもは濡れた服からドレスに着替えた。
 ドレスは、まるであつらえたかのようにぴったりで、彼女は小さく眉をひそめる。
(これは、偶然なんでしょうか……?)
 とはいえ、乾いた服に着替えられたのは、ありがたかった。
 脱いだ服は、ドレスに掛けられていたカバーに、埃を払ったあとに入れて腕に抱える。
 部屋を出ると、外で待っていた草間と共に、今度は暖房を探して廊下を歩き出した。
 やがて、廊下の奥のラウンジらしい部屋で、二人は造り付けの暖炉を見つけた。しかも今度は、暖炉の中にほとんど使われていない薪が残っている。
「やれやれ。これで、少しは温まれそうだ」
「はい」
 草間の言葉に、みなもも安堵してうなずいた。
 草間がライターで薪に火をつける。
 ほどなく、あたりは温かくなった。
 草間が、水と食料を探すと言って、部屋を出て行く。
 それを見送り、みなもは改めて暖を取ろうと暖炉の前に座を占めるのだった。

 しばらくして、草間が戻って来た。
 手には、戦利品の入った袋を抱えている。
 中から出て来たのは、缶詰とペットボトルのミネラルウォーター、スプーンとフォーク、それにコップだった。
 缶詰とミネラルウォーターは、厨房の貯蔵庫にあったという。
「おそらく、災害用の備蓄食料だろう」
 と草間は言った。
 食器は、厨房にあったものを持って来たらしい。
 それらを見せたあと、草間はにんまりと笑ってポケットから四角い箱を取り出した。
「タバコ……ですか?」
「ああ。……なんと、居間の棚の引き出しにあったんだ。封も切ってない、新品だぜ」
 目を丸くするみなもに、彼はうれしそうにうなずいて言う。
 ともかくこれで、腹は満たされる。
 二人はさっそく、食事を始めた。
 食べ終わり、草間はタバコに火をつけ、美味そうに吸い始める。
「タバコ、みつかってよかったですね」
 小さく苦笑して、みなもが声をかけた。
「ああ」
 うなずいてから、草間は思い出したように言う。
「そうだ。ガソリンも見つけたぞ。厨房の隅にあったんだ」
「そう……ですか」
 うなずきつつも、みなもの胸にふと、不安が兆した。
 なんだか、全てがそろいすぎる気がするのだ。
 缶詰とミネラルウォーターは、たしかに草間が言うとおり、災害用の備蓄食料かもしれない。
 だが、まるで草間の要望に応えるかのように、一箱だけ新品のタバコがあるというのは、どうなのだろう。
 そして今度はガソリンまで。
(そう……。あたしが着ているこのドレスも……。まるであたしの望みに応えたかのような……)
 胸に呟き、彼女は足元からぞわりと何かが這い上がって来るような、気味の悪さを覚える。
「草間さん、なんだか、これっておかしくないですか? だって、あたしたちに必要なものが、そろいすぎです」
「それは……」
 思わず言う彼女に、草間も顔をくもらせた。
 手の中のタバコの箱をしばし睨みつけたあと、みなもをふり返る。
「たしかに不自然だが……じゃあ、何が起こっているって言うんだ?」
「それはわかりません……。何かの怪奇現象かもしれないし、実は誰か人がいて、あたしたちが必要だと思ったものをそろえてくれているのかもしれないです」
 問われてみなもはかぶりをふって、ただ思いつくままを口にした。
「でも――」
 彼女が続けて何か言おうとした時だ。
「シッ!」
 草間が鋭く制した。
 みなもは慌てて言葉を飲み込み、息をひそめる。
 と、階下から物音が聞こえて来た。
 足音と、ひそやかな話し声のようなものが。
「俺たち以外に、誰かいるようだな」
 みなもが、思わずそちらを見やると、草間が低く答える。
 だが、二人が息をひそめて気配を伺ううち、物音は聞こえなくなった。
「下を見て来よう」
「あたしも行きます」
 立ち上がる草間に、一人で残されることを恐怖し、みなもも即座に言う。
 二人はそろって階下に降りた。
 一階を一回りしてみたものの、何も変わったところはない。
 床には彼ら以外の足跡はなく、むろん、人の姿もなかった。
(もしかして、怪奇現象の方でしょうか……)
 みなもはふと、思った。
 草間は何も言わないが、似たようなことを考えているのかもしれない。
 再びエントランスに戻って来て、言った。
「……とりあえず、さっきの部屋に戻って、寝るか。俺たち、少しばかり疲れてるのかもしれないしな」
「そう……ですね」
 人間がいるわけではないなら、物理的な危険はなさそうだと考え、みなももうなずく。
 そして二人は、そのまま二階の元の部屋に戻ると、それぞれ床とソファの埃を払い、そこに横になったのだった。

 翌朝。
 外は昨日の土砂降りが嘘のように、晴れ渡っていた。
 車にはすでに洋館で見つけたガソリンが入れられ、あとは出発するばかりだ。
 みなもは、ドレスから乾いた自分の服に着替えて、玄関から外に出る。
 そして彼女は、つと洋館をふり返った。
 改めて明るい朝の光の中で見ると、洋館は古びてはいるが、なかなか立派だった。
「こんなお屋敷に住んでみたいですね」
 彼女はふと思いついたことを、口にする。
 途端。扉の奥からするすると伸びて来た蔓草が、彼女の体に巻き付いた。
「!」
 ほとんど悲鳴を上げる暇さえないまま、彼女は洋館の奥へと引きずり込まれて行く。
 草間も一緒だ。
 やがて洋館の扉は、二人を飲み込み、何事もなかったかのように静かに閉ざされた。

×××

 軽くゆすぶられて、みなもは目覚めた。
 いつの間にか、眠ってしまっていたらしい。
 車は止まっていた。
 外は相変わらずの土砂降りで、雷も鳴り続けている。
「草間さん……?」
 軽く目をこすりながら、運転席の草間を見やれば、彼は雨の向こうを指さした。
 そこには、うっそうとした洋館の姿が、車のライトに浮かび上がっている。
「今夜はあそこで雨宿りするしかなさそうだ」
「そう……ですね」
 草間の言葉に、みなももうなずく。
 雨が更に激しさを増す中、草間は洋館の玄関に向けて車を進めて行った――。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【1252/海原みなも/女性/13歳/女学生】
【A001/草間武彦/男性/30歳/草間興信所所長】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちわ、ライターの織人文です。
このたびは、ありがとうございました。
はたして、ご要望どおりのものになっているかどうか、いささか自信がありませんが――
少しでも楽しんでいただければ、幸いです。

またの機会があれば、よろしくお願いします。
東京怪談ウェブゲーム(シングル) -
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東京怪談
2017年07月10日

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