▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『おそろし、おぞまし、ほんとのはなし 』
月乃宮 恋音jb1221

(やっと、見つけましたぁ……)

 月乃宮 恋音(jb1221)は一つの報告書に視線を落としていた。
 ファイル名、「おそろし、おぞまし」。それは学園の都市伝説の一つ。学園撃退士へ出撃要請をしたものの、その途中で消えてしまった謎の任務。誰も顛末を知らぬ任務……。
 こうして発見できたのは奇跡だった。まさか記録が残っていたとは。報告書は三本仕立てだった。内、最初の一本は既に恋音も知っている内容だが。

(さて、一体何が、記されているのですかねぇ……?)

 求めるは真相。恋音はゆっくりと、忘れ去られた報告書を開く――。



●File2.こわごわと

 立ち入り禁止の錆びた黄色い看板を越えて、前回散策した所より更に深い所へと辿り着いた。一帯は暗さと陰湿さを更に増し、不気味に静まり返っている。何かに見られている気配がする。地面にはハラワタを貪られた動物の死骸が散らばっていた。大分と時間が経っている。あまりじっと見ていたくない。

「あーそーぼー」

 ふと。声が聞こえる。木々の奥を人影が横切った。それを追う。

「あーそーぼーあーそーぼー」

 声は止まない。辿り着いたのは藪の前だった。そこから真っ白い手が突き出して、こっちを手招きしている。

「あーそーぼーあーそーぼーあーそーぼーあーそーぼーあーそーぼーあーそーぼーあーそーぼーあーそーぼーあーそーぼーあーそーぼーあーそーぼーあーそーぼーあーそーぼーうけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」

 奇声。手招きする手はくねくねと関節などないかのように上下して、気の違えたような笑い声が響き渡る。だが直後に手も声も消え、嘘のような静寂。足元に血痕の付いた紙がくしゃくしゃに丸められて落ちていた。いつのまに。確認してみる。

「貴方は呪われました」

 呪いの手紙か。馬鹿らしい。けれど手がかりかもしれない。所持しておく。
 歩を進めた。……血のような赤黒い文字地面に見つけたのは間もなくだ。先程ここを通った時にはこんなものはなかったのに。

「貴方は呪われました」
「貴方は死にます」
「貴方は地獄に落ちます」

 まさか、先程手に入れた『呪いの手紙』のせいだろうか? 懐からそれを取り出して見ると、

「死ね」

 先程と書かれている内容が変わっている。気が付けば周囲に禍々しいまでの殺気が漂っていた。ディアボロの群れだ!


 ――なんとかディアボロを撃退する。地面の文字はいつのまにか消えていた。なのに例の『呪いの手紙』は「死ね」という文字で埋め尽くされていた。これを持っていると嫌な殺気を感じる……薄気味悪くなって、それを捨てた。視界の端で何かがくねくねと踊っている。顔を上げてもそこには何もなかった。いやちがう。何かのメモがある。

「ミないホうがイイ しらナいほウガいイ アソボウと よぶ 声ガ」

 震えた文字だ。遠くの方で、人影のようななモノが藪の中で何かを探している光景が見える。が、すぐに消えてしまった。ハッキリと聞こえた舌打ちを残して。

 ディアボロとの遭遇率が跳ね上がる。消耗が激しい。
 藪の向こう、何かがくねくねと蠢いている

「うけけ ――そーーぼーー けけけけけあーそーぼーあーそーぼーーーけけけけけけけけけけ」

 気味の悪い声、あのメモに記されていた声か? そう思った瞬間、『それ』と目が合ってしまった。禍々しい気配を増幅させながら『それ』が高速で這い寄って来る。ディアボロだ!


 何とか勝利を収める。だが先ほどまでのディアボロよりも数段強く、厄介だった。兎角、消耗が激しい。一度帰還しよう。まだ何か不気味な気配がするが、ひとまずの任務は達成した。元来た道を辿る。立ち入り禁止の看板が見え、

「こっちへおいで」

 そんな声が聞こえた。振り返っても何もない、何も聞こえない、静寂。得も言われぬ不安感。一度、恐谷を後にする。



●File3.おそろしだに

 恐谷の最深部に、そこを支配する強力な冥魔が潜んでいるという。これを撃破すれば、一体に平穏が戻るはずだ。最深部を目指して歩き始める。やがて見えてきたのは様々な動物の惨殺死体がぶち撒けられている光景だ。まるで数多の手に引き千切られたような。気味が悪い。だけでなく、かつて並んでいたのだろう地蔵像達もまた無残に破壊されていた。もげた地蔵の首が、じっとこちらを見上げている。見られている。視線を感じた。振り返る。藪の隙間から誰かがこっちを見ている。が、幻覚のように消えてしまった。なのに見られているという感覚だけが消え去らない。名前を呼ばれた。己の名前だ。すぐ背後で。振り返ると、そこにはディアボロの群が。


 ディアボロとの遭遇率が高い。
「こっちへおいで」――声が聞こえたのは間もなく。前回の任務で聞いた声だ。声の方へ進む。オカルトサイトのページをプリントアウトした紙が落ちていた。

 恐谷の言い伝え
 谷に死体を捨てて戻る時、決して振り返ってはならない。
 死体と一緒に「連れて行かれて」しまうから。

 気付くと先ほどの場所――動物の死骸が散乱していた場所に着いた。だがおかしい。動物の死体が消えて、代わりに「おいでおいでおいでおいでおいでおいでおいでおいで」と血の文字が地面に書かれている。
「こっちへおいで」
 また声だ。先程より形容し難い雰囲気が増している。辺りもいっそう暗い。ディアボロの攻勢が激しい。
「こっちへおいで」
 今度は耳元で。周囲は死んだように静まり返り、自分の息遣いしか聞こえない。

 かくして最奥に辿り着く。暗い暗い谷だった。ポッカリと開いた口のよう。底なしの奈落のよう。吹き上げる嫌に冷たい風。ここで死体を廃棄し、葬ったのだろう。静寂。周囲に何もいない。踵を返す。

『決して振り返ってはならない』
『死体と一緒に“連れて行かれて”しまうから……』

 脳を過ぎる先程の文字。足を止める。意を決し振り返る。谷から不気味な腕が何本も溢れ、我々に掴みかからんとしていた! これがこの谷の主、元凶たるディアボロか。

「おいで……おいで……こっちへおいで……」

 死体の様に白い腕達が手招く。迫る。戦闘開始。



 ――悪魔の断末魔が暗い谷をつんざく。塵となって消えてゆく。そして谷に訪れたのは静寂。だがその静寂は先程までの不気味なものではなく、静かな平穏を孕んでいた。これでもう血腥い事件は起きないだろう。武器を下ろし、天を仰げば、優しい木漏れ日が視界に映った。







(これで終わりですかねぇ……?)

 報告書の最後の文字を読み終わり、恋音はホッと息を吐いた。なんにしても、解決したのなら良かった。大方、噂話や伝承に沿って、悪魔がディアボロを設置したか。そういった「伝承に沿った天魔事件」はこれまでも報告されている。とまあ、その仮定を述べるならば、ディアボロを設置した元凶たる悪魔がどこぞにいるのだろうが……人天冥の同盟が成った今、血眼で犯人探しをしなければならない緊急事態でもないか。尤も、それは恋音の推測であって、真実かどうか確かめる手段はないけれど。

「ふう」

 恋音は首を解すように顔を上げた。そんな時である。ひらり、報告書からなにか、メモが落ちた。なんだろう? 拾い上げてみる。文字が書かれていた。



『あなたはのろわれました』



 それはオカルトかイタズラか。
 信じるか信じないかは、貴方次第。



『了』




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
月乃宮 恋音(jb1221)/女/18歳/ディバインナイト
シングルノベル この商品を注文する
ガンマ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年07月10日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.