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『アパートの隣人が、何かに憑りつかれているかもしれない件 』
工藤・勇太1122

 学校の帰り道。
 高校生の工藤勇太は、母校の近くのコンビニで顔見知りの老人に声をかけられた。
「ちょうどいいところで会った。実は、勇太くんに頼みたいことがあったんだよ」
 言って、彼はコンビニのイートインコーナーの一画に腰を下ろすと話し始めた。
 なんでも、アパート住まいの彼の隣の部屋に最近、二十歳前後の青年が越して来たのだという。
 青年は一人暮らしで、越して来て一月近くになるが、友人などが訪ねて来ることもないらしい。
 ところが最近、毎晩のように大勢の話し声や笑い声が聞こえて来るのだという。
 ただ、奇妙なことに、誰かが訪ねて来ている様子はないというのだ。
「それって、テレビの音とかじゃないんですか?」
 勇太が問うと、老人はかぶりをふった。
「いやいや、そうではない。明らかに、彼と会話しているふうなんだよ。それも、一人や二人ではない。時には、十人以上いるのではないかと思う時もある」
 答えて老人は続ける。
「あんまり毎日続くのでな。苦情を言ってやろうと、自室の玄関で様子を伺ったことがあったんだがな――」
 結局、誰も隣人を訪ねては来ないまま、また話し声や笑い声が始まって、彼は気味が悪くなったのだという。
「翌朝、顔を合わせたら随分と疲れた顔をしていてな。……それで思ったんだよ。彼は幽霊に憑りつかれているんじゃないか、とね」
「幽霊……ですか」
 勇太は、慎重に問い返した。
「ほれ、『牡丹灯籠』とかあるだろう? そんな感じなんじゃないかと思ってね」
 老人はうなずいて言うと、ひたと勇太を見やる。
「それでぜひ、真相を勇太くんに調べてもらいたいんだ」
「わかりました」
 勇太は、大きくうなずいた。
 彼は、もともと困っている人を放っておけないところがある上、老人には以前、このコンビニでひったくりを捕まえた時に協力してもらった恩がある。
「俺に、任せて下さい」
 言って、彼は自分の胸を力強く叩いたのだった。

 翌日の夜。
 勇太は、アパートの二階にある老人の部屋にいた。
 時刻は九時を回っている。
 と、たしかに隣室から賑やかな笑い声や話し声が聞こえて来始めた。
 ただ、老人が言っていたとおり、誰かが訪ねて来た様子はない。
(う〜ん、これは、できれば中の様子を見た方がいいかも……)
 しばらく隣室の物音に耳を澄ませたあと、勇太は考える。
 アパートは廊下側に玄関ドアが並び、裏手に面した側に窓と小さなベランダがある作りだ。
 勇太は老人に断って、窓を開けてそこから顔を出した。
 見れば、隣室の窓も開いている。
(超能力を使えば、あの窓から中の様子を見られるかも)
 勇太は胸にうなずくと、老人には隣室の様子を見て来ると告げて部屋を出た。
 アパートの裏手に回る。そこはちょうどアパートの駐輪場になっていて、街灯がついているおかげで、あたりは明るい。
 彼は、サイコキネシスを使って自分の体を持ち上げた。
 ふわりと体が浮き上がり、ゆっくりと青年の部屋の窓辺へと近づく。
 そのまま、中を覗き込もうとした時だ。
「お兄ちゃん、すごい! お空が飛べるの?」
 下から、頓狂な声が聞こえて彼はギョッとして動きを止める。
 小学生ぐらいの男の子が一人、びっくりまなこで彼の方に手をふっているのが見えた。
「どうしたの? そんな大声出して」
 アパートの一階の部屋から男の子に呼びかける声がした。おそらく、子供の母親だろう。
(ま、まずい……!)
 勇太は大慌てで左右を見回し、隠れる所を探した。
 下には降りられないし、周囲には飛び込めるような物陰もない。
 結局、上しかないと判断して、彼は更に体を上へと移動させてアパートの屋上へと上がり、手すりの影に身を潜めた。
「何かあったの?」
「ママ、すごいんだよ。今ね、知らないお兄ちゃんが、空を飛んでたの。屋上の方へ、すいって浮かんで消えたんだよ!」
 下からは、さっきの男の子と母親の会話が聞こえる。
「人が空を飛ぶなんて、あるはずないでしょ」
「その子の言ってることは、本当よ。私も見たもの。今、たしかに、人が空を飛んでたわ!」
 まったく信じていない母親の言葉に、新たな人物が加わる声が聞こえた。
 勇太はそっと、屋上から下を覗き見る。
 いつの間にか、人数が増えていた。男の子とその母親に、女子高生らしい少女、それに犬を連れた年配の男性もいる。
「わしも、たしかに見たぞ」
 年配の男性の声が聞こえた。
 と、何か輝くものがこちらに向けられて、勇太は慌てて身を伏せる。
 少女が、スマホのライトでこちらを照らしているのが見えた。
「うわ〜、まずいぞ。なんか騒ぎになって来た……」
 呟く傍から、少女が屋上を調べようと言っている声が聞こえる。
 どうやら、ここにとどまっているのも危険なようだと判断して、勇太はなんとか老人の部屋に戻ろうと考えた。
(……けど、ここからフツーに階段使って下へ降りるのも、あの人たちと鉢合わせしそうだし……。テレポートするか)
 小さくうなずいて、彼は老人の部屋を頭に思い浮かべてテレポートした。
 ……はずだった。
 が。焦っていたせいだろうか。
「きゃあっ〜! 痴漢!」
 突然上がった悲鳴に目をまたたけば、そこはアパートのどこかの部屋の脱衣場で、女性が一人、下着姿で立っている。
「え? あ……! わ〜っ! ご、ごめんなさい!」
 イマイチ状況がよくわからないままに謝って、とにかく彼は再びテレポートする。
 だが、次に到着したのはアパートの階段の途中で、ちょうど上がって来たあの男の子たちと出くわすはめになった。
「さっきのお兄ちゃんだ!」
「そうよ、この人だわ!」
 男の子と少女の声に、「げっ!」と体をのけぞらせつつ、勇太はみたびテレポートする。
(お、落ち着け、俺。……いつもなら、テレポートに失敗するとか、あり得ないだろ!)
 自分に言い聞かせ深呼吸などして挑むも、今夜はどういうわけか、なかなか調子が戻らない。
 更に何度か別の場所に現れたあげく……ようやく彼は老人の部屋の前へと到着した。
 深い安堵の息をついて、彼は思わずその場に座り込む。
 と、隣室のドアが開いて、住人の青年が出て来た。
「なんか、ずいぶんうるさいんだけど、何かあったの?」
 問うて来るその手に、ヘッドセットが握られていることに、勇太は気づいて目を見張る。
(もしかしたら……)
 閃くものがあって、彼は問いには答えず尋ねた。
「あの……もしかして、パソコンで音声通話やってます?」
「え? ああ。地方にいる友人たちと、毎晩話してるけど、それがどうかした?」
 怪訝そうな顔でうなずく青年に、やっぱりと勇太は内心にうなずく。そして言った。
「そのヘッドセットが壊れているのか、それともジャックがちゃんとはまってないのかはわからないけど、声が外に漏れてるみたいですよ? 周辺の人が、あんたの部屋からは、訪問者もないようなのに、毎晩大勢の話し声や笑い声が聞こえるって、気味悪がっているみたいです」
「え? そうなんだ。……そいつは、気をつけるよ」
 青年は、驚いたように目を見張って言うと、頭を掻きながら部屋の中へと戻って行く。
 それを見送って、勇太は「これで一件落着かな」と小さく吐息をついた。

 数日後。
 勇太は例のコンビニで会った老人から、隣室の声が止んだことを教えられた。
「――いったい、何をどうやったんだい?」
「何も、特別なことは……。ただ、近隣住民が迷惑しているみたいだよって、話しただけです」
 問われて答え、勇太は一人笑みを漏らしたのだった――。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【1122/工藤勇太/男性/17歳/超能力高校生】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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注文いただき、ありがとうございます。
ライターの織人文です。

こんな形にしてみましたが、いかがだったでしょうか。
少しでも楽しんでいただければ、幸いです。

それでは、またの機会がありましたら、よろしくお願いします。
東京怪談ノベル(シングル) -
織人文 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年07月11日

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