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『蒼のみらい 』
メリーjb3287)&マキナja7016

《――対立スル権限者ノ存在ヲ確認。
   実行:優位設定ノ為、確認プロセス、実行 》


 キミは。
 キミたちは。

 この果てに、どんな世界を、望む?


 ※※


 神界最上層。
 ベリンガムとの決着がついたのもつかの間、”予期せぬエラー”によってもたらされた”始まり”に、撃退士達は最後の選択を迫られていた。
「――どんな世界を、か」
 見慣れない空を見上げ、マキナは小さく呟いた。
 生徒会長・神楽坂 茜から聞いた話によれば、『多奏祭器・御統ノ煌星旗槍』と『神界』をリンクさせることにより、自分たちは”新たな神界の権限者”になれるのだという。
 彼女は言った。
 これからの世界をどうするのか、ひとりひとりが選ばなければならない。数多の意思こそが、未来を創る楽園なのだから――と。
「難しいことはよくわからないが……。戦いが終わったんなら、後は世界を取り戻すだけだよな」
 マキナの考えは単純明快だ。
 自身が神となるつもりもなく、世界を滅ぼす脅威が無くなったのなら、元いた場所に帰るだけ。それ以上でもそれ以下でもないからこそ、選択に迷いもなかった。
「俺は<取戻ス>を選ぶけど、メリーはどうする?」
 早々に結論づけたところで、傍らに立つ妹に問いかけてみる。しかし視線先にいる彼女は、思い詰めた様子で黙り込んでいた。
「……メリーどうした?」
 いつもの調子で返事が来ると思っていただけに、マキナは少々面食らっていた。妹は優しいし『天使も悪魔も関係無く、誰もが笑える世界』を創りたい、などと答えるんじゃないか。その程度で考えていたのに。
(あの顔を見る限り、とてもそんなことを考えているように思えないな……)
 その意味するところがわからず、困惑をおぼえてしまう。
 どう対応していいものやら迷っていると、やがてひとり言のような呟きが耳に届いた。

「メリーは……【あの人が生きている世界】を創りたい」

「……は?」
 何を言ったのかが一瞬わからず、マキナはつい聞き返す。
「あの人って……まさか」
 脳裏に浮かぶのは、群青の外套を纏った大天使の姿。
 高知での死闘の末にその生き様を見届け、心を継ぎ、喪失の悲しみを乗り越えてきた相手だ。
「お前自分が何を言っているのか、わかってるのか?」
 妹が死者蘇生を望んでいると知り、マキナは愕然と問いただす。気色ばむ兄を、メリーはすがるように見上げた。
「わかってるよ。でも……でも本当はずっと、望んでたの。あの人が生きていたら……今でもメリーを導いてくれたらって」
 胸の奥に秘めていた、”諦めきれなかった世界”。
 <創れる>可能性を知ってしまったいま、閉じこめていた想いは一気に溢れ、彼女の心を埋め尽くしていた。
「ずっと諦めてた世界が叶うなら……メリーは<今>を捨てて、別の<未来>を創りたいって思うの」
「待てよ、あの人は自分の意志で逝ったんだ。それなのに蘇らせるなんて、死者への冒涜以外なにものでもないだろ」
「っ……お兄ちゃんにはわからないよ!」
 いつになく声を荒げたメリーは、涙を浮かべ唇を噛みしめた。
「メリーがどれだけあの人に会いたかったかなんて……っ。あの人が生きていれば、世界はもっとよくなるの。それにあの人だって、蘇ればきっと喜んで――」

「いい加減にしろ!」

 ぱん、という音が辺りに響いた。
 叩かれたのだと気づいたメリーは、放心したように兄を見上げる。
「お兄…ちゃん……?」
 頬に広がる痛み。
 生まれて初めて、大好きな兄に叩かれた。そのショックで言葉が出ないメリーに、マキナは強い口調で言いつのる。
「いいかメリー。あの人に会いたいお前の気持ちは否定しない。だがそれでいいのか?」
 彼女を見つめる瞳には、怒りとやるせなさが混在している。妹の気持ちがわかるからこそ、傷つけなければいけない苦しさが、ありありと浮かんでいて。

 ――会いたい。
 
 長く押しとどめていた想いは、純粋だからこそ強く切ないものだ。
 叶うかもしれない中でその望みを容易に断てるほど、ひとの心は簡単につくられてはいない。
 なにより、彼女はまだ高校生。どんなに成長したとしたと言っても、自分の感情に飲み込まれてしまうほどには、普通の女の子なのだ。

「お前はあの人に、一体何を託されたんだ。選んだその答えを、胸を張ってあの人に言えるのか」

 マキナの真摯な問いかけに、メリーの顔がみるみるうちに強ばっていく。彼女の大きな瞳が、多くの感情で揺れ動いていく。

 ――会えるかもしれない

 もう一度、言葉をかわしたい。
 これまでの頑張りを伝えたら、喜んでもらえるだろうか。
 よく頑張ったと、褒めてもらえるだろうか。

 ――叶うかもしれない

 あの人が笑う日常。
 あの人が導く世界。
 あの人と一緒に歩む――新しいみらい。

 会いたい。
 叶えたい。
 でも。
 でも――


 本 当 に そ れ で い い の ?


「…………言えない」
 絞り出すような声が、口元から漏れた。
 希望。葛藤。
 メリーはぎゅっと目を閉じると、自らの想いを断ち切るようにかぶりを振る。

 託された未来。
 託された想い。
 あの時自分は、何を受け取ったのだったか。

 瞳を開いた彼女は、恐る恐る兄を見上げた。
 何か口にしようとして、一瞬ためらう。マキナは妹が心の整理をつけるまで、何も言わず待ち続ける。
「……お兄ちゃんごめん。メリーが……間違ってた」
 消え入るようにそう言ってから、一度深呼吸し。今度はまっすぐ兄に向き合うと、躊躇無く言い切った。

「メリーが望んだ世界は、あの人の願いなんかじゃない」

 やっと、思い出した。
 過去を背負い、今を見据え、未来を託して逝ったあの人が、本当に望んでいたこと。
 自分が創ろうとしていた世界は、あの時受け取った志だけでなく、彼のすべてを否定してしまうのだと。
「気づいたみたいだな」
 ほっとした様子のマキナに、メリーはようやく笑みを見せる。
「お兄ちゃんのおかげだよ。メリー取り返しのつかない選択をするところだった……本当にありがとう」
 自分の過ちを気づかせてくれた兄に、改めて深い信頼を感じる。憑きものが取れたその表情に、マキナは満足げに笑ってみせ。
「兄として当然のことをしたまでだ。悔いの無い選択をしろよ」
「うん。メリーもう迷わない」

 ――新しい時代を創るのは、お前たちだ

 最期に告げられた言葉を、メリーは確かめるように呟いてみる。
 あの人がいないのは、悲しい。
 もう一度会いたい気持ちが、消えたわけじゃない。
 それでも自分はあの人がいないこの世界で、『あの人が望んだ世界』を創っていきたいから。

「メリーは、<取戻ス>を選ぶよ」

 決意に満ちた瞳へ、マキナは頷きを返した。
 取り戻した笑顔は、彼女がまたひとつ強くなったことを示していて。
「じゃあ行くとするか」
「うん、お兄ちゃん大好き!」
 手を取り合ったふたりは、仲間が集う場所へ向かっていく。
 一歩、また一歩、歩を進めるたびに、新たな風を感じる。蒼く染まった大地は、まるであの人が導いてくれているような気がして、心地いい。
「お兄ちゃん、早く早く!」
 前を向くメリーの瞳に、もう迷いの色は無い。
 誰より信頼する兄と、あの人から継いだもの。このふたつを見失わない限り、自分はどこまでだって歩いていける。
 その背を見守りながら、マキナは人知れず彼方へ告げた。

(貴方の死は無駄ではなかった。だからこそ、俺たちは過去(みらい)を取り戻す)

 失ったものものあった。
 やりきれないこともあった。
 それでも過去があったからこそ現在があり、未来へと至れるのだと知った。

 ――ありがとう

 胸をよぎるのは、ここまで重ねてきた万感の想い。
 私たちは、生きてきた。
 私たちは、生きていく。
 紡いだ軌跡を抱き、あの人が愛した世界を護り育てていこう。

 新しい時代はきっと――数多の光に満ちているから。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/学部/蒼閃を継ぐ光】

【jb3287/メリー/女/高等部2年/蒼き護り】
【ja7016/マキナ/男/大学部3年/蒼き炎】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております。
大規模第三フェイズ直後のお話ということで、とても胸にくるものがありました。
メリーちゃんとマキナ君が、本当の意味で”取り戻した”瞬間。
最後まで『あのひと』を想ってくださって、ありがとうございました。
お二人と出会えて、幸せでした。
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久生夕貴 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年07月11日

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