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『探し求めた大切な 』
ガラードaa4847hero001)&アークトゥルスaa4682hero001


 もしも願いが叶うなら。
 ――などと、甘ったるいことは言わない。
 けれどせめて。どうかせめて。
 叶えたい、届けたい、思いがある。言葉がある。

 到達して満足してしまった至らぬ己に、いま一度、奇跡が起こるなら。




 ガラードの契約者には、カフェバーを経営している親族がいる。
 ガラード自身もそこでバイトをしていて、真面目さを評価され、楽しくやっていた。
 シフトの関係で連休明け、いつも通りに出勤すると職場の雰囲気が何やら違う。
「おはようございます。……何か、ありましたか?」
 身長こそ高いが、外見は17歳の少年であるガラードは、青い瞳を丸く開いて首をかしげた。そんな仕草をすれば、実に年相応に見える。
「いやあ、それがさ……。今日から新人が入るんだ。長く募集掛けてたのは知っているだろう?」
「ええ。決まったんですね。良かった」
 休憩時間に入っていたバイト仲間の一人が顔を上げ、問いへ応じる。彼は、面接も担当するいわゆるバイトリーダーだ。
「それがまた、えらい美人でさー。って、男なんだけど。金髪碧眼、絵に描いた『王子様』って感じかな」
「そうなんですか。緊張しますね……」
「ホントホント。ガラードとシフトが重なることが多いはずだから、色々と教えてやってくれ。これ、履歴書な」
「はい、……」
 渡された書類を目にして、ガラードの表情は固まった。

 ――アークトゥルス

 その名の横に添付された証明写真。
 長い金の髪を束ねる青いリボンが印象的に映えている。髪のサイドには一房、白いものが流れていて。
 美しく、それでいてどこか威厳を感じさせた。
(この、人、は……)
 ガラードの胸の奥の奥が、熱く脈打つ。
(まさか)
 と、思う。
(ようやく)
 とも、思う。


 たった一人の王。
 自分へいくつもの試練を与え、一人前の騎士へ導いてくれたひと。
(もう、会えないと……)
 ガラードは『この世界』へ来て以降、深い深い後悔、苦しみ、悲しみ、そういったものに苛まれ続けてきた。
 契約者から渡された一冊の本が、原因である。
 そこに記された物語は、まるで他人事とは思えなくて……
 ならば『あの時』、自分の選択は……。

 もしも願いが叶うなら。

 そんな甘い夢を、どれほど見たか。
 夢に蓋をして、己は己の契約者と共に、この世界で生きていくのだと、誓いを交わしたのだと、どれほど言い聞かせたことか。
 それが。
 その相手が。




(……呼び声が)
 街を歩いていると、誰かの声が聞こえた気がしてアークトゥルスは足を止めた。
 振り向いた先にあったのは、小洒落たカフェバー。入り口には『スタッフ募集』と小さな張り紙。
「ふむ?」
 この紙切れが、声の主だろうか。まさか。
「求人、か……」
 夜間学校へ通う契約者を思えば、昼間から夕方にかけて自分が不在になることで迷惑は掛からない……とも思うけれど、さすがに勝手に決めるわけにはいかない。
 何がしか、自分も戦う以外に役立てればいいと思うし。
(帰宅したら相談してみるか……)

 二つ返事で許可が下り、しかして日常生活に追われている間に一週間が経過していた。
 慌てたアークトゥルスは履歴書を片手に再びカフェバーを訪問するが、果たして未だに『スタッフ募集』の張り紙はそのままであった。


 そんな経緯があっての、アルバイト一日目。
 アークトゥルスは従業員用の入り口をくぐり、そこで銀髪の少年と出会う。




 おはようございます、少年の声が震えている。
 アークトゥルスは既視感を覚える。
 その少年に対してではなく、そういった態度に対して。
 これまで幾度となく、『この世界』でアークトゥルスとの出会いを『再会』と呼んだ英雄たちがいる。
(俺は……)
 しかし、自分は彼らのような鮮明な記憶がない。
 顔と名前が、ほんの朧げに。それに纏わる思い出の類は、抜け落ちてしまっているのだ。
 そう伝えると、誰からも戸惑い、悲しみといった感情が返ってくる。当然だろうと思う。しかし、仕方のないことだとも思う。
 アークトゥルスとて、覚えていられるなら覚えていたい。思い出せるのなら思い出したい。
 けれど、それは道端の落とし物とは違う。
 探し求めて、見つけられる類ではない。
 申し訳なさを感じるも、それしかできない。
 改めて、関係を結ぶことしかできない。
「アークトゥルスさんですよね、お話は伺っています」
 キラキラとした少年の笑顔が、今のアークトゥルスには辛い。 
「その、俺はだな……」
「初めまして。僕はガラードと申します。何でも聞いてくださいね」
「……、ああ。よろしく頼む」
 その名に、声に、覚えはあるのに……きっと、相手も同じだろうに。
 ガラードはそれを堪え、あるいはこちらを察し、『今の日常』を振舞った。
 どう応じようかと悩んでいたアークトゥルスの肩から力が抜け、自然と笑みがこぼれる。 




 夜からのバータイムになると、ガラリと客層が変わる。
 メニューも、小難しいモノへなってゆく。いわゆる『常連専用の裏メニュー』なども登場してくるのだ。
「ここは僕が向かいますから、あちらをお願いしても良いでしょうか」
「すまない」
 基本的に器用に物事をこなすアークトゥルスだが、初日はどうしたって詰まることも多い。都度都度でガラードが機転をきかせ、助け舟を出した。

(たぶん)
 アークトゥルスは、自分のことを覚えていないのではないだろうか。
 揺れる金髪を見つめながら、ガラードは不安を確信に変えていた。
 『昔』は、主従を固く結んでいた。ガラードにとって、唯一の王だった。
 また、彼の息子とガラードは親友でもあり、子について表沙汰に出来なかった王へ近況報告を伝えていたこともある。
 血よりも濃い思いを、ガラードは王へ寄せていた。自分ほどではないにしろ、王もまた厚い信頼を寄せてくれていただろうと。
 ゆえに、一目見て解からなければ……きっと、そういうことなのだ。
 ――だから。
(今、ここで、出会えた奇跡が一番大切ですよね……)
 思い出の全てが美しいわけではない。
 ガラードにも悔いることが山ほどある。
 彼にしては如何ほどだろうか。その重さに耐えかねて、記憶を落としたということは? それは、憶測にすぎないけれど。
 いずれ、無理に思い出してもらう必要はない。
 仕事をこなしながら、時間を掛けながら、少年は考えを整理していく。

(僕は、それでも嬉しい)
  
 


「アークトゥルスさん。少し、お時間いいですか?」
 ピークタイムが過ぎ、勤務を終えて帰るスタッフもいる中。
 仕事に慣れてきた様子のアークトゥルスの腕を、ガラードが軽く引いた。
「うん? わかった」
 覚えるメニューの追加だろうか。
 そんな軽い考えで、アークトゥルスは店の材料保管庫へとついてゆく。

「……何の事だか分からなくていいので、一言だけ、受け取っては貰えませんか?」

 パタリと閉じられた密室で。
 これまでにない真剣な眼差しで、ガラードはアークトゥルスを見上げた。
 その言葉から伝わる空気を、アークトゥルスは知っている。
 これまで出会った『騎士』達が、何か大切なことを伝えたい時に纏う雰囲気だった。
(ガラードは……知っているのか)
 自分が、かつての記憶を持たないことを。それでいて、伝えようとしてくれているのか。
 銀の髪から覗く瞳の色の強さも、口にするたび懐かしさを覚える名前も、アークトゥルスの中には存在しているというのに。
 彼が望むであろう大切な記憶だけ持ち合わせていない。
 それを苦しく思う傍らで、喜びも確かに在るのだ。
 だからアークトゥルスは、こう答える。

「それをお前が望むなら、喜んで受け取ろう」

 ガラードが、泣きそうな顔をする。
 幾度か首を振り、真剣な表情へと戻す。王を前に、片膝をついてこうべを垂れる。騎士の、敬礼を。

「騎士ガラード、御前に只今戻りました」

 届けられなかった、あの時の言葉。
 果たせなかった、最後までの約束。
  
「……よくぞ戻った。また会えて嬉しいとも。騎士ガラード」
「!!!」
「とはいっても、感づいているだろうが俺は……」
「いえ。いいえ。僕は嬉しいのです。今、この世界で再びお会いできたことが」
 気まずそうに言い募ろうとするアークトゥルスの両手をギュッと握り、ガラードは首を振る。
「かつて果たせなかったことを悔いる思いは僕にもあります。だからこそ『今』という奇跡を大切にしたいのです」
「ああ、そうだな……」
 ガラードの言葉、そのひとつひとつをアークトゥルスは真摯に受け止める。
 それが、今の自分に出来ることだから。
 そして、これからの自分に出来ることは――……

 二人が再会の喜びを分かち合っているところで、彼らを呼ぶスタッフの声が扉向こうを過ぎて行った。
「……仕事へ戻りましょうか」
「そうだな」
 肩をすくめ、かつての騎士と王は笑いあう。
 今、ここにおいては二人ともカフェバーの店員。
 その肩書に見合った仕事をしてみせようか。


 そうして時間はまた一つ、前へ向かって進みだす。




【探し求めた大切な 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa4847hero001 /  ガラード  / 男 / 17歳 / バトルメディック 】
【aa4682hero001 /アークトゥルス/ 男 / 22歳 / ブレイブナイト 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました。
騎士と王の再会の物語、お届けいたします。
お楽しみいただけましたら幸いです。
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2017年07月12日

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