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『Love pain 』
静架ka0387)&スグル・メレディスka2172


 静架は謎の身体の不調に悩まされていた。
 最初はツキリと小さな痛みがあり、最近ではそれが鷲掴みにでもされたかのような強い痛みに変わっていた。
 胸の内部――心臓が痛む気がするのだ。
 幼い頃から痛みへの耐性訓練をしてきた。そのはずなのに、最近のその痛みは自分の体験したことのないもので、大きな病気なのではないかと思うまでになった。
 思い立った静架は、この世界に来た当時、早々に知り合った『森の魔女』と呼ばれる老婆を訪ねに行った。
 見た目が物語に出てくるような魔女風であるのと、郊外の古い小屋のような所に棲んでいるために、そう呼ばれている。実際は腕利きの薬師を生業としている女性であった。
「なんだい、そんな事のためにわざわざ此処まで来たのかい」
「……大きな病気かもしれないと思いましたので」
 老婆は呆れ顔でそう言った。
 静架はその反応に、肩透かしにあったような気分になった。毒々しい色の薬などを出されるかと思っていたからだ。そして、この胸の痛みに効く薬があるはずだとも思い込んでいた。
「病じゃないとは言い切れないが、薬は無いよ。どうしてもっていうんなら、ワシじゃなくて同居人に訊いてみな」
「何故、スグルに……」
 静架が尚も食い下がろうとすると、老婆は面倒くさそうに眉間に皺を寄せながらシッシッと彼を遠ざけた。
 彼女はこれから家の奥にある森に薬のもととなる植物を採りに行くらしく、他人にかまっている暇は無いのだ。
 籠を腕に下げ、深く折れ曲がった体を一本の杖で支えながら、「全く、近頃の若いもんときたら……」とブツブツ独り言を漏らして、一本道を奥へと行ってしまった。
「…………」
 静架は完全にその場に取り残される形となり、暫く呆けていたものの、頭上で鳴く鳥の声に割れを取り戻し、踵を返した。

「あら、スグルさん珍しいですね。お仕事されるんですか?」
「うーん、まぁ、ね。なんか簡単なのないかな〜ってさ。あ、それ夏服? 可愛いね」
 珍しくスグルがハンターオフィスに顔を見せていた。受付の一人の子とそんな会話をしつつ、ボードに目をやる。連日の暑さで本当ならトレーラーから出たくもなかったのだが、同居人である静架の様子が最近おかしいことに気づいて、探りに来たのだ。
「静架は? 今、依頼中だったよね」
「あ、はい。えーとですね、もう少しで戻られると思いますよ」
「そっか、じゃあ後ちょっとだけ俺の相手してよ」
「依頼受けに来たんじゃないんですか、スグルさん……」
 受付嬢はそう言いながら、呆れ顔になる。
 いつものことと言ってしまえはそうなのだが、笑顔の彼に押し切られてしまうことが多く、今もそんな状態だ。
 スグルは口がうまいことでこの辺りでは有名であった。
 その気は全く無いのに可愛い女性は褒める対象であったし、美人も素直に賞賛する。それは男性であっても変わりなくで、好意的に受け取られることが多い。
 カウンターに体を預けつつ受付嬢と談笑を続けていると、静架が依頼先から戻ってきた。
 そして視界にスグルの姿を認めると、すぐに視線を逸して別の窓口へと報告しに行く。
「……おかえり、静」
「…………」
 スグルのそんな言葉にも、静架は無視をした。その際、胸が痛むのを感じて、僅かに眉根を寄せる。
「喧嘩してます?」
「いや、いつもこんな感じでしょ? じゃあね」
 受付嬢からの言葉にそんな返事をして、スグルは先に出ていこうとする静架の後を追った。
 


 トレーラーハウスに戻ってからも、静架は口を開こうとはしなかった。
 スグルが作った夕飯をきちんと食べるも会話は生じずに、明らかに避けられていると自覚する。だがしかしこういった事は初めてでもなくわりとよくあることなので、スグルは気にも留めていなかった。
 静架がスグルを避けているその原因も、何となく分かっているらしい。
「静、ちょっとここにおいで」
「…………」
 夕飯を終えて一息ついた所で、スグルが静架を呼んだ。
 ソファに座れと合図したわけではなく、自分の膝に座れというその姿を見て、静架は嫌そうな表情を浮かべた。
 それでも、スグルは「おいで」と繰り返す。
 同じ空間内にいる以上、理由もなく出かけられるはずもなく仕方なくと言った雰囲気を醸し出しながらも、静架はスグルの言葉に従った。
「……最近、調子悪そうだね。そろそろ俺に話そうとか思わない?」
「話した所で改善はしません」
 スグルの問いかけにようやく返事を発した静架であったが、いつもどおりで苦笑が漏れる。
 すると静架は立ち上がろうとしたが、スグルはそれを許さずに、腰に手をかけ自分へと引き寄せる。
「ここに座った以上、逃げ出せないって解ってるはずだよ」
「……自分が望んで応えたわけではありません。アレルゲンのくせに、何でそんなに偉そうなんですか貴方は」
「アレルゲン?」
「全部、貴方が悪いんですよ」
 やれやれ、やっとか。とスグルは内心で呟いた。
 この瞬間を待っていた。
 静架が自然に話し始めるのを待っていたのだ。
「つまり、静の不調の原因が、俺ってことなのかな」
「そうです。最近ずっと、胸が痛むんです。大きな病気かと思い様々な方に伺いに行きました。けれど皆が口を揃えて、『スグルに聞け』と言うのです」
「あー……そういうこと」
 スグルは静架のその言葉だけで全てを理解した。
 そろそろ自覚させるべきだと思っていた所でもあった。だからこれは、好機だと受け止め再び口を開く。
「静、それは病気じゃないんだよ」
「嘘です。痛みがあるのに病ではないというのなら、何なのですか!」
「恋だよ」
「……は?」
 スグルの短い言葉に、静架は目を丸くする。
 そして脳内でその響きを数回繰り返して、表情を歪めた。
「何を馬鹿げたことを言ってるんですか」
「馬鹿げたことだと、本気で思う?」
 スグルが静架の瞳を捕らえて、そう言った。
 桃色の瞳に金の色が混じり合う。
 許してもいないのにと思いつつ、静架はスグルが触れてくるのを避けられなかった。
「……遠回りしちゃったね。この辺りは、俺の責任かなって思うよ」
「なんですか、突然……」
 ちゅ、と啄む音がした。
 キスをされたという自覚はあるのだが、スグルの言葉の意味が解らずに首を傾げる。
「知ってたよ、静がずっと俺を避けてたこと。それから、他の人と俺が話してると機嫌が悪くなることも。……それがヤキモチってやつで、静は俺が好きってこと」
「有り得ません。好かれるような事をしてると思ってるんですか」
「相変わらずキツイなぁ、静の一言は」
 はは、と笑いながら、スグルはそう言った。
 静架がスグルをよく言うことなど、稀の中の奇跡というものだ。それくらい、自分には誇れるものが何もない。欲しいとも思わないし、築けるとも思ってはいない。
 そんな究極に性格がねじ曲がっている彼であっても、変わらない感情というものが一つだけある。
 それが目の前の静架への想いであった。
「うーん、じゃあ……そうだな、俺も病だとして、話を続けるよ? 俺は静が居ないと生きていけない。俺にとっての静は、水のようなものなんだ」
「……何を言ってるんですか。水分ならどこにでもあるでしょう」
「それはモノの例えってやつだよ。とにかく俺には静が必要なんだ。そばに居てくれないと、苦しくて死んじゃう。それが俺の病」
 スグルはそう言いながら、静架へのスキンシップを続けた。至近距離で言葉を紡ぎつつ、頬を喋んだり耳に唇を触れたりして、腕の中の静架の反応を確かめている。
「静は誰にでもこういう事、許せる子じゃないでしょ。なんで俺はいいのかな?」
「それは貴方が無理矢理に……」
「本気で嫌だったら、静は簡単に跳ね除けられるはずだよ」
 静架は言葉を返せなかった。
 確かに、そうなのだ。スグルが触れてくる事に嫌悪感を抱くことが出来ない。
 だからこそ同居も認めているのだが、それを振り返って考えて見ると、おかしいことだと思ってしまう。
 そして何故今、胸の痛みがあるのか。
 桃色の瞳に見つめられることも、必要以上に触れられることも、嘘みたいな愛の囁きも、確かに受け止めている自分がいる。
 何故、許せてしまうのか。
 それは解らなかった。
 ――静は俺が好きってこと。
 先程のスグルの言葉を脳内で反復させる。
 すると、何故か頬が熱くなっていく気がして、静架はスグルの膝から立ち上がった。
「触らないでください。貴方が触ると、自分はおかしくなってしまう」
「……は〜、やれやれ。今更ソレか。うん、まぁ、これも想定内だしいいかな」
 立ち上がって一歩下がった静架を、スグルは敢えて見るだけに留めた。
 そしてそんな独り言のような言葉を漏らしてから、腕を伸ばす。
「ねぇ、静。俺をちゃんと見て」
「嫌です」
「見るんだ。そうしないと、ベッドに直行するよ」
 とんでもないことを口にした。
 そうする事はいつでも可能だが、今のは勿論ただの脅しである。
 スグルはスグルなりの、きちんとした段階をこれから踏もうとしているのだ。
 それを今から、静架に伝えるつもりであるらしい。
「キス以上のことはしないよ。だから、もう一回ここに座って」
「……キスはするんですね」
 静架はそう言いながら、大人しくスグルの膝の上に改めて座り直した。
 そして一度息を呑んでから、間近にある桃色をもう一度自分の瞳に捉えて、スグルの言葉を待つ。
「まぁ、大体は俺が悪いよね。そういう自覚はあるよ。ここまで自分のワガママだけで静に色んなこと教えちゃったしね。もっとゆっくり歩くべきだったんだけどね」
「それは、別に……」
「『好き』から、初めていこう」
「スグル……」
 優しく諭すように言葉を紡ぐのは、いつもと変わりない。
 静架はそう思いながらも、スグルの言葉をどこか別の響きのようにして受け止めた。
 そうすることで胸の痛みが、ゆっくりと消えていくからだ。
 知っている。自分はもうこの変化を、知ってしまっている。
 そう思うとまた頬が熱くなるのを自覚して、視線を逸らす。
「試しに、言ってみる?」
「……無理です」
 スグルがからかうようにそう言った。
 静架はやはり照れて、拒否をした。
 そう、これが『照れ』であり、感情の一つ。『好き』の延長上にあるモノである。
「ああ、そうだ。これだけは先に謝っておくよ」
「何ですか」
「俺は静を諦めないし、譲るつもりもないからね」
「……何を、今更」
 その言葉を告げた直後、静架は自分が自然にそう言えてしまったことに驚いた。
 スグルの全てを拒む気はない。むしろ半分以上、受け入れている。
 それは今後も、変わる予定はないのだ。
「スグル」
 小さく目の前の彼の名を呼んだ。
 するとスグルはこくりと頷き、それを返事とする。
 傍にいる温もりが、自分にとってのどれ位を占めているのだろう。
 吐息がぶつかりあうほどの距離を、自分はもうずっと感じてきた。
 スグルがそばに居てくれないと生きていけないと言ったことに、完全なる拒絶は出来ないのだ。
 ――離れると、寂しいと思うから。
「責任、取ってくださいよね」
「うん。俺の一生をかけて、そうするつもりだよ」
 スグルはそう言うと、再び静架に口付けてきた。
 それに対しての拒絶は、見られない。
「……自分にわかるように、ちゃんと教えてください
「うん、そうだね」
 静架がゆっくりと腕を上げて、スグルの首の後に手のひらを置く。
 それを感じて、スグルは嬉しそうに微笑んだあと、腕の中の存在を抱きしめ直すのだった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0387 : 静架 : 男性 : 19歳 : 猟撃士】
【ka2172 : スグル・メレディス : 男性 : 25歳 : 闘狩人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつも有難うございます。
今回のテーマは『恋』…自覚を得ることの難しさ、書きながら改めて考えさせられました。
深く繋がっているようかのようなお二人は、まだまだきっとこれからなのでしょうね。

少しでもお楽しみ頂けましたら幸いです。
また機会がありましたら、よろしくお願いいたします。

紗生
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2017年07月14日

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