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『幻獣王冒険譚 〜我が麗しのチューダ〜 第一章 』
雪都ka6604

 俺が幻獣王チューダ――先生について師事を受けて、どれ程経っただろうか。
 弟子として先生の活躍を記す事が責務と考え、今日から先生の日常をまとめていきたいと思う。
 後世で先生について調査する者へ、この日記を託したい。

「先生」
「おお、雪都。来たでありますなっ! 我輩、さっき起きたばかりであります」
 先生は辺境の聖地、もしくは幻獣の森に居を構えられている。
 辺境巫女は事実上先生の侍女のような立場で、先生のお世話を焼いている。
 ちなみに先生は三度寝から起きたばかり。既に時間は十一時を回っている。
 先程出会った大巫女は『馬鹿の穀潰しができる事は寝る事だけだね。寝ている間は静かで良いだがね』と悪態をついていたが、きっと先生だからこそこの程度で済んでいるに違いない。
「雪都、我輩はお腹が空いたであります」
「はい、昼食の用意はできております」
 先生の好物は弟子として把握している。
 先生はナッツ類と甘い果物が好みだ。反対に辛い物はお口に合わない。
「本日は同盟商人から入手した辺境南部の果実の盛り合わせ。横には同盟産のアーモンドを添えさせていただき……」
「うっひょー! 美味いっ! 美味すぎるっ! 犯罪的であります!」
 先生は俺の言葉を遮るように昼食に手をつけている。
 王であれば毒を盛られる危険が付きまとう。
 しかし先生は、俺を信用しているのだろう。毒の心配をせずにただ一心に果物へ食らい付いている。見事な食べっぷりだ。
「相変わらず汚い食べ方だねぇ」
 先程出会った大巫女がやってきた。
 俺は平静を装ったが、先生の食べ方が汚い?
 違う。先生はワイルドな食べ方で王の格を見せつけているのだ。
 その様、まさに幻獣の中の幻獣と表現しても良い。
 だが、ここでの揉め事を先生は好まれない。
 俺はここでグッと耐える事にした。
「あ。大巫女であります。我輩は今お食事中であります」
「何言っているんだい。さっき巫女に食べさせて貰ったばかりじゃないか。
 それより、そろそろ運動の時間じゃないのかい?」
 ――運動の時間。
 先生によれば、以前先生の運動不足により辺境ドワーフが危機に陥った事がるらしい。それを案じた大巫女が先生へ毎日の運動を課したのだ。
 でも、先生。俺は知っています。敢えて先生は本気を出さず、俺達ハンターに試練を与えたんですよね。先生の想い、しっかりと受け取っています。
「えー。我輩疲れたであります」
「寝て食っているだけじゃないか。ほら、さっさとおしっ!」
 先生は大巫女に無理矢理起こされる。
 先生、大丈夫です。俺が先生を必ずお守り致します。


「先生。今日はこの幻獣の森を三周されるのですね」
「そうであります。過酷な運動であります」
 先生に課せられた運動は幻獣の森三周だ。
 実は幻獣の森は多くの幻獣が住んでいるだけあってかなり広い。
 だが、先生は幻獣王。運動と称して幻獣王の臣下を見回ろうという易しいさ。
 俺、その先生の優しさに涙が出そうになります。
「うーん、さすがに疲れてきたであります」
 10歩しか歩いていないにも関わらず、お疲れの先生。
 やはり日頃の心労が原因だろう。今度、先生を癒す物でも調達して来なければならない。
「あ、チューダ。こんなところで何やっているッスか?」
 先生の前に現れたのは大幻獣のツキウサギ。
 幻獣の森を守る戦士の一人だ。大幻獣ナーランギの結界に守られている幻獣の森だが、その上で付近を徘徊する歪虚がやってくるとも限らない。言うなれば先生の御所を守る傭兵と考えても差し支えないだろう。
「おお、ツキウサギ。精が出るでありますな! 我輩は運動中であります」
「運動? でも、ただ歩いているだけに見えるっスよ?」
 どうやらツキウサギは分かっていないようだ。
 歩いているように見えているが特殊な歩行を取得されている先生は、通常よりも体に負担をかけて歩かれている。俺に合わせてゆっくり歩いていただいているが、本気を出せば光の速さで……。
「そ、それは……雪都に合わせているだけであります! 本気を出したら雪都は置いてけぼりになるのであります。それは王として許されないであります」
「先生、やはりそうでしたか! 先生のご配慮、痛み入ります」
「うむ。良きかなであります」
 先生の前に膝を折って敬愛の意を現す。
 やはり、先生は俺の事を理解していらっしゃる。
「あー、そうっスか。それに関係あるっスかね。今度大巫女がチューダの体重をチェックするって言ってたっスよ。運動しているはずなのに減らないからって」
「な、なんですとー!? 我輩を信用してないでありますか!」
 先生、ご安心下さい。
 今からでも本気を出せば、先生は激痩せできます。
 世の女達が羨む新ダイエットを開発すれば、羨望の生差しを一身に浴びる事になります。
 先生、今はチャンスとお考え下さい。


 運動後、先生は近くの滝にやってきた。
 運動の汗を流す為である。
 基本的に先生は綺麗好きだ。汚れていては民の信頼を得られないというお考えから、日に何回も水浴びをされる。
「雪都。この王冠とマントを持っているであります」
「せ、先生。これは先生の大切な……」
「さぁ、早速冷たい水に飛び込む出ありますよっ!」
 先生は振り返る事無く、水の中へ飛び込まれた。
 いや、それよりも重要な事は先生が俺に大事な王冠とマントを託された事だ。
 先生にとって王冠とマントは錫杖と共に王たる証。
 謂わば、これは先生が先生たる所以の品。
 それを俺にあっさりと託した。
 つまり、先生はそこまで俺を信頼してくれている事を意味している。
「先生……俺は……俺は……」
「気持ちいいでありますな〜。雪都も一緒にどうでありますか!」
 先生、それはつまり師と弟子による裸の付き合いですか?
 よ、よろしいのですか? 俺、先生のお側に行っても……。
「あ。でも、そろそろ晩飯の時間でありますな。ゆっくり入っている訳にもいかないであります」
 はっ、そうだった。
 先生は幻獣王なのだ。弟子とはいえ、そんなスキンシップを許されるはずはない。先生個人は俺と一緒に水浴びしたくとも、王たる立場が許さないのですね。
 先生のお辛い立場、お察し致します。
 せめて、先生の晩飯は腕によりをかけて作らせていただきます。


「ふぁ〜。そろそろ眠るでありますか」
 先生は起き上がると寝所へと向かう。
 先日、俺が同盟商人から手に入れた羽毛のベッドと枕がお気に入りだ。
 一度先生の寝顔を拝見したが、とても幸せそうなご尊顔だった。
 大枚を叩いて買った甲斐がある。
「先生。本日は様々な教え、ありがとうございました」
「ん? 何か教えたでありましたっけ?」
 首を捻る先生。
 そこまでご謙遜されるとは、奥ゆかしい先生。俺、改めて先生を尊敬します。
「では我輩は眠りでありますよ」
「先生、良き夢を……」


 先生の一日は、これで幕を閉じる。
 だが、同じ日は二度もない。
 明日は――また新たな日常が待っている。
 

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka6604/雪都/男性/19/符術師

kz0173/チューダ/自称『幻獣王』(NPC)
kz0219/ディエナ/大巫女(NPC)
ツキウサギ/大幻獣(NPC)/

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤豊です。初のOMC発注となりました。ありがとうございます。
今回、読み手からのツッコミという事で一人称視点を心がけさせていただきました。
どちらかといえばチューダよりも雪都さんの方がボケに回っている気もしますが、師弟関係がより強調できたのではないかと思います。

次回発注、お待ちしておりますっ!
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ファナティックブラッド
2017年07月19日

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