▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『今日の善き日を 』
ヨハン・リントヴルムaa1933)&パトリツィア・リントヴルムaa1933hero001)&セレティアaa1695)&バルトロメイaa1695hero001)&世良 杏奈aa3447)&世良 霧人aa3803)&ルナaa3447hero001)&ファニー・リントヴルムaa1933hero002

●午後五時四十五分
「わぁ、お客さまいっぱい!」
 薔薇をあしらったワインレッドのドレスを揺らし、ファニー・リントヴルム(aa1933hero002)は目の前の光景に無邪気にはしゃいだ笑みを零した。ヨハン・リントヴルム(aa1933)も同じく来客を待ちながら、「愛娘」の可憐さに愛おしそうに目を細める。黒い襟のついた紺のタキシードに身を包み、客人を迎えるヨハンはこのパーティーの主催であり、本日行われる披露宴の主役でもある。
「やあ、ヨハン君」
「この度はおめでとう」
「御祝儀、持って来てやったぜ」
「みんな、来てくれたんだね、ありがとう、本当にありがとう!」
 世良 霧人(aa3803)、世良 杏奈(aa3447)、バルトロメイ(aa1695hero001)達の姿を認め、ヨハンは友人ひとりひとりに熱烈な歓迎の握手を送った。ヨハンは普段は影のある、瞳の奥に暗い淀みを抱えている青年だが、今日は珍しく毒のない、本当に心の底から嬉しそうな笑顔をしている。お祝いの場、まして自分が祝ってもらうパーティーなんて初めて。その事がヨハンの表情から曇りを拭い去っていた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。パパとママの結婚式に来てくれてありがとうございます」
 遥か頭上の客人達にファニーは行儀よく声を掛け、ドレスと同じ薔薇の髪留めで飾った頭をぺこりと下げた。送迎用の車を付け、ドイツのレストランを借り切って行う本日のパーティーは、正確には「結婚式」ではなく「結婚披露宴」に当たる。また、結婚披露宴とは言っても籍を入れて長いので、結婚披露宴と銘打ったほとんどただのパーティーである。
 それでも、披露宴という言葉をまだ知らないファニーにとって今日のパーティーは「結婚式」だし、この場にいる誰も、今日がただのパーティーだ、などと思ってはいなかった。籍を入れて長かろうと、なんとラベルがつけられようと、この晴れやかな日を祝うために皆ドイツまでやってきたのだ。
「ファニーちゃん、ママは今どこにいるの?」
「ママはね、今ね、変身している途中なんだよー」
 杏奈からの問い掛けにファニーははしゃいだ声で答えた。大事なお式という事で頑張ってお行儀良くしているが、大事なお式だからこそ、大好きなパパとママの結婚式だからこそ、ウキウキと弾む心を止める事は出来ないのだ。
「ま、間に合ったでござる……」
 と、一人の男が入口から息せききって駆け込んできた。その、結婚式には似つかわしくない青いNINJYA装束に、ヨハンが驚きを見せつつも喜色を浮かべて駆け寄っていく。
「お師匠様、来てくれたんですね!」
「お弟子殿のメデタイ日ゆえ、トウゼンでござる!」
 ガイル・アードレッド(az0011)はそう言ってビシッと親指を突き立てた。NINJYA装束はこの場に相応しい服装ではないかもしれないが、ガイルの正装という事でどうか勘弁願いたい。
「わぁ! NINJYAだ! すげぇ! 必殺技あんの? 必殺技!」
 場違いなNINJYAの登場に、コミック大好きバルトロメイがテンション高めに反応した。ただし某ニンジャなんとかと微妙に区別がついていない模様。
「ひ、必殺技でござるか? では、いでよNINJYAソード『ダイナゴン』!」
「あら? ニンジャごっこ? 私もやるわ!」
 突如始まったニンジャごっこに杏奈がノリノリで参戦し、「ナ〜ン〜ト〜カ〜波ッ!」と言いながら両手を前に突き出した。明らかにニンジャ関係ない他の漫画が混ざっている。暴走する杏奈とカオスな現場にルナ(aa3447hero001)が呆れた様子で視線を送り、暴走する奥さんに霧人がおろおろと止めに入る。
「み、みんなストップストップ! とりあえず御祝儀渡さないと!」

●午後六時
 バルトロメイの御祝儀袋は一同を驚愕させた。バルトロメイは身長2m、筋骨隆々の大男で、よく言えば武骨、悪く言えば粗野と言った風貌の男である。その筋肉たるや袖がパンパンになるらしく、3ピーススーツのジャケットを脱がざるを得ない程である。
 そんな男が持参した御祝儀袋の表書きが、几帳面な筆文字であった事に一同はまず驚いた。さらにその筆文字がバルトロメイの自筆であると聞いた時、一同の間には衝撃による電流が走った。
「バルトロメイ殿はタッピツでござるな!」
「日本風のマナーはしっかりと調べてきたぜ」
 アメリカンNINJYAのガイルに事も無げにそう返し、バルトロメイは金五万入りの御祝儀袋をヨハンに渡した。霧人も世良家代表として持参した御祝儀袋を渡し、いよいよ披露宴会場へと揃って足を踏み入れる。
「これ、どこに座ればいいのかしら」
 名前札のないテーブルを眺め、杏奈が首を傾げながらヨハンへと問い掛けた。杏奈はフリル等の装飾はあるが派手ではないピンクのロングワンピース、夫の霧人はシンプルな黒のスーツをまとっている。
「日本と違って特に決まっていないんだ。何処でも好きな所に座ってくれて大丈夫だよ」
「んじゃ、この辺りでいいかな」
 ヨハンからの返答に、バルトロメイは新郎新婦席に最も近いテーブルの、より壁に近い席に率先して腰を下ろした。霧人と杏奈はその隣に夫婦並んで席につく。
「ファニー、私達と一緒に座らない?」
「ファニーちゃんが良ければ、ですけど……」
 ルナとセレティア(aa1695)にそう声を掛けられて、ファニーは伺うように傍らに立つヨハンを見つめた。ファニーはリントヴルム夫妻の「娘」であるため、通常であれば親族と共に座るのが適当である。
 ただ事情が複雑なため、ヨハンは新郎新婦席にファニーも座らせるつもりでいたが、せっかくお誘いを受けたのだ。また、イベントを行っている間ファニーを一人にするよりなら、友達と一緒にいさせた方がいいだろう。
「ファニー、そうしておいで」
「うん。ルナちゃん、セレティアお姉ちゃん、よろしくね!」
 父親の承諾を受け、ファニーはルナやセレティアと共にテーブルへと歩いていった。三人並んで椅子に座り、さっそくお互いのドレスや髪型の話題に華を咲かせる。
 ヨハンはゲスト全員が席についたのを確認し、新郎新婦席へ赴きテーブル上のマイクを取った。日本とは違いドイツでは司会者というものが存在せず、新郎新婦が司会進行を行う場合もあるそうだ。マイクテストを行った後、ふうと深く息を吐き、やや緊張した面持ちで客人達へと視線を向ける。
「皆様、本日はお集まり下さり誠にありがとうございます。今日は僕らの結婚披露宴ではありますが、堅苦しい事はせず気軽に楽しんで頂ければと思います。それでは、新婦入場です」
 ヨハンが腕を差し向けた、と同時に別の入口の扉が開かれ、純白のドレスに身を包んだ一人の女性が姿を見せた。真珠飾りで彩られたシルク生地のウェディングドレス。露出が少なく派手さはないが、シルクの光沢が映えるドレスは上品で美しい。幾人かが思わず感激の息を洩らし、ファニーは憧れの目をもって女性の姿に見入っている。
「ママ、すっごくかわいい! お嫁さんの服だー」
 娘の言葉に女性は柔らかな笑みを返し、ヨハンは半ば呆然と彼女の姿を眺めていた。女性の赤い瞳とヨハンの瞳が交差する。ヨハンはわずかに目を潤ませ、泣き笑いのような顔で呟く。
「綺麗だ……ほんとうに綺麗だ」
 一歩、また一歩と彼女が近付いてくる程に、ヨハンの涙腺はいよいよ緩みついに涙が一粒落ちた。頬を濡らしていく涙を白い手袋で何度も拭う。
「辛いことなんて数え切れないほどあったけど、今日まで生きてきて本当によかった」
「もう、あなたったら……嬉しいことがあるとすぐ、今日が命日みたいなことを言い出すんですから」
 そう言って、パトリツィア・リントヴルム(aa1933hero001)は微笑みながら夫を見上げた。丁寧な口調は普段と変わる事はないが、淡々としたものではなく、女性らしい柔らかさと真っ直ぐな愛情に溢れている。涙を零しながらヨハンは思う。
 ああ、この人は、僕の妻なのだと。
「さあ、あなた」
 パトリツィアに促されてヨハンはマイクを持ち上げた。少し鼻声になってしまい、やや聞き取りづらい声がマイクを通して室内に響く。
「今から、ケーキ入刀を行います。申し訳ないけど誰か写真を頼めるかな……」
「頼まれなくてももちろん撮るわよ。ね、あなた」
「うん」
「撮りまくるから安心しとけ」
 ヨハンの言葉に杏奈、霧人、バルトロメイがそれぞれカメラを持ち上げた。ファニーやルナ、セレティアもその瞬間を見届けようと、運ばれてくる巨大なケーキと新郎新婦を取り囲む。
 ヨハンは少し赤らんだ顔で湿っぽく息を漏らした。パトリツィアは夫の背を笑いながら優しくさする。
「もう、泣かないで下さい、あなた」
「ご、ごめん……」
「ほら、ケーキ入刀、致しますよ」
「うん……」
 鼻をすすりながら頷くヨハンは、まるで母親に諭される幼い子供のようだった。パトリツィアはそんな夫に微笑まし気に目を細め、ヨハンと手を重ね合わせてウェディングナイフを握り締める。
「別のヤツが掛け声しなきゃ締まらんだろう。俺が『入刀』って言ったらやれよ。一、二……ケーキ、入刀!」
 バルトロメイの掛け声と共に、新郎新婦はウェディングケーキにナイフの刃を押し入れた。それだけで、また泣き笑いのような表情を浮かべてしまうヨハンに、パトリツィアは心の底から幸せそうな笑みを零した。

●午後六時三十分
「皆さん、遠いところをお越しくださってありがとうございます。ほんのささやかなおもてなしではありますが、楽しんでいってくださいね」
 純白のベールを揺らしてパトリツィアが頭を下げ、ドイツ料理をビュッフェ形式で頂きながらの歓談が始まった。セレティアはちょこちょこと料理にフォークを入れながら、新郎新婦を見つめては熱っぽく息を吐く。
 セレティアにとってヨハンは近所に住む憧れのお兄さん的存在であり、パトリツィアは優しくて慎ましやかな理想のお姉さんである。
 そんな二人がタキシードとウェディングドレスを華麗に着こなし、仲睦まじく寄り添う姿はまるで一枚の絵画のよう。白馬の王子様のような美しい新郎と、真面目で一生懸命な新婦、本当にお似合いだと眺める度に思ってしまう。
 将来、自分もあんな風に素敵な花嫁さんになれる、という事をセレティアは毛の先ほども疑ってはいなかった。今日は黄緑色のワンピースに婚約指輪をしているが、これが結婚式の時には純白のウェディングドレスになり、指には結婚指輪が嵌り、可憐な花嫁の隣にはとっても素敵な旦那様が……
 幸せビジョンを二人の姿に投影し、セレティアは再びほぅと甘く息を吐く。そんなセレティアのすぐ傍では、杏奈が結婚にまつわる思い出話を披露していた。
「結婚記念写真を撮った時の事なんだけどね。写真を撮る時に霧人に抱きついて頬にキスをしてあげたら、この人顔を真っ赤にして気絶してしまったの。その時の写真がこれなんだけど」
「あ、杏奈! どうしてそれをバラすんだい!?」
 顔を真っ赤にして慌てる霧人に、杏奈はカラカラ笑いながらグラスの中身を傾けた。杏奈はお酒はかなり強い。とは言っても強いウイスキー等は好まずザルという程でもないが、結構なハイスピードで甘いカクテルを飲んでいく。
「お客様、ドリンクは」
「僕はジュースでお願いします」
「なんだ、飲まないのか」
 バルトロメイの言葉に「飲むと寝ちゃうんだ」と恥ずかしそうに霧人は首の辺りを掻いた。酒に強い杏奈と真逆に霧人は酒にめっぽう弱く、一滴も飲めない程の下戸であり、飲んだら即寝てしまう。
「いくらなんでも、今日は寝る訳にはいかないからね」
 霧人はジュースを一口飲み、それから目の前に置いておいた料理へと視線を落とした。食べ物の好き嫌いは特に無い。が、外国の見知らぬ食べ物を躊躇なく口に入れられる程肝が据わっている訳でもない。
 ドイツと言えばビール・ソーセージ・ジャガイモが有名だと聞くが、今霧人が見ているものはシュバイネハクセという骨付き豚スネ肉料理。どっしりとしたお肉の巨大さもさる事ながら、既に刺されているフォークとナイフがさらにインパクトを増している。その圧倒的存在感に思わず取ってしまったが……
 霧人は口を真横に結んだ後、刺さっていたフォークとナイフで肉を一口大に切った。そして恐る恐るといった表情で口の中へと放り込む。
 噛んだ瞬間、カリッカリの表面が香ばしく口の中で弾け、直後ジューシーなお肉の旨みが舌全体を潤した。美味しい! この感動を妻と娘にも伝えようと、霧人は巨大なお肉を持ち杏奈とルナに向き直った。

「お料理、とっても美味しいですね。真剣に選んだ甲斐がありました……」
 パトリツィアはグラーシュ……パプリカをふんだんに使ったシチュー料理を口にしながら、寄り添うように傍に立つ夫へと視線を向けた。「うん、本当に」、と頷くヨハンに、パトリツィアはふふふと笑う。
 普段はクールな立ち振る舞いをしているが、パトリツィアにも女の子の憧れというものはある。綺麗なドレスを着て、大好きな家族や友達といる。その状況に夢見心地で、パトリツィアは目を瞑ってヨハンの肩に寄り掛かる。
「パトリツィア、どうしたの?」
「ふふふ、ちょっと酔っちゃったみたいです」
 柔らかく笑いながら、パトリツィアは甘えるようにヨハンの肩に重みを預ける。ヨハンはパトリツィアの行動に驚きつつも、この時間を噛み締めるようにくすぐったそうにはにかんだ。

●午後七時
「皆様、七時となりましたので今からブーケプルズを行います。参加される方は前の方にお願いします」
 スタッフからの声掛けにセレティアの目がきらりと光った。ブーケプルズとはブーケに数本のリボンを付け、それをゲストが引っ張ってブーケを当てるイベントである。ブーケトスのくじ引き版、と思ってもらって差し支えない。
 セレティアはバルトロメイが何も言わないのを幸いとデザートに夢中になっていたが、ブーケプルズの一言に勢いよく前に躍り出る。
「やる! やります! 止める者は倒してでもやります!」
「アタシも、ブーケプルズをやってみたい!」
 並々ならぬ意欲を燃やすセレティアに引き続き、ルナは参加の意志を傍らの杏奈と霧人に訴えた。人形であるルナは体が成長する事はなく、どれだけ年月を経たとしても姿はずっと子供のまま。大人になる事には憧れているが、大人になれない自分が結婚する事はないだろう、そう考えている。
 けれど、そういった事は抜きにして、1つのイベントとしてブーケプルズをやってみたい。ワクワクと自分を見つめる娘に杏奈は優しく瞳を向ける。
「いいわ、行ってらっしゃい」
 杏奈に笑顔で送り出され、ルナは少し興奮した面持ちでリボンの一つを手に取った。
 一方、同じく目を輝かせ、ブーケプルズに参加したがるファニーは必死のヨハンに止められていた。
「ファニー。ファニーには結婚なんて、まだ早いだろう?」
「ファニーもやるのー。パパのいじわるー」
「ファニーも参加するの? いいわよ、素敵な人を見つけてね」
 妻の鶴の一声にヨハンの顔が青ざめた。娘がブーケプルズに参加したがるだけで戦慄なのに、その上「素敵な人を見つけてね」……? しかしそんなヨハンの心情など露知らず、母の許しを得たファニーはその場で元気に飛び跳ねる。
「ママ、ありがとう!」
「パ、パトリツィア!」
「いいじゃないですか、あなた。それにあんまり反対すると、『パパにいじわるされた』って拗ねられるかもしれないですよ?」
 微笑みと共に投げられた言葉にヨハンは一瞬想像した。「いじわるするパパなんて嫌い!」、とそっぽを向く娘の姿を。娘が結婚する姿など当然考えたくもない。が。
「す、拗ねられるのも、いやだな……」
 
「皆さん、リボンは取りましたか?」
「ちょ、ちょっと待って下さいね……」
 ルナ、ファニーが既にリボンを掴みスタンバイしている横で、セレティアはまだモタモタとリボンを決めあぐねていた。前に出るのはいの一番だが気合が入りすぎてしまい、リボンをすぐに選べない。
「き、決めました!」
「それでは皆さん、一斉にお引き下さい」
 セレティアは特に気合を入れ、渾身の力を込めて己がリボンを引っ張った。瞬間、ぽんとブーケが現れ、セレティアの手の中にブレる事なくぽすりと落ちる。
「セレティアお姉ちゃんにブーケが当たったー!」
 ファニーの声にきょとんと自分の手を見つめ、セレティアは「やりました!」と飛び上がって喜んだ。ファニーとルナは自分のリボンを両手に抱え、それぞれ両親の元へと戻る。
「残念、外れちゃったわね」
「うん。でも、楽しかったからいいの。それにこんなのついてたんだよー」
 ファニーはリボンの先を掲げパトリツィアの瞳に映した。ブーケプルズチャーム、ブーケが当たらなかったとしても幸せのおすそ分けを、と付けられるチャームである。「かわいい」とファニーはハート型のチャームを喜び、ヨハンは「娘の結婚式は当分見なくて済みそうだ」、と安堵に胸を撫で下ろす。
 と、顔を上げたヨハンの目に、ハンカチを目元に押し当てる婦人の姿が映り込んだ。婦人の傍には同年代の男性と娘と思しき女性が立ち、婦人は「良かった、あの子が幸せそうで」と呟きながら泣いている。
 彼らはヨハンの両親と実の妹だった。親たちとは他人同然で育ってきたので、気心の知れた友人とは違い、彼らといる時はお通夜より少しマシ程度の空気を漂わせていたものだ。
 けれど、息子の、兄の晴れ舞台に、嬉しそうな顔をしてくれている。その光景を目の当たりにし、ヨハンは小さく口を開く。
「……そっか。離れていても、家族だったんだね、僕たち」
 少し嬉しそうな、同時に何処か寂しそうな横顔をヨハンは見せた。そんなヨハンに躊躇いつつも、セレティアは持参した一枚のカードを差し出す。
「ヨハンさん、これどうぞ!」
 ヨハンが受け取ったそれは、押し花をたくさんコラージュした手作りのメッセージカードだった。「蓮は泥より出でて泥に染まらず」、という、結婚式にふさわしいのかよくわからないお堅いメッセージが書かれており、和紙を貼り付けて新郎新婦とファニーの絵が入っている。
「ご結婚、おめでとうございます! お二人ともすごくお似合いです。ヨハンさんもパトリツィアさんもファニーちゃんも、絶対お幸せになれます!」
 セレティアはそう言い切った。メッセージの内容は、不幸な新郎の半生を励ます意図で選んだもの。セレティアの傍に立ち、バルトロメイも友人を見つめる。
 バルトロメイは長らくヨハンの苦悩を見守っていた。理不尽に人生を奪われた不幸、古龍幇とH.O.P.E.の和解により振り上げたこぶしの降ろし処がなくなったことなど。
 それらについては、復讐を貫くにしろやめるにしろ、彼の人生の主役は彼自身なのだから、彼の納得するようにすればいいと思っていた。
 だが、何はともあれ、悩める青年のイメージの強い彼が、こうして幸せな日を迎えたことに胸の熱くなる思いでいる。
「おめでとうさん。立派な花婿さんだ。幸せになりな」
 セレティアとバルトロメイの言葉に、ヨハンは顔をくしゃりと歪ませ、「ありがとう」と、そう言った。

 霧人はヨハンの過去について全て知っている訳ではない。「古龍幇と色々あったらしい。だから永平とは仲が悪い」、その程度の認識だ。無理に仲良くする必要は無いと思っているが、過激な事はしないで欲しいと願っている。
 とは言え、それをヨハンに直接言うつもりはなく、少し離れた所からヨハン達を見守っていた。と、ふと思い付き、傍らに立つ杏奈に尋ねる。
「君も結婚式、してみたい……?」
 自分達は衣装を着て写真を撮っただけであり、結婚式は挙げていない。杏奈がどう思っているか気になったというのもあったし、霧人自身が「結婚式」というものに少し憧れているのもある。
 夫の問いに杏奈は少し考え込んだ。もし結婚式をやるとしたら、今日みたいにルナの髪を手ずから綺麗に結い上げて。ドレスは今の赤いドレスでも可愛いし、別のを選んでもいいかもしれない。そしてルナを間に挟み、霧人と二人で……
 その光景に憧れはありつつも、杏奈は首を横に振った。
「霧人とルナとずっと一緒に居られるならそれで十分かな♪」
「……そっか」
「さ、私達もお祝いを言いにいきましょう」
 杏奈は夫と娘の背を押し、リントヴルム夫妻の元へと足取り軽く歩いていった。杏奈はパトリツィアの手を握り、心からの祝福を述べる。
「お二人とも、おめでとう。パトリツィアさんのウェディングドレス姿、本当に素敵だわ」
「ありがとうございます」
「ヨハン君、パトリツィアさん、お幸せに」
「霧人さん、杏奈さん、本当にありがとう」

「おししょーさま、今日は来てくれてありがとうございます」
「こちらこそ、おマネキ頂きサンキューベリーマッチでござる」
 父親に倣い「おししょーさま」と呼びながらお辞儀をするファニーに対し、ガイルもファニーに負けないぐらい深々とお辞儀した。その片隅ではセレティアが、食べきれない量の料理にわずかに顔をしかめていた。
「バルトさん、これ食べてもらっていいですか?」
 突き出された皿の内容にバルトロメイは視線を落とした。セレティアは偏食はないが小食である。デザートは別腹だが、デザート以外に関しては「食べきれない」という事もある。
 普段のバルトロメイはセレティアに対し厳格で、炭水化物減蛋白質増を強制してくるのだが……今日はヨハンの晴れ姿に感動しており監視が甘い。デザートをこっそり取られても気づかないし何も言わない。だから今日はこの調子で大目に見てもらえるかも……
 期待を向けるセレティアの前で、バルトロメイは炭水化物類は取りお肉類は突っ返した。愕然とするセレティアに、セレティアへの過保護ゆえバルトロメイは無情に告げる。
「お肉食べろ」
 
 賑やかな会場をヨハンは静かな瞳で眺めた。ヨハンの肉親と、本当に親しい人たちだけを招いた温かく気軽な宴。こんな日が来るなんて昔は思ってもみなかった。遠くを見つめるようなヨハンの腕を、パトリツィアが優しく取る。
「あなた」
「……うん」
 過去の日々より今この時を、ヨハンは青い瞳に映した。この先何が待ち受けているのか、それは誰にも分からない。
 けれど今は噛み締めよう。
 今日の善き日を。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【ヨハン・リントヴルム(aa1933)/男性/24/新郎】
【パトリツィア・リントヴルム(aa1933hero001)/女性/16/新婦】
【セレティア(aa1695)/女性/11/御友人】
【バルトロメイ(aa1695hero001)/男性/30/御友人】
【世良 杏奈(aa3447)/女性/26/御友人】
【世良 霧人(aa3803)/男性/28/御友人】
【ルナ(aa3447hero001)/女性/7/御友人】
【ファニー・リントヴルム(aa1933hero002)/女性/7/新郎新婦御息女】
【ガイル・アードレッド(az0011)/男性/21/新郎の師匠】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 こんにちは、雪虫です。この度は結婚披露宴という大切なお話にご指名下さり、誠にありがとうございます。
 ドイツの結婚披露宴について調べた所結構フリーダムだそうなので、ご要望と合わせる形でアレンジを加えました。PC様の口調、全体的な雰囲気、その他齟齬がございましたらリテイクをお願い致します。
 ガイルも呼んで下さり、本当にありがとうございます。皆様の今後に幸多からん事を、心よりお祈り申し上げます。
イベントノベル(パーティ) -
雪虫 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2017年07月24日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.