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『 晴れ間と雨と日常と 』
スノー ヴェイツaa1482hero001


 ざぁざぁと、しとしとと、ぱらぱらと、日によってまちまちではあるが、この時期は雨がたくさん降る。ちょっとした晴れ間に出かけても、ふとした空の気まぐれで、曇り空を見ることなく急激に雨空になることもある。

 この日、久々に晴れ間を見つけて、今のうちに出かけてしまおう――そう言い出したのはウィンター ニックスの方だった。久々に傘を持たずに出かけられるのが嬉しいのか、それともただ単に久々の晴れ間が嬉しいだけかは分からないが、まあいいか、とスノー ヴェイツはその提案に頷いた。
 ふたり揃って街へと繰り出す。手を繋いだり腕を組んだりはしないが、ふたりの間には独特の距離感があった。並んで歩く時のその距離感は、新婚夫婦というよりも長年連れ添った夫婦のようで。実際このふたりの間に恋愛感情があるかどうかといえば、それはウィンターの方が強く、スノーに関していえば恋愛感情ではないが共にいて悪くは思わない、そんな感じだった。

「これからどうすんだ?」
「そうだなぁ、夕飯の買い物をするのはどうだ?」
 いつも寄る店で遅めの昼食をとった後、尋ねて食後の飲み物を口に含んだスノーは、返ってきた答えに思わず目を見開いた。たった今、昼食を取り終わったばかりなのに――だが。
「悪くはねぇ提案だなァ」
「だろう?」
 食べることが大好きなスノーにとって食事は大切なもので。腹は満たされていても次の食事のことを考えるのは苦ではない。ウィンターはそんな彼女の反応に、にかっと笑ってみせた。スノーを好いているウィンターとしては、恋愛的な手応えは薄いのに食べ物に関する手応えはしっかりあることに多少物申したくもなるが。
(それはそれでスノーらしいと思うんだよな)
 結局のところ許せてしまうというか、受け入れてしまう。これが惚れた弱みというものだろうか。
「行くぜ」
 コップに残っていた飲み物を一気に飲み干したスノーが立ち上がる。ウィンターもそれを追うように立ち上がり、ふたりで店を出た。



「……、……」
「……これはすごいな」
「こうなる気が薄々してたんだよなァ……」
 半ば呆然と、ふたりは「それ」を眺めていた。


 飲食店を出たふたりは、食材を売る店が並ぶ通りを並んで歩いた。何を食べようか、に始まり、珍しい食材を見つけては試してみようかと手にとってみる。店の人に調理方法を聞いて、物は試しと少量購入した。ふたりの好物が特売だとすれ違ったおばさんの会話から拾ってウィンターが駆け出したのを、スノーは「おぃ、待てよ」と言いながらも仕方がないなぁとため息をついては優しい表情で追いかけた。追いかけてやらねば、ウィンターは品物を確保しても店から出てこれまい。財布はスノーが所持しているのだから。
 そして気がつけば、夕飯の食材にしては多すぎるくらいの食材が集まっていた。
「こんなに買い込むのは今日だけだぜ。保存の効くものは明日以降に使おうな」
 普段は一食分として、こんなにたくさん買い込んだりはしないのだが。
(オレも久々の晴れ間に浮かれちまったかァ?)
 あまりにも楽しく時が過ぎていくものだから、つい、つい。けれどもだからといって、購入した食材を無駄にするようなことは許せない。
「あの肉は今夜食べないと駄目だろう?」
「そうだなァ」
 ウィンターとふたり、買ったものを脳内に思い浮かべながら、ああでもないこうでもないと言葉を交わしていたその時。

 ――ぽつ……。

 初めは気のせいかと思ったけれど。

 ――ぽつぽつぽつ……。

 気のせいか、と思っているうちに落ちてくる大量の雫。これはもう、気のせいじゃすまない!!
「ウィンター、雨だ!」
「スノー、こっちだ!」
 ぐい、ウィンターに腕を引かれてスノーも走る。通りでは突然の雨に慌てる者が多く、けれども中には冷静に持ってきていた傘を開いて、悠然と道を行く者もいた。
「ここで雨宿りをさせてもらおう」
 ウィンターがスノーを連れ込んだのは、近くにあった商店の軒先だった。スノーが軒先に入ったことを確認して、彼がそう告げた直後。

 ――ざあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 ぽつぽつだった雨が、突然バケツを引っくり返したような雨に変化したのだった。
「……、……」
「……これはすごいな」
「こうなる気が薄々してたんだよなァ……」
 突然の豪雨に一瞬言葉を失いかけたが、よく考えれば雨が多い時期だ、突然の気候の変化も不自然ではない。先程の晴れ間は本当につかの間の晴れ間だったわけだ。これからまた、雨の日が続くかもしれない。
 この晴れ間に出かけよう、そうウィンターに提案された時、スノーは迷ったのだ。傘を持っていくかどうか。また、突然雨模様になるのではないかと思って。けれども結局傘を持たないで出てきてしまい、いつのまにやら自分も久々の晴れ模様を楽しんでいた。
(これじゃウィンターだけを責めるわけにはいかねぇな)
 ため息をついて、スノーは買い物袋を足元に置き、懐から取り出した手巾で灼熱色の髪についた水滴を丁寧に拭き取っていく。
「お前は良いよな、毛並みを整える必要ねェもんな」
 横目で若干湿ったままの髪をそのままにしているウィンターを見やる。
「おっと、濡れた毛並みも、しっとりと美しさに磨きのかかる美しい毛並みだと思うぞ」
「んな事言って、この間オレの隠してた菓子食ったの許してねェからな」
 そのお世辞じみた言葉に秒で反撃できるのは、彼の性質を熟知し、慣れているからだろうか。
 何故だろう、いつも五月蝿いと思っているのに、結局のところウィンターに強く言うことができないのは。
「名前を書いて無いのがいけないねぇ……ま、その分エスコートさせてくれな」
「エスコートねェ……」
 女慣れしている彼に、スノーは慣れてしまっている。別に他の女性にも同じように慣れた調子で接していても、ヤキモチを焼いたりはしないのだが、彼といると、何となく落ち着くというか、話していて心地が良いと思う。
(……不思議な奴)
「エスコートよりもまずはこの雨ン中どうやって帰るか考えねェとなぁ」
「きっとすぐ止むと思うぜ」
 根拠はないがなんとなくそんな気がする、ウィンターの告げた言葉に、スノーは「止むといいがなぁ」と呟いて、手巾を再び動かす。
(んー、やっぱ好きだなぁ)
 そんな彼女を隣から見下ろすウィンターの頭に浮かぶのは、暖かな気持ち。スノーの反応は相変わらず薄いけれど、こうしてそばにいると、彼女をじっと見つめていると、改めて想いが強まるのを感じる。
「あー、湿気で手入れが面倒でならねぇ」
 髪を拭き終わった彼女が、毛先をいじりながら呟いた。ウィンターとしては、多少毛並みが乱れていようとも、彼女の魅力が減ることはないと思っているのだが、さすがにそうはいかないのだろうか。
「じきに晴れの日ばかりになるさ。そしたら」
「? そしたらなんだ?」
「湿気のせいで余計にかかっている毛並の手入れ時間分、俺にエスコートさせてくれな」
「ハッ……何いってんだか。どっかで傘でも買って帰るか?」
 ニコニコ笑顔でウィンターがした提案は、一笑に付されてしまった。まあ、手応えが薄いのはいつものこと。そんなことで落ち込んだりはしないが。
「そろそろ止むんじゃないか?」
「ウィンター、その自信はどこから出てくるんだ?」
「向こうの空が明るいからだな」
「ん?」
 彼が指した方をスノーも見れば、建物の向こうの空のがうっすらと明るい気もする。ウィンターのほうが背が高い分、もっと色々なものが見えているのかもしれない。
「じゃあ、お前を信じてあと少し待つか」
「サンキュ」
 ざぁざぁと強く降っていた雨が、少し勢いを弱めた気がする。
 ふたりの間には、特に会話はないけれど、雨音に耳を傾けると、一緒に風景に溶け込んでしまったようで、なんだか心地よい。
「……なぁ、ウィンター」
「ん?」
 雨粒を眺めていたスノーが、視線を固定したまま沈黙を破った。
「夕飯の肉、お前の分を少し分けてくれんなら、菓子食ったの許してやってもいい」
「わかった。じゃあエスコートさせもらおうか」

 空を見上げれば、明るい夕空が雨雲を押しのけて、近づいてきていた。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa1482hero001 / スノー ヴェイツ / 女性 / 20歳 / ドレッドノート】
【aa1482hero002 / ウィンター ニックス / 男性 / 27歳 / ジャックポット】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お時間を多めに頂いてしまい申し訳ありません。
 初めて書かせていただくので、ドキドキしながら試行錯誤させていただきました。
 不明点はおまかせとのことでしたので、お二人の日常の一幕を、こんなふうに過ごしていらっしゃるのかなと想像しながら書かせていただきました。
 少しでも、お気に召すようなものになっていれば幸いです。
 この度はご依頼、ありがとうございました。
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2017年07月21日

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