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『●ふぁっしょん! 』
クィーロ・ヴェリルka4122


「おい、クィーロいるんだろ! 俺だ、俺!!」
 だん! だん!! だん!!! とクレッシェンドするように叩かれ、簡素な木の扉が大きく揺れる。
「そんなに音を立てなくても聞こえるよ……どうしたの?」
 クィーロ・ヴェリル(ka4122)はそれが誰だかわかってためらいなく扉を開けると、ずいっと眼前に差し出されたのは酒瓶が入った買い物袋。
「メシ、食わせて♪」
 その袋の向こうから、ニコリと笑った神代 誠一(ka2086)を見て、クィーロは「はぁ」と諦めのため息のような、気の抜けた肯定の返事のような声を返したのだった。

「お。食料だけは充実してんなー……あ、これ食いたい」
 生活に必要最低限の家具しかないような簡素な部屋だが、まるで「食べて☆」と言わんばかりに吊られている干し肉を手に取って誠一が強請る。
「それはまだ早いから……こっちにあるの出す」
「お、ありがと。あ。あとチーズも欲しいなー」
「……はいはい、後でね」
「やったー」
「暇なら、風呂行ってきたら?」
 その提案に誠一は一瞬頷きかけて……ふと既視感を覚えて首を振った。
「あー……いや、こっちで待つよ」
「……? そう?」
 クィーロが調理している間、誠一は一抱えほどの大きさのクッションにもたれながら買って来た本を読み、酒も飲まず大人しく待つ。
 おおよそ45分後。部屋中に肉と野菜の煮込まれるいい香りが充満し、誠一の胃袋が限界を迎え、きゅるると切ない声を上げた頃、「お待たせ」という声と共に料理が到着した。
 大皿の中にはチキンと夏野菜のトマト煮が美味しそうな湯気を立てている。
 他にもサラダとパンとポテトフライがそれぞれ小皿で運ばれて来て、ようやくクィーロが席に着いた。
「おー、美味そう! じゃ、乾杯」
 2人はカップを合わせて、エールを一気に呷ると料理へと箸を伸ばした。
「ん。んまい」
 チキンは口の中でほろほろとほぐれ、よく煮込まれたトマトの旨味と野菜の甘みが絶妙なハーモニーを生み出している。
「たまには誠一も料理をしたらどうだい? カップ麺ばかりじゃなくてさ……」
「馬鹿言え、あんな便利なもんねーって」
 アレはアレで良い物だ。お湯さえあれば簡単に腹を満たせる。ゴミも最小限。独り身になんて優しい食品だろうか。
 凄い勢いでトマト煮をパンと共に喰らい、サラダの皿を空ける誠一を見ながらクィーロは呆れつつも微かに笑って酒のアテとして準備していたチーズと干し肉を取りに行く。
「そうそう、今日さ、服買いに行ったんだけど……」
 誠一の話しに相づちを打ちつつ、時折2人で笑い声を上げながら、酒を酌み交わす。



 気がつけば誠一が持ち込んだ500mlのエール瓶6本はとっくに空になり、クィーロがストックしていた蒸留酒へと手が伸びていた。
「なー、今日泊まって行ってもいい?」
「……僕は構わないけど」
 夜も更け、酔いが程よく回って帰るのが面倒臭くなったんだな、と察したクィーロは、アテの干し肉を囓りながら了承する。
「なー、寝巻き貸して」
「……後ろの箪笥の一番下に入ってるから適当に取っていいよ」
 そう言いつつ、クィーロはアテの追加を取りに行くついでに空瓶を片付けに立ち上がり台所へと入っていく。
 誠一はクィーロの背中を見送って、一番下の引き出しを開けた。
「……?」
 酔いが回りすぎたのだろうかと誠一は眼鏡を外し、目を擦った。
 そしてもう一度、箪笥の中を覗く。

 ……どう見ても同じ色の同じ生地の同じ服と思われる布が綺麗に畳まれていくつも入っている。

 一番下、と聞いた気がしたが、実は違ったのかも知れないと、その上の引き出しも開けた。

 ……やっぱりどう見ても同じ色の同じ生地の同じ服と思われる布が(以下略)

「……え? どういうこと?」
「何? どうしたの?」
 台所から戻ってくれば、何やら箪笥を開けて途方に暮れている様子の誠一に首を傾げつつクィーロは問う。
「体格も変わらないし、どれも誠一が着られないということは無いはずだけど」
「いや、そうじゃなくて」
 そう言ってクィーロを見て誠一は固まった。

 ……そういえば、この友人が違う服装をして来た事が無い気がした。

「……あの、クィーロさん。つかぬ事をお伺いしますが」
「何だい?
「上の段と下の段と同じ服に見えたんですが……?」
「そうだよ」
 さらりと返されて、愕然と誠一はクィーロを見る。
 当のクィーロは誠一の横に来ると、一番下の引き出しからひとセットの服を取り出した。
「多分これが一番着慣れてて柔らかいと思うんだけど……あぁ、こういう時は新品を出すべきなのかい?」
 そう言って、一番上の引き出しから取り出したのは、やっぱり同じ布。
「クィーロ、おま……たまには違う服とかさ……あ。そうだよ、これ着てみろよ!」
 誠一が這うようにして、自分が座っていた席の傍に置いていた鞄を引っ張り寄せた。
 鞄から取り出されるのは今日買って来たばかりのロング丈の白Tシャツに紺地の七分袖のリネンシャツ、くるぶし丈の黒のスキニーパンツ。
「え? 僕が誠一の服を着るのかい? こういう服は着た事がないからなぁ……」
「いや、リアルブルーでは一般的な服だよ?」
「……そう、なんだ……」
 Tシャツを手にクィーロは誠一を見る。
 今日は紺のサマーニットに白のチノパンという爽やかな好青年の服装だが、クィーロにはその服装にも、今手に取ったTシャツにも何の感慨も抱けない。
 どうやら自分もリアルブルー人らしいのだが、誠一とは違う国の人間だったのだろうか。
「まぁ、着てみようぜ」
 誠一の笑顔に押され、クィーロは頷くと、纏っていた布から袖を引き抜いたのだった。



 お互いに相手の服の着方がわからず、結局男2人がお互いに着付け合うという良くわからない状況に笑い転げながら、着替えが完了した。
「服っていうより、これ……布だよな」
 茶色い上着の端を軽く振りながら誠一が感想を漏らす。
 何より、胸部から腹部まで素肌を晒しているというのが少し気恥ずかしい。
 クリムゾンウェストに来て以来、(半強制的に)身体を鍛える日々のお陰で教師生活をしていた頃よりは締まった身体になっているとは言え、この服装で今から買い物に行け、と言われたらちょっと抵抗を感じざるを得ない。
「これはなんだか……窮屈な感じだよ……」
 七分袖の袖をまくったり、下ろしたりしながらクィーロが少し眉を寄せた。
「あー……スキニーだからなぁ。そりゃあ、窮屈かもな……」
 ほぼ同じ体格とは言え、誠一よりもややクィーロの方が筋肉質である分、太腿周りが少し窮屈そうに見えた。
 ロングTシャツも、裾が股上まであるとはいえ、フィット感重視で買ったサイズなので、普段の布を纏っているだけの“だぼっと感”は全く無いだろうと誠一は自分の格好と比較して気付く。
「うん。でも、似合ってるよ」
 今回、もちろん自分用に買った服だが、引き締まった身体のシルエットを重視したコーディネートはクィーロにも当然よく似合っていた。
 素直な感想を口にすれば、クィーロは照れくさそうに笑う。
「……そうかい? なんだか落ち着かないんだけど……誠一も、良く似合っているよ」
「そう? 俺も全く落ち着かないんだけどな」
 名称がわからないこのだぼっとしたズボン(なお、「すごいカボチャパンツ」と言ったら流石にクィーロの顔が険しくなったのでどうやら違うらしい)を膝蹴りしたり、伸ばして中段蹴りをしたりして踊らせながら、誠一も笑う。
「でも動きやすくないかい?」
「うん。それは認める。けど、露出が多すぎて落ち着かないかな」
 胸から下腹までをさすり、誠一は唇をとがらせてみせる。
 そう言われて、クィーロが視線を誠一の胸部から腹部へと下ろし……合点がいったというように頷いた。
「……あー……スペアタイヤが……」
「ない。ビール腹でもなければ、三段腹でもないし、浮き輪も付いてない」
「でも、お腹出て……」
「これは、今、お前のメシを食って飲んでたからだ!!」
 腹部に力を入れて引っ込めつつ、誠一が反論する。
「……サラシ巻く?」
「巻かない!」
 誠一はむすっと頬を膨らませて、どっかりと座り込むとコップの中に残っていた蒸留酒を一気に呷った。
「ごめんごめん、怒った?」
「……腹が出ているとしたら、お前のメシが美味いせいだからな」
 手酌で蒸留酒を注ぐ誠一を見ながらクィーロは笑った。
「……そうだね、僕が悪い、僕が悪い」
「……お前、絶対そう思ってないだろ」
 手料理を振る舞った者として『お前のメシが美味いせい』と言われれば、悪い気はしない。
「じゃぁ、お詫びに、とっておきの干物とドライフルーツがあるんだけど……いる?」
「……いる」
 酔いが回っているせいだろうか。普段より子どもっぽい反応を見せる誠一にクィーロは笑みを零しながら「はい、ではただいまお持ちします」と恭しく一礼をしてみせる。

「こんどいっしょに買いもの行こうぜー。俺が服えらぶからさー」
「いいよ。僕はこの服装が気に入っているんだ」
「えー? せっかくいーカラダしてるんだから、もったいないよー」
「……主張の意味がわからないよ?」
 日付が変わり、さらに酒が回ってかなりろれつが妖しくなってきた誠一に対し、付き合うクィーロは顔色1つ変わっていない。さすがうわばみ。
「もー。なんだよー。馬鹿ーいけずー」
 ごろんと床に横になった誠一を見かねてクィーロがコップを置いた。
「誠一飲み過ぎ。寝るなら布団行こ」
 膝を付きながら誠一に近寄ると、既に誠一は健やかな寝息を立てている。
「もう、しょうがないなぁ」
 テーブルの上を片付けると、テーブルを部屋の隅へと寄せた。
 掛け布団を誠一にかけようとして、自分の服を寝巻き代わりに着ている誠一を改めて見る。
 誠一が部族の格好をするのはなんだか変な感じだが、似合っている、と思ったのは嘘じゃない。
 そして誠一の服を着た自分に対し『似合ってるよ』と言ってくれた誠一の言葉も嘘じゃないのだろう。
「着てた……の、かな……」
 クィーロにはリアルブルーの記憶はない。
 いつか、記憶が戻ったときにこういった服も違和感なく着られるようになるのだろうか。
 そう考えて、クィーロは緩く首を振った。
「おやすみ、誠一」
 布団を掛けて、ランプを吹き消した。

 2人とも、朝までなんの夢も見なかった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka4122 / クィーロ・ヴェリル / 男性 / 25 / 古き良き民族衣装系男子 】
【 ka2086 / 神代 誠一 / 男性 / 32 / 流行りのメンズ服着こなし系男子 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はご依頼いただき、ありがとうございます。葉槻です。

 大変お待たせしてしまって申し訳ありません。
 かなり私の妄想を爆発させた結果となっておりますので、「コレジャナイ」感ありましたら申し訳ありません。
 ……大丈夫だよ、お腹いっぱいご飯食べたら普通はお腹が出るんだよ(弁解)

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。

 またファナティックブラッドの世界で、もしくはOMCでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。
■イベントシチュエーションノベル■ -
葉槻 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2017年07月24日

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