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『散らされる為咲き誇る華 』
黒の貴婦人・アルテミシア8883)&紫の花嫁・アリサ(8884)

 ぱたん。

 紫の花嫁・アリサ(8884)の後ろで扉が閉まる音がする。

 その部屋、二人の為の寝室の中には、甘い香りが立ち込めていた。先ほどまでいた教会と比較するのもバカらしい程に濃度の濃い香りにアリサは頭がしびれるような感覚を覚え一瞬ふらついた。

 部屋の主、黒の貴婦人・アルテミシア(8883)はアリサのその様子にほんの少しだけ目を細めながらそっと腰に手を回すと耳元で甘く囁いた。

「私の可愛い花嫁さん」

 命ずるような口調でありながら、さん付けでアリサを呼ぶアルテミシア。
 揶揄う様なその声にアリサはちらりとベッドへ視線をやってから、無言で大きな姿見の前に歩を進める。

「この姿もとても素敵よ。でも……」

 言葉を遮るようにアルテイシアの指がパチンと音を立てる。

「あっ……」

 先に声を上げたのはアリサだった。
 足先さえ隠していた黒紫のドレスは、糸が解けるように空気に溶け、胸元や太ももを露にする。

 もはやベビードールと言う表現が相応しいだろうその衣装に、高貴さはなく、アリサをふしだらな娼婦として鏡に映し出す。

「この方が相応しいと思わない?」

 甘い囁きとともに耳に感じる吐息、そして唇が触れる音。

「……はい」

 ぞくぞくっと駆け上がる快楽にアリサは小さく体を震わせた。

 鎖骨をなぞるようにアルテミシアの指が動けば、衣装と同じレースで作られたチョーカーが、太ももに手が伸びればガーターリングが現れる。
 アルテミシアに瞼や唇に口付けられ、吐息を浴びたアリサは、蠱惑的なメイクが施されていた。

「アルテ……」

 苦しい程におあずけをくらっているアリサの瞳が離れていくアルテミシアの唇を恋しそう見つめる。
 その様子にクスクスと笑いながらアルテミシアは口を開く。

「自分の姿を見なさい。さっきよりずっと淫らで綺麗よ?」

 甘く囁く艶めかしいアルテミシアの唇とその向こうに写る黒い髪の娼婦の姿。白い肌は上気しほんのりと桃色に染まり、長いまつ毛の間から見える愛欲に濡れた瞳が鏡越しに誘ってくる。

「欲しいならちゃんと口にしなさい。今宵は、使徒でもなく花嫁でもない、純粋な娼婦になることを許してあげるわ」

 囁きと共にアルテミシアの吐息がアリサにかかる。
 この部屋の中よりも、もっと甘い香りがするその吐息を吸い込み飲み干したアリサ。

「あ……」

 次の瞬間、思考から淫欲以外の全てが零れ落ちていく。アルテミシアへの崇拝や忠誠心が淫欲に塗り替えられていく。

「あら?聞こえてないみたいね」

 思考の急激な変化のせいか次の言葉が出てこない花嫁にアルテミシアは首をすくめ部屋を後にした。
 
 ***

 婚礼衣装を脱ぎ、傅かれる女王にふさわしい衣装に袖を通しながら、この後、部屋にどんな光景がひろがっているのか、アルテミシアは想像する。

 わずかばかり残っていた理性を保ち花嫁のままの姿か、官能に支配され娼婦へ堕ちた姿か、
 前者ならばその理性を自ら塗りつぶさせればいいだけのこと。後者なら……

「私だけの娼婦として契ってあげるわ」

 ***

 寝室に戻ると、アリサが天蓋付きのベッドにしなだれかかっていた。

「アルテミシア様……」

 甘い吐息と声が唇から漏れ、肌の触れ合いを求め伸ばす手の仕草も艶めかしい。

「あら、どうしたのかしら」

 そう尋ねながらアルテミシアがその手を取る。

「もう……我慢できないんです。アルテミシア様……」

 指先に口付けを落とすアリサ。
 体をくねらせ熱っぽい視線を向けるその姿は熟練の娼婦だ。

「欲しいものがあるなら……分かるわね」

 アリサの元に合った指を引き、そのまま自分の唇をなぞるアルテミシア。

「……意地悪」

 少しすねたような表情で呟くと、己が主の頬へ触れ耳元に甘い息と何事か言葉を吹きかける。

「まったく……私の娼婦がそんなに欲張りだなんて知らなかったわ」

 やれやれと言った口調のアルテミシア。しかし、その口元には満足そうな笑みが浮かんでいる。

「アルテミシア様だから……」

 最後まで言い終わる前に、アリサがアルテミシアの唇に唇を重ねる。
 一度では足りないとばかりに何度も重なるそれは徐々に熱を帯びて深くなっていく。
 そのたびに聞こえる水音は鼻にかかったような声と相まって、部屋の淫猥な香りを余計に強くしていく。

「他の者に興味なんてありませんもの」

 水音の合間に聞こえるのはアリサの言葉。
 その声はここにいない何者をも見下し侮蔑しているようにも聞こえる。

「花嫁も素敵だったけれど、娼婦も素敵よ、いやらしくて」

 手指に、足に、胸に、全身に奉仕を受けながらアルテミシアはそう言って微笑む。
 その瞳は熱を帯び、アリサの手管が彼女を昂らせていることは明白だ。

「ありがとうございます」

 礼を述べ微笑み返しながらも奉仕の手を止めない娼婦に主人は尋ねる。

「褒美に何がいいのかしら。さっき強請ったモノのうち一つ選びなさい」

「……全部、がいいです」

 予想以上の答えにアルテミシアの目が少しだけ細められる。

「……いいわ。特別に許してあげる」

 腕を引き、自分を押し倒させるような形で倒れこんだ先はベッド。

「あっ、アルテ……ミシッ……様っ」

 肌に唇を寄せるアルテミシアの頭を抱え込むように快楽に身を委ねるアリサ。
 そのまま唇を滑らせ支配を意味する場所へチュッと強く吸い付く。アリサの嬌声とともにそこには黒い薔薇が咲く。
 娼婦としての契約印として彼女の体に刻まれたのだ。

 ***

 水音は何度も交わされる口づけの激しさを二人の耳にはっきりと伝え、吸い付くような相手の肌の感覚と相まって快楽を高めていく。

 黒と黒紫。
 二輪の薔薇は、数多の不幸の蜜を吸い、大輪の花を咲かせては、互いにその花を散らす。
 どちらかが枯れ果てるまで、永遠に。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8883 / 黒の貴婦人・アルテミシア / 女性 / 27歳 / 支配の黒薔薇 】

【 8884 / 紫の花嫁・アリサ / 女性 / 24歳 / 官能の黒紫薔薇 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 アルテミシア様、アリサ様、今回もご依頼ありがとうございます。

 今回は花嫁としてではなく娼婦として。ということでしたので、そういう雰囲気が出そうな衣装を用意させて頂きました。如何だったでしょうか。

 お気に召されましたら幸いですが、もしお気に召さない部分がありましたら何なりとお申し付けください。

 今回もご縁を頂き本当にありがとうございました。
 またお会いできる事を心からお待ちしております。
東京怪談ノベル(パーティ) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年07月24日

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