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『 暖かく柔らかな時間を 』
齶田 米衛門aa1482


 開け放った窓から差し込む光が、部屋の白い壁を照らしている。シェアルームの談話室のようなそこは、普段置かれている会議用のテーブルや椅子を隅に寄せて、広く使われていた。
 その広くなった空間できゃあきゃあ、わぁわぁと嬌声を上げているのは齶田 米衛門や真壁 久朗の友人たち。彼らは米衛門の作ったスイカでスイカ割りに興じていた。その楽しそうな声を聴くと、自分の作ったもので喜んでもらえていることが嬉しくなる。尤も、一番嬉しいのはやはり、食べてもらって美味しいと言われることなのだが。

 仲間たちの光景を振り返って笑みつつ、米衛門はテーブルへと視線を戻した。
 白いテーブルの上にはスイカだけでなくぶどうやりんご、さくらんぼなども乗っている。そしてそのテーブルの横、椅子を逆向きに置いてその背もたれにより掛かるようにして座っているのは久朗。テーブルに肘をついて手を組み、そこに顎を乗せて穏やかな表情をしている。

 ざくっ……ざっ……。

 まあるく大きなスイカに包丁を差し入れる米衛門。ぐっと一度力を入れ、そして瞬く間にパカンと二つに割れるスイカ。明らかに手慣れているその動きに、久朗は感嘆の声を漏らした。
「……手慣れてるな」
「んだなぁ、作ったもんを美味くするってのは生産者の特権だべ。美味しくなる切り方も知っとらんとなぁ」
 米衛門は米農家であるが、その傍ら野菜も作っている。そして誰よりも、自分の作ったものに誇りを持っていた。きっとそれは、大小あれ、どの生産者でも同じなのだろう。
「これを……どうするんだ?」
 半分に割れたスイカ。それに視線を向けた久朗が問うと、米衛門は包丁の横に置いてあった小さめのアイスクリームディッシャーを取り出して。
「こうするんだべ」
 スイカの赤い部分にデッシャーを差し込み、くるんと回した。そしてその中身を別の皿へと取り出す。取り出されたそれは、綺麗な球体をしていた。
「……上手いもんだな」
「これをたぁくさん作って、他の果物も使って、フルーツポンチにするッス」
 くるん、くるん、米衛門がディッシャーを繰ると、ころころと可愛い赤い球体が生まれていく。久朗にはそれがまるで魔法のように見えた。
「……、……」
 米衛門の手元を見ているとなんだか楽しく、ずっと見ていられる気がした。彼が作物を育てることだけではなく調理も上手いのは、経験の積み重ねだろうか。
「じいちゃんばあちゃんが農家ッスからね、作ったもんを美味しく食べる方法も色々見てきたッス」
 最初は自家製の作物を調理したものを食べさせてもらうことで味を知り、次に作り方を学び、次第に自分で作るようになり、そして自分で美味しい調理法を考えるようになったのだろう。『作ったもんを美味くするってのは生産者の特権』、そう断言する米衛門には、それだけの積み重ねてきたものがあるのだろうと感じさせられた。
「親戚……とは仲、良かったのか?」
 農家の作業は人でも手間も時間も必要とする物が多いことは久朗にもわかる。血縁者や近所の者と協力して、助け合って作業をすることもあるだろう。ゆえに――いや、それだけではなかったが――久朗は少しだけ、どこから触れていいのか迷いつつも口を開いた。
 けれども小さな迷いと心配は杞憂だったようで。予想より明るく、いつものように米衛門は返す。
「仲は良いッスな! 兄弟もいっぺで喧嘩はしたども他愛ないもんばっかだで」
「……そうか」
 久朗は自分の幼少時をチラ、と思い浮かべる。親戚に冷遇された過去があるものだから、『親戚』という言葉を発するのに少しだけ戸惑いがあった。けれども今は、米衛門が親戚と仲がよく、楽しそうにその話をするのを見て、良かったな、という思いが湧いてきた。彼が楽しそうに親戚や兄弟たちの話をするのを、久朗は穏やかな表情で聞いている。
 スイカ割りを楽しむ友人たちの声をはバックグラウンドミュージック。親戚との思い出を語る米衛門はメインソリスト。その『演奏』を聞いている間にも、くるんくるんと米衛門の手元から赤い球体が生まれ続ける。

「よし、スイカはこれでいいッスな」
 赤い球体が皿に大量に積まれる頃には、半分に切ったスイカの中身は当然のごとくほとんどなくなっていて。けれども完全に赤い部分がなくなったわけではないそれを、米衛門が捨てるはずがないのは当然のこと。
「ちょいと待ってて欲しいッス」
 そう告げて米衛門は食器棚へと向かうと、綺麗な模様の入った硝子の器を手にして戻ってきた。何が始まるのかと久朗は彼の動きを黙ってみている。
「まだまだ食べるところはたくさんあるんだべ」
 米衛門はディッシャーでスイカの内側を撫でるように削いでゆく。そしてたまったそれを、果汁とともに硝子の器に盛った。
「……ほう」
「スプーンで掬って食べればいいッス」
 もみじおろしのようなそれはスイカのシャキシャキ感こそ失われているかもしれないが、味には遜色ないはずで。
「つくり手としてはやっぱり無駄なく最後まで食べて欲しいッス」
「……それはそうだな」 
「皮も食べられるッスよ?」
「……そうなのか?」
 てっきり捨てるしかないものだと思っていたスイカの皮が食べられると聞いて、久朗は少し表情を動かした。
「漬物にするんだべ。浅漬けでもピクルスでも美味いッスな。この皮も、あとで漬物にするッス」
「……では、後日を楽しみにしていよう」
 久朗のその言葉で、米衛門が笑顔に変わる。
「今日はフルーツポンチを食べてってほしいッス!」
 スイカの次は林檎の皮を丁寧にむいて食べやすい大きさに切って。ぶどうや皮を剥いたオレンジやキウイ、そして先程くり抜いたスイカの珠を、綺麗にくり抜いたスイカの皮に盛る。スイカの皮が器になるわけだ。そこにサイダーを入れてさくらんぼを飾れば、フルーツポンチの出来上がり。好みで他のフルーツやゼリーや寒天を入れてもいいと米衛門は言う。
「……色とりどりで綺麗だな」
「やっぱり料理は目で見て楽しむ要素も必要だと思うッス……なんて、ワシは簡単なもんしかつくれねぇッスけど」
「……充分だと思う」
 久朗は先程米衛門がこそげ取ったスイカが盛られた硝子の器に手を伸ばす。
 赤い新雪に踏み込むようにスプーンを差し込んで掬う。そのまま口に含めば、スイカの瑞々しくさっぱりとした甘みが口の中に広がる。
「……ん、美味いスイカだな」
「! そうだべ!?」
 久朗の賛辞に、米衛門は自然と、今日一番の笑顔を浮かべていた。


「みんな、フルーツポンチできたッスよ!」
 米衛門がスイカ割りをしていた友人たちへと声をかける。スイカ割りも一段落ついていたようで、割ったスイカに手を付けていた者たちからわぁぁ、と歓声があがった。
「皿に取るから待つッスよ!」
 手際よく硝子の器におたまでフルーツポンチをよそっていく米衛門。それを順番に受け取っていく友人たちを、久朗は柔らかい表情で見ていた。

 優しい時間が、過ぎていく――。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa1482 / 齶田 米衛門 / 男性 / 21歳 / アイアンパンク】
【aa0032 / 真壁 久朗 / 男性 / 24歳 / アイアンパンク】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はお時間をいただき、申し訳ありませんでした。
 断片的な情報から、お二人がどんな会話をなさるか、想像しながら書かせていただきました。
 ご友人が集まる中でとのことでしたので、お二人ともたくさんお友達のいる充実した時間を過ごしつつ、お互いを思っている姿を思い浮かべました。
 少しでもご期待に添えるものになっていれば幸いです。
 ご依頼、ありがとうございました。
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2017年07月25日

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