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『良く晴れた午后に 』
レナード=クークka6613)&クラン・クィールスka6605

 天気の良い昼下がり。
 商店の並ぶ通りは、昼時の活気の名残を残しながらも、穏やかな活気に満ちていた。
 飲食店はランチのお客を捌き終え、一休憩といったところか。
 その中を、静かに通り抜けていく青年がひとり。

 クラン・クィールス(ka6605)だ。

 少年から青年への過渡期を終えるか否かといった彼の整った横顔は、見る者に怜悧な印象を与える。
 踏み出すにつれ、はらりと銀の前髪が揺れる。それを軽く指で払い、クランは目当ての店の扉を潜った。

「いらっしゃい」

 そう広くない店に、店主の落ち着いた声が響く。
 もう何度も訪れている店だ。クランは迷う事なく奥の棚へ向かった。


(ロープにスコップ……それに、新しいランタンも欲しいな)

 唇の内で呟きながら、棚に手を伸ばした時だ。

「あれ? クランさんやぁ!」

 出迎えた店主の声より更に大きい、元気な声がすぐそばでした。
 ふわりと纏ったローブに、銀の髪から覗く耳飾り。先端に宝玉をあしらったワンドを手に、両目を糸のように細めているエルフの少年が立っていた。

「レナードか」

 青い目にわずかな驚きを滲ませたクランへ、レナード=クーク(ka6613)はにこにこしながら歩み寄る。
 レナードは、過去の経験からなかなか他人に心を許すことがないクランにとって、友人と呼べる数少ない存在だ。

「クランさんもお買い物なん?」
「ああ。次の依頼に備え、買い出しを……」

 レナードはクランの手の中の物を覗き込み、ふむふむ頷く。

「次の依頼は調査依頼なん? 洞窟とか、崖なんかに行くんかなぁ?」
「……そうだ」

 首肯しながらクラン、

(のんびりしているのに、なかなかどうして聡いんだよな……)

 なんて、密かに感心していたり。
 それには気付かず、レナードは胸の前でぱちんと手を合わす。

「そうやぁ。クランさん、買い出しはこのお店で終わりなん?」
「ああ」
「せやったら、こないだ僕良いお店見つけたんや。付き合ってくれへん、かなぁ?」

 うっすらと開かれた瞼の隙間から、カルセドニーの瞳が上目遣いにクランを映す。
 この後予定が何もない事を確認してから、クランは小さく頷いた。

「良かった! あのお店、クランさんと行きたいと思ってたんやぁ♪」

 子供のようにはしゃぐレナードを、カウンター奥の店主が軽く睨んだ。
 レナードはぺこりと頭を下げたものの、喜びいっぱいといった様子で篭を取りに走る。

「そうと決まったら、ささっと買い出し済ませてしまわんと。お手伝いするで! クランさん、あと何が要るん?」
「ええと、」
「あ、これが買い出しメモやね。コレはあっちの棚やー」
「レナード、もう少し静かに……」
「分かっとるってー!」

 返事をしながらも、レナードはぱたぱたと隣の棚へ駆けていく。
 その背に、ご機嫌な仔犬よろしくぶんぶん振りたくられる尾を幻視する。
 レナードの明るい性格を眩く感じつつ、また店主に睨まれている彼に気付いて、思わず額を押さえたクランだった。




 緩やかな人波に背を押されるように、ふたりは並んで通りを行く。

「こないだは残念やったねぇ。折角龍騎士さん達とのお茶会やったのに」

 共に受けた依頼の思い出を話しながら、弾むように歩を進めるレナード。

「焦らなくても、その内にまた機会はあるさ」
「そうやったらええなぁ。あ、こないだのー……なんやったけ。卵を探すリアルブルーのイベント?」
「エッグハント、か?」
「それそれ! あれ、楽しかったやんなぁ。花もいっぱい咲いとって、綺麗やったねぇ」

 自然を愛するレナードは、春の花が咲き競っていた公園の景色を思い浮かべ、うっとりと吐息を漏らす。
 が、クランは別のことを思い出し、ハッとなって周囲を見回した。

(あれ……この喫茶店の前、さっきも通らなかったか)

 嫌な予感。
 先のエッグハント、そして更に前の依頼でも、レナードが迷子になったのを思い出したのだ。
 そのレナードの案内で歩いていたが、ふと気付けばこの通りを行くのはもう二度目。

「……なあ、レナード」

 恐る恐る肩を叩く。

「えっと……その店っていうのはどこにある? 場所は分かってるんだよ、な?」
「勿論やぁ!」

 レナードはえへんと胸を張る。

「僕の家から出て、商店街の通りを真っ直ぐ行って、赤い屋根の花屋さんを右に曲がって、噴水広場をまた右に曲がったとこにあるんやー」

 クラン、撃沈。
 出発地点が違うのに、右左でものを言っていること自体がそもおかしい。
 けれどレナードは純粋を凝り固めたような瞳でクランを見つめている。
 クラン、一寸深呼吸。

「……あのな? ここはさっきも通った。それにもう何度か角を曲がったが、噴水なんて俺は一度も見てないぞ」
「ええぇっ!?」

 レナードは飛び上がって、周りをきょろきょろ。

「あ、あれぇホンマや。おかしいなぁ、さっき花屋さんの角を確かに曲がったはずやのにー」
「花屋? ……随分前に曲がったな……一旦そこまで戻ってみるか」
「うわぁ、堪忍やでクランさん! はよ戻らんと陽が暮れてまう!」

 言うなり、唐突に駆けだすレナード。持ち前の機敏さで、細い背中は人波を掻き分け遠ざかる。

「ちょ……待て、そっちは逆方向……!」

 何だかデジャヴ。
 何だかどころか確実にデジャヴ。

「このままじゃ確実にまた迷子だ……!」

 半ば呆れつつも、放っておけないのがクランである。
 彼も敏捷性なら負けはしない。銀色の髪を見失わないよう、急ぎ後を追いかけた。




 どこをどう走ったものか。

(急がんと! 折角クランさんに会えたんやもん。あのお店、連れてってあげたい。きっと喜んでくれるはず――)

 その一途な思いからひた走っていたレナードは、奇跡的に目印の花屋の前へ辿り着いた。
 ホッとして傍らを振り返る。

「良かったぁ、戻ってこれ――……あ」

 そしてようやく、隣にいたはずのクランがいないことに気付く。

 いると思っていた友達がいない。
 何もない空間に話しかけたレナードを、怪訝な顔で振り返る人達。
 不安と寂しさが、水面に落としたインクのように胸へ滲んでいく。

「また僕、やってしまったん……?」
(また俺、独りになってしまったんだ……)

 唇と胸の内で同時に零し、視線を落とした。
 店を出た時、ふたつ並んでいた短い影。
 今は、少し長くなった影がひとつきり、煉瓦の表へ伸びている。

「……喜んで貰いたかったのにな……」

 ぽつり、呟いた時だ。

「やっと追いついた……っ」

 乱れた呼吸と共に、がしっと肩を掴まれた。
 振り向かなくとも分かる。この手の主が誰なのか。

「クランさん……! 堪忍やでっ、僕また慌てて走り出してもうて……! 随分探させたんとちゃう?」

 振り返るなり頭を下げると、クランはホッとしたように眦を下げ、額の汗を拭って言う。

「そう何度も迷子になられて堪るか……必死に後を追ってきた。今度は見失わなかったぞ、子供に寄られて追いつけはしなかったけどな」

 そう説明するクランは、少しも怒っていないようだった。
 それどころか、そこはかとなく誇らし気ですらある。
 何度も同じ失敗を繰り返す彼ではないのだ。

 レナードは心底安堵して、クランの乱れた襟を直してやる。
 それほど懸命に追いかけてくれて来たのだと思うと、申し訳なさを感じつつも、密かに嬉しかったりもして。

「ほんまに堪忍なぁ。さあ、ここまで来たらお店はすぐそこや! きっとクランさんも好――」

 踏み出そうとしたレナードのフードを、クランは再びがしっと掴まえた。

「右左で判断せず、見覚えのある方へ行くんだ」
「んん? ……えっと……?」

 レナードは小首をかくり。
 辺りを見回したクランは、噴水広場を示す看板を見つけた。

「こっちだ。行こう」

 そう言ってクランが指さしたのは、残念ながら――というか予想通り、レナードが行こうとしていた路地とは違う道だった。




 今度は順調に噴水広場を通り越し、一層賑やかな通りへ出た。
 やっと目当ての店を見つけたレナードは、

「あそこやで!」

 白い指先で示し、転がるように駆けていく。
 勿論、今度はクランも一緒だ。

「ここは、」

 クランは鮮やかな空色と白のひさしを眩しそうに仰ぐ。
 やって来たのは、通りに並んだ店ではなく、広い歩道に停められたカラフルなワゴンだった。
 ワゴンの中には宝石のように輝く初夏の果実がたんと詰まれていて、選んだ果実をクレープやフレッシュジュースにして提供してくれるらしい。
 そのほかにも氷菓や炭酸水など、夏にぴったりのメニューが並んでいる。
 ワゴンの外観が可愛らしさよりも爽やかさを押し出しているためか、甘い物を供している割に男性客の姿も少なくなかった。

 しげしげとワゴンを眺めているクランへ、レナードはほんわり微笑む。

「クランさん、甘い物好きやろ? でも甘い物が食べられるお店は女の人が多いから、クランさんちょっと恥ずかしいかなって……ここなら一緒に来やすいかなって思ったんやぁ」
「レナード、」

 思わぬ気遣いに、クランの目が丸くなる。
 何より、甘い物が好きだと覚えていてくれたことに、胸の奥がじんわりと温かくなった。
 この気持ちをどう表せば良いか戸惑っていると、レナードは無邪気に袖を引く。

「行こ! 僕、一先ず炭酸水がええなぁ。喉乾いてしもて」
「賛成」

 短い言葉の中に感謝と嬉しさを込めると、レナードはきちんと受け取ってくれたらしい。
 細い目をますます細くして、

「あ、でもストローで飲むシャーベットみたいなのもあるんやて!」
「炭酸水も飲んでそれも飲むのか?」
「なら半分コしたらええんやないかなぁ」
「半分コって……子供か」

 わいわい賑やかにしながら、ふたりはワゴンを覗き込む。
 屈みこんだふたりの瞳は、子供のように照っていて。

 買い込んだお菓子を頬張るふたり。
 冷たいグラスが汗をかき、雫がぽたりと並んだ影に落ちる。
 夏の訪れを感じさせる南風が、ふたりの裾を揺らして行った。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6613/レナード=クーク/男性/17歳/魔術師(マギステル)】
【ka6605/クラン・クィールス/男性/18歳/闘狩人(エンフォーサー)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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納期いっぱいまでお時間を頂いてしまいすみません。
レナードさんとクランさんの、ある日の午后のお話をお届けします。
信頼し合っているけれども互いに気遣い合うおふたりの距離感が、
少しでも表現できていたらいいのですが。
イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。

この度はご用命下さりありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2017年07月25日

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