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『雨の日。募る想い 』
神代 誠一ka2086)&椿姫・T・ノーチェka1225

「買い出しに付き合ってくれませんか?」

 間もなく梅雨本番という頃、神代からの誘い。保存のきく食料が沢山必要らしい。
 長期任務か防災用か、ならば一手間加える必要がある食材よりすぐに食べれるほうが良いかもしれない。椿姫は野菜の酢漬けや干し果物、栄養バランスも考えながら籠に入れていく。
 だというのに……、椿姫は神代の足元に置かれた籠の中身に眉を顰めた。
「確かにインスタント食品は便利ですが……」
「待ってください。それは新発売の……」
 籠にこれでもかと詰め込まれたカップラーメンを棚に戻そうとする椿姫を慌てて神代が止める。
「ではこちらを」
「それは幻の復刻版、逃したら……」
 これは定番、これは初見、こっちは期間限定……理由をあれこれつけては戻されるのを回避しようとする神代に椿姫は埒が明かないと問答無用で1/3程棚へ戻す。
 「俺のカップ麺が」悲し気な背中は見なかったことに。
「味の濃いものが多くないですか?」
 移動中、椿姫は買い物内容について気になった点を述べる。
「梅雨の間はできるだけ外に出たくないので、酒のつま……   あ……」
 「しまった」という表情を浮かべる神代。
 不穏な空気を感じ取った神代は露骨に視線を逸らす。
「外の空気を吸う事も大切ですよ」
「日本には晴耕雨読という――」
「晴れていても隙あらば引き籠っているじゃないですか。……誠一さん?」
 唐突に足を止めた神代を椿姫が振り返る。神代が指さした店先にレースをたっぷりと使ったワンピースが靡く。
「椿姫さん、ああいうの好きでしょう?」
 椿姫の耳元で神代が尋ねる。
「……っ?!」
 肩を揺らす椿姫に「買います?」と神代が浮かべた笑みは反応を楽しんでいるような。
 一呼吸おいて
「話を逸らさないでください」
 にこりと笑顔。神代が紙袋を抱えなおす。宝物を奪われまいとする子供だ。
 本当に男の人はいつまでたっても、と思う。つい笑みを零しそうになる口元を引き結んで
「まぁ、買ってしまったものは戻すわけにはいかないので……」
 これは緊急時にだけ食べてくださいね、と約束を交わした。少なくとも梅雨の間、家に引き籠って全てを消費することのないように。
「雨の匂いがしますね。一雨……」
 神代の言葉が終わらないうちに大粒の雨が降り出した。
「走りましょう。急がないと買った物が濡れちゃいますから!」
 荷物が濡れぬよう片腕で抱えなおした椿姫は
「ほら、早く!」
 神代の腕を取って走り出す。
 腕を取られた神代が目を瞠ったことに椿姫は気付いていない。


 神代の自宅に着いた二人を出迎えたうさぎのぐまはずぶ濡れの様子に回れ右して距離を取る。
「食料品が無事で良かったです」
 自分が濡れたことはあまり頓着していない椿姫は袋をテーブルの上に置く。
「あ、買った物は俺がしまい……っ!」
 取り出した缶詰が神代の手から転がり落ち重たい音を立てる。拾おうと手を伸ばす椿姫。
 白い首筋に一筋の黒髪、濡れたシャツが張り付きうっすらと透けて見えそうな肌――筋を違える勢いで顔を彼女から逸らした。
「ちょ、ちょっと待っていてくださいねっ!」
 ダッシュで消えた神代は、取り込んだ洗濯物からシャツを一枚引っこ抜いて再びダッシュで戻って来る。
「こ、これ羽織っててください!」
 できるだけ椿姫のことを直視しないようにシャツを半ば押し付けた。
「ああ、ありがとうございます誠一さん。助かりました。このままだと風邪を引いちゃいますもんね」
 椿姫の笑顔がちょっとばかり後ろめたい。
 暫くして――。「誠一さん!」神代が買ってきたものを落ち物パズルの要領で棚に無理やり詰め込んでいるとゴミ袋を手に椿姫が戻って来た。
 彼女が着替えに使った部屋に大量のゴミや洗濯物の山があったことを思い出す。
「後で片付けようかと……」
「これは一体どういうことです?」
 ゴミ袋の中はカップ麺をはじめとしたインスタント食品の袋に酒瓶。
「つい便利で――!!」
 振り返った神代はそのまま固まった。
 すとんと落ちたシャツの肩、幾重にも捲られた袖、ダボついた襟元。
 椿姫に対して大きめのシャツ。当然だ神代のシャツなのだから。
 そう椿姫は今神代のシャツを着ている。
 これは俗に言う……。
(アレでは……!!)
 敢えて代名詞に置き換えるが一度意識してしまったものは容易に消えるはずもなく。
(落ち着け神代誠一。素数を数えて落ち着くんだ……)
「0、1、2、3……」
 「0」を入れるという数学教師として致命的なミスを犯しつつ、食料品を適当に突っ込んだせいで棚の荷物が雪崩を起こした。
 床に広がるカップ麺や酒瓶……。酒瓶は椿姫と約束した本数より多い。
「誠一さん?」
 椿姫の纏う気配に神代は正座一択。
「飲み過ぎは体によくありません。それに酔っぱらって味もわからない状態で飲まれるお酒も可哀想です」
「例え酔っぱらってもすべて美味しく味わって――」
「そういう事を言っているのではありません」
 洗濯物の山、放置されたゴミ、去年の大掃除を引き合いに椿姫の説教は続く。
 叱られる飼い主を他所にぐまが雪崩の上を飛んだり跳ねたり遊んでいる。
(……それにしても)
 自然と口元に笑みが浮かんだ。
 神代のずぼらな生活を心配した椿姫が怒る――こうしたやりとりが当たり前のように自分の日常になっている事に覚えたくすぐったさ。
「今日は晩酌無しにしますからね?」
「えぇっ?! そんなひど……」
「何か?」
「あ、ハイ……すみません」
 背を目一杯縮めて反省の意を示した。

 雪崩を片付け二人はソファで寛ぐ。
 神代は数独の雑誌を広げて、椿姫は料理本を膝に乗せて。
 不意に神代は鉛筆を止める。真剣な眼差しで本を読む椿姫の横顔。
 お互い言葉を交わさなくとも一緒に過ごす空気が心地よい。
「椿姫さん、思ったんですが……」
 椿姫が本から視線を上げる。
 おもむろに彼女の髪を左右に分けて耳より高いところにまとめ
「ぐまからの――」
 今度は角度を下向きに
「レト、とかどうでしょう?」
 とても真面目な顔で尋ねた。
 一呼吸おいてから椿姫は弾かれたように笑いだす。
 釣られて神代も。そんな風に時間を過ごし、「そろそろ夕食の支度でも」椿姫が立ち上がった。
 ぐまを腹に乗せ神代は厨房に立つ椿姫の後ろ姿を眺める。
「……いい、なぁ」
 声が聞こえたわけではないだろうが振り返った椿姫が微笑む。
「……」
 途端込み上げてくる恥ずかしさ。
 頬を餅のようにむにむにと引っ張られたぐまは脱出すると容赦なく頭に噛みついた。
「だっ! ぐま、降参だ、降参!!」
 ギブアップとソファを叩く神代の頭で勝ち誇ったように胸を張るぐま。

 椿姫はメニューを考える。
 放置されたゴミをみればどのような生活かわかる。
 栄養だって偏っていることだろう、だから今日は野菜をたっぷり摂れるメニューに。
 野菜と白身魚の蒸焼き、蒸し鶏と葉物野菜のサラダ……。
 最後に根菜と豆のスープも追加。雨で体が冷えているだろうし、多めに作っておけば翌日にも。
 不意に背中に視線を感じ振り返る。
 神代が向ける細められた双眸の優しさに椿姫は溢れてくる気持ちが抑えきれずに口元を綻ばせた。
 お互いハンターであり、リゼリオを空けることも多い。
 それぞれの立場は解っているつもりだ。
 でももっと一緒にいたいと思う。
 すべてを背負い込もうとする彼の支えにもっとなれたらと思う。
「それは――」
 私の我儘かもしれないけど。常に自分以外の誰かを優先してきた彼女にとって自らの望みは我儘に思えてしまう。
 だがそれを打ち消すことはできない。
 自分が飲み込まれてしまいそうな強く、溢れてくる気持ち。
 驚きや戸惑いもある。でもそういった全て取っ払って残るのは……。

 愛しいという気持ち。

(それは……貴方だから――)

「誠一さん、そろそろテーブル片付けてくださいね」
「あの……晩酌は?」
 恐る恐る尋ねる神代に椿姫は「では少しだけ」と勿体ぶって答えた。

 晩酌付き、俄然神代はテーブルの片付けに精を出す。
 雑誌や本をまとめて本棚へ。
 数独に紛れて並ぶ一冊の雑誌に目が留まる。
 「ザッシィ」……結婚情報誌だ。
 「最近どうなんだよ」と尋ねる弟分には曖昧に苦笑を返しただけだが。
 意識したことがないといえば嘘になる。
 友人、相棒、弟分、生徒たち――かけがえのない者は沢山いる。
 だけど彼女は特別。
 だからこそ不安になる。
 自分でいいのか、彼女を幸せにできるのか。
 今の関係が変化してしまうのではないか。
 彼女を残し逝く可能性も含めて。
(彼女の手を取るのはいつも自分からばかりだったのに……)
 雨に降られた時のことを思い起こす。
「はぁ……」
 大きな溜息が零れた。「情けないな」聞こえた声は誰のものか。
 先程の彼女に対して覚えた落ち着かなさもいつのまにか意識の外になっていた。
「わかっているさ」
 自分に足りないのは自信だ。自信がないからあれこれ理由をつけて考えないようにしてしまう。

 でも――。

 神代は無意識のうちに椿姫に握られたあたりを逆の手で触れた。
 彼女の手の温もりのあとをなぞるように。

「準備できましたよ」
 我に返った神代の腹が温かそうな湯気を上らせる料理にグゥと鳴った。
「いただきます」
 二人で手を合わせる。
 美味しい料理は他にもあるが、椿姫の料理は特別に美味しい。
 食べる神代をみつめる椿姫のとても柔らかい表情。
(あぁ、そうか……)
 それは体の中から温めてくれる彼女の料理によく似た――。
 神代を想い作ってくれる、だから特別美味しいのだ。
「椿姫さん、もう一杯だけ飲んでも……」
「何杯目です?」
 呆れた声に「お願いします」と重ねて頼む。
「次で終りで……」
 あと一歩のところで伏兵が現れた。軽やかに床を走る音。
「ぐぇっ!!」
 程よく膨れた腹にぐまがダイブ。
 思わぬ衝撃に神代が悶絶する。
「ぐまも飲み過ぎを心配してるんですよ」
 椿姫の背に素早く隠れたぐまが覗いている。
 いや遊んで欲しいだけだと神代は思う。結局後一杯だけ許可をもらえた。
「梅雨の前に洗濯と掃除を終らせないと」
 聞こえないふりをした神代の視線はそっと本棚へと。
 本棚の一番上はぬいぐるみや人形が並んでいる。一つ一つに込められた二人の思い出。
 いっそのこときりのよい数になったら――と思いかけやめる。あまりにも情けない気がしたから。
「二つとも梅雨が明けてからでいいじゃないですか」
「本当に黴が生えますよ」
 冗談めかす神代に椿姫が額を押えた。

 屋根を叩く雨の音はいつもより優しい。

 そう感じるのは――……。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2086 / 神代 誠一     】
【ka1225 / 椿姫・T・ノーチェ 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご依頼ありがとうございます。桐崎です。

梅雨前の一時いかがでしたでしょうか?
お二人がそれぞれ思っていることを言葉にしたら……と自身が二人の周囲にいる人々の一人になった気持ちで執筆しておりました。

気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。

それでは失礼させて頂きます(礼)。
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2017年07月26日

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