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『仁義なき模擬挙式 』
七種 戒ja1267)&夜来野 遥久ja6843


 七種 戒は動揺していた。
「ちょ、まてや。おかしいだろこれ」
 古風な巻紙の端が、はらりと床に落ちかかる。
 水茎麗しく、とは女性の文字の表現だったっけ?
 などと現実逃避したくなるような、大いなる衝撃に戒は打ちのめされていたのだ。

 手紙の送り主は、夜来野 遥久。容姿端麗、成績優秀、冷静沈着……などという四字熟語が人間の形を取った男である。
 普通に考えれば憧れの上級生なのだが、戒は彼に対して若干屈折した感情を抱いている。
 戒の行動に対する遥久の反応が(客観的には至極まっとうなものだったとしても)、どうにも気に入らないのだ。
 曰く、「もうちょっと私の努力をみとめて褒めて伸ばしてくれてもいいんじゃないのか?」とか。
 曰く、「失敗は誰にでもあるのだとおおらかな心で見守ってくれてもいいのだよ?」とか。
 遥久に直接言おうものなら、残念そうに微笑む顔まで想像できるようなアレコレを抱えたまま、気がつけばもうすぐ卒業という今日この頃に至っていたのだ。

 そこで戒は考えた。
「このままで卒業するわけにはいくまい。最終決戦だ」
 いや、卒業できるかどうかは今後の試験次第で……。
「卒業するまでに、一度でいい。一度でいいから」
 ぐぐっと拳を握る戒。今は細かいことを考えなくていい!
「ぎゃふん言わせてやるんだ……! いやすみません、最後くらい一度でいいんで言ってください、お願いします……!」
 強気なのか弱気なのか分からない状態の戒。
 直接会ったり電話したりでそんなこと言えない乙女心とは本人の言だが、たぶん直接伝えるのは不可能だ。
 ――というわけで。

* * *
 果たし状

 夜来野遥久殿

 前略
  卒業までに勝負しろください。
  デートで本気になったら負けっぽい感じでよろしく。実際の内容はそちらで決めてくれて構わんのだよ。
  勝つのは私なのだから。ぎゃふんと言わせてやるのでそのつもりで覚悟するように。

  七種戒
* * *

 震える文字でしたため、送ったお手紙の返事が巻紙だった。どう考えても遊ばれている。
 しかも内容はといえば。

『お誘い大変光栄に存じます。つきましては同封の催し物にお付き合いいただけましたら幸いです。楽しい時間をお約束いたしましょう』

 余裕綽々の手紙に添えられていたのは、何故か高級ホテルのブライダルフェアの予約票だったのである。
「ブライダルフェアで結婚式をなぞってのデートバトル? これ勝ち負けどうなるの……?」
 のけぞったり這いつくばったりしながら、戒は当日までを過ごすこととなった。


 そして当日。
 約束の高級ホテルに向かう戒は、かなり落ち着きを取り戻していた。
「ふはははー、良く考えたら簡単なことだったな。乙女の魅力にぎゃふんと言わせる、最初の計画通りということではないか!!」
 サラサラの黒髪を風になびかせ、黒のサマードレスの裾も軽やかに歩く戒は、黙っていればモデル並みの容姿である。
 そう、黙っていれば……。

 だが残念なことに、見覚えのある姿をみとめた瞬間、いきなり声が裏返ってしまった。 
「はははははるひさし!?」
「七種さん、お待ちしていましたよ」
 ロビーで戒を待っていたのは、サマージャケット姿の遥久の輝く笑顔。
 つかつかと近寄ると、さりげなく戒の右手を誘導し、腕を組ませる。
「如何です、なかなか素敵なホテルでしょう? チャペルも本物の教会のように荘厳だと評判です」
 流れるような動作、淀みない言葉。
 が、ここで怯んではいけない。
「そそ、そうだな、まずまずかな。しかし遥久氏が結婚式場に興味があるとは、意外にも可愛いところがあるではないかね」
 精いっぱい考えてきた、反撃の台詞だった。
「ええ、内容をお任せいただけたので、非常に面白……いえ、こうした体験も、将来役に立つかもしれませんし、ね?」
「ほほう。遥久氏でも練習が必要ということかね。よろしい、付き合ってやろう」
「七種さん」
 遥久の笑顔が圧迫面接っぽくなっている。
「は、はひ」
「その『はるひさし』というのは、これから結婚するカップルには不自然ですね。会場では呼び捨てか、遥久さんとお呼びください」
 それから遥久は、戒の耳元に口を近づける。
「いいですね。……戒」
 戒は膝の力が抜けそうになるのを、どうにか耐えた。


 受付を済ませ、会場を見学。評判通り、実に見事なチャペルだった。
「わ、わるくないんじゃないかな?」
 戒は一応、平静を保った。
 それからプランナーに促され、ドレスの試着室へと向かう。
「うわ……!」
 戒が思わず声を上げた。
「このドレスのレースちょうきれい。ベールの刺繍も職人技だなコレ……あっ、あっちの銀のティアラ可愛い。靴! 何このリボンのついたの、お姫様みたいなんですけど」
 なんだかんだでテンションも上がる。だが戒ははっと我に返った。
「いやいや違うんだ、あれもこれも全ては計画のため……」
 戒は顔を引き締め、レースを幾重にも重ね、パールをふんだんにあしらったドレスを選んだ。
「お客様、そちら良くお似合いかとは存じますが、少々歩きにくいものになりますが」
「それはちょうど都合がい……いやいや、カレがああみえておーぼーで、こういうラインが好みでおほほほ」
 一見細身シルエット、かつなるだけ重いドレスを着てお姫様抱っこをせがみ、重さで笑顔を歪ませる作戦なのだ。
 断じて、私の体重が重いわけではなく!!
「ふ……みておれ遥久氏……って、おもっ!?」
 想像以上に重い。
 だが根性で着つけ、なおも重いベールを装着、乙女力を総動員してしずしずと歩く戒だった。

「遥久……さん、どうかしら」
 泣きたくなる台詞だが、心で泣いて顔で笑う。
 遥久はプランナーと何事か話し合っていたが、顔を上げ、目を見開いた。
「良くお似合いですよ、戒さん」
 僅かに眼を細め、微笑む遥久の顔は新郎になる男そのものだ。遥久、おそろしい子!
「もっとも……」
 遥久は少しためらうようにベールに触れる。
「戒さんからにじみ出る清純さの前には、どんな可憐なドレスも霞んでしまいますけれど」
 はにかむ顔が邪悪に眩しい。
 戒は目眩を覚えた。だが負けないぞ!
 こちらは逆に、ふっと悲しみを湛えた眼をした。
「私……本当に貴方の花嫁に、相応しいのかしら」
 どうだ、今頃になってマリッジブルーになるめんどくさい女だ! プランナーも怪訝な顔をしているぞ!!
「まだ私が信じられないと? ……折角ですし、模擬挙式も御願いしてありますから行きましょう」
「えっ、模擬挙式?」
 戒の頬にぱっと赤みがさした。だが口元に浮かぶ笑みがどこか不穏なのは気のせいか。


 祭壇の前に、白いフロックコートの遥久と、ドレス姿の戒が並ぶ。
 外国人神父のやわらかな声、パイプオルガンの音。
 戒はこれから起こることを思い、胸を高鳴らせる。
「七種戒、あなたは夜来野遥久を夫とすることを誓いますか」
 その瞬間、入口の扉が勢いよく開く音が響く。
「戒ーっ! やっぱりおまえを諦めきれないんだ!!」
 戒は内心『キターッ!!』とガッツポーズしつつ、遥久の顔を横目で見上げる。
(どうだ、予想外の乱入者だ。ふはーははは狼狽えるがいいダーリン! そして乙女は涙を流して『私のために争わないでっ!!』と続くのだ!!)
 これが戒の書いたシナリオだった。わざわざ役者まで頼んでいたのだ。
(だがここまでやっても勝てるビジョンが見えない。……何故だ!!)
 戒の疑念は直後に現実となる。
 遥久は慌てず騒がず、威圧的な微笑みを浮かべていたのだ。
「……会場をお間違えでは?」

 <○> <○>

 メデューサもかくやという視線に、多少のお小遣いで雇われた役者など無力。
「アッハイ、スミマセン」
 あっという間に踵を返して逃げてしまった。

「そんなに私が信じられませんか?」
 戒は、自分に向けられた言葉で我に返った。
 遥久は物悲しげな光を瞳に湛え、戒をじっと見つめている。
(こ、この男……芝居を逆手にとって……ッ!!)
 戒の左手は、遥久の右手に恭しく支えられている。
「改めて約束いたします。命果てるまで、一生涯貴女を護りましょう」
 唇が手の甲に近づく。戒は悲鳴をあげて逃げ出しそうになる自分を何とか抑えた。
 だがそれを確認した遥久は、寸止めで口づけをやめたかと思うと、すっとベールを持ちあげたのだ。
 顔を寄せ、戒にだけ聞こえるように囁く。
「……このくらいが限界ですか? まだ耐えられる? そうですか、良い覚悟です」
 敵は至近距離。戒は反撃のチャンスは今しかないと思った。

 Chu!

 無言のまま先制攻撃。戒は遥久の頬に口づけした。
 だが自分が耐えられない。その場にいるのが耐えられなかった。
「……っ!!」
 突然、花嫁は花婿を置いて走り出した。死に物狂いで重いドレスの裾をたくし上げ、片方の靴が脱げるのもそのままに。
(そうよ私は戒デレラ……!!)
 もう何が何だか分からない状態だ。

 半泣きで走りだした戒だったが、突然強い力で腕を取られてよろめく。
「危ない!」
 ハッと気づくと、危うく教会出口の階段を踏み外すところだった。
 半ば浮いた身体を、遥久が抱える。
「……本当に困った人だ」
 魔法のように、戒の身体は抱きかかえられていた。いわゆるお姫様抱っこである。ドレスの重さなど、全く気にしていないようだ。
 戒はどっと疲れてしまった。
 どう考えてもぎゃふんと言わされるのは自分のほうだ。
(またか……また勝てないのか……!!)
 思わず目の前のネクタイを掴み、ギリギリと歯ぎしりする戒。
 だがその耳に意外な言葉が飛び込んできたのだ。
「おや、これは……ぎゃふん、というところでしょうか」
「えっ……?」
 顔を上げた戒は、フラッシュの光にようやく気付く。
「さすがに予想外でしたね。貴重な写真が残りましたよ」
「しゃ、しん……?」
 にこにこ笑う遥久の頬には、戒がつけた口紅の跡がくっきりと残っていたのだ。
「え、写真ーーーーー!?」 

 ホテルで落ち合ってからのふたりは、遥久が手配したカメラマンによって画像と映像に記録されていたのだ。
 遥久としてはキスマークをつけて微笑む自分の記録が残ったことが意外だったようだが……戒の悶絶がそれどころではなかったことは、いうまでもない。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja1267 / 七種 戒 / 女 / 19 / インフィルトレイター】
【ja6843 / 夜来野 遥久 / 男 / 27 / アストラルヴァンガード】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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またのご依頼、誠にありがとうございます。
自分でも何がいいたいのか分からないタイトルですが、だいたいこんな感じであってますよね。
ぎゃふんは言ってもらえたようですが、勝負をどう判断するかはお任せ致します!
イベントノベル(パーティ) -
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エリュシオン
2017年07月31日

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